私の音楽 & オーディオ遍歴

お気に入りアーティストや出会った音楽、使用しているオーディオ機器を紹介します(本棚8)。

「大人のための新オーディオ鑑賞術」 by たくき よしみつ

2012年03月26日 | オーディオ
副題:デジタルとアナログを両立させた新発想
著者:たくき よしみつ
講談社ブルーバックス、2009年発行

オーディオ熱がまたくすぶり始めたので、手元にあった本を読んでみました。
著者の名前に見覚えがあるなあ、と思ったら以前読んだ「デジカメに1000万画素は必要ない」の著者と一緒でした。

はて、この人の専門分野は如何に?
経歴を見ると「小説家・作曲家」とあります。
若かりし頃ビクターからレコードデビューしているし、スバル文学賞の受賞歴もある、一方著書には「狛犬かがみ」なんて私好みのマニア本もある・・・マルチな人なんですね。
現時点では「物書き」さん、といったところでしょうか。

本の内容は、オーディオ入門/啓蒙本とはちょっと異なり、現在のオーディオ界に何が起こっているのか、を解説しています。
とともに、iPodから始まったMP3文化に触れ、パソコンを組み込んだネットワークオーディオにも言及しています。

オーディオに関していろんな用語が飛び交う昨今、知識の整理に役立ちました。
これからの自分自身のオーディオシステムの構築はどうあるべきか、も考えさせられ、指針を示してくれたような気もします。

文学賞を取った方だけあって、文章がわかりやすく読みやすいのが特徴でもあります。
「講談社ブルーバックス」というと「科学啓蒙書」という堅いイメージが強くちょっと構えて読む印象がありますが、この本は違いました。

メモ
 自分自身の備忘録。

デジタル録音のしくみ
 PCM(PulseCode Modulation)という方法でアナログ信号である音声を数値データ(デジタルデータ)に変換しています。アナログ信号をごく短い間隔で抽出・標本化(サンプリング)し、一定のビット数の整数値として記録するわけです。
 音質は、1秒間に何回数値化するか(サンプリングレート)と、データを何ビットの数値で記録するか(量子化ビット)で決まります。
 一般の音楽CDが採用しているCD-DA(Compact Disc Digital Audio)という規格は、サンプリング周波数:44.1kHz、量子化ビット数:16bit・・・というPCM録音です。これはWindowsではWAV、MacOSではAIFFという無圧縮の音声ファイルに該当します。
 CDは20Hz以下と20kHz以上を切り捨てて記録していますので、CDの実用再生周波数は20Hz~20kHzになります。

圧縮ファイルの種類
 音楽CDの元データを圧縮し、ファイルサイズを極力小さくして配信・保存する方法が研究されてきました。
 最初にスタンダードになったのはMP3という圧縮規格です。
 その後、マイクロソフトがWMA形式を提唱し、Windowsに標準搭載しているマルチメディアソフトである Windows Media Player の標準形式として推進しました。
 ドルビーラボラトリーズが開発したAACという規格も勢力を広げました。AACはアップル社の音楽再生ソフトであるiTunesをはじめ、一世を風靡した携帯音楽プレーヤーiPod、さらにはゲームマシンのプレイステーション3やBlue-ray Disc、携帯電話端末などに採用されています。
 ソニーはMDにATRACという圧縮方法を採用していました。これは今でも、MDだけでなく一部のソニー系携帯プレーヤーや再生ソフト、HDD内蔵コンポステレオなどで生き残っています。
 その他、かつてはネットストリーミングの標準になりかけていたRealAudio、MP3を超えると言われるOggVorbisなどが、よく使われている圧縮形式です。

どの圧縮ファイル形式が音が良いか
 ビットレートが128kbps以上であれば、どの形式でも不満はそれほどでないと思います。
 圧縮ファイルの形式が問題になったのは、ブロードバンドや大容量記憶装置が出てくる前のことです。64kbps未満のビットレートだと、圧縮形式による音質の差はとても大きく、WMAはMP3よりはるかにまともな音になりました。
 しかし、高速ブロードバンド、大容量メディアによって高ビットレートが使えるようになった今は、圧縮形式の性能について深く悩むことはないと思います。
 
圧縮すると音質が落ちるか
 CDのビットレートは1411.2kbpsですから、bitレート128kbpsの圧縮ファイルと比べると11倍の違いがあります。11分の1以下までに圧縮してまともな音になるのかと心配してしまいますが、実際に聴き比べれば「あんまり変わらないねえ」という人がほとんどでしょう。
 音声ファイルの圧縮は、情報を均一に間引くわけではなく、人間が判別できないであろうと思われる情報のみを集中的に間引いています。
 また、11分の1以下に圧縮というのは、圧縮後のファイルの容量であって、再生するときは元の音に近い形に戻して(デコードして)聞かせますので、情報量が11分の1になった音を聴いているわけではありません。
 128kbpsの圧縮ファイルと無圧縮ファイルの差は、高級なヘッドフォンや再生装置で聞けばある程度わかります。
 特に残響音や音の艶にさが出ます。シンバルの余韻が粗くなったり、エコー成分が汚く聞こえたりします。クラシック音楽のように、余韻や「間」を重視した音楽では、このさはかなり気になるかもしれません。
 でも、性能の悪いオーディオ装置で流して、BGM変わりにぼーっと聞いている分には気づかない程度の差です。
 これが倍の256kbpsのビットレートになると、高級な再生装置を使っても、無圧縮の音との音質の差はほとんどわからなくなってきます

WMA陣営とAAC陣営の仁義なき戦い
 圧縮ファイル形式は、企業によるユーザーの「囲い込み」に利用されているのが現状です。
 わかりやすい例で言うと、WMA vs AAC。
 マイクロソフト陣営はWMAを、アップル陣営はAACを推進しています。その結果、Media Player ではAACが、iTunes ではWMAが再生できないという、極めて不便なことになっています。
 日本国内にはWMA形式で音楽ファイルを配信するサイトがいくつもあります。このWMAファイルのほとんどはDRM(Digital Rights Management)と呼ばれるコピー制御機能が付いており、基本的には Media Player でしか再生できないし、他形式に変換もできないという、とんでもないことになっています。
 一方、iTunes が連携している iTunes Store ではAAC形式のファイルを販売しています。AACファイルにもFairPlay と呼ばれるDRM機能があり、FairPlay付きのAACファイルはiTunesやiPod以外では再生できません。
 これに対して、ネットショップ大手のアマゾンコムは「Amazon MP3」という名称で、256kbpsのMP3形式で音楽ファイルを販売しています。MP3は一切のコピー制御がかからないため、再生ソフトや再生機器を選びません。
 現状では、圧縮ファイルで保存するなら、一切のコピー制御機能がつかないMP3形式が良いでしょう。

「非可逆圧縮」と「可逆圧縮(ロスレス圧縮)」
 圧縮ファイルの方式には2通りあります。
 画像形式のJPEGのように、保存するたびに圧縮が繰り返されてデータが劣化するタイプが「非可逆圧縮」。
 一方、画像ファイルのPNGや書庫ファイルのZIPのように、保存するときは圧縮して小さくしますが、使うときは下の情報に欠損なく戻せるものがあり、これが「ロスレス圧縮」です。
 音声ファイル用のロスレス圧縮形式としてアップル社のApple Lossless、マイクロソフトのWMA Lossless、ソニーのAALなどがあります。これらの形式がメーカー主導のものであるのに対して、FLAC、TAK、APEなどは個人技術者によるプロジェクト主導で作られた形式で、無料で開放されています。
 現時点では、最も汎用性が高いと思われるロスレス圧縮形式はFLAC(Free Lossless Audio Codec)です。圧縮率は、生のPCMデータに比べて20~70%、平均すればざっと半分くらい。FLACからMP3など、よりファイルサイズの小さな非可逆圧縮ファイルへの変換も行えますので、元データをFLACで揃えていくのは非常に賢い方法です。
 ただし、iTunesやiPodでは再生できませんので、iTunesを使うのであれば、最初からFLACを諦めたほうが潔いでしょう。
 将来的に考えれば、今iTunesをメインに使っている方が無劣化状態でファイルを保存したいと思うなら、サイズが大きくなるのは我慢して、最初から無圧縮のWAVで保存することをおすすめします。

コピーコントロールCD(CCCD)について
 パソコンなどでオリジナルディスクからのデータ取り込み(リッピング)をできなくさせたCDを指します。
 CCCDは「エラー訂正機能」を逆利用し、CDに埋め込まれているエラー訂正符号を意図的に壊したり、逆にエラー信号を挿入することによってCD-ROMドライブなどで本来の正常な読み取りをできなくさせたものです。
 しかし、音楽再生用プレーヤーでも、エラー訂正が正常にできないために再生音が劣化したり、プレーヤーが誤動作を起こしたりするトラブルが続出しました。2002年にはアップル社を皮切りに、CDプレーヤーを製造しているすべてのメーカーやコンピュータの製造・販売外車が、次々に「CCCDの再生は一切保証しないし、再生を試みた結果、機器が壊れても一切責任をもたない」旨の告知を出しました。
 CCCDはCD規格をわざと壊して作っているわけですから「正常なCD」ではありませんし、CCCDを正しく再生できる専用のプレーヤーは製造されていません。CCCD絡みの訴訟も発生し、現在はCCCDはほぼ市場から姿を消しています。

レコードはCDより音質が良い?
 レコードは原音よりも低域を落とし、高域を持ち上げて録音されているので、再生時にはその逆に高域を落とし、低域を膨らませるイコライザー処理をしています。PHONO入力をもったアンプにはそのための専用イコライザーがついていますが、この部分の品質も問われます。
 製品としてのレコードがCDよりも音が良いと主張するのはそうとう無理がありますが、レコードのもとになったアナログマスターテープの音質がCDよりいい音であることは間違いありません。
 かつて音楽スタジオで使われていたオープンリールテープ録音器では、20kHz以上の超高音もある程度記録できました。また、デジタル録音のように、高域と低域の記録限界がスパっと決められていないので、高域も低域もだらだらと低い山状に伸びていました。おそらく、人間が発明し、普通に使われていた録音器としては、このへんの機械が最も「いい音」を記録できていたことでしょう。だからこそアナログの「マスターテープ」には価値があったのです。

旧メディア(レコード、カセット、CD)をデジタルでバックアップ
 アナログレコードやカセットテープなどにしか残っていない貴重な音源は、早いうちにデジタルデータ化しておくと安心です。
 録音形式は、下の音源がどんなにひどいものであっても、無劣化のWAV形式ですることをお薦めします。そのほうがあとから編集する際にも対応するソフトが多いですし、音質の点でも有利だからです。
 そして、必ず外付けのHDDに保存しましょう。パソコンの乗り換えなどの際に有利です。

オーディオの進化と誤解
 オーディオの入口はマイクであり、出口はスピーカーですが、この入口と出口の製品は、今も昔も完全なアナログ製品であり、「デジタル対応」などということはありえません。
 オーディオにおいてデジタル化されたのは、音を録音して記録・伝達する部分だけです。

「デジタルアンプ」とは?
 「デジタルアンプ」とはデジタル信号の入出力端子を備えるものを指します。CDやMDプレーヤーからデジタル信号のまま入力できるアンプのことをデジタルアンプと呼んでいる、と解釈してもよいでしょう。正確には「デジタル対応アンプ」ですね。
 この種のアンプにはD/Aコンバータ(以下DAC)というものが内蔵されています。DACとはその名のとおり、デジタル信号をアナログの音声信号に変換(コンバート)する部分のことです。
 CDプレーヤーは通常、プレーヤー内部にDACを持っていて、アナログ信号を出力できますが、多くのCDプレーヤーにはデジタル出力端子もついていて、プレーヤー内蔵のDACを通さずに、CDに記録されてデジタル信号をデジタルのまま出力することができます。
 このデジタル信号をデジタル対応アンプのデジタル入力につなげば、デジタル→アナログの変換は、CDプレーヤー側ではなく、アンプ側のDACで行うことになります。
 では、CDプレーヤーからの出力はデジタルとアナログのどちらがよいのでしょうか?
 これはDACの性能に左右されます。
 CDプレーヤー内蔵のDACのほうがデジタルアンプ搭載のDACより優秀であればアナログのほうがよい音がすることになり、逆もまた真なり。

オーディオシステムにおけるアンプの重要性
 オーディオシステムで音を一番大きく変化させるものはスピーカーですが、その次がアンプでしょう。そしてアンプに関しては、部品の質が音質を決定づけますので、価格と音質は概ね比例しています。
 さて、同じ価格のデジタルアンプとアナログアンプはどちらの音が良いでしょうか。
 純粋に部品コストだけを考えれば、DACを持っていない分、アナログアンプの方がアンプ本来の部分にコストをかけられるはずであり、デジタルアンプはDAC込みの値段になるのでアンプ本来へのコストがその分減ります。
 昔は「アンプは重いほどいい」と言われたものですが、これは迷信とばかりは言えません。
 アンプの重さは、電源トランスと筐体の金属部分でかなり決まるものですが、大きくて重い電源トランスは安定した電流を作り出すのに有利なのです。

音楽のデータ管理はデジタルで行い、再生は贅沢なアナログで楽しむ
 ・・・これが著者の考える理想的オーディオライフです。
 CDからリッピングしたデータは、MP3などの劣化圧縮ではなく、無圧縮のWAV形式、あるいは無劣化圧縮のFLAC形式で保存・管理します。保存メディアは2.5インチ外付けHDDを2台。1題はバックアップで同じ内容にしておきます。
 アンプはいろいろな機器をつなぐ必要がなくなったので、プリメインアンプは必要なく、音を増幅するだけの単純なパワーアンプで十分です。
 パソコンとオーディオは無線システムで飛ばします。
 パソコンからはデジタル信号のまま無線で送信し、それを受信側でアナログ変換し、パワーアンプに渡します。これならパワーアンプの直前まではデジタル信号のままですから音質劣化はありませんし、ケーブル決戦の煩わしさからも開放されます。
 このような無線システムとして以下の3つが代表的です;
Blutooth
AirMac Express
REX-Link2
 ①は現時点の速度(バージョン1.2:下り723kbps/上り57.6kbps)ではCDの音声データ(1411.2kbps相当)を圧縮して送信するので受信後のデータは間引かれた状態になり劣化してしまいます。
 ②(54Mbps)と③(4Mbps)では伝送速度が十分なので無劣化圧縮のまま送受信できます。ただし、②では再生ソフトがiTunesに限定されます。
 すでにハイエンドオーディオマニアの間でも、AirMac Expressによるオーディオ環境構築は最も理想的なシステムとして認識されています。
 著者のイチオシはREX-Link2です。
 無線LAN環境が無くでも、USBポートにUSBメモリにそっくりな送信器を差し込むだけですぐに使えるのが最大の強みで、無圧縮ファイルの伝送が可能です。REX-Link2は、Windows XP以上であれば、USBポートに送信器を差し込むだけで自動認識されますので、CD-ROMからドライバをインストールするといった作業も必要ありません。快適に使うにはある程度設定が必要ですが、②のように再生ソフトを限定するということもありません。

オーディオシステムのお国柄
 オーディオ製品は自動車と似ているところがあります。国産車、欧州車、アメ車の味付けは、オーディオ製品にも共通するものがあるように感じるんです。
 日本製品は真面目に作ればとてもいいものができあがるのですが、音楽を楽しく再生する哲学というか、遊び心がかけているものが多い気がします。個性のない優等生ばかりで面白みがないのです。
 そこへ行くと、ヨーロッパの製品は実に個性豊かで、楽しめます。性能は数値じゃないよ、感性の問題だよ、と言っている気がします。
 アメリカ製品にはパワーこそ正義だというポリシーを感じます。ヨーロッパ製品の曖昧で自由な哲学に比べると単純する義気もしますが、パワーアンプや大型スピーカーでは、この単純さが強烈な魅力にもなり得るのですね。


 ・・・その昔、お茶の水のオーディオユニオンに数回通って視聴をさせてもらったことがあります。アンプとCDプレーヤーは結局真面目な音づくりが特徴の日本ブランドであるアキュフェーズに落ち着いたのですが、その際に聴いたワディアのCDプレーヤー、マッキントッシュのアンプ、B&Wのノーチラスというスピーカーの組み合わせで聴いた音があまりにも豊潤であることに驚きました。日本の音が草食系とすれば、アメリカ~ヨーロッパは肉食系と感じ入ったことを記憶しています。