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CRAZYの戯言

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靖国で「しめた!」と叫んだ韓国だが・・・ 米副大統領の叱責が効き始めた

2014-01-16 13:33:50 | コラム

 2013年末の安倍晋三首相の靖国参拝。韓国は「しめた!」と叫んだ。これを言い訳に米韓関係の悪化を食い止められると思ったからだ。だが年が明けてから、韓国には失望感が広がった。

参拝を世界で一番喜んだ韓国人

 12月26日に安倍晋三首相が靖国神社を参拝して、世界で一番喜んだのは韓国人だったのではないか。

 12月6日に米国のバイデン副大統領から米中間での二股外交を露骨に指摘されたうえ「米国側に戻れ」と言い渡された朴槿恵大統領。韓国人はすっかりしょげ返っていた(「北朝鮮に『四面楚歌』と嘲笑された韓国」参照)。

 そこに靖国参拝。駐日米国大使館は直ちに「失望した」と論評、米国務省も同じ表現で日本を批判した。韓国には「米国に叱られたのは我が国だけではない」との奇妙な安心感が広がった。そして「これは米韓関係改善のテコに使える」との期待が一気に盛り上がった。

 韓国は、日本との軍事協力を強化するよう求める米国に対し「日本の右傾化」を理由に断ってきた。しかし、米国からは「日本の右傾化とは言い訳で、本当は中国が怖いのだろう」と見透かされてしまった。バイデン発言はその象徴である。

世界標準からは奇妙な告げ口外交

 米国に対してだけではない。就任以来、朴槿恵大統領は世界中で日本の右傾化を言って歩く「告げ口外交」を展開してきた。しかし、韓国は世界から「奇妙な国」と冷ややかな目で見られるようになっていた。

 韓国の価値観からすると別段、おかしくはない。しかし、隣国の悪口を国家元首が言って回る国は、世界標準からすればやはり変な国なのだ(「なぜ、韓国は東京五輪を邪魔したいのか」参照)。

 韓国人には靖国参拝こそは救世主に見えた。なぜなら米国に対し「ほらこの通り、日本は右傾化しているでしょ。だから私は日本と軍事協力できないのです」と、言い訳の絶好の証拠を差し出せると思ったのだ。

 二股外交を反日で偽装するという朴槿恵外交が限界に突き当たっていた時だから、韓国紙には「安倍外交は死んだ」「日本のオウンゴールを生かそう」「米国と共闘し日本を追い詰めよう」などと喜びの声が満ち溢れた。

「靖国」は韓国の自爆兵器

 もちろん、韓国政府もこの機会を逃さなかった。世界に向け「野蛮で危険な国家、日本」と「被害者、韓国人の怒り」を宣伝した。

 1月に予定されていた日韓財務担当相会談を取り止めたうえ、次官級戦略対話や局長級の安全保障政策協議会の開催のための実務協議を中断することを決めた(「靖国参拝で全対話凍結 国際協調で『日本孤立作戦』」=朝鮮日報12月28日)。

 韓国国会も12月31日「靖国参拝と日本政府が狙う集団的自衛権の行使容認は、侵略戦争を美化し軍国主義を復活するたくらみ」との非難決議を採択した。

 朴槿恵大統領も1月2日、潘基文国連事務総長と電話で話し「過去を直視できずに何度も周辺国を傷つけるなら、不信と反目を助長する」と日本を非難した。潘基文事務総長の対日批判も引き出した。

 もっとも「靖国」は韓国にとって自爆兵器でもある。それが侵略戦争の象徴としても、韓国は日本と戦ったことはないからだ。

威張る朝鮮系日本人

 それどころか日本の「侵略戦争」には、当時の朝鮮人も日本の軍人・軍属として多数参加している。もちろん彼らは靖国神社に祀られているし、中には捕虜虐待の罪で戦犯とされた人もいる(注1)

(注1)「洪思翊中将の処刑」(山本七平、昭和61年)に詳しい。

 連合国の軍人の中には太平洋戦争中に捕虜収容所で朝鮮人に酷い目にあわされた人もおり、米軍など組織の記憶となっている。

 韓国が「靖国」を掲げて自らを被害者と主張すれば「本当は加害者だったではないか」と逆に糾弾されかねない。そこで国会決議では批判の対象に「集団的自衛権」を含めて、合わせ技にしたのであろう。

 「靖国」に絡めた大統領の非難談話も被害者を「周辺国」とぼかし「韓国」とはしていない。やはりそれが理由の1つと思われる。

 一方、中国は日本孤立策の先兵として韓国を利用したい。日米離間を実現するには中国だけではなく、米国の同盟国でもある韓国に日本批判させるのがより効果的だからだ。

 しかし中国国民、ことに満州国が存在した東北部の人々には「威張り散らす朝鮮系日本人」への記憶が残っている。「靖国」を契機に、中国のネチズンが反韓的言説を展開しないとも限らない。そこで韓国を「完全な被害者」として認めてやる必要があったのだろう。

「二股外交するな」

 中国の陳海・駐韓代理大使は1月8日付中央日報に、安倍首相の靖国参拝を批判する記事を寄稿した。

 そこでは「日本軍国主義の侵略はアジア各国の国民にあまりに大きな厄災となった。中でも中国と韓半島の国民が最大の被害者だった」と、軍国主義を主語としたうえ韓国人を最大の被害者と認定した(注2)

(注2)この記事の日本語版はここで読める。

 もっとも、韓国は中国から呼びかけられた共闘に逡巡した節がある。12月31日に中韓外相は電話会談した。中国側は会談後に「両外相は安倍首相の行為を厳しく批判した」と発表したが、韓国側は「最近の北東アジア情勢など関心事を協議した」との文言に留めた。

 それを解説した聯合ニュースは「日本と協力する分野もあり、韓米日の協力の必要もある」「歴史問題で中国と全面的に連携するのは望ましくない」との政府の中の意見を紹介した。

 韓国には「二股外交するな」というバイデン発言が効き始めたのだろう。これまでなら会談後、直ちに中国と声を1つにして日本批判したうえ、国民にも外交成果として大いに誇ったものだ。

 今度それをやったら米国から「まだ、中国のお先棒を担ぐつもりなのか」と言われかねない。「中国と組んで日本を叩く」構想はとりあえず棚上げせざるを得なかったのだろう。

空振りに終わった日本叩き

 代わりに韓国人は「米国と組んで日本を叩く」ことに希望を見出した。聯合ニュースは1月2日配信の「韓国と日本が新年から対米外交戦」で以下のように書いた。

・韓国政府は(靖国参拝で)米国を動かす名分を手にした。ワシントンの外交筋も1日「米国で今ほど日本に対する批判の気運が高まったことはないと思う。民主主義と自由、平等など人類普遍の価値を同盟の礎石とする米国としては容認しがたい行為だった」と話す。

・(現地時間1月7日の米韓外相会談で)尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が米国との対話の中で日本に向けた何らかのメッセージを引き出すなど、韓日の歴史問題においてそれなりに意味ある転換点を作りだす期待感がある。

 もっとも、韓国人のその熱い期待も空振りに終わった。米韓外相会談後の記者発表で、ケリー米国務長官は“日本問題”に関し一切触れなかった。

 それどころか発表では記者からの質問は受け付けないという異例の措置をとった。韓国人記者が“日本問題”に関し聞くに決まっている。ケリー長官がどう答えても対日批判に聞こえるから、というのが韓国紙の見立てだ。

 それに尹炳世外相自身も発表の席で日本を名指しして批判しなかった。韓国紙はこれに関しては何も書いていないが、米国の強い要望の結果だった可能性が極めて高い。

日本への懲戒手段はない

 韓国紙には不満が溢れた。会談を報じた中央日報の記事の見出しは「水も漏らさぬ韓米同盟……安倍への言及はなかった」(注3)

(注3)この記事の日本版はここで読める。

 「水も漏らさぬ両国の関係」(Without an inch of daylight between us)とはケリー長官の言葉だ。そう言う割には、米国は安倍批判をしてくれなかった――という韓国人の悔しさが伝わる見出しだ。

 もっとも、韓国紙の米国特派員はそれ以前から「米韓による日本包囲網」への過剰な期待を諌めていた。米国の事情や本音をよく知るからだ。

 その1つが朝鮮日報のワシントン特派員、イム・ミンヒョク記者の書いた「米国、安倍に厳しく警告したものの……」(12月31日)だ。興味深いのは以下の部分だ。

・米国の懸念は「安倍の歴史認識」そのものよりも「(日本の)周辺国との対立」にある。この点で韓米間には根本的な認識の差があり、今後解決を巡って意見の違いが露わになる可能性が高い。

・ニューヨークタイムズが「韓中は日本と首脳会談をすべきだ。安倍の参拝に『ライセンス』を与えたのは韓国と中国の(会談拒否という)圧迫だった」と社説に書いた。同紙論説委員と米外交当局者がしばしば会っていることを考えると、無視すべきではない。

・「北東アジア戦略の中心軸」たる日本を米国は放棄できない。安倍に痛烈な警告はしたが、さらなる懲戒手段はほとんどない。結局、韓中に「(日本との)対話により、自分たちで解決しろ」と言ったに等しい。

米国の本音を直視せよ

 中央日報ワシントン支局長のパク・スンヒ記者も12月31日に「米国の本音」という記事を載せた。以下である。ちなみに原文の「本音」はハングルで「ホンネ」と表記。日本語そのままだ(注4)

(注4)この記事の日本語版はここで読める。

・2期目のオバマ政権は、野党との政争で厳しい日が続く。内政の疲労は外交力も失わせた。シリアの状況が端的な例だ。

・米国にとって同盟とは道徳や価値のような情緒ではなく国益だ。我々が貴重なものと考える韓米同盟も、米国の国益の中にある時が安全地帯だ。

・「失望」声明に喜ぶあまり、米国が安倍の日本を嫌うことを韓国人は望んだ。しかし、その米国の国防長官は長い間の悩みだった普天間基地の移転問題が解決されるや否や「強い米日同盟」に言及した。

・米国の財政赤字は2013年11月基準で1352億ドルに達する。米国はこの赤字を埋めるためなら何でもする姿勢だ。中国に対抗せねばならない米国は、依然として安倍の日本を必要とするほかない。米国の本音を直視せねばならない。

同盟は情緒ではない

 この記事のハイライトは「同盟は情緒ではなく国益だ」の部分だ。外交を感情で考えがちな韓国人に対し、筆者は「野蛮だが、カネを出す日本を大事にする米国」という現実を伝えたかったのだろう。

 同時に「米国を実利で満足させないと、韓国は見捨てられるかもしれない」と警告を発したかったに違いない。「韓米同盟も……」の部分からそれが伺える。

 確かにそうなのだ。日本の集団的自衛権の行使容認に対し、韓国政府は反対の姿勢を強くにじませている。日本との軍事協定も署名当日にドタキャンした。米国の強く求めるミサイル防衛(MD)にも参加しない。ことに後者は日本の右傾化とは全く関係がない。

 韓国は守ってくれている米国ではなく、旧宗主国の中国の顔色を見て動くようになった。まさに「韓米同盟が米国の国益から外れ始めている」のだ。

 「このままでは同盟が危機に瀕する」「日本問題など語っている場合ではない」と危機感を抱く韓国の知識人がようやく出てきたということだろう。

 ただ、韓国の空気は「同盟は情緒」のままのようだ。それを背景に1月9日、最大手紙の朝鮮日報は「『歴史と安保は別』という米国の対日認識は誤り」という社説を載せた。

 ケリー長官が日本批判をしなかったことを非難するために書かれたものだ。要は「靖国神社に首相が参拝し(戦争ができる国にするため)憲法を変えようとする日本を、米国は叩き直せ」という主張だ。

甘い言葉を耳元でささやく中国

 もちろんこの論説自体は「情緒的」とばかりはいえない。「日本に対する貴重な外交的武器である歴史カードを、米国に陳腐化させられてはいけない」との国益を主張したものだからだ。

 「中国と共闘できる歴史カードをきっちりと維持してこそ、米中二股外交が可能だ」という韓国なりの計算もそこにはある。

 ただ、中国との対決に全力を挙げる米国人の目には、日本の軍国主義復活を騒ぎたてる韓国人の言説は「情緒そのもの」と映るであろうし、この訴えを米国が聞くこともないだろう。

 今、中国は毎日のように「一緒に日本を叩こう」と韓国の耳元にささやいている。それは韓国人の情緒からすれば実に魅力的な呼びかけだ。

 米国に叱られて「離米従中」の歩みをいったん止めたかに見えた韓国人の心は揺れるであろう。とすると韓国は、再び中国傾斜を始めるのかもしれない。

靖国で「しめた!」と叫んだ韓国だが・・・  より


天動説で四面楚歌に陥った韓国

2013-12-18 14:05:33 | コラム

保守系紙も相次ぎ朴槿恵の外交を批判

 「天動説で四面楚歌に陥った」――。韓国では保守系紙までが外交批判に乗り出した。しかし朴槿恵大統領は動じる風もない。北朝鮮の政変で米国の助けが大いに必要になりそうというのに。

北朝鮮と日本が嘲笑う韓国

 韓国の現状を「四面楚歌」と評したのは中央日報のカン・ヨンジン論説委員だ。「荒波の東アジア――楚の歌が聞こえないのか」(11月29日)で以下のように書いた(注1)

(注1)この記事はここで日本語で読める。

・米国は中国包囲網に加われと圧迫を加えてくる。中国も韓国の最大交易国であることをさりげなく示しながら、立場をわきまえて振る舞えと言う。

・米日と中国との間で動きがとれなくなっている韓国を、北朝鮮は陰湿に嘲笑う感じだ。日本もそんな韓国の苦境を苦笑する雰囲気だ。韓国は四面楚歌の境遇にある。

外交の天才、我らが大統領

 「四面楚歌」とは大げさな――と思う日本人も多いだろう。確かに日韓関係は国交樹立以来、最悪だ。しかし韓国は、米国や中国とは表面的にはさほど関係が悪化しているわけではない。双方から踏み絵を迫られ始めたに過ぎない。

 韓国人のこのしょげ振りは、少し前までの異様な高揚感の反動だ。「我が国は米中双方と極めて良好な関係を築いた。両大国の力を使って日本を思う存分に叩いている」と韓国人は信じていた。

 要は米中間での二股外交なのだが、韓国紙のネット版の書き込み欄には「外交の天才、我らが朴槿恵大統領!」という称賛と「韓国に逆らう日本はもう終わりだ」との快哉とがあふれた。

 風向きが一気に変わったのは10月2日、米国が日本の集団的自衛権行使容認に賛成してからだ。韓国は自分が反対しているのだから米国は「行使容認」に反対するはず、と思い込んでいた。

 その思惑が大きく外れたため、韓国では米国に対する不信感や「中国と同盟しよう」との声が噴出した(「日米同盟強化で逆切れした韓国」参照)。

大統領が行けば雨が上がる

 しかし、次第にメディアの矛先は韓国政府の外交政策に向いた。初めに朴槿恵大統領に対する厳しい批判記事を載せたのは、左派のキョンヒャン新聞だった。

 セミョン大学のイ・ボンス・ジャーナリズムスクール大学院長が寄せた記事「青瓦台(大統領府)記者たちは死んだ、民主主義とともに」(11月7日)がそれだ。

 “御用メディア”の報道姿勢を批判する長い記事だが、外交に関する部分の要旨は以下だ。

・朴槿恵大統領は就任以来、国内記者とは一度も会見したことがない、という珍記録を持っている。

・(大統領の訪欧に同行した記者たちは)朴槿恵大統領がどこかへ行くごとに「雨が上がり、陽がかんかんと照った」とか、「朴槿恵大統領のファッションに世界が魅惑された」と書いた。

・(記者たちは)大統領に会うこともできず、広報首席にも悪く見られないか戦々恐々としながら、大統領の美談と成果だけを報じているのだ。

 普通の韓国人なら「雨が上がり、陽がかんかんと照った」というくだりで、独裁者の登場を瑞祥とともに描く北朝鮮メディアを思い出すことだろう。

韓国人の天動説

 この新聞批判が記者たちに衝撃を与えたのかもしれない。その後、保守系メディアにも朴槿恵外交を批判する記事が載り始めた。

 朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)主筆が書いた「世界は大韓民国を中心に回らない」(11月23日)は、朴槿恵政権の二股外交の危うさを率直に指摘した。

 サブ見出しは「同盟は利益も負担も分かち合ってこそ」と「この国の政治家たちは非現実的な色眼鏡を外し、世界を直視する時」の2本。記事の中のハイライトは以下だ。

・北朝鮮という問題児が隣にいる韓国の選択は、最強国の米国ほど自由ではない。島国の日本のように竹を割るごとく二者択一するのも難しい。

・「韓米同盟」と「韓中友好」の間で、どう均衡をとるかは国を挙げて知恵を絞り、手探りするしかない。

・その過程では「統一ムードが熟せば、韓国は『米韓同盟縮小』と『統一への中国の支援』を取引するだろう」というブレジンスキー元・米大統領安全保障補佐官の言葉が、個人的な疑念ではないことを常に念頭に置くべきだ。

・「世界は大韓民国を中心に回っている」と信じるのは危険千万で、何の根拠もない。「政治的天動説」に過ぎない。

“識別圏”が追い打ち

 姜天錫主筆は米中の間でどちらにも完全に寄れない――バランスをとる難しさに加え、二股外交をとっくに見抜かれてしまった以上、周辺国すべてから「コウモリ」と見なされて軽んじられる現実をも指摘したのだった。

 このコラムが載った日、韓国には激震が走った。今度の震源地は米国ではなく、中国だった。中国が“防空識別圏”を新たに設定する、と発表し事実上、領空を拡張したのだ(「似て非なる中国の“識別圏”」参照)。

 朴槿恵大統領の二股外交は、2つの点で試練にさらされた。中国の“識別圏”により、米中の緊張が高まって「お前はどちら側か」と双方から踏み絵を迫られる可能性が高まったこと(「読み違えた中国、その中国に傾く韓国」参照)。

 もう1つは、中国の“識別圏”が韓国の識別圏や、韓国が中国と管轄権を争う暗礁の上空をもカバーしたため「中国と緊密な関係を作ったなんてウソだったではないか」との国内からの批判を呼んだことだ。

米国も中国も、もう優しくない

 中央日報のコ・ジョンエ政治国際部門次長が書いた「ワンボイスないしはノーボイス」(12月5日)は朴槿恵外交の硬直性を手厳しく批判した(注2)

(注2)この記事はここで日本語で読める。

・最近、世界列強が競り合った朝鮮朝末を思い出す人が多い。列強の間の勢力変化が緊張を招くのは一般理論だ。

・しかし、韓国の外交当局が今、内部の力量を結集しているかは不明だ。ある専門家の話だ。「金章洙(キム・ジャンス)青瓦台国家安保室長が米国で、その動きも知らずに日本の悪口ばかり言うので米国人は驚いた」。

・彼はさらに明かした。「ワシントン、北京、東京の人々は韓国を以前のように親切に優しく対応してくれない」。

 朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)論説室長が書いた「冷静、冷静、また冷静」(12月4日)は、同紙の社論を一歩、踏み越えた感さえする。

中国の大国意識を警戒せよ

 サブ見出しは「性急な大国中国――さらに大きくなるものの、米国の相手にはならない」「米国の力をよく知り、日本を軽視するな。自身も過小評価してはいけない」の2本。記事のポイントは以下だ。

・中国の大国意識は病的である。防空識別圏だけではない。黄海の排他的経済水域の問題でも、中間で線を引くのではなく「大国は小国よりも広い海域を持たねばならぬ」と考えている。

・中国の代表的な国際政治学者は米中葛藤に関連、韓国人学者にこう言ったという。「小国である韓国が2つの大国を離間させ(操ることで)利を得ようなんて、お笑い草だ」。

・今、米中の間で選択せねばならぬという意見もある。しかし、米国と中国の力を同じに見てはいけない。特に米国の軍事能力は想像もできないほど発達している。

・我が国にとって中国市場は重要だ。しかし、対中輸出品の最終仕向け地は米国であることが多い。中国の人口のうち10億人はアフリカの生活水準で生きている。内部の腐敗も深刻だ。中国を米国と同じ国と見ること自体が錯覚だ。

・我々は感情的、衝動的に一喜一憂するのではなく、冷静に、冷静に、また冷静であらねばならない。

海洋勢力派の復権

 朴槿恵政権と近い朝鮮日報の社論は「米国に軸足を置いた二股外交」である。「二股」という単語を使う人もいるし使わない人もいるが、金大中顧問や姜天錫主筆ら同紙の大物記者らはその路線を貫いてきた。

 米中のどちらが東アジアの覇権を握るかはまだ分からない、との判断からだ。それと比べ、楊相勲論説室長のこのコラムは「米国の完全優位」を前提に書いている。韓国では今や極右とも見なされる、米国との同盟を重視する海洋勢力派の主張と似ている。

 趙甲済氏ら海洋勢力派は(1)米中間での二股外交などは幻想だ(2)韓国は米国と組んでこそ自由と民主主義を享受できる(3)反日は離米につながるので危険だ――と訴えてきた(『中国という蟻地獄に落ちた韓国』第4章第4節参照)。

 楊相勲論説室長のコラムは同紙の社論が変わる兆しなのか、あるいはこのコラムが突出しただけなのか、まだ分からない。ただ言えることは同紙に限らず、2013年末の段階では朴槿恵政権の中国傾斜に歯止めをかけようとする主張が各紙に載り始めたことだ。

韓国の二股を見抜いた米国

 もっとも朴槿恵政権には、それに耳を傾け海洋勢力側に戻る様子はない。12月6日、バイデン米副大統領が訪韓、朴槿恵大統領と会談した。米国も韓国の二股外交はすっかり見抜いている。バイデン副大統領は、会談でこう語った(聯合ニュースによる)。

・オバマ大統領のアジア・太平洋地域への回帰政策は決して疑念の余地がないものだ。米国は行動に移せないことは絶対に言わない。もう一度申し上げるが、行動に移せない言葉は、米国は絶対に言わない。

・今回の訪問を通じ、ずうっと他の国に対しても、米国の反対側に賭けるのならそれはいい賭けではない、と言い続けてきた。米国は今後も韓国に賭けるつもりだ。

 「米国が韓国を見捨てることは絶対にない。だから中国を頼りにしようなどと考えずに、米韓同盟を堅持しよう」とのメッセージだった。

 だが朴槿恵大統領は、9月30日のヘーゲル米国防長官との会談と同様に「反日カード」を切って米日韓3国軍事協力を拒否した。

相変わらず「日本のせい」

 聯合ニュースによると、バイデン副大統領が「韓日の障害要因が速やかに解決されることを望む」と日韓関係改善を求めたのに対し「日本の真摯な措置を期待している」と、相変わらず日本責任論で応えた。

 さらには「中国とも戦略的協力パートナー関係を継続的に発展させ、域内の平和と発展に貢献したい」と付け加え、中国の顔色も伺った。

 保守メディアまでが中国傾斜の行き過ぎを唱え始めた。北朝鮮の政変で戦略環境の激変も予想される。張成沢氏の失脚で、北朝鮮が軍事的により強硬に出る可能性や、あるいは米国に傾斜する可能性もあるからだ(「親中派の張成沢失脚で米国に急接近?」参照)。

 だが、朴槿恵大統領は動かない。それはなぜだろうか――。韓国の識者の多くは、大統領の「ぶれない」あるいは「頑固」な性格で説明する。

大国を操る高揚感

 ただ、それだけではない気もする。論説委員ら韓国の指導層がいくら中国傾斜に警鐘を鳴らしても、普通の韓国人は「米中を操り日本を叩く、魔法のような朴槿恵外交」を依然、愛しているからだ。

 韓国人学者、ウ・スグン東華大学(中国)教授が毎日経済新聞に寄せた記事「激浪の中の東アジア、韓国外交はどこへ?」(11月4日)がその象徴だ。以下の通りだ。

・韓国は米国から「日本の集団的自衛権の行使容認」を言い渡されてしまった。蜜月だった中国との関係も微妙になるかも知れない。

・しかし、我が国の強くなった位置を十分に知るべきだ。20世紀の韓国が小学生なら、21世紀の韓国は大学生の体格を持つ。

・米中を「左の青龍、右の白虎」(両脇に控えさせる護衛役)として活用すれば、我が国の国益を極大化できる。
 
 永い間、大国に翻弄され自分で国の運命を決められなかった悔しさを噛みしめる韓国人。その彼らが一度手にした「大国を操る」高揚感を捨て去るのは容易ではない。

 そして、いくら韓国の大統領に力があるといっても、国民の夢を壊すほどの力はないのだ。

天動説で四面楚歌に陥った韓国 より

 

 

 

 

 

 


アメリカから見る、防空識別圏設定問題からの教訓

2013-12-13 15:56:40 | コラム

片桐範之(かたぎり・のりゆき)
マックスウェル空軍基地に位置する、アメリカ空軍戦争大学(Air War College)の国際安全保障学部助教授。ペンシルベニア大学政治学部より博士号取得。専門は国際安全保障、非対称戦争、東アジア政治。戦争大学では日 本を含む北東アジアの授業、カリキュラム、そして毎年の日本訪問を担当している。2014年には非対称戦争やイラク、アフガニスタンでのアメリカの軍事戦 略に関わる博士論文が出版される予定。


今回の問題から学ぶべきこと

 先月23日の中国による防空識別圏設定は日本だけでなく、多くの東アジア諸国にとっても地域の安定を揺さぶる危険性を持つ、受け入れられない行動だろうが、必ずしも理解できないことではない。幾つかの要素を考えると中国にとってはある意味当然のことだからである。

 もちろん、中国の防空識別圏は日本と韓国の領空、そして米軍の訓練地域とかぶるため日韓米それぞれとの問題にはなるが、世界には数カ国が独自の防 空識別圏を設定しているため前例がある。中国がその輪に加わることへの国際社会からの抵抗は一時的にはあろうとも、時間が経つにつれ弱まる。より広く考え ると、防空識別圏は国際法上の規定がなく、それ自体が国際法を破ることでもない。

 また、単に自国の主権を繰り返すだけでなく、今回は日中双方で航空の安全を共同で守るべきだと主張することにより、その領土主張を正当化させる働 きもする。尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での領土問題で中国がいかなるパフォーマンスをするかは共産党の正統性の維持、ナショナリズムの高揚とコント ロール、そしてメディア統制などの中国内政にとって極めて大切な問題になる。多くの中国国民には納得のいかない、「不平等」な東シナ海での現状を彼らに とって良い方向で変えようとしているのである。他国を一時的に怒らせてでも、強い中国のイメージを作り上げることにより国内で点数を稼ごうとするのは驚く べきことではない。

 同時に日本側が認識すべき点は、今まで領土を実質支配してきたはずの日本の外交と防衛政策に、ここ数年の間で大きなスキができていたことである。 拓殖大学の森本敏・特任教授は防衛大臣在任時に中国の防空識別圏設定をある程度予想していたようだが(読売オンライン、11月27日)、それを未然に防ぐ 必要な政策を出していなかった。日本側で幾つかできることを認識していたのにもかかわらず、それを怠っていたのではないかと邪推してしまう。

 さらに、外務省が中心となって世界で尖閣の日本帰属を訴えてきていたのにも関わらず、今回の防衛圏を防ぐことができなかった。そして尖閣沖の警戒 や度重なるF15戦闘機のスクランブルなどを通して作り上げていたはずの抑止力も、結果として不十分であった。つまり、日本人が多額の血税を投資してきた のにも関わらず、日本の国土、主権、そして国民を護るための日本の外交と抑止力のシステムがしっかり機能していないのである。これは中国のみの問題ではな く、日本自身が招いた問題でもあるのではないか。

 誤解を防ぐために書いておくが、私は今回の中国の行動を評価しない。しかし中国がこのスキを突こうとする理由は上記の通り幾つもある。今回の問題 で日本の論壇は中国の糾弾に多く走っているが、私は、中国を一方的に責めて相手による自発的な政策転換を待ち望むのではなく、日本人自身が自省を兼ねて日 本外交の問題点に着目し、より大きな枠組みの中で外交政策決定過程の改革を進めるべきだと思う。中国は今後も日本のスキを狙う手を止めることはない。日本 側が戦略と制度を整えて今後の政策失敗を防ぐ必要があるのである。

では中国が正しかったのか?

 もちろん、中国の政策が正しかったとは断言できない。一時的に効果を得た今回の強硬姿勢も、結果としては中国にとって裏目に出る可能性も十分残っているからである。

 例えば、各国の反応は否定的である。中国外交・軍事政策の攻撃性にアジア諸国の警戒感が増大された。オーストラリアを含むアジア・太平洋諸国は一 般的に反対の立場を表明している。韓国に関しては、今回の防空識別圏は韓国のそれと重なる部分がある。結果として、日本の歴史問題などでここ数カ月の間で 成長していたソウルと北京のいわゆる「対日外交戦線」が、二国間の領土問題を再燃化する形で中韓関係にしこりを残した。

 一方で、南シナ海で中国と領土紛争を続けるベトナムやフィリピンの態度が硬化するのは簡単に想像できる。ここ数年「ソフトパワー」や「チャーム・ オフェンシブ」などというプロパガンダと多額の投資を通して中国が少しずつ作り上げてきた各国との「信頼」関係の少なくとも一部が剥がれ落ちてしまった。

 また、中国の脅しに対し米軍も引かない。米軍のB52爆撃機が防空識別圏内を通常訓練の一環として飛行し、中国の脅しがアメリカには通用しないと いうことも証明した。ウォールストリートジャーナル紙(11月27日)が言うように、中国は「脅しと虚勢戦略の達人」の国家である部分を醸し出した。中国 としては、中国国民が感じる東アジアでの「不平等」さを改革するため、そして国内分子に向かって「強い」イメージの中国を発信するために取った大きな一歩 だったが、その効果には限界があった。

 日米関係の専門家の何人かは、今回の防空識別圏はアメリカへの挑戦だという見方をしている。私の大学で教える留学生(空軍佐官)の一人もそう見ている。私も確かにそのような側面があるのは理解ができるが、現状はより複雑で、別の側面もあると思う。

 仮にアメリカへの挑戦だったとしても、今回のB52の件でも見られたように、私の知る米軍はこの種の挑戦には微動だにしない。私も自分の生徒の中 から空軍、陸軍、海軍、海兵隊、沿岸警備隊、そして国防総省の民間人と毎年卒業生を輩出しているが、しっかり与えられた任務を遂行できる素晴らしい軍人と 役人たちである。

 これは別の記事でも書いたが、私が担当するアメリカ人の佐官の多くは、今回の防空識別圏が軍事作戦に関わることなので興味を持っている。ただ防空 識別圏の含蓄の解釈の仕方は多種多様である。防空識別圏がアメリカへの脅威となると見る人もいれば、そうでない人もいる。同時に、最近のシリア、イラン情 勢などの問題から、そもそも根本的に世界政治の中心問題であるべきであったアジアの政治に焦点が戻ってきたことを当然と考える者もいる。

 しかし、今回の防空識別圏で中国が得る点も多い。その設定により中国の領土主張を強化させ、東アジアにおける既成事実を強制的に設置することによ り、国内分子に向かって政府の努力をアピールする効果がある。また、中国がいずれ東アジアでの覇権を握る運命にあるのなら、日本だけでなくアメリカと軍事 的に対峙する勇気を持ち、そして世界の舞台でそれを実践する必要がある。従って今回の動きは東アジア地域における中国の覇権奪還政策の一部として理解する こともできる。

 一方で中国は、危機における日本の脆弱性を引き出した。日本の民間航空会社は飛行ルートの事前提出をすることを一度発表し、後ほど撤回させられ た。そして結果として日本のやり方は米航空業界の政策と不一致してしまっている。今回の件で日本は発表後数日の間は対応に困り、迅速かつ有効な行動を取れ ないという実情が露呈した。

 今となっては日米共同で中国の防空識別圏を批判してはいるが、元々外務省による、日本の外交ルートを通して行われた中国への「抗議」はいとも簡単 にあしらわれている。更には、このように中国側に強気に出られると日本はアメリカの力にすがること以外には有効なことが何もできないという、一般的に広く 信じられている既存の概念を更に強化することになってしまった。そして今の時点でも、中国機による尖閣沖への侵入は続き、日本はこれを止めることができて いない。

では今後はどうなるのか?

 今回の防空識別圏は単に一発のカンフル剤で解決できないことを考えると、長期的な問題の一環として捉えるべきであることがわかる。今回の防空識別 圏設定は、今後も続くであろう中国からの外交的な攻撃の一ステップに過ぎない。今後は尖閣を日本が実効支配しているという状況を失い、日中両国により同等 の立場で管理されているという、中国にとって有利な条件が作り上げられる可能性がある。結果として日本以外の世界各国の見方がより中国の主張に近くなって しまう。

 自民党内ではこの混乱に乗じた憲法改正への更なる動き、集団的自衛権の見直し、防衛予算の上昇など、「普通の国」になるような動きが加速するかも しれない。一般国民の間では安全保障問題に関する興味が増え、日本の安全保障をより健全な形で理解しようとする力が増すだろう。同時に対抗勢力として、国 内左派が国内外で日本の右傾化を謳い扇動するだろうが、今の自民党は今後もより強くかつアメリカに近い日本の外交政策を形成してゆくだろう。

 そのアメリカとの協議過程で顕著になるのは、外務省内のアメリカ・スクールの力が比較的強まることなのかもしれない。私は外交政策が同盟関係に基 づくことが日本にとって必ずしも良い結果を出すとは思わない。ただ今後の傾向としては、沖縄やオスプレイの問題が続く中、日本の外交政策は自民党と外務省 による集権化が今までより強まる可能性がある。

では今後何をすべきか?

 日本がすべきことはいくつかある。既に進行中だと信じているが、外務省は今回の防空識別圏と国際法の関連性を審議し、その解釈をできるだけ日本の 主権と主張に近づけ、国際社会に広くアピールする必要がある。航空自衛隊の織田邦男・元空将が述べるとおり(日本ビジネスプレス、11月27日)、「中国 の防空識別圏は国際法上の一般原則である公海上の飛行自由の原則を不当に侵害する」点を示す必要がある。同時に、国際社会の支持を得ながら今回の防空識別 圏をロールバックさせるような状況を作り上げる。

 一方で中国は今後も日本と韓国の間に楔を打ち込むような形の、いわゆる「divide and conquer」戦略を取り続けるだろう。それに対応する形で、韓国とは当問題の戦略会議などを水面下で積極的に進め、同時に韓国の世論を日本の世論に近 づけるよう工作も進める必要がある。かくして、中国の防空識別圏を国際社会全体が否定する状況を作り出す。さらに、国際世論を日本の主張に近い方向に転換 させるために、尖閣での日本の支配を国際社会に知らしめねばならない。これらの問題は外務省のみに頼らず、英語を使える人材をより大幅に投入し、大手メ ディアやソーシャルネットワーキング、ツイッターなどをフルに活用し、日本の主張の場を増やすべきである。

 私がなぜそう書くかと言うと、現在の日本の主張の仕方ではアメリカ国民はおろか、私が教鞭を執るアメリカ軍隊や政府の人間にさえも中々中身が伝 わってこないからである。アメリカ社会で普通に生活していて、領土問題に対する日本政府の真剣な姿が全くと言っていいほど見えない。日本のアピールは韓国 や中国のと比べて極めて消極的・能動的であり、世界のやり方に沿った形で行われていないのが現実である。日本からのアピールが乏しいため、日本の良いイ メージが他国に伝わらず、勿体ない。

 また、抑止力も今後はより効果的な利用が求められる。まずは日本政府による、領土主張に関するかつてないほど明確な政治声明を表明することが大切 だ。そして同時に、国土防衛に必要な軍事力を導入し、そして発揮できるよう法整備を整え、他国からの脅威と領土侵入を防ぐよう必要適度の規制緩和と、それ に伴う作戦上の調整のバランスを取ることが必要である。これらの行動は必ずしも今の緊張状態を高めるものでなく、逆に日本の能力と意図を海外に示し理解を 得るための、そして結果として緊張状態を下げるための重要なディバイスだ。

 また、自衛隊や海上保安庁などの関連省庁は日本の主張をより明確にそして強く証明するべきだ。防空識別圏内であっても日本機が飛行を制限されるこ とはないため、自衛隊の作戦も今後も続けその存在感を示し、尖閣地域における失われつつある主権の再構築に努めるべきだと考える。

アメリカから見る、防空識別圏設定問題からの教訓  より


中国の強力な引力から誰も抜け出せない

2013-12-12 17:01:08 | コラム

(2013年12月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 中国の最高指導者だった小平氏は、才能を隠して内に力を蓄える「韜光養晦(とうこうようかい)」という格言を好んで引用した。適切な時期が来るまでは国の能力を隠し、所得増大と世界の経済システムに国を組み込むことを最優先した。

 中国は今や世界第2の経済大国で、将来はトップに立つ可能性も高い。習近平国家主席は中華国家の偉大な復興という「中国の夢」を語り、国の威信を取り戻そうとしている。控えめなふりをする時代は終わったのだ。

■企業や国家首脳に影響力行使

 中国は尊敬、さらには恭順に値する国だとの自覚は、2008年以降目立つようになった。リーマン・ショックを受けて市場資本主義に対する信頼、特に米国は絶対確実だとする信念が揺らいだからだ。中国は最近、こうした考えを一段と進め、外資系企業トップや国家首脳、ジャーナリストにさらなる影響力を行使している。アジア協会米中関係センターのオービル・シェル氏の言葉を借りれば、中国政府は「引力マシン」の回転速度を上げ、取引相手に対する引力を強めている。キャメロン英首相から米通信社ブルームバーグのウィンクラー編集主幹まで、誰もがその影響を実感している。

 氏の経済改革は海外の資本と技術を呼び込むことを当てにしていた。だが中国経済の発展に伴い、誰が誰を必要としているのか判然としなくなってきた。中国政府は最近まで容認してきたような慣行について、外資系企業に異議を申し立てている。

 今年に入り、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が、スマートフォン(スマホ)「iPhone4S」の修理補償サービスの運用が「傲慢」だったとして謝罪に追い込まれ、仏ダノンなど粉ミルクメーカーも価格カルテル容疑で罰金を科せられた。さらに、英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)も同社の製剤を処方してもらうために医師や病院に賄賂を提供したとして厳しい批判を浴びている。外資系企業はかつてかなり大きな影響力を持っていたが、世界最大で最も急速な成長を遂げる市場を持つ中国が今や支配的立場にあるというのが新たな現実だ。

 中国の「引力」の威力を実感しているのは企業トップだけではない。英国はキャメロン首相がチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談してから1年間、事実上、中国に排除された。フランスのオランド大統領が4月に中国に公式招待された際には、訪問団の中には英国に勝ったとして喜びを隠さない者もいた。彼らが口に出さなかったのは、オランド氏がダライ・ラマ14世との会談を差し控えたということだ。

 キャメロン氏はゲームのルールを学んだようだ。今月の北京訪問では礼儀正しく振る舞い、人権問題についてもほとんど触れなかった。キャメロン氏の北京滞在中、習氏一族の蓄財疑惑を報じたブルームバークの英国人記者は会見から締め出された。英政府はこれに「憂慮」を示したが、会見はそのまま進められた。

■報道機関、大学へも力

 ブルームバーグは騒動の渦中にある。中国首脳の不正蓄財疑惑を調査報道している米紙ニューヨーク・タイムズと共に、中国政府から記者用査証(ビザ)の更新を認められていないからだ。ウィンクラー氏は中国に関する微妙な記事を没にしたとされる。同氏はこの記事について「発表できるレベルになかった」と述べ、ブルームバーグも中国でのビジネス上の利益を守るために、編集の品位を傷つけたとの疑惑を否定している。だが、シェル氏が指摘するように、中国政府の報復力に対して二の足を踏まない記者はほとんどいないはずだ。

 大学でさえも例外ではない。迫害から逃れて渡米した盲目の中国人活動家・陳光誠氏は、中国政府の圧力を受けて客員研究員の契約を早期に打ち切ったとしてニューヨーク大学を非難した。上海に新キャンパスを開設した同大学はこれを否定している。

 中国が勢力を強めている最たる例は、11月に日本と紛争を起こしている島(沖縄県・尖閣諸島)を含む「防空識別圏(ADIZ)」の設定を宣言したことだ。米政府は中国の唐突なやり方を批判しつつも、米航空各社に対して規定に従うよう指示している。

 中国は今後もさらに厳しい条件を突き付けてくるだろう。これは過去において2000年間超大国として扱われていた中国としては想定内で、当たり前ともいえる。だからといって、他の国がこれに簡単に応じるとは限らない。

by David Pilling

(c) The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

[FT]中国の強力な引力から誰も抜け出せない  より


「卑日」で前面突破?逆切れの韓国

2013-11-08 13:32:14 | コラム
 米国が集団的自衛権の行使容認問題で日本政府を支持したら「面子がつぶれた」と怒りだした韓国。それを報じた「日米同盟強化で逆切れした韓国」の読者から質問が相次いだ。今回は、隣国に首をひねる人々との対話編の2回目である。

「親中に追いやるぞ」

韓国紙が一部とはいえ「だったら、中国と同盟しよう」と書いたとのくだりには少々驚きました。本気なのか、あるいはすねて見せ米国の気を引くのが目的なのでしょうか。

鈴置:確かに「あなたが私よりも日本を可愛がるなら、中国と仲良くするけど、いいの?」と袖を引いている部分もあると思います。

 例えば、文化日報のイ・ミスク国際部長の書いた「逆行する米国の対日外交」(10月16日)はそんなニュアンスです。この記事は、集団的自衛権問題で米国が日本を支持したことを強く非難したうえ、以下のように結んでいます。

・日本の右傾・軍事化を見逃すのなら、それは米国のアジア回帰の道ではなく、アジアの友邦を親中国家に追いやる道だ。

 一方、「日米同盟強化で逆切れした韓国」で引用した韓国日報の北京特派員の記事は、本心から中国との同盟を主張していると読めます。米韓同盟よりも中韓同盟の方が韓国の国益に利する、と論理的に説明しているからです。

「だったら、中国と……」とは、すねて言っている部分もあり、本気の部分もあり、ということなのですね。

初めて米国以外に「同盟先」

鈴置:ええ、そうです。いずれにせよ、東アジアの動向を読む際にこれらの言説を軽く見てはいけないと思います。とにもかくにも韓国メディアが「中国との同盟を考えよう」と言い出したのは初めてのことなのです。

 過去に米韓同盟が不安定になった時期は何度もありました。最近だと反米親北の盧武鉉政権(2003-2008年)の時です。米国も真剣に同盟の打ち切りを考えたようです。

しかし、そうならなかったのは、当時の韓国は中国との同盟に踏み切るハラを固めていなかった――というか、そんな意図は全くなかったからです。

 反米ごっこに明け暮れた結果、「勝手にしろ」とばかりに戦時の作戦統制権まで投げ返された韓国政府は「米国に見捨てられると北朝鮮の脅威を防げない」と焦りました。国民からも不安の声も上がりました。

 そこで、韓国は一気に米国の歓心を得る方向に転じました。反米政権たる盧武鉉政権が、米韓自由貿易協定(FTA)締結を申し出たのは米国への「わび状」だったのです。

日本の民主党政権も「わび状」

日本の民主党政権が、突然に環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を言い出したのと似ていますね。

鈴置:全く同じ構図です。鳩山由紀夫政権は「アジア共通の家を造る。米国はそこに入れない」と表明したこともありました。そうした反米親中の姿勢を修正する証拠としてTPPが必要だった、と複数の政府関係者が証言しています。

 話を戻します。今の韓国なら、米国から見捨てられそうになっても「わび状」を差し出す必要はないかもしれません。韓国には中国という「もう一つの同盟先」ができたからです。米韓同盟が大きく揺れれば、韓国が一気に中国陣営に走る可能性もあります。

 米国も韓国の二股外交はもう分かっています。今は我慢しているのでしょうが、いつ見切って捨てるかもしれない。仮に「すねて見せている」だけとしても「ヒョウタンから駒」になりかねないのです。

 こうした状況を中国はよく見ています。米韓関係が悪くなると、すっと韓国に手を差し出します。

隙間風送る中国

 ヘーゲル米国防長官の提案した「米日韓3国軍事協力体制の強化」に対し朴槿恵大統領が反対し、なおかつそれを公表しました(「ついに米国は韓国に踏み絵を突きつけた」参照)。当然、米国は怒りました。

 この事件は9月30日に起きました。直後には中国が、予定になかった李克強首相との首脳会談を韓国に申し出て、10月10日にブルネイで実現しました。

中国は機を見るに敏ですね。

鈴置:それだけではありせん。最近、中国人が韓国人に「日本と韓国が戦争したら、米国はどちらを助けると思うか」と聞くようになったそうです。これ自体が巧妙な宣伝工作です。

 韓国メディアが「米国は日本より韓国を大事にしている」と書いているところに、集団的自衛権の問題で米国は日本を支持。韓国人が米国に対し不信感を強めている今、この質問なのです。

米国は別段、韓国よりも日本を大事にしたわけでもないと思うのですが。

中国株式会社では“役員”に

鈴置:ええ。米国としては自国の安全保障のために3国軍事協力の強化を同盟国に訴え、韓国が反対したので見切り発車しただけでしょう。

 でも、韓国人は「日本を選んだ」と見たのです。冊封体制的な序列重視の韓国社会では、何らかの「決定」が「内容」よりも「主張する人と、権力を持つ人の近さ」で決まるからでしょう。韓国人にとっては、宗主国にどれだけ近いかが一大事となります。

 そこに中国人の、質問の形を借りた懐柔作戦。「米国は結局、日本の方を大事にしますよね。もし、韓国が我が陣営に鞍替えすれば、日本よりもはるかに上の存在になれますよ」とささやいているのです。

 日本が中国の冊封体制に入ってくるとは考えにくい。歴史的にも韓国は中華帝国の「いい子」だったのに対し、日本は「外の人」でした。だから、序列が重要な韓国人にとっては極めて魅力的で、現実的な提案です。

 なるほど! 出世志向のサラリーマンが「今のままなら永遠に同期の下風に立ったままだよ。うちの会社に来れば役員になれるかも」とささやかれ、心を動か しているようなものですね。でも、“中国株式会社”に心理的抵抗はないのでしょうか。昔、忠実な社員だったことはあるにしろ“米国株式会社”で伸び伸び やってきたのですから。

反日は国民向け糖衣に

鈴置:だから「離米従中」を偽装する「反日」が重要になるのでしょう。朴槿恵の韓国は急速に中国に傾斜している。本来なら、これに不安を訴える人がもっと出てきてもおかしくない。中国株式会社は韓国でも「ブラック企業」視されがちですから。

 中国傾斜を防ぐにも、米日韓3国軍事協力の強化が必要だと考える人は韓国にもいます。ただ大統領から「慰安婦を侮辱する日本とは協力できない」と言われてしまえば、メディアも普通の人も「それでも日本と軍事協力を」とは言いにくい。

 韓国人の娯楽の一種でもある「反日」は、「離米従中」の苦さを誤魔化すための糖衣――シュガー・コーティングにも使われているのです。

鈴置さんは「反日は離米従中の偽装」とかねてから指摘してきました。目的は米国を誤魔化すためとのことでしたが、国民向けでもあるのですね。

「偽装」を指摘するのは少数派

鈴置:その通りです。もう、米国には「反日独り芝居」というか「猿芝居」であることがばれてしまった。でも、国民の不安を抑えるためにも「反日」は手放せません。中国の引力が増すであろう今後、韓国はますます「離米従中」に進む可能性が高いからです。

その「偽装の構図」を指摘する人は韓国にいないのですか?

鈴置:わずかですが親米保守派にいます。「日米同盟強化で逆切れした韓国」で紹介した元・ベテラン外交官の李長春氏が少ない例です。同氏は趙甲済ドットコムで、「敵と同志を取り違えた親中反日の幻(まぼろし)から覚めよ」とまで言い切っています。

 そのネットメディアの主宰者で「米国も見透かす韓国の『卑日一人芝居』」で引用した趙甲済氏も同様です。「韓―米―日同盟体制下で親中反日は可能なのか」(10月6日)といった記事をしばしば載せています。

 ただ、趙甲済ドットコムは韓国では「極右メディア」と見られがちで、ここに載る主張は少数意見に留まっています。

では、普通の新聞は?

米中天秤で切り抜ける

 大手メディアはもちろん「反日はまやかしだ」とは書きません。国民から親日派と批判されてしまうし、政府の面子をつぶすからでしょう。ただ、10月3日の「日米同盟強化」以降、日本との関係改善を訴える主張が、各紙に相次いで載るようになりました。

 典型的なのが、朝鮮日報の金大中顧問の「韓日関係をいつまでこのまま放っておくのか」(10月15日)というコラムです。なお、この金大中さんは同名の元大統領とはもちろん別人です。

 韓国保守論壇の大御所ですが、2013年4月に「“二股外交”」という見出しの記事で米中間の等距離外交を提唱し、韓国研究者を驚かせた人です(「保守派も『米中二股外交』を唱え始めた韓国」参考)。

 今回のコラムでは、頑固に反日姿勢を続ける朴槿恵政権を念頭に「膠着した日韓関係を打開しよう」と訴えました。「経済的にも日本との関係が重要だ」という文章に続く、以下が本音部分と思われます。

・我々がさらに深く考えるべきことは、アジアの安保戦略面で「日本を前に立たせる」意図を明らかにした米国と、今後どのように調整するのか、ということだ。

・我々は(米国と軍事的に一体化した)日本と、中国の、どちら一方にも傾かないよう留意せねばならない。

米国が怒る前に微調整

 各紙に一斉に載った日本との関係改善を訴える論説を読むと、韓国人の懸念が「対日」よりも「米国との関係悪化」にあることが分かります。日本とケンカしても米国が肩を持ってくれるから大丈夫、と考えていた計算が「日米同盟強化」であてが外れたからです。

 そこで日本に対し融和的な姿勢を示し「日韓関係が悪化した原因は韓国の頑固さにはない」ことを米国に訴える、新たな作戦が構想されたということでしょう。

「米国と関係が悪くなってはいけない」との発想は「海洋勢力側に戻る」を意味するのですか?

鈴置:まさにそこがポイントです。注意すべきは、それらは「米国側に完全に戻ろう」とは言っていないことです。

 最近、中国に傾きすぎたから「米中を操る天秤」が機能しなくなりそうだ。それではまずいから、米国が本気で怒りだす前に、ここらで微調整しておこう――といったニュアンスです。

 趙甲済ドットコムのようにはっきりと中国傾斜の危険性を指摘し「海洋勢力として生き残ろう」と訴えている記事はまずありません。

結局、韓国はどこへ行くのでしょうか?

離婚時期決める作戦統制権

 韓国が岐路に立っていることは明白です。しかし、中国側に行くのか、米国側に残るのか、あるいは核武装中立の道を選ぶのか、今の段階では分かりません。1つ言えるのは、韓国がまどろんできた二股外交の夢が早くも怪しくなったことです。

 「日米同盟強化」で韓国の立ち位置が問われるようになったからです。ミサイル防衛(MD)でも米国から踏み絵を突きつけられました(「ついに米国は韓国に踏み絵を突きつけた」参照)。

 作戦統制権の返還問題も、その時期が「米韓の離婚」を大きく左右することになると思います。米韓は2014年上半期までに、戦時の作戦統制権をいつ、韓国に返還するか決める予定です。

 もし返還時期を、現在の「2015年12月」から「無期延期」と変えるなら、韓国は当面は米国陣営に留まる可能性が高まります。

 しかし、韓国の二股外交にいらだつ米国は「1年間程度の延期」で押し切ると予測する安全保障専門家もいます。「延長」を小出しにすることで、韓国の忠誠心を恒常的に確かめられるからです。

 ただその際、韓国はその不安定さに耐えかね、あるいは「米国に見捨てられる時期が迫った」と考え、中国傾斜の勢いを増すことになるかもしれません。

対日政策はどうなるのでしょう? メディアは関係改善を訴え始めたとのことですが、政府はその方向に動きますか?

卑日強化で前面突破か

鈴置:朴槿恵政権はメディアの主張とは反対に「卑日」を強化する可能性があります。韓国が今、困っているのは日米同盟が強化されたため自らの中国傾斜が目立ってしまい、米中二股外交の余地が狭まったことです。

 韓国紙が言うように日本に少し寄って見せ、米中等距離に戻ったように振る舞う戦術も確かにあります。でも、前面突破する覚悟があれば、そもそもの原因たる「日米同盟強化」を破壊すればいいのです。

 具体的には、日本の軍国主義化をさらに言い募り「戦犯国たる日本に米国は翼を与えた」と米国や世界で宣伝する手があります。すでに韓国紙ではそうした議論が始まっています。

 米国が日本の集団的自衛権の行使容認を支持した直後から、紙面には「戦犯国」や「敵国条項の対象国」という単語が以前にもまして躍るようになりました。日本は米国を含む世界の敵ではないか、これを言いたてようではないいか――との考え方は依然、根強いのです。

 「日米離間」は韓国の二股外交の余地を増すだけではありません。中国に頭を撫でて貰えます。さらに中国が尖閣を奪い取る助けにもなります。多くの韓国人は「日本が尖閣を取られればいいのに」と願っていますからね(「『尖閣で中国完勝』と読んだ韓国の誤算」参照)。

 それに対日関係改善策のように、日本に譲歩したとは受け取られません。対日強硬姿勢がウリの朴槿恵政権としては「日米離間策」の方がはるかに得です。

そんなに簡単に「日米離間」ができますか?

慰安婦像で日米離間

鈴置:例えば「日本人の残虐性」を訴えるべく、在米韓国人が「従軍慰安婦の像」を米国各地に建設し始めました。こうした活動を続ければ、日本のイメージは落ちていくと韓国人は期待しています。

 韓国の卑日活動は中国からの支援を受けていると見る人もいます。その中国外務省の広報予算は日本とは桁違いに多いのです。米政界でのロビー活動も、日本のそれとは比べものにならないほど活発です。

 また、朴槿恵はオバマに好かれている半面、安倍は嫌われている――と韓国では理解されています。「権力者との距離」で物事が決まる韓国では「集団的自衛権では日本にしてやられたが、大統領の個人的関係を生かせ、まだまだ巻き返せる」と考える人が多いのです。

11月2日、パリでの仏紙フィガロとの会見で、朴槿恵大統領が「日本は反省しない」と、卑日発言をまた繰り出しました。

鈴置:韓国は日本のイメージを落とすことに注力してきました(「なぜ、韓国は東京五輪を邪魔したいのか」参照)。その作戦は「日米離間」にも効果があると韓国人は信じているわけです。「ナチスと同罪の日本と、米国は手を組もうとしている」とのイメージを作れるとの判断です。

 「日米離間」を仕掛けたり「中国側に走るぞ」とすねて見せたり。朴槿恵の韓国は当面は――作戦統制権などの問題で最後の決断を迫られるまでは――しぶとく二股外交を続けると思います。

 「国が生き残るには、米中どちらがアジアの覇権国になるか判明するまで、双方に保険をかけるしかない」との発想は、韓国ではごく普通なのです。

 

「卑日」で前面突破?逆切れの韓国 より

 


日米同盟強化で逆切れした韓国

2013-10-24 14:40:06 | コラム

「だったら、中国と同盟を結ぼう」

 

 米国が日本との軍事同盟を強化した。すると、中国の意向も受け反対していた韓国が「面子を潰された」と逆切れ。一部の韓国紙は「米国が日本を大事にするのなら、中国と同盟を結ぼう」と書き始めた。

日本の新聞以上に騒いだ韓国紙

 韓国が大騒ぎになったのは10月3日。日本の集団的自衛権の行使に対し米国が賛成したうえ、多角的で厚みのある日米同盟の強化を打ち出したからだ。それを鮮明にしたのが日米安全保障協議委員会(2+2)の共同声明だ(注1)

(注1) この声明はこちらで読める。

 朝鮮日報はそれを4日付1面トップで「米国、日本の集団的自衛権の行使歓迎……緊密に協力」と報じた。さらに4日、5日と連日、社説で扱ったうえ、日米同盟強化に関し背景や影響など様々の角度からの特集を組んだ。

 中央日報も5日付1面トップの「日米蜜月、試される韓国外交」(注2)で解説したうえ、7日付の社説でも論じた。

(注2)この記事はこちらで読める。

 日本の新聞の4日付は読売、毎日と産経が1面トップ。ただ、日経は1面4段、朝日が1面3段だった。それと比べると、韓国メディアの異様に大きな扱いが目に付く。韓国人は何をそんなに驚きあわてているのだろうか――。

朴槿恵の二股外交が破綻

 中央日報の7日付社説「韓国、経済に続き外交でもサンドイッチ状態」(注3)が本音をのぞかせている。要旨は以下だ。

(注3)この記事はこちらで読める。

・米国が日本の軍事力強化をテコに中国牽制に乗り出した。
・韓国は経済で日中に挟まれてサンドイッチ状態になったのに続き、外交でも米日と中国の間に挟まれた。
・韓国はすでにミサイル防衛(MD)問題で、米中間でジレンマに陥っている。
・韓国の外交・安保の立地点が急速に狭くなっている。しかし、政府は適切な対応策が打ち出せていない。

 簡単に言えば、米中を両天秤にかけ、双方から利を引き出すという朴槿恵政権の二股外交が早くも破綻した――ということだ。少し常識がある人なら、米中が対立の度を深めている中、二股外交などうまくいくはずがない、と考える。

 ところが韓国メディアは「米中双方と良好な関係を築いたうえ、両大国の力を背景に日本と北朝鮮に言うことをきかせる」画期的な朴槿恵外交を称賛してきた。けっこう多くの知識人がそれを信じ込み、日本にやって来ては誇ってもいたのだ。

日本の自衛権で米国に裏切られた

 しかし、日米が対中軍事同盟、つまり対中包囲網の強化で合意した以上、米国と同盟を結んでいる韓国の立ち位置――米国側に残るのか、中国側に行くのか――が問題となるのは確実だ。

 すでに米国は自分が主導するMDに参加しろと韓国に踏み絵を突きつけている(「ついに米国も韓国に踏み絵を突きつけた」参照)。

 一方、中国は「中国包囲網に参加したらただじゃおかないぞ」と脅し続けてきた(「“体育館の裏”で軍事協定を提案した韓国」参照)。今回の動きは、朴槿恵外交を根本から覆す、韓国にとってこそ「大事件」だったのだ。

 もう1つ、韓国人にとってショックだったのは「集団的自衛権の問題で、米国が韓国よりも日本を尊重した」ことだ。米国に裏切られたとの思いだけではない。

 「日米軍事同盟強化を阻止するなら、仮想敵のあなたよりも同盟国の私が米国を説得した方が効果的です」と中国に説いてきたであろう韓国は、中国からもさらに軽んじられることになる。

 集団的自衛権に関わる韓国の議論にも、随所に独特の思い込みが見られる。ただ、誤解が元とはいえ韓国人がショックを受けたことは事実であり、それが米韓関係に尾を引くのは間違いない。

韓国メディアが描く独特の世界像

 韓国メディアが報じてきた「世界像」は以下のようなものだった。

・オバマ大統領は極右の安倍晋三首相が大嫌いだ。一方、朴槿恵大統領に対しては極めて親しい感情を抱いている。米国にとって、韓米同盟が米日同盟よりも重要になった。
・安倍晋三首相は右傾化を進めており、集団的自衛権の行使容認もその一環だ。
・韓国が中国をも背景に、日本の集団的自衛権の行使容認に反対している以上、米国が許すはずがない。朴槿恵外交の勝利だ。

 この問題が浮上してから、記者を含む何人もの韓国の識者に以下のように聞いてみた。

・集団的自衛権の行使容認は、非公式な形とはいえそもそも米国が日本に要求したものだ。だから誰が反対しようが、米国がいずれ“認める”に決まっているではないか。
・米国がこれまで賛意を表しないのは、日本国内で合意ができあがるのを待っているからであって、韓国の反対が主因ではない。
・米国は中国と戦争するつもりはないにしろ、いや、それだからこそ中国包囲網をしっかりと作る。それに必要な日米同盟の強化を、大統領の個人的関係ごときであきらめるはずがない。
・そもそも二股外交を展開する韓国を、米国が信頼するわけがない(「『独裁者の娘』を迎える米国の険しい目」参照)。

米国の前では「反日」を隠れ蓑に「従中」

 「集団的自衛権の勧進元は米国だ」という指摘に対し、多くの韓国人が「細かな事実はさほど重要ではない」と答えた。

 韓国のメディアや政府は「日本の右傾化」を米国に訴えることで米日韓3国軍事体制を拒絶できると考えた。もちろん、中国の顔色をうかがってのことだ。

 ただ、安倍首相は前に首相を務めた時と比べ相当に柔軟で、韓国紙の期待ほど「右傾化」してくれない。そこで安倍首相が「731」の機体番号の自衛隊機に乗ったのは軍国主義復活の狼煙だ――といった、相当に無理筋の批判を展開するしかなかった。

 そんな時に集団的自衛権の問題が日本で浮上した。韓国メディアは「再侵略を狙うアベ」の格好の証拠として飛びついたのだ。「事実は重要ではない」とは、そうした事情が背景にある。

 「我が国の米国への説得は成果をあげている」とメディアが報道し続けたのも、韓国社会特有のバイアスからだった。

 大国に翻弄されてきた、との思いが強い韓国人にしてみれば「周辺大国すべてを操っている我が国」といったストーリーは極めて新鮮で、心躍る。もちろん、人気を異常に気にする朴槿恵政権もそんな記事は大歓迎である。

韓国外交の勝利は「胡蝶の夢」

 ちなみに韓国には、国民の情緒――喜怒哀楽を煽れてこそ有力メディア、との発想がある。正確な事実の伝達は、先進国ほど重視されない。

 もっとも、米中両大国の力を背景に、日本を叩いて外交的に快進撃を続ける我が国――といった共同幻想を厳しく批判する韓国人もわずかながらいる。

 外交政策企画室長やシンガポール大使などを歴任した元・大物外交官で「親中反日政策は韓米同盟の空洞化につながる」と警告する李長春(イ・チャンチュン)氏だ。

 同氏は保守系サイトの趙甲済ドット・コムに「NATOも顔色を失う米日同盟の躍進」(10月11日付)を寄稿し、こう訴えた。

・韓国は対中依存症によりおかしくなった精神状態で「胡蝶の夢」をまどろんでいる。この幻(まぼろし)から覚めねばならない。
・過去を持ち出し現実から目をそむけ、敵と味方を取り違えている韓国の「親中反日」こそは、在韓米軍撤収を議論の場に引き出しかねない。
・韓米同盟と米日同盟のうち、どちらが米国にとって重要か自問自答しつつ、誤った判断を避けねばならぬ。

「朴槿恵の面子を潰したオバマ」

 こうした冷静な議論は新聞やテレビなど既存のメディアではほとんど見られない。「反日」を楽しんでいる韓国人から、“おもちゃ”を取り上げるわけにはいかないからだ(「なぜ、韓国は東京五輪を邪魔したいいのか」参照)。

 それに李長春氏のように、はっきりと「親米路線」を強調するのも世間受けしない。韓国人は中国が覇権を握る可能性が増していると信じているからだ。

 むしろ既存のメディアでは、米中二股外交を展開しておきながら「自分より日本を大事にするのか!」と米国に逆切れする空気も濃くなっている。

 最大手紙、朝鮮日報の有名な外交記者である李河遠(イ・ハウォン)政治部次長は10月14日付で「朴大統領の『誤認」とオバマ大統領の『欠礼』」を書いた。要旨は以下だ。

・今年5月の韓米首脳会談で朴槿恵大統領とオバマ大統領は非常に親しげであり、その写真も公開されている。
・朴槿恵大統領は日本が誤った歴史認識を改めないのなら、米日の協力関係を見直すようオバマ大統領に求めてきた。
・しかし米国はこれに否定的であることが分かってきた。「オバマ大統領は日本ではなく韓国に付く」という朴槿恵政権の判断は今や、多くの専門家が錯覚に近いと見る。
・朴槿恵大統領がヘーゲル国防長官に(歴史認識など)日本の責任を訴えてからわずか3日後に、同長官は集団的自衛権(の行使容認への)支持を発表した。
・朴槿恵大統領が「面子をつぶされた」と感じるのは当然だ。オバマ大統領は同盟国の大統領を困惑させたことに関し、厳しい批判を受けねばならない。

自分の言うことを聞かないと怒る韓国

 「欠礼」と罵倒されたオバマ大統領がこの記事を読んだら、相当に困惑するに違いない。朴槿恵大統領がヘーゲル長官に訴えた「日本の責任論」は、外交慣例を破って韓国政府が勝手に発表したものだ(「ついに米国も韓国に踏み絵を突きつけた」参照)。

 そもそも、韓国が「欠礼」してこれを発表しなければ「朴槿恵大統領が面子をつぶされる」こともなかったのだ。

 また「日本が誤った歴史認識を改めないなら米国は日本との協力関係を見直すべきだ」と主張しているのは韓国に過ぎない。米国がそれに同意したこともないのだ。

 なぜ、韓国の言ったとおりにしないと、米国の大統領が罵倒されねばならないのだろうか。「親しげな写真」を撮ったから、というなら首脳会談の場にカメラマンも呼び込めない――。

 米国批判を超え、中国との同盟を訴える記事も登場した。韓国日報のパク・イルクン北京特派員が10月7日に書いた「独島(竹島)と集団的自衛権」だ。核心部分は以下である。

米国に捨てられたら中国に付こう

・米国では韓国より日本がもっと重要だという“不都合な真実”が米日の「2+2」で改めて確認された。
・米日軍事同盟が次第に強化され、その中で日本が大きくなる場合、米国はもう1度、朝鮮半島を日本に任せて管理しようと考えうるとの憂慮も一部にはある。第2の「桂―タフト」密約である。
・同盟は平等と相互尊重にある。日本にもっと大きな役割を期待する米国の価値と、反省しない日本を認めることができない我々の価値は同じものであり得ない。
・少なくとも日本の再武装に対しては、米国ではなく同じ被害者の中国と我々の価値がより近い。
・どんなに努力しても米日同盟をちゃんとしたものにできない米韓同盟なら、再考すべき時だ。中国をテコに活用し我々の国益を極大化すべきだというのが答えだ。

 この記事だけではない。「米国に捨てられたのだから、中国へ寄っても米国には怒られない」という意見があちこちで散見されるようになった。これまではこっそり「離米従中」路線を走ってきたが、これからは堂々と……というノリである。

 同じ韓国日報の10月5日付社説「米日の安保癒着に一言も言えない韓国政府」の結論は以下だ。

・今回を契機に政府は対中関係の座標も正確に設定する必要がある。中国は我々の戦略的協力同伴者に格上げされている。経済的にも米国を凌駕する最大の交易国だ。米国の安保戦略と韓中関係が衝突しないよう接点を探す知恵を発揮するのが急がれる。

大見出しで「米中等距離外交」

 10月上旬にインドネシアとブルネイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)と東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3、東アジア首脳会議(EAS)の各首脳会合。

 中央日報の「まとめ記事」の見出しは「朴大統領、米・中間で『等距離』外交」だった(注4)。以下はその一節だ。

(注4)この記事はこちらで読める。

・ケリー米国務長官と李克強・中国首相はASEAN首脳会議で舌戦を繰り広げた。その間で、韓国がどちらか一方に近づく姿勢を見せるのは難しい状況だ。

 もはや、米国との同盟国の新聞とは思えない書きっぷりだ。この新聞の勇み足だろうか。いや、そうではなさそうだ。

 10月7日に中国の習近平国家主席と会談した際、朴槿恵大統領は「更上一層楼」という漢詩を引用した。青瓦台(韓国大統領府)は「さらなる関係改善を求める意志を表明したもの」と韓国メディアに説明している。

韓国に匙を投げた?米国

 堂々と二股外交に乗り出した韓国――二股どころか中国の言いなりになる韓国に対し、米国も苦い顔を隠さない(「米国も見透かす韓国の『卑日一人芝居』」参照)。

 マイケル・グリーン米戦略国際問題研究所(CSIS)先任副所長兼ジョージタウン大学教授は中央日報に「韓日関係、進展のシナリオがない」(10月14日付)を寄稿した(注5)

(注5)この記事はこちらで読める。

 「韓国を刺激しないよう、せっかく米国が安倍政権を説得して日本を抑え込んだのに、韓国が反日強硬策を続けたのですべてがぶち壊しになった」という趣旨である。見出しも「韓国にはもう、匙を投げた」ととった方が素直だ。

 グリーン教授は「親日派」との批判を恐れてであろう、日韓関係に関し韓国紙に寄稿する時は、日本の肩を持つような記述を極力、避けてきた。

 しかしこの記事は、韓国への不満をぶちまける珍しいものとなった。ことに注目すべきは、韓国の米国に対する「軽侮」について言及したことだ。以下である。

・米政府が東京に球を投げていた先週、(米国と)韓国との関係が軋んだ。朴槿恵大統領が接見した席で、対日関係改善を求めたヘーゲル米国防長官に打ち明けた(日本への)不満を、青瓦台が10月1日に詳しく公開したことが最初の一撃だった。

北京に向け「対中包囲網は拒否しました」

 米国にしてみれば、韓国をもよりしっかりと守る「米日韓3国軍事協力体制」の強化を提案したら、大統領からきっぱりと拒否されたうえ、自分に断りもなく「米国の提案は断りましたからね」と拡声器を使って大声で発表されてしまった――ということになる。

 拡声機が向けられた先はもちろん、米国の脅威の源泉たる北京だ。中国は米日韓3国軍事協力を中国包囲網として警戒し、韓国に対しては加わらないよう指示している。

 「相談なしの発表」は朝鮮日報の李河遠次長が「オバマの韓国に対する欠礼」と主張する経緯の一部だ。しかし、米国からすれば「朴槿恵の米国に対する裏切り」に他ならない。

 10月上旬、米国は必死で韓国に「日―米―韓」同盟の重要性を訴えていた。空母「ジョージ・ワシントン」を釜山港に送ったうえ、韓国の記者を載せて黄海にまで進出した。

 黄海は北朝鮮が韓国にしばしばテロを仕掛ける現場であり、中国が内海化を狙う海でもある。この海への空母の進入はもちろん「米国は全力で韓国を守る」との意志表明だ。

 さらに米国は韓国メディア各社のシニア記者を日本に招待し、横田、横須賀、普天間の米軍基地を見せた。日米同盟がいかに韓国の安全保障に寄与しているか、理解してもらおうと思ったのだ。

米国が韓国の甘えをいつまで許すか

 だが、それらは逆効果となるかもしれない。二股外交を続ける韓国にとって、そうした米国の“低姿勢”は「二股」の余地が残るように映るためだ。

 従来、北東アジア情勢を読むポイントは韓国の対中接近だった。今後は、その韓国に対し米国がどう出るかが重要になった。中国との対決準備を急ぐ米国が、韓国の甘えをこれ以上、許すゆとりがなくなるからだ。

 米韓関係が悪化すれば、その影響は一部で改善が叫ばれる日韓関係の比ではない。下手すれば、日本が大陸に直接に向き合う最前線になるのだ。

日米同盟強化で逆切れした韓国  より






 

 

 


ついに米国も韓国に踏み絵を突きつけた

2013-10-10 14:04:54 | コラム

「ミサイル防衛で中国に味方するのか」

  米国と中国のどちらの味方なのか――。ついに米国が韓国を問い質した。踏み絵に使ったのはミサイル防衛(MD)だった。

無理筋の再延期要請

 9月30日、韓国の国防関係者に衝撃が走った。米国のヘーゲル国防長官がソウルに向かう専用機の中で「韓国軍が持たねばならぬ力量」について聞かれ、以下のように答えたからだ。

・MDがとても大きな部分を占めることははっきりしている(聯合ニュース9月30日配信「ヘーゲル『韓米は戦時作戦統制権で結論を出す状況にない』」)。

 米国は10年も前から韓国に対し、日本と同様に米国のMDに参加せよ、と求めてきた。中国はこれを対中包囲網造りの一環と見なし、韓国に参加するなと圧力をかけた。韓国はそれに屈し、米国の要求から逃げ回ってきた。

 ヘーゲル発言は昔ながらの要求だ。だが、時期が微妙だった。今回の訪韓は戦時の作戦統制権の返還を論議するのが主な目的の1つだ。

 韓国は相当に無理筋の「返還時期の再延期」を求めている。このため、それと引き換えに米主導のMD参加を呑まされるのではないか、と韓国は怯えたのだ。

「ただ乗りの韓国」

 ヘーゲル長官を助けるために、ワシントンポスト紙も韓国に向け威嚇射撃をしてきた――ように韓国人には思えた。「韓国軍の作戦統制権の返還は論議中」(9月29日付)という記事には、韓国への不信感を表明する、以下のようなくだりがあるからだ。

・韓国政府は今夏から、作戦統制権の無期限延期に向け世論造りに乗り出した。一方、米政府はいかなる変更にも合意していない。米政府の中には、自分自身の防衛に責任を持とうとしない韓国への失望が広がっている(注1)

(注1)この記事はこちらで読める(英文)。

 韓国各紙もこの記事に注目し引用した。朝鮮日報は「米国は交渉の中で韓国を『ただ乗り』と非難している」とも書いた(10月2日付「韓米同盟60年『5大難題』」)。

 豊かになったのに依然として防衛を米国に頼り切る韓国。しかも最近は中国の顔色を見て、米国の求める防衛力の強化、例えばMD参加にはそっぽを向く――。予算不足に悩み、軍事費の大幅削減に直面する米国防関係者の怒りだ。

反撃に出た韓国紙

 痛いところを突かれ、韓国もまずいと思ったのだろう。新聞が反撃に出た。朝鮮日報は10月2日付社説「戦時の作戦統制権と、MD参加をひとくくりにするな」で以下のように米国を非難した。

・韓国の安全保障における力量とは関係なしに、韓国がMD不参加の方針を変えないことを理由にして、米国が無条件で戦時の作戦統制権を韓国に返還するぞというのであれば、それは米国の対朝鮮半島防衛公約の放棄に他ならない。

 理屈をこねまわしていて分かりにくい記事だが、1つ言えることはこの記事は米国を説得するよりも、逆効果になったと思われることだ。そもそも作戦統制権を返せ、と言い出したのは韓国であり、それも韓国側の要求を受け入れ、1度、延期しているのだ。

 作戦統制権とは軍隊を指揮する権限のことだ。左派の盧武鉉政権当時に「2012年に韓国軍の統制権を米国から韓国に返還する」ことで両国は合意した。同政権は「米国からの独立」を実現したとして国民からの人気を高め、北朝鮮にもいい顔ができると踏んだのだ。

 しかし、次の李明博政権の強い要請で2015年末にと1度延期した。朴槿恵政権もスタートするや否や再延期を米国に頼みこんだ。保守の両政権は、自身の戦争遂行能力に自信が持てないことに加え、返還が在韓米軍削減・撤収の引き金になることを恐れている。

韓国には独自のMDがある

 統制権の返還は、米軍の指揮なしに韓国が戦える体制を造ることが前提だ。2007年の正式合意から6年もたっているのに「我が軍には統制権を引き受ける力量がない」と今ごろ言い出されても、米軍は困るだろう。

 この朝鮮日報の記事そのものが、ワシントンポストの指摘した「自分自身の防衛に責任を持とうとしない韓国」の何よりの証拠になる。米国防関係者がこれを読んだら、あきれ果てたに違いない。

 カンのいい米国人なら、韓国が軍事能力の向上に動かないのは、対北抑制を米国よりも中国に依存し始めたからと考えるだろう。

 米国にとっての仮想敵を頼りにする国に、依然、3万人もの軍人を送り巨額の費用をかけて守っている自身の姿が、ピエロに見え始めたかもしれない。

 韓国各紙のもう1つの反撃は「我が国には独自のMDシステムを開発する計画がある。だから米国のMDには参加する必要がない」という論理である。

 米国や日本は北朝鮮や中国のミサイルを上がり端や、高度がもっとも上がった時にも叩けるシステムを造っている。

中国のミサイルは落とさない

 韓国型のMD構想は、米国や日本のそれとは大きく異なり、敵のミサイルが韓国に着弾する寸前に限って撃ち落とす。これならグアムなど米国や日本に向かう中国の弾道ミサイルは撃ち落とせないので、中国の不興を買うこともない。

 ただ、韓国は、米国に対し「中国を敵にしたくないので……」とは言えない。そこで「韓国型導入に比べ、米国主導のMD加入には桁違いにカネがかかる」を理由に掲げている。

 東亜日報(「朴大統領、韓国型MDの早期確保方針を表明」10月2日付、日本語版)は朴槿恵大統領が1日、国軍の日の演説で「韓国型MDなど北朝鮮の核と大量兵器への対応能力を早期に確保する」と述べたことを指摘。

 そのうえで「大統領の発言は米国主導のMD参加要請に対し、否定的な考えを表明したとの見方もある」と米国を牽制した(注2)

(注2)この記事はこちらで読める。

2014年上半期に先送り

 さて、注目の米韓安保協議会(SCM)が10月2日、ソウルで開かれた。韓国各紙によると、やはりヘーゲル長官はこの場でMD導入を求め、やはり韓国側は拒否した。

 一方、韓国の求める戦時作戦統制権の返還延期時期も「2014年上半期までに決める」とだけ合意し、持ち越しとなった。米国がそれに絡めているMDも、同時に結論が出ると見られる。

 以下は、SCM後の会見の一部だ(聯合ニュースによる)。

韓国政府の戦時作戦統制権の返還再延期要求と関連し、どんな論議があったか。

ヘーゲル:我々は作戦統制権について論議してきたし、今後も続ける。返還は常に条件次第なのだ。我々はこの条件を検討している。条件に関する論議には楽観的に考えている。

米国主導のMDに韓国が参加すべきだとの立場を韓国政府に伝えたか。

ヘーゲル:韓国は韓国型MD(構想)を持っている。韓国のMDシステムと米国のそれが全く同じである必要はない。ただ、相互運用性がなければならない。ここにいろいろの複雑な要素が作用する。指揮統制や抑制の能力はとても重要だ。

 ちょっと見には、韓国が勝ったように見える。韓国型MDの導入に拒否権を発動させなかったからだ。ただ、ヘーゲル長官は奥の手を繰り出している。

データリンクは米国とせよ

 韓国型MDが、敵のミサイルが落ちてくるところを狙う、とはいっても発射直後から上昇する間の位置、速度の情報は必要だ。それは韓国軍の探知能力では得られない。結局、北朝鮮を常時監視する米国の衛星情報がなければ、韓国型MDも完全には機能しない。

 ヘーゲル長官は前段部分で「条件次第」と述べて「返還の再延期はただではないぞ」とまず、念を押した。

 そして後段で「中国が米国や日本に向けて撃つ弾道弾まで落とせとは言わない。しかし、韓国のMDは米国のシステムの一環として運用せよ」――つまり米国の傘の下から出てはいけないぞ、と言い渡したのであろう。

 論理的には、韓国は反撃可能だ。「人民解放軍とデータリンクし、中国の衛星情報を貰うから米国の情報は必要ない」と米国に言い返す手がある。ただ、そこまで言えば米韓同盟は破綻するだろう。

 米国は日本、豪州、韓国などを従えて軍事的に中国包囲網を構築中だ。ただ、韓国だけはそれに参加するかは不明である。韓国は北朝鮮の脅威は米国に防がせる一方、恐ろしい巨大な隣国である中国とは敵対しないよう立ち回っているからだ。

 もちろん、米国は韓国の虫のよさに怒っている。韓国はその怒りから逃れるために「反日」を使う。日韓軍事協定を結べと米国に言われた際は「日本は歴史を反省していないから結べない」と逃げた。

「慰安婦」は使えないMD

 1日にヘーゲル長官の表敬を受けた時もそうだった。朴槿恵大統領は、米日韓3国軍事協力体制の構築を持ちかけたヘーゲル長官に対し、それを断るのに「慰安婦の苦しみ」を使った。

 ただMDは、直接は日本と関係がないため「歴史」や「慰安婦」を言い訳に使うことができない。米国がそこまで考えたかは分からないが、結果的にはMDを突破口に「米国か、中国か」の踏み絵を韓国に突きつけたことになる。

 米中の間で板挟みになった韓国。今回は何とか「踏み絵」を9カ月間は先延ばしにできた。しかし、朴槿恵大統領の強烈な反日パフォーマンスが、韓国の必死の綱渡りを揺らすかもしれない。

 ヘーゲル長官との会談で朴槿恵大統領が述べた「慰安婦」など一連の反日発言を、青瓦台(大統領府)が米側との調整なしに公開したからだ(注3)

(注3)米国政府はヘーゲル発言部分のみ発表している。こちらで読める(英文)。

米国への挑戦

 反・朴槿恵色の濃いキョンヒャン新聞。1日付「米国防相との会談内容を一般公開し欠礼」によると、青瓦台関係者は「米側との調整はない。(内容が)とてもいいと考えて公開した」と語っている。

 青瓦台は「厳しい対日批判を米国の前でも繰り広げた」と国民に広報すれば、支持が増すと計算したのだろう。

 しかし、米国にしてみれば「同盟国を守るための極めて重要な提案を、その同盟国から真正面から拒否された」うえ、それを相談もなく世界に向け発表されたことを意味する。キョンヒャン新聞の言う米国への「欠礼」どころか「挑戦」と受け止めるのが普通だ。

 この大統領の下で韓国は、予想外に早くルビコン河を渡るのかもしれない。

ついに米国も韓国に踏み絵を突きつけた より


米国も見透かす韓国の「卑日一人芝居」

2013-09-13 10:56:55 | コラム

「親中反日」は韓国でも危ぶまれ始めた

 朴槿恵政権の外交を「親中反日」と厳しく批判し「海洋勢力側への回帰」を訴える人々が韓国に登場した。「反日は心地良いが、必ず『離米』につながる。それは国を滅ぼす」と彼らは主張する。

中国には短刀を呑んでかかれ

 中心人物は趙甲済氏である。日本の「文藝春秋」に相当する「月刊朝鮮」の編集長を永らく務めた、韓国保守の理論的指導者の1人だ。在野の保守団体「国民運動本部」を創設し、1945年生まれながら、時に街頭闘争に繰り出す活動家でもある。

 同氏は「趙甲済ドット・コム」代表としてネット・メディアを主宰(注1)。そこで自身の主張を展開すると同時に、若手記者や保守のオピニオン・リーダーに発信の場を提供している。

(注1)サイト(韓国語)はここ

 趙甲済氏が8月23日に掲載した「中国に対しては短刀を呑んでかかれ」という長い記事のハイライト部分は以下だ。

  • 「韓―米」同盟は「韓―米―日」同盟構造の一部である。韓日関係が悪化すれば、きちんと機能しない。朝鮮半島で戦争が起きた際、日本は韓米同盟軍 の後方基地の役割を果たすのだ。朴槿恵政権の親中反日路線はいずれ限界に突き当たるほかはない(「親中反日路線の危険性」の項)。

 「趙甲済ドット・コム」の金泌材記者も「韓国の反日、日本の嫌韓を超えて――韓日が“過去”に束縛されれば、中国共産党と北朝鮮という“現実”問題を見失う」を8月27日に載せた。要旨は以下の通りだ。

台湾なら守るが、韓国は嫌だ

  • 米国は日本の右傾化に反対しない。東北アジアで自分ができないこと、つまり中国牽制を日本にしてもらうためだ。
  • 朴槿恵大統領は中国を通じ日本を牽制する方針だ。これは戦略的な“判断ミス”であり、“外交失策”につながる可能性が高い。東北アジアでの韓国の立場を弱める結果を生みかねない。

 韓国の保守メディアがここまではっきりと、保守政権の外交政策の基本方針を批判するのは珍しい。彼らの危機感――日韓関係の極度の悪化が米韓同盟の機能不全、つまりは「米韓の離間」につながる恐怖――が良く分かる。

 実際、「日本の右傾化批判」など執拗な「韓国の反日・卑日」が「日本の嫌韓」を呼んだ今、日本人は韓国の安全保障上の危機に極めて冷淡になった。

 朝鮮半島有事の際、日本は北朝鮮からの攻撃というリスクを甘受しつつ、在日米軍の韓国支援を認めるのか、怪しくなってきた。

 今、日本で論議される集団的自衛権の行使に対しても「嫌韓」がブレーキをかける。行使の容認に踏み切れば、日本が「第2次朝鮮戦争」に巻き込まれる可能性がさらに増すからだ。

 「行使」派の間でも「日本の友好国であるベトナムやフィリピン、台湾を守る米軍と、自衛隊が共に戦うことは必要だ。だが、中国のお先棒を担ぎ、反日・卑日にあけくれる韓国のために日本人が血を流すなんてとんでもない」との意見が急速に増える。

五輪も自衛権も、とにかく反対

 一方、韓国。政府は現時点では日本の集団的自衛権に関し態度を明らかにしていない。「行使」はそもそも、米国が日本に求めたことと知ってはいる。だが、中国が強く反対している。すでに対日政策で韓国は中国の意向に反して動けない。

 メディアは反対一色だ。韓国社会で「反日」は宗教と化している。東京への五輪誘致だろうが、集団的自衛権だろうが、とにかく日本のすることに反対しておけば商売になる。もちろん、中国からの圧力もあるのだろう。

 こうした空気の中で、趙甲済氏は「日本の集団的自衛権の行使は韓国に有利なことだ!」(8月28日)という記事を書いて「行使」に賛成するよう、韓国人に訴えた(注2)

(注2)この記事は「西岡力ドット・コム」で日本語でも読める。

 韓国の伝統的な保守は、日米共闘体制が完全に機能してこそ韓国の安全が増す、と考える。この記事からは「せっかく到来したチャンスをつかみ損ねてはいけない」という彼らの思いが読みとれる。

北が核配備するなら戦争だ

 韓国保守にとって「チャンスをつかみ損ねた」失敗の前例がある。2012年、「日韓軍事協定」の署名を、調印の当日になって李明博政権が拒否したことだ(『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』第1章第3節参照)。

 与党の最有力指導者で中国に極めて近い朴槿恵氏の意向が働いた、と当時、韓国紙は報じた。金泌材記者らは今も「安全保障に大きく寄与するはずだった、貴重な宝を自ら捨てた」と悔しがる。

 では、なぜ今になって韓国の保守が「反日」政策に警鐘を鳴らし始めたのか――。

 それは北朝鮮の核開発がどんどん進み、戦争の可能性が増すとの懸念からだ(注3)。韓国にとって、緊張が高まるほどに「後方基地」たる日本の重要性は増す。

(注3)北朝鮮の核・ミサイル開発の最近の動向に関しては『北朝鮮はどんなふうに崩壊するのか 』(惠谷治著、小学館101新書)が詳しい。

 趙甲済氏は「中国に対しては短刀を呑んでかかれ」で、韓国の置かれた危うい状況を以下のように記している(「核ミサイルの実戦配備」の項)。

発射7分後にソウルを直撃

  • 北朝鮮が核弾頭を小型化し、すでに保有しているミサイルに搭載してソウルに向けて撃てば7分間で到達する。
  • これを防ぐ手段はない。首都圏には人口の半分、経済力の70%が集中する。韓国は壊滅する。
  • 核攻撃の後、北朝鮮は米国に対し「もし我が国に対し報復攻撃すれば、我が方は米国、日本に対し核ミサイルを撃つ」と脅すだろう。米国がそれでも敢えて対北報復を実行するかは分からない。
  • となれば、北朝鮮が核弾頭を実戦配備するだけで韓国は人質となり、北朝鮮の言われるままになるしかなくなる。
  • 人質化を避けるために、韓国はミサイル・核開発施設や核技術者を無力化する「北朝鮮崩壊作戦」を検討せざるを得ない。
  • 全面戦争を覚悟して敵の核ミサイル配備を阻止するか、あるいは自衛的核武装に着手しなければならない。

 2012年2月の3回目の核実験に端を発した北朝鮮の一連の核威嚇。一時は世界中から戦争記者がソウルに集まるほど注目されたが、騒ぎが終わるとすっかり忘れ去られた。だが、韓国にとっては依然、北の核はチクタクと時を刻む時限爆弾である。

「自前の核」が一番有効

 日本の保守とは大きく異なり、韓国のそれは「反中」では決してなく「親中」でさえあった。主要敵は北朝鮮であるうえ、北の暴発を防ぐためにも中国との良好な関係が必要とされたためだ。

 だが今、趙甲済氏らは「反日をやめよう」との主張に留まらず「親中政策」まで批判するに到った。なぜだろうか――。

 それは核ミサイルの実戦配備を進める北朝鮮を、中国が依然としてかばい続けているからだ。6月末の中韓首脳会談で習近平主席は「北の非核化」という言葉を一切、使わなかった。

 さらには「朝鮮半島の非核化」を朴槿恵大統領に約束させた。これを韓国の保守は「おまえこそ核開発してはいかんぞ」と中国に言い渡された、と受け止めた(「『中国傾斜』が怖くなり始めた韓国」参照)。

 韓国では66%の人が核武装に賛成である。趙甲済氏が前記の記事で主張するように、北の核に対抗するには「自前の核保有」が一番確実だからだ。

 首脳会談の前、中国は「あなたが私にもっと近寄れば、北朝鮮よりも大事にする」と韓国にささやき続けた。韓国人は大喜びして朴槿恵大統領を北京に送り出した。

中国に騙された朴槿恵

 それだけにこの“冷遇”はよほどショックだったに違いない。ことに安全保障を重視する保守の一部は、これを機に中国への不信と警戒を一気に強め、米国が率いる海洋勢力側に戻る決心を固めたのだ。

 「中国に対しては短刀を呑んでかかれ」という見出しも、彼らの決意のほどを示している。趙甲済氏はこの記事の前文と「中国が東北アジアの覇権を追求する時」の項で、以下のように主張した。

  • 中国に騙されて“自衛的核武装”カードを捨ててはいけない。
  • 韓国が米日のミサイル防衛(MD)網に加わることは、中国の核ミサイルを無力化する短刀だ。
  • 中国は東北アジアの覇権国家を目指すだろう。そのためには「韓―米―日」同盟を壊す必要がある。
  • 中国は朝鮮半島の統一の過程で、米韓同盟を弱体化、あるいは解体させようとするだろう。
  • 一部の韓国人の気質には中国に対する事大主義の根性が残っている。彼らは韓米同盟を解体し、中立化しようと言い出すだろう。

 これほどはっきりと「反中親米」を露わにしたうえ、その一環として日本との関係改善を訴える記事はほかに見当たらない。韓国のメディアは依然として「反日」記事で埋め尽くされている。

オバマ大統領への説教

 例えば、中央日報のイ・ハギョン論説室長が書いた「日本は韓国が一番よく知っている」(9月4日)がその典型だ(注4)。要旨は以下の通り。

(注4)この記事はここで、日本語でも読める。

  • 集団的自衛権を確保しようとする日本の動きが尋常ではない。これにより、日本は領土への攻撃を受けなくとも自衛隊の朝鮮半島進出が可能になる。
  • 日本の再武装に対し米国が寛大なのは、中国牽制には日本の力を借りる必要があるからだ。実際、金融危機への予防面でもアジア各国を対象に日米は共同で動く。これも中国牽制の一環だ。
  • 米国に問いたい。真珠湾攻撃を忘れたのか、と。軍国主義日本が米国を相手に戦うと予想したのは、当時、独立運動家だった李承晩だ。彼はルーズベルト大統領夫妻と米国務長官に警告したが、無視された。
  • 日本の再武装化に対する韓国と中国の不満に米国は耳を傾ける必要がある。日本に翼を与えて韓国を不安にしたり、中国を仲間外れにすることが米国の利益に合致するのか、冷静に考えるべきだ。オバマ大統領がルーズベルト大統領の愚を繰り返さないことを望む。

米中を後ろ盾に日本封じ込め

 「日米が連携して中国を封じ込めようとしている」との現実認識は趙甲済氏や金泌材記者と変わりがない。それなのに対日政策に関する主張が180度反対方向を向くのは、同盟に関する姿勢が完全に異なるからだ。

 イ・ハギョン論説室長は、韓国政府の外交方針である「韓米中協商」に忠実だ。これからすれば、韓米関係を生かして日本を封じ込めて見せ、中国の歓心を買うことが正着だ。

 一方、趙甲済氏らは「米中双方と結ぶなんてことは幻想であり、海洋勢力側に戻ることが生き残りの道」と考える。当然、日本との関係修復が必要になる。

 朴槿恵政権の「韓米中協商」――米中間を上手に泳ぎ渡る手法――は以下のような構造と見られる。

(1)米国との関係は維持しつつ、中国の懐に飛び込む。
(2)米中両大国を後ろ盾に、北朝鮮と日本を封じ込める。
(3)「日本の右傾化」や「戦犯国としての反省のなさ」を世界で言い募る。

 実は、(3)がミソなのだ。以下の効果により、(1)と(2)を下支えするからだ。

コウモリ外交は可能か

  • 国際社会での日本の“格”を落とし、代わりに韓国がその位置を占める。米国は韓国を粗略に扱いにくくなる。
  • 日韓軍事協定締結など中国包囲網に加わるよう米国から求められたら「そうしたいのは山々ですが、日本の右傾化のために国内に反対が多く、不可能です」と弁解し、「従中」を米国に悟られないようにする。
  • 米国は中国の対日封じ込めにはなかなか応じない。そこで中国に代わって、韓国が米国に日本批判を吹き込む。中国のお先棒を担ぐことで、韓国の存在意義を中国に示せる。

 朴槿恵大統領が米国へ行こうが、中国へ行こうが、ロシアでドイツ首相に会おうが、必ず声高に日本を批判するのは、韓国外交にとって(3)が必須と認識されているからだろう。

 でも、米中間でコウモリのように振る舞う外交が永続きするものだろうか――。韓国がよほど重要な国と認められない限り、両大国は韓国の思い通りに動いてくれないだろう。

 早い話、コウモリだと見破られたら終わりだ。中国は「米韓同盟を続けたまま、北朝鮮よりも大事にしろとはずうずうしい奴だ」と考えて、韓国に対し「我が国と同盟を結んだらどうだ」と言い出したのだ(「『同盟を結べ』と韓国に踏み絵を迫る中国」参照)。

典型的な従属国

 米国だって、韓国の二股外交が気になってくれば「日本が悪いなどと下手な言い訳は止めて、MDに参加するなり同盟に誠意を見せろ」と怒り始めるだろう(「『独裁者の娘』を迎える米国の険しい目」参照)。

 金泌材記者も書いている。「米国や日本の知識人たちは韓国が海洋勢力側から大陸勢力側に移る過程にあると見ている」。そうなのだ。韓国人の前で露骨に言う人はあまりいないだろうが、目端がきくアジア専門家の間ではもう、それが常識だ。

 筆者が初めて、公開の席での議論として聞いたのは2008年1月にバンコクで開かれたイースト・ウエスト・センター(ハワイ)のシンポジウムだった。

 「台頭する中国にアジアのどの国が対抗するか」という話題で盛り上がった際、各国のアジア専門家の間でほぼ一致したのが「他の国がどうであれ、韓国は中国側に真っ先に行く」だった。

 2012年11月に米・戦略国際問題研究所のエドワード・ルトワック(Edward N. Luttwak)上級アドバイザーが出版した「THE RISE OF CHINA VS. THE LOGIC OF STRATEGY」(注5)は「韓国の対中従属のDNA」や「動機不純な反日・卑日」をしっかりと指摘している。

(注5)日本語版は『自滅する中国』(奥山真司監訳、2013年)。なお、この記事で引用した部分は日本語版を参考にした。

 ルトワック氏は第16章「韓国――天下システムにおける典型的な従属国?」で以下のように書いた。

卑日で現実逃避する韓国

  • 韓国は米国には北朝鮮による全面戦争への抑止力を、中国には一時的な攻撃に対する抑止力を依存している。だがこれは、米国にとって満足できる状況ではない。韓国を守るリスクとコストを独力で負わなければならない半面、韓国への影響力は中国と折半せねばならぬからだ。
  • 韓国の安全保障面での責任逃れの姿勢は「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形で現れる。韓国沿岸での中国漁船による不法操業が拡 がり、同胞(海洋警察官)が殺されようと、韓国はいつもの、まったく無害の標的に怒り続けている。「従軍慰安婦」を示す、上品ぶった韓国人少女の像がソウ ルの日本大使館の前に設置された。
  • こうした現実逃避は国際政治に携わる実務家の力や同盟国としての影響力を損なう。さらに、実際に脅威をもたらしている国に威嚇されやすくなってしまうのだ。

 韓国が1人で演じている反日・卑日劇を、米国も日本もあきれながら眺めている。趙甲済氏らはこれを見てとって「芝居は長続きしないぞ」と警告し始めたのだろう。だが、朴槿恵政権が舞台から降りるかは分からない。

一人芝居に拍手してみせる中国

 下手な一人芝居に拍手して、おだてあげる国もあるからだ。韓国の外相から国連事務総長に転じた潘基文氏は8月26日、ソウルで日本の憲法改正への動きを牽制する発言を韓国語で行った。

 日本の政府やメディアが「内政干渉」と批判すると本人は弁解したが、中国の外交部はすかさず潘基文氏の支持に回った。

 朝鮮日報(日本語版、8月29日)は一連の動きを報じた「盗人猛々しい日本メディア、国連総長を猛非難」という記事に「中国は発言を支持」とのサブタイトルを入れた。

 「反日・卑日」をやって中国に頭をなぜてもらった時の韓国人は、本当にうれしそうだ。だから、趙甲済氏らがいくら「周囲には見切られているぞ」と指摘しても、韓国が変わるかは分からない。


米国も見透かす韓国の「卑日一人芝居」
 より


「同盟を結べ」と韓国に踏み絵を迫る中国

2013-08-30 10:22:02 | コラム

中国の心理戦に揺れる韓国の二股外交

 中国が韓国に対し「我が国と同盟を結べ」と言い出した。米中双方と同盟を結ぶなんてことはできるのか。韓国の二股外交は危うさを増すばかりだ。

母国を属国と見なした新羅の文人

 韓国人に冷や水を浴びせる記事が載った。朝鮮日報の7月20日付「“21世紀の崔致遠”を求める中国」だ。筆者は中国文化に明るいイ・ソンミン文化部先任記者である。

 崔致遠は新羅の人で、若くして唐に赴き科挙に合格。官僚を務めながらその文才を唐の人々に愛されたが結局、新羅に戻った。韓国では中国文明を最初に持ち帰った知識人として有名だ。

 6月末の中韓首脳会談で、習近平主席が崔致遠の漢詩を朴槿恵大統領の前で謡って見せた。韓国政府は中韓関係の緊密化や、会談が成功した象徴としてこのエピソードを大々的に広報、メディアも大喜びして取り上げた。

 イ・ソンミン先任記者は明かした。韓国人の常識とは異なって、崔致遠は唐の皇帝の使いとして戻ったのであり、新羅でも唐の官職を使い続けたうえ、母国を「大唐新羅国」「有唐新羅国」と呼んだのだ、と。新羅を唐の属国と見なした新羅人の話の後段は以下だ。

・歴史に明るい中国指導部がこうした事実を知らないわけがない。習近平主席が崔致遠に言及したのは「韓中の古い紐帯」を強調するためだけとは考えにくい。東アジアの文明の標準が再び中国に戻っているという事実を韓国も直視し、立派な先祖に学べという指示に聞こえるのだ。

「君臨する中国」への恐怖

 記事には「朴槿恵訪中は朝貢外交だった」などとは一言も書いてない。だが、これを読んだ韓国人は「いまだに中国は韓国を属国扱いするのか」と深い失望に陥っただろう。

 中韓首脳会談の直後は有頂天になった韓国人だが、時がたつにつれ「ちょっと待てよ」と思い始めた、と韓国の識者Aさんは指摘する(「『中国傾斜』が怖くなり始めた韓国」参照)。

 この記事はまさにその空気の象徴だ。以降「韓国に君臨する中国」への恐怖がポツリポツリと韓国メディアで語られるようになった。

 朴勝俊・仁川大学招請教授が週刊朝鮮8月5日号に寄せた「『日本は近代化で150年間先駆けたが、今や……』と言う中国の本心」。この長文の記事も極めて興味深い。

 朴勝俊氏は朝鮮日報で香港、北京特派員を務めた韓国きっての中国通である。中国から発信される彼の鋭い分析には日本にも熱心なファンがいた。

 この記事は新華社や人民日報、チャイナ・デイリーなどのメディアや中国人学者の言説を通じ、中国が語る世界観を延々と紹介する。要旨は次の通りだ。

数千年間、中韓に遅れていた日本

・日本の安倍晋三首相は「中国の指導者と腹蔵なく話し合いたい」と言いつつ、多くの歴史を否認して中国人民の感情を傷つけた。日本人からも厳しい批判を浴びている。

・米国は、韓国、日本、フィリピン、タイ、豪州の5カ国に中国包囲網を作らせようとしている。

・米国の後援のもと日本が推進するTPP(環太平洋経済連携協定)は、中国が長い間かけて造り上げてきた、東南アジアの非同盟諸国による経済共同体に対する挑戦である。

・朴槿恵大統領は今回の訪中で目前の小さな利益を捨て、外交面での正確な決断を下し、中国人の心をとらえて大きな成果を上げた。

・日本が中国や朝鮮半島に先駆け近代化し、経済発展した歴史は150年間程度に過ぎない。だが、中韓両国が現代化に成功した以上、数千年間遅れ続けてきた日本に、依って立つ場はもうない。

 一言の論評もなく、ただただ中国の意見を紹介し続ける奇妙な記事。ここまでを素直に読めば「韓国は中国と共に生きていこう」との結論にたどり着くかと思う。だが、読者は最後の1段落でどんでん返しに遭う。

米国から外される恐怖

・米中はさる6月中旬のオバマ・習近平会談で広範囲の協力の雰囲気を作り上げたが、根本的には世界戦略で衝突している。これを我が国の政府は十二分に理解 すべきだ。そんな局面で我が国の選択がどんなものになるべきか、沈思黙考せねばならない。万が一にも中国を重視することで、韓米日協調の共同歩調から疎外 されることがあってはならないのだ。

 朴勝俊招請教授は急速な中国傾斜の危険性を韓国人に訴えたのだった。なぜ、米国から外されてはいけないのか。なぜ、海洋勢力側にとどまらねばならないか、記事には一切、説明がない。辛うじて見出しの「中国の本心」が筆者の思いを暗示しているに過ぎない。
 理由を書けば「中華帝国主義の恐ろしさ」や、「宣伝戦による周辺国支配」に触れねばならない。もうそれは、韓国では「書きにくいこと」になっているのかもしれない。

 一方、「中国の先兵たる崔致遠を、中国が再び求めている」と警告を発したイ・ソンミン先任記者。文化担当らしく生臭い政治には言及していない。それでも文章をこう結んだ。

・崔致遠が生きていた時代とは比較できないほど複雑な(現在の)国際情勢が我々の選択を難しくする。果たして中国は今、唐の時代のように東アジア文明の標準として浮上しているのか?実利的側面だけではなく、長い歴史的観点からも対中関係を本格的に考え抜く時だ。

「日本より韓国のドラマ」

 「長い歴史的観点」とは、中国の冊封体制の下にあった半島の歴代王朝を思い起こせ、ということだろう。

 韓国には急速な中国傾斜に逡巡する人たちがいる。しかし、それを見透かしたかのように、彼らの心を揺さぶって手繰り寄せようとする中国人もいる。

 東亜日報の「統一の熱いジャガイモ」(8月23日付)は、中国の心理戦の一端を垣間見せた(注1)。その攻撃目標は米韓同盟だ。

(注1)この記事は日本語版でも読める。

 記事は韓国政府が招待した中国のメディア幹部やパワーブロガーと、韓国メディア幹部の懇談会の様子を描いた。なお、韓国語で「熱いジャガイモ」とは取り扱いが難しい物事を指す。

 8月20日に開かれた懇談会で、まず中国側は「1980年代に放送された海外ドラマはほぼ日本製だったが、10年前から韓国製が占拠した」などと韓流の人気ぶりを称賛。

 さらに「北朝鮮といえば無条件に友好的だった中国人が北の核実験で変化し、韓国主導の統一に対しても徐々に心を開いている」と強調した。

中国にらむ在韓米軍

 こうやって韓国人を大いに喜ばせてから中国人は「在韓米軍は統一後も必要なのか」と本丸に突っ込んできた。筆者のハ・チョンデ部長は「この質問には返事が容易ではなかった」と率直に告白した。

 米国が韓国に兵を置く目的は北朝鮮の抑止に加え、中国牽制にもあると見なされている。当然、中国は米韓同盟を破棄させたい。そして中国に嫌われるのを恐れる韓国人は、その話題に触れたくない。

 2008年5月、中国外交部スポークスマンは「米韓同盟は冷戦の遺物だ」と記者会見の席で発言、韓国にその破棄を露骨に求めた。それも李明博大統領(当時)の初訪中の直前である。

 ただその後、中国は公式の場ではそうした発言を慎んだ。あまりの上から目線ぶりに韓国人が反発し、逆効果になったためだ。北朝鮮の核開発が進み、韓国にとって米国の核の傘がより必要になったため、説得力が減ったこともあっただろう。

 だが今、韓国人の神経に障らないように気を使いながらだが「在韓米軍撤収=米韓同盟破棄」の要求を中国は再開したのだ。

 6月の中韓首脳会談で習近平主席が「朝鮮半島の非核化」を朴槿恵大統領とともに宣言した。これこそは、北の核が除去された後は韓国も米国の核の傘から出る、つまり米韓同盟の廃棄を韓国に約束させたつもりなのだ、との見方が多い(「『中国傾斜』が怖くなり始めた韓国」参照)。

米韓同盟は熱いジャガイモ

 統一後の、あるいは北の非核化後の話とはいえ、米韓同盟破棄を中国が再び持ち出した理由は、以下の3つと思われる。

(1)この5年間で中国の国力が飛躍的に伸びた半面、財政難にあえぐ米国がいつまで韓国を本気で守るか、韓国人が不安になりはじめた(「韓国軍『離米』に最後の抵抗」参照)。

(2)朴槿恵政権が、李明博前政権と比べかなり親中的であると見なされているうえ、北朝鮮の核問題の解決を中国に依存し始めた(『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』第4章参照)。

(3)北の指導者が若くて経験の乏しい3代目に代わり、北の崩壊=韓国主導の統一の可能性がぐんと増した。

 中国人記者に「米国との同盟を破棄するか」と迫られたハ・チョンデ部長は、記事の最後で読者にこう訴えるに至った。

・(韓中関係は)経済文化交流の段階を終え、軍事安保分野での協力、さらには統一までも話し合うべき時が近づいている。その時になれば在韓米軍問題は“熱いジャガイモ”になるかもしれない。

 中国の圧力に耐えかねて韓国が米韓同盟破棄=中立の道を選ぶ可能性は、日本人が想像する以上に高い。

 ずうっと地続きの超大国だった、という地政学、歴史的背景から、韓国人は中国の「命令」に弱い。それに韓国社会には「中立化幻想」がある。

「朴政権は中・米等距離でよろしい」

 左右を問わず、韓国の知識人は若い時に一度は中立化を考えると言われる。周辺大国の角逐が激しくなるたびに、各党派が外国勢力を引き込んで内紛を激化させ、国をも誤った歴史からだ。

 そしてついに中国は、中立どころか自分との同盟まで韓国に要求した。それを露わにしたのが中央日報8月16日付「中国のスーパーパワー化を誰も止められない……東アジアを巡る米国との国益争奪戦は不可避」だ(注2)

(注2)この記事は日本語版でも読める。

 筆者はチェ・ヒョンギュ北京特派員。「10年後、中国は米国と2強体制を構築する」と主張する『歴史の慣性』を出版したばかりの閻学通・清華大学国際関係研究院院長にインタビューした。

 閻学通院長は中国の代表的な国際政治学者の1人で、歯に衣を着せぬ物言いで知られる。それだけに彼の意見は中国の対外政策の一足早い開陳といえる。一問一答の要旨は以下の通りだ。

:米中2強体制になれば、韓国の対外政策はどう変化すべきか。

:朴槿恵政権は2極体制に向かうと予想し、米国と中国の中間に政策を移している。これが韓国の利益であるという事実を理解しているのだろう。

韓国とタイを米国から引きはがす

:10年後の中国の対外戦略はどう変わるか。

:力を隠して待つ「韜光養晦(とうこうようかい)」戦略は放棄、あるいは調整が必要となろう。この戦略には(1)外交は経済的利益に合致する、(2)他人に干渉しない、(3)同盟を結ばない――の3つの含意があった。

 しかし、中国がスーパーパワーに浮上すれば、外交力は投資誘致や市場拡大よりも(米国に対抗して影響力を増すための)外国との友好関係強化に集中せねばならない。米国の同盟国としても、中国が同盟を結ばねばならない国がある。代表的な国が韓国とタイだ。

:韓国と中国はすでに友好的な外交関係を結んでいるではないか。

:(中韓は)同盟ではない。例えば、タクシン政権時代のタイと、米国の関係は最悪だった。だが、破綻せずに協力を維持しているのは同盟があったからだ。

 ロシアが中国のコンテナ100個を押さえたことがある。でも半同盟関係にある両国は交渉で解決した。日本と同じことが起きれば、相当に困難な状況に陥っただろう。

ついに踏み絵を突きつけた中国

 相当にドスの効いた発言だ。要は「俺と同盟を結ばないと、俺に苛められる日本のようにつらい目に遭うぞ」と言っているのだから。

 中国に急接近する朴槿恵政権は、中国の前では「米中等距離」のポーズをとる。中国に苛められず、可愛がってもらうのが狙いだ。実際、日本や北朝鮮とケンカした時は中国に肩を持ってもらえるようになった。

 だが、等距離と言いながら韓国は米国との同盟を続け、中国も射程に入れる米空軍基地を置いたままだ。韓国の虫のいい二股外交に、次第に中国は不満を募らす。

 そこで閻学通院長も「どうしても米国との同盟にこだわるのなら、中国とも同盟を結べ。今の協商程度じゃだめだぞ」と言い放ったのであろう。

 だが現実には、相対立する米中の双方と同盟を結ぶことはまず、ありえない。閻学通院長の言説は、韓国に対し米韓同盟破棄による中立化からさらに進んで、中国だけと同盟を結ぶよう求めたに等しい。

 韓国人がここまではっきりと踏み絵を突きつけられたら、相当に困惑するだろう。実際、中央日報の北京特派員氏も「同盟問題」にはこれ以上触れるのを避け、「一緒に日本をやっつけよう」と、話題を転じたのだ。

「好き嫌い」を言える国力はない

 日増しに高まる力を見せつけながら、韓国を勢力圏に引き込もうとする中国人。属国に戻ることへの恐怖を漏らす韓国人。

 大陸勢力側に行くのか、海洋勢力側に留まるのか――韓国は今、分水嶺に立つ。まだ、どうなるかは分からない。しかし、ひとつ確実なことがある。

 韓国は、好き嫌いで国の針路を決められるほどの国力も、地政学的位置も持たないことだ。

 

「同盟を結べ」と韓国に踏み絵を迫る中国 より


117年振りに韓国を取り戻した中国

2013-07-05 18:46:50 | コラム

韓国がネギをしょって転がり込んだ中韓首脳会談(2)

 朴槿恵大統領の6月末の訪中で中韓関係は一気に深まった。注目すべきは両国が、安全保障と経済の関係強化に加え“人文同盟”も結んだことだ。「文化の同質性を手がかりに連帯を図る」と説明されるが、この「中韓協商」には冊封体制復活の臭いがする。

中国重視の“新思考外交”

 韓国研究者が今、注目しているのが「人文紐帯」という韓国語だ。6月27日発表の中韓共同声明でも「安保」、「経済」に続いて3番目に「両国間の人文紐帯の強化」がうたわれた。

 具体的には学術や伝統芸能の交流事業を実施するようだ。だが、なぜ専門の「交流共同委員会」を作るほど「人文紐帯」が重要なのだろうか。そもそも「人文」とは何を指すのだろうか。

 答えは朴槿恵政権がスタートする直前の東亜日報の記事「韓米が価値同盟なら、韓中は人文同盟」(2013年2月22日付)にあった。内容は以下の通りだ。

・米国との関係は市場経済や民主主義といった共通の「価値同盟」がベースにある。同様に中国とも、何かをベースにした確固とした同盟関係に引き上げる必要がある――と朴槿恵・次期政権は考えている。

・韓中両国は政治や経済、社会システムは大きく異なる。一方、歴史や文化、哲学を長い間、共有してきた。それだけに人文分野では通じるものが多い。

・そこで次期政権は「人文同盟」という概念をもとに、中国との協力を強化することを決めた。知らされた中国政府も歓迎した。

 荒っぽく解説すれば「これから中国重視政策に踏み出す。経済でも安全保障でも、米国よりも中国に助けてもらうことが多くなるからだ。ただ、60年間に及 ぶ米国との同盟の下で、社会の仕組みはもとより価値観まで米国式になってしまっている。これでは中国を頼みとする“新思考外交”と齟齬をきたす。それを避 けるため中国文化を再評価し、身を寄せるしかない」――と韓国人は考えたのだ。

中国の価値観を再び受け入れる

 「同盟」という単語は米国からの疑いを招くからだろう、次第に「紐帯」という言葉に置き換わった。しかし今や「人文」という言葉は毎日のように韓国紙に登場する。

 朴槿恵政権発足以降、韓国の大学やメディアが「人文紐帯」=「中国との共通の価値」を求め、相次ぎシンポジウムを開催しているからだ。

中韓首脳会談を前にした6月下旬、北京に両国の学者が集まって今後の2国関係を論議した。それを報じた中央日報の見出しが「韓中、新たな20年に向け人文紐帯の強化が必須」(6月24日付)だった。

 この記事によると、中国共産党中央党校の韓保江・国際戦略研究所所長は「両国関係の根本に人文の紐帯がしっかりと定着すれば、両国間の間に発生するいかなる風波も乗り越えられる」と、その意義を強調した。

 韓国のイ・ヒオク成均中国研究所長は「韓中両国の国民は今後、韓国人や中国人としてだけでなく東アジア人として生きていく訓練が必要だ」と主張した。

 孫英春・中国メディア大学教授は「両国民の心の距離を縮めるために北東アジア文化共同体を建設しよう」と呼び掛けた。

 「人文紐帯」の正式な定義はいまだないものの「韓国人が中国人と同じ価値観や発想を持って生きていく」というコンセプトに集約されつつある。

 この言葉を使わずとも、中国との文化的絆(きずな)を強調し、連帯をうたうシンポジウムが一気に増えた。

韓国では左派が中国を軽視

 同じころソウル大学アジア研究所は「世界の中心のアジア、普遍的価値を探して」と題する討論会を開いた(中央日報6月21日付)。

 ここでは西欧が造った発展モデルに代わる「アジアモデル」について議論が交わされ「アジア全体のための普遍的文明を構想すべきだ」といった主張がなされた。

 異なる国や民族の間でお互いの文化を知れば国際関係が円滑になる――という発想は今や、ごく当たり前のことだ。

 だが、韓国で始まった「文化連帯」運動は少々異なる。相互理解というよりも「欧米とは異なる価値観を中国と韓国が共有したうえ、広めるべきだ」――という結論に傾くのが特色だ。

 ここまで来ると、朝鮮半島の歴代王朝が中国の暦を使い、衣服を真似ることで恭順の意を示した冊封体制を想い出してしまう。

 木村幹・神戸大学大学院教授がネット上で“発見”し、ツイッターでつぶやいたために日本の研究者の間で少々有名になった論文がある。

 韓国の左派系ネットメディア、プレシアンが6月17日に載せた「韓国の進歩派はなぜ、中国から目をそむけるのか」だ。筆者は肩書から見て、在米韓国人研究者と思われる。

 ちなみに、韓国では保守派よりも進歩派――右派よりも左派に中国を軽く見る人が目立つ。民主化の歴史に誇りを持つ左派は、西欧的な価値観に重きを置くあまり、独裁国家たる中国を上から目線で見がちだ。

大日本帝国より中華帝国

 この論文の狙いは、そんな韓国人、ことに左派に反省を促すことにある。

・中国は独裁国家だと思われている。しかし国家主席の権限は(民主国家)の大統領のそれに及ばない。なぜなら中国は集団指導体制だからだ。

・中国の指導層の能力は極めて高い。民主国家の指導者が人気投票で選ばれるのに対し、理論と実践で鍛えられた百戦錬磨の人たちだからだ。

・中国は中華思想を持つとの批判も多い。しかし、昔の大日本帝国と比べ、どちらが帝国主義的だろうか。

・(日本に植民地化された当時、近代国家として再出発した)中国の傘の下で、生き残るための仮の宿を見つけるという道も我々にはあったのではないか。

 最近、中国人がシンポジウムで主張する「中国システム優位論」をそのまま借りてきたような部分もある。だが、韓国人独特の、そして今の変化を如実に反映した視点もある。

「アジア的価値」に反論した金大中

 それは「中国の下で近代化する可能性があった」という主張だ。韓国では「近代化」=「西欧化」=「中国文明からの離脱」と理解されてきた。この常識を疑う姿勢こそは「今後、韓国は台頭する中国文明の下で発展すべきだ」との主張の伏線となる。

 20世紀末に、シンガポールのリー・クアンユー首相が西洋文明に対抗し「アジア的な価値」を強調したことがあった。それに対し当時の金大中大統領は「人類には普遍的な価値がある」と強く異議を唱えた。

 これから考えると「中国的価値」をさほどためらいもなく受け入れる、最近の韓国の論壇の空気は隔世の感がある。

 そのころは左派の金大中大統領はもちろん、多くの韓国人が「アジア的価値」という言葉に潜む危うさを感じ取ったものだ。その少し前まで韓国では軍事政権が「韓国的民主主義」の名の下、圧政を敷き、拷問を繰り返していたからだ。

 中国の台頭というものが、これほどに人々の心情に影響を及ぼすとは――。韓国と中国の近さを改めて感じざるを得ない。

 多くの日本人は「対中依存度が増すからといって、何も中国を崇める必要もないのでは」と韓国人に聞きたくなるだろう。

西安訪問で中国文化に敬意

 答えは「上位の国の文化に敬意を払う」発想こそが韓国人と中国人の心の奥底にある世界原理――「華夷秩序」なり「冊封体制」ということになるのだろうが。

 もっとも、政府が奨励したからといって本気で韓国人が中国を信奉するかは疑問だ。ただ「そうした形を整えること自体が冊封体制では重要」(岡本隆司・京都府立大学准教授)なのだ(「『対馬は韓国のものだ』と言い出した韓国人」参照)。

 とするなら、共同声明にわざわざ「人文紐帯」を盛り込んだうえ、首脳会談後に「中国文化に敬意を表すため」唐の都、西安を大統領が訪問した韓国は、十二分に恭順の意を示したことになる。

 中国の外交専門家はこれまで韓国を「揉み手をして近づいて来るが、いざという時は米国側に戻る」と評することが多かった。

 だが、「人文紐帯」まで言い出した韓国人を見て「日清戦争後に清から独立した韓国が117年振りに戻って来そうだ」と中国人が思い始めたのも確かだ。

「米のアジア回帰」で困惑した韓国

 人民日報のウェブ版である人民網。その有名なコラム「望海楼」(6月27日付、日本語版)は「中韓関係の最大の障害は北朝鮮と米国という外部要因にある。朝鮮半島の核問題を超え、米韓同盟を超越すれば画期的な意味がある」と韓国に呼び掛けた。

 中国は北朝鮮と軍事同盟を結んでいるが、その核開発で困惑している。一方、韓国は同盟国の米国が「アジア回帰」を言い出したため、やはり困惑している。

 朴槿恵大統領が米議会演説で指摘したように、経済的な緊密性が増す一方で政治的な対立が激しくなる「アジアのジレンマ」の中、韓国は米中間でまた裂きになりかけているからだ。

 このコラムは「核問題を超え、米韓同盟を超越すれば」との表現で「半島の非核化に成功した暁には、南北朝鮮の中立化により――つまり、韓国の米韓同盟破棄により、韓国のジレンマは解消できるではないか」とささやいたのだろう。

 これまで中国の学者らは韓国紙への寄稿で、米中間の等距離外交を強く求めてきた。ただ、米韓同盟に関しては敢えて触れないのが普通だった。米国との軍事同盟に大いに未練を残しながら米中二股外交に乗り出した韓国に、警戒心を起こさせないための配慮からだ(「韓国は中国の『核のワナ』にはまるのか」参照)。

米韓同盟破棄を射程に

 だが、この「望海楼」の記事からは「上手に持っていけば米韓同盟だって破棄させることは可能」との認識が、中国に生まれつつあることが分かる。

 その期待を習近平主席も持ったのではないか。習近平主席は6月27日の首脳会談の席上、新羅の高級官僚、崔致遠の漢詩を引いて見せた。崔致遠は若くして唐に留学、科挙に優秀な成績で合格した人物だ。ちなみに、新羅に戻った後は母国の改革を志した人でもある。

 習近平主席は翌28日、中韓首脳の昼食会の席でこうも言っている。「今回の朴槿恵大統領の訪問は、今後に大きな影響を及ぼすだろう」。

117年振りに韓国を取り戻した中国 より


朴槿恵訪中で韓国は中国の引力圏に入った

2013-07-04 19:28:15 | コラム

韓国がネギをしょって転がり込んだ中韓首脳会談

 中国が韓国を引力圏に取り込んだ。中韓首脳会談で、韓国は安全保障と金融という国家の2つの命綱を中国に委ねた。韓国が中国の衛星軌道から逃れる術はもう、ないように見える。

「北」名指しの非難には失敗

 朴槿恵大統領は6月27日と28日の両日、北京で習近平・国家主席と会談した。韓国の最大の目的は北朝鮮に対し「中国は『北』より『南』を大事にし始めたぞ」と見せつけることだった。

 成功すれば、北朝鮮のテロや挑発の可能性を減らせる。自国民に対しても「韓国の国際的地位を大いに上げた」と喧伝できる。

 北朝鮮を横目ににらんでの「中国取り込み作戦」は相当程度、成功した。両首脳が27日に交わした共同声明には、焦点の北朝鮮の核開発に関して以下のような文言が入った。

・(中韓)両国は核兵器開発が朝鮮半島を含む東アジアと世界の平和と安全に対し深刻な脅威となる点で認識を同じくした。

・両国は朝鮮半島の非核化実現と、朝鮮半島の平和と安全の維持が共同の利益であることを確認した。

 ただ韓国メディアは、北朝鮮を核開発する犯罪者として名指しで非難できなかったことを悔しがった。27日の会談直後に配信された聯合ニュースの記事の見出しは「韓中頂上会談 『北の核を許さず』との明文化に失敗」だった。

 28日付東亜日報ネット版の記事の見出しも「『北の核不許可』 中国の態度は依然として曖昧……半分の成功?」だった。韓国各紙は中国が「北朝鮮を追い詰め過ぎるとまずい」との判断から、韓国の要求した文言を和らげたと報じている。

 もっとも韓国政府が自国メディアに釈明したように、名指しこそしていないが北朝鮮の核開発への強い懸念を中国が表明したことは確かだ。北朝鮮は中国からの風圧がぐんと増したと感じたろう。

気分は早くも「韓中同盟」

 それに共同声明では「政治・安全保障分野での意志疎通の強化」が重点推進分野の第1項目にうたわれた。同盟を結んでいない中韓が、これを機に軍事面でも関係強化に踏み出すのは確実だ。これも北朝鮮を圧迫する大きな武器となる。

 首脳会談に先立つ6月4日、中国人民解放軍の房峰輝・総参謀長と韓国国軍の鄭承兆・合同参謀本部議長が北京で軍事会談を開いている。鄭承兆・合参議長は翌5日には山東省・青島の中国海軍基地を訪れ、黄海を管轄する北海艦隊の田中(でん・ちゅん)司令官と会談した。

 6月6日付朝鮮日報によると、鄭承兆・合参議長は訪問先の青島から中韓両国海軍のホットラインを通じ、黄海を担当する韓国の第2艦隊司令官と通話した。

 内容は「これからは韓中海軍が黄海で一緒に作戦することになる。中国軍と緊密に協力せよと将兵達に伝えろ」との命令だった。韓国軍の気分はすっかり「韓中同盟」モードだ。

 韓国人にとって黄海は恥辱の海だ。2010年3月、哨戒艦「天安」は北朝鮮の潜水艦の発射した魚雷によって撃沈された。同年11月には北朝鮮に突然に延 坪島を砲撃され、海兵隊員と民間人の合計4人が殺された。両事件とも現場は韓国、北朝鮮、そして中国が面する黄海である。

 韓国人をさらに悔しがらせたのは、いずれの事件でも、韓国が願ったほどには中国が味方してくれなかったことだ。「天安」事件では、中国はそれが北の犯行とさえ認めなかった。

「黄海の内海化」で米海軍を追い出す

 しかし、今回の共同声明で韓国は中国から「安保協力の強化」の約束を取り付けた。黄海の実施部隊の間では「共同作戦」を唱えるほどに関係が深まった。韓国に肩入れする中国の姿勢を考慮すれば、北朝鮮はこの海での乱暴狼藉に慎重にならざるを得ないだろう。

 中国海軍が軍事会談の席で「共同作戦」に賛意を表したかは報じられていない。しかし、黄海での中韓軍事協力の強化は中国にとっても大きな利益だ。それは黄海の内海化、すなわち「米海軍の黄海からの排除」を実現する一番の近道だからだ。

黄海は首都、北京の玄関口という中国にとって極めて重要な海だ。日清戦争で負けたのも、日本帝国海軍にこの海の海上優勢を奪われたのが端緒だ。

 しかし困ったことに、仮想敵国であり世界最強の米海軍が時々この海に進入する。北朝鮮がテロを起こせば「韓国に頼まれた」と言って空母打撃群まで送って来る。中国はそれを自身に向けた威嚇と受け止めている。

 2010年の北のテロの際は2度とも、韓国の要請を受けて米海軍の大艦隊がこの海に入ってきた。「天安」事件を北の仕業と中国が認めなかった理由の相当部分が、米海軍の黄海進入への恐怖だったと思われる。

 だが今や、韓国との軍事的関係を深めたことで中国はその恐れをかなり減らせる。「中韓連合軍」を意識する北朝鮮が、そもそもの原因たるテロを起こしにくくなることに加え、韓国が米海軍を黄海に引き込めなくなるからだ。

空母「遼寧」を極度に恐れる韓国

 仮にも韓国が引き込もうとしたら、中国は以下のように脅せばいい。「朴槿恵大統領が安保協力を約束した、その我が国を敵に回すつもりか。米海軍を引き込むのならもう、北の抑制に力は貸さない。中韓安保協力もご破算にするが、それでもいいのか」。

 これに抗して米海軍に黄海への出動を頼む軍人はもちろん、大統領だって韓国には今後、出ないだろう。

 韓国は、中国初の空母で2012年9月に就役した「遼寧」を極度に恐れている。「遼寧が北海艦隊に配備された今、米海軍が黄海に入れば空母同士のにらみ合いが起きる」――。

 そんな「遼寧」による心理的歯止めが生まれたところに、今回の共同声明。韓国には一層の縛りがかかった。中国は、黄海への艦隊派遣の名分を米国から奪うことに成功した、と考えていよう。

 だから習近平主席はここぞとばかりに27日の会談で「今後は黄海を平和、協力、友好の海としよう」と朴槿恵大統領に念を押したのだ。これで韓国は「黄海の内海化」に関し後戻りできなくなった。

 中国北海艦隊の田中司令官も韓国の鄭承兆・合参議長との5日の会談で「中韓両国海軍の関係をさらに発展させ、黄海を友情、協力、平和の海にしよう」と、習近平主席と全く同じ言葉を使って韓国懐柔に努めている。

中韓スワップで日本に肩をいからす

 軍事的に北朝鮮に肩をそびやかそうとして、中国の掌中に陥った韓国――。それと似たことが金融分野でも起きた。ただし、韓国が金融の世界で肩をいからした相手は北朝鮮ではなく、日本である。

 中韓の共同声明では「細部履行計画」の2番目に「マクロ経済政策の協調と国際金融危機への共同対処」をうたった。この発表に合わせ、韓国の金融当局は以下のようにメディアに説明した。

・2014年10月25日に期限が切れる中国との通貨スワップ協定を2017年10月まで3年間延長することで中韓首脳は合意した。

・両首脳は、2017年の満期以降のさらなる延長と、スワップの規模拡大も、必要に応じ今後検討することでも合意した。

 米国の金融緩和の縮小観測と中国の金融動揺によって今、韓国を含む途上国から資金が逃げ出している。韓国は中国にスワップの延長を頼むことで、市場の動揺を防ぐつもりだ。

 今回延長した中韓スワップは2011年10月26日に結んだもので、規模は3600億人民元(締結当時の為替レートで560億ドル相当)。その直前に韓 国は日本にも、570億ドル分のスワップ枠を増額して貰っている。当時は日中両国からの協力で韓国は通貨危機をしのいだ。

 しかし、2012年10月に期限の来た570億ドル、2013年7月3日が期限の30億ドルの、日本とのスワップはいずれも延長されなかった。2012 年8月の李明博大統領(当時)の竹島上陸や「日王への謝罪要求」により日韓関係が極度に悪化、日本の一部に延長反対論が出た(「韓国への制裁は『スワップ』より『貿易』が効く」参照)。

お人好しではない中国

 それに反発した韓国は「日本が頼んでくればスワップを続けてやってもいい」と上から目線の発言を繰り返した。「恩知らずで傲慢な韓国」に怒った日本の金融当局は、延長には言及しなくなったうえ、韓国自体を完全に突き放す態度に変わった。

 韓国の強気の背景には日本との対等意識が強まっていたことに加え、外貨不足に陥っても関係が緊密化する中国に助けてもらえると自信を深めていたことがあった。

 実際、今回の中韓首脳会談でスワップ延長に成功した。韓国の中には「これで韓国にとって日本が不要な国であることが証明された」というムードが生まれた。

 ただ、中国も全くのお人好しではなかったようだ。韓国経済新聞ネット版(6月28日付)の記事「議題になかった通貨スワップ、韓国が要請したら……」に中韓交渉の舞台裏が描かれている。以下の通りだ。

・企画財政部と韓国銀行など韓国の金融当局は中国の中央銀行である中国人民銀行と水面下で接触し、韓中首脳会談で「通貨スワップ延長問題」を論議しようとした。

・しかし、中国人民銀行は「そんな必要があるのか」と極めて消極的だった。

・そこで韓国政府の経済部局は外交部局の支援を得て、中国側の説得に成功、共同声明に盛り込むことができた。

ネギをしょって転がり込んだ韓国

 中国人民銀行の「消極さ」は経済原理から言えば当然だ。以下のように考えたのであろう。

 「韓国とのスワップ期間は1年4カ月も残っており、今、延長するのは異常だ。下手したら市場は韓国の危険性を感じ取って韓国売りに走るかもしれない。中 国だってバブル崩壊に伴う金融危機に見舞われる可能性を懸念されている最中だ。期限切れが1年以上も先のスワップに関して議論するのは適切でない」

 ただ、中国の外交当局、あるいは共産党中央にとっては、外貨の融通を頼んできた韓国は「ネギをしょって転がり込んで来たカモ」に見えたことだろう。

 韓国の外貨不足は持病だ。しばしばドル繰りに困り、そのたびに友好国に助けてもらってようやく債務不履行(デフォルト)の危機を脱してきた。

 韓国銀行の報告書によると、韓国にはGDP対比で途上国平均の2倍のホットマネーが入りこんでいる。世界的な信用収縮で資本逃避が始まった際には他の途上国以上に打撃が大きい。

 そのうえ、3000億ドル超と韓国銀行が号する外貨準備のかなりの部分が「すぐには現金化できない怪しい債券」であると市場に見切られている(「日韓スワップ打ち切りで韓国に報復できるか」参照)。

友達のいない韓国を助けるのは

 その韓国がこれまで通貨危機のたびに助けてもらっていた日本とケンカした。世界には外貨繰りに困る国も多いだけに、米国も韓国だけを助けるわけにはいかない。

 2011年、李明博大統領(当時)から通貨スワップの締結を頼まれたオバマ大統領も断ったとされる。1997年に救済してもらった時の苦い思い出から、韓国は国際通貨基金(IMF)には絶対に外貨の融通を頼めない。

 孤立無援で、助けてくれる国のなくなった韓国――。中国は「今ここで手を差し伸べておけば、我が国に絶対に歯向かえず、言いなりの国になる」と確信したのだろう。

 韓国経済新聞の前掲の記事によれば、ある日突然、中国人民銀行はスワップ延長に前向きになった。そのうえ、当初は予定していなかった共同声明での明文化も言い出したという。

 この記事は、それ以上は書いていない。だが、共同声明の中のスワップに関するくだりを読んだ金融専門家は、韓国の対中従属が極まったと痛感するに違いない。

117年振りに戻る昔の秩序

 韓国は1997年の通貨危機では米国の別働隊たるIMFに助けられた。それが2008年の危機では米国、日本、中国の3国に、2011年には日本と中国の2国に助けられた。そして近い将来に韓国が危機に陥れば、今度は助けてくれるのは中国だけになる可能性が高いのだ。

 日清戦争に勝った日本は1896年、「清」に対し「朝鮮」の独立も呑ませた。「明」以来、中国の属国だった韓国はこれで中国の勢力圏から切り離された。

 だが、軍事、金融両面で韓国が対中依存を一気に高めた今回の中韓首脳会談を機に、朝鮮半島には117年振りに昔の秩序が戻り始めたのだ。

朴槿恵訪中で韓国は中国の引力圏に入った より


仮想敵は日本 韓国軍が狂わせる日米韓の歯車

2013-06-28 19:57:54 | コラム

これまでいくら日韓の国民感情が悪化しても、自衛隊と韓国軍の関係は維持されてきた。ミリタリーの関係は、両国 間の政治的な対立を軍事的な緊張にまで至らせない「安全装置」だったのだ。しかし今、仮想敵を日本に置いたとしか思えない韓国軍の行動が相次ぐ。米国を基 軸とした同盟の原点を見失えば、地域の平和と安定は崩壊するだろう。

 

シンガポールで開かれたアジア安全保障会議。日米韓の3カ国は6月1日、北朝鮮に核開発計画の放棄を強く求める共同声明を発表したものの、日本が求 めていた韓国との防衛相会談は、韓国から拒否され開けなかった。日米韓が5月中旬に日本海で捜索救難訓練を実施したときも、韓国海軍は訓練の非公開を条件 に参加していた。自衛隊幹部は「海上自衛隊との連携場面が報道されれば、韓国世論から反発を受けるという判断だろう」と説明する。だが、日韓の軍事面での 関係悪化が表面化したのは氷山の一角にすぎない。

相次ぐ軍事交流の一方的なキャンセル

 5月の連休後半に韓国海軍の高官らとの会談を予定していた海上自衛隊トップの河野克俊海上幕僚長の訪韓が4月下旬、日程調整の最終段階になって突 然取りやめとなった。靖国神社の春の例大祭に、多くの国会議員が参拝したため、韓国軍側から「不都合になった。訪問は受け入れられない」との連絡があった という。

 実はその1カ月前にも、陸上幕僚監部の2人の部長(陸将補)が計画していた韓国陸軍との軍事対話が、相次いでキャンセルされていた。今年に入っ て、韓国陸軍は陸上自衛隊に対し、「陸将以上の訪問は遠慮願いたい」と、一方的に通告してきた。このため、陸幕では「陸将より下位の陸将補であれば、韓国 側も受け入れるはず」(陸自幹部)と判断、装備部長と運用支援部長の2人を訪韓させ、北朝鮮の核やミサイル開発など朝鮮半島情勢について意見交換するつもりだった。

 防衛省にすれば、自衛隊幹部が訪韓することによって、韓国の李明博大統領(当時)が竹島に強行上陸した昨年8月以降、北朝鮮のミサイル発射や核実 験などの場面で連携が希薄となっていた韓国軍との関係を正常化させる狙いがあった。しかし、相次ぐ受け入れ拒否に、自衛隊幹部は「青瓦台(韓国政府)の指 示で、軍のエリート将校養成課程が取りつぶされたように、ここ数年、軍のステータスは著しく低下している。軍も政府の了解がなければ自衛隊との関係を強化 できない」と分析する。

 これまで、日本海に浮かぶ竹島の領有権をめぐって日韓両政府が対立したときも、従軍慰安婦など歴史認識の問題で双方の国民感情が悪化したときも、自衛隊と韓国軍の関係が損なわれることはなかった。

 ミリタリー同士の良好な関係による「安全装置」が壊れ始めていることは、昨年12月に公表された韓国の『2012年版国防白書』が裏付けている。ある自衛隊幹部は「目を疑いたくなるような内容だった」と評している。

 韓国が独島と呼ぶ竹島をめぐっては、日韓両国とも領有権を主張しているが、白書には、韓国海軍のイージス艦「世宗大王」を先頭に、艦隊による島の 警備活動の模様が大きな写真で強調されていた。前回の『10年版国防白書』では、わずか1枚ずつだった竹島の写真と領有を示す地図が、今回は計4枚も掲載 されている。

 日本との防衛交流や防衛協力に関する記述では、「独島は疑いもなく、地理的にも歴史的にも、そして国際法的にも韓国の領土である」と明記した上 で、「日韓の将来の防衛交流や協力を発展させるためには、独島に対する日本の誤った認識や不当な主張を打破しなければならない」とまで記述している。

 腹立たしい限りだが、今必要なことは、居丈高な韓国の振る舞いに対し、感情的になって憤ることではなく、冷静な視点で、自衛隊と韓国軍との連携が、韓国の平和と安全にとって何よりも重要であるということを指摘し、韓国軍、そして青瓦台の目を覚まさせることだ。

韓国防衛支える自衛隊

 沖縄・尖閣諸島の領有権をめぐる日中対立が激化し、今でこそ、日米同盟や在日米軍が存在する意義は、中国に対する抑止力を維持することのように思 われがちだが、戦後一貫して、その主目的は朝鮮半島有事への備えである。自衛隊や在日米軍の体制は、安保条約に基づく日米同盟という枠組みの中で、米国の 同盟国である韓国を防衛するために、強力な半島有事シフトを維持している。

 具体的には、航空自衛隊は福岡県の築城と芦屋、山口県の防府北の3カ所に、1500~2000メートル級の滑走路を保有しており、海上自衛隊の大 村(長崎)、陸上自衛隊の目達原(佐賀)、高遊原(熊本)、在日米空軍が使う板付基地(福岡空港)とあわせれば、北部九州という極めて限定されたエリアに 7カ所もの航空基地が点在している。これは万一、第2次朝鮮戦争が発生すれば、米軍の戦闘機や輸送機が発進する拠点として活用されるのはもとより、日本人 や米国人だけでなく、韓国から避難してくる多くの民間人の受け入れ基地としても活用されるはずだ。

 さらに、北部九州地区には、福岡病院、大分・別府病院、長崎・佐世保病院、熊本病院という4つの自衛隊病院が集中している。これも韓国防衛のため に傷ついた米軍や多国籍軍の兵士らの治療を前提に整備、維持されてきたのは紛れもない事実だ。このほか、朝鮮半島と向き合う長崎県の佐世保基地は、米海軍 第7艦隊の戦略拠点であり、広大な佐世保湾の大半は、半島有事に緊急展開する米軍が占有したままだ。

 そもそも戦後、北朝鮮の侵攻で始まった朝鮮戦争を機に、自衛隊は警察予備隊として発足し、日本各地の空港や港湾は、韓国防衛のために出撃する米軍 などの拠点となった。それだけではなく、開戦当初、北朝鮮の攻勢を食い止めるため、米軍などによる仁川・元山への上陸作戦を前に、連合国軍総司令部 (GHQ)の命令によって、日本は特別掃海部隊を編成、朝鮮半島の周辺で北朝鮮が敷設した高性能ソ連製機雷の除去作業に従事した。不幸にも活動中、1隻が 触雷して沈没、乗組員1人が死亡、18人が負傷している。朝鮮戦争では日本人も戦死しているのだ。

 にもかかわらず、休戦後も、日米同盟に基づいて、自衛隊が韓国の平和と安全を支え続けてきたという認識が、韓国はあまりに希薄過ぎるのではないだ ろうか。それが証拠に、『12年版国防白書』の中で韓国は、「朝鮮戦争で韓国を支援した国々」を特集しているが、日本は5万ドル相当の資材を提供した国と して、わずか1行だけ取り上げられているに過ぎない。

 今年7月27日は、朝鮮戦争の休戦協定締結から60年という節目にあたる。もちろん、朝鮮半島の混乱は日本の平和と安全に直結する事態であり、自 衛隊と在日米軍の半島有事シフトは日本のためでもある。しかし、韓国防衛に対する日本の献身的な貢献がきちんと伝わっていないのだとすれば、それをしっか りと認識させることは、日本政府にとって対韓外交の柱であっていい。

戦力増強する韓国軍と新たな基地建設

 自衛隊と韓国軍の間で狂い始めた歯車を、早急に元に戻さなければならない理由はほかにもある。それは近年の韓国軍の増強ぶりと新たな基地建設の動きに対し、自衛隊が不信感を募らせているからだ。

 かつて韓国は、『08年版国防白書』まで、外部の軍事的脅威である北朝鮮を「主敵」と位置づけていた。だが、10年版白書から主敵の表現が姿を消 し、「北朝鮮政権と北朝鮮軍は韓国の敵」という表現に弱められている。呼応するように、100万を超す陸上兵力を持つ北朝鮮軍と、38度線を挟んで対峙し ているにもかかわらず、韓国では現在、陸軍と海兵隊あわせて約55万人の陸上戦力を、22年には40万人程度にまで大幅削減する方向で検討しており、それ に代わって増強しているのが海軍力だ。

 08年以降、韓国海軍はイージス艦2隻を相次いで就役(現在、3隻目が試験運用中)させたほか、外洋航行に適した攻撃型潜水艦9隻を整備。駆逐艦 6隻を含めた初の機動部隊を創設している。編成の目的は「国家の対外政策の支援、海上交通路の防衛、北朝鮮に対する抑止」を掲げているが、海上自衛隊幹部 は「韓国は日本に負けたくないという思いが強い。あれだけの数のイージス艦と潜水艦をどこで使うのか。韓国がリムパック(環太平洋合同演習)以外で、太平 洋で訓練したことなど見たこともない」といぶかる。対潜水艦作戦を念頭に置いたP3Cなどの哨戒機も16機保有しているが、搭載する対艦ミサイル「ハー プーン」で攻撃するような水上艦は、北朝鮮軍には見当たらない。

 不可解なのはそれだけではない。1つは佐世保の西方約200キロに位置する済州島に大規模な海軍基地を建設していることだ。数年以内には、P3C の航空基地も併設され、大型揚陸艦も含め、韓国海軍は機動部隊を配備する計画を打ち出す。防衛省幹部は「済州島は日本海と東シナ海をにらんだ前線拠点であ り、将来、中国海軍が寄港するようになるとやっかいだ」と打ち明ける。

 また、これまで韓国は、米国との取り決めで弾道ミサイルの射程を300キロに制限してきたが、昨年10月、これを800キロに延長した。韓国南端 から北朝鮮北端までの距離と説明するが、大阪など西日本は完全に射程圏内に入る。弾道ミサイルの射程延長に併せ、韓国は陸上発射型の巡航ミサイル(射程 1500キロ)を配備し、駆逐艦や潜水艦には射程400キロの巡航ミサイルを搭載していることを公表した。北朝鮮を攻撃するためとしているが、「仮想敵は 日本だ」とみる自衛官は少なくない。

 日米同盟と米韓同盟。日韓は互いに米国を介して朝鮮半島の安定に力を注いできた。在日米軍やその基地施設をめぐって国内が二分することがあって も、日本は戦後、多くの資材と資金を投入し、半島有事シフトを維持してきた。しかし、韓国には日本の努力への理解が乏しく、日本も自らが果たしてきた役割 の重要性を認識していない。

 その間隙を突くように今、北朝鮮は核とミサイル開発を推し進め、中国は韓国を取り込みながら海洋進出を活発化させ、米国を基軸とする同盟に揺さぶ りをかけている。何のために、日本と韓国は米国と同盟を組み、互いの同盟を基盤にしながら連携と信頼を築き上げてきたのか。その原点を見失ったとき、この 地域の平和と安定は崩壊するだろう。

仮想敵は日本 韓国軍が狂わせる日米韓の歯車 より


「日本バブル」を否定する、中国の策略とは?

2013-06-27 17:51:18 | コラム

「アベノミクス??あんなものがうまく行くわけがないですよ。なぜなら日本はバブルを自分で作って、自分で処理することに慣れていないですから。そ の点、プロフェッショナルであるアメリカとはまったく違うのです。そもそも日本が『自分たちはこれから変わります、絶対に変わってみせます』などと言い出 したときには、絶対に信じないほうがいい。なぜならば最後まで日本はまったく変わらず、これを信じたほうが馬鹿を見るので」

アベノミクスをこきおろす、中国人エコノミスト

私はこのコラムを英国・ロンドンで書いている。ここに来る直前まで、ロシア・サンクト・ペテルブルクにいた。プーチン大統領肝いりのプロジェクトで あり、ロシアが国家としての威信をかけて開催し今回17回目を迎えた「サンクト・ペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)2013」に出席するため だ。

そこでわが「アベノミクス」がどのように扱われていたのかというと、一言でいうならば冒頭に掲げたとおりということになる。発言したのは中国から招 待されたエコノミストだ。元来の気性が激しいせいだろうか、文字どおり「吐き捨てるように」わが国について酷評しているのが目についた。むろん、わが国か らの出席者(今回は聴衆としての参加)として私は、腹の中が煮えくり返るのを覚えたことは言うまでもない。

これに先立つ6月19日、安倍晋三総理大臣はロンドン・シティの金融街で40分間にわたる演説を行った。これまで我が国は国を挙げてエマージング マーケットへの投資を行ってきたわけであるが、むしろ逆にロンドン・シティをテコにして、今度は世界中からマネーを集めようとしたというわけなのだ。それ と相前後して、安倍晋三総理大臣の「ブレーン」として知られる浜田宏一内閣官房参与らもアメリカ・ニューヨークに派遣され、「日本に投資をしてください」 と演説を行った。確かに「何もしない」よりははるかにマシかもしれないが、私からすると、こうしたやり方はまったくもって素人であり、完全に間違ってい る。

なぜならば国際金融の現実を見るかぎり、それは「つねにそこにある人的ネットワーク」によって動かされているからだ。つまりロンドン・シティ (「ニューヨーク・ウォール街」ではないというのがポイントだ)につねにいて、何となればそこで行われる「閉ざされた(クローズドな)内輪の会合」に顔を 出し、名前を覚えてもらう中で徐々に流れがわかり相手にされてくる。それが「大英帝国」が築き上げてきた国際金融システムと付き合う唯一の方法だからであ る。それなのに必要なときだけやってきて、これみよがしにマネーや製品を掲げ、「これを買ってください、日本に投資してください」とだけやり、後は島国に 戻ってしまい何も対外発信すらしないというのでは、まったくもって論外なのだ。

国際経済会議の重要性を知らない日本人

もっと言うと、そうであるからこそ中国が冒頭紹介したような国際会議の場で、「対ジャパンマネー批判」を行うのを許してしまっているのである。私は今回の会議以外にもいくつも国際経済会議に出席しており、たとえばドイツのキール世界経済研究所が主宰している「グローバル・エコノミック・シンポジウム」で は、議題提案権を持つナレッジ・パートナーを務めている。私たち日本人はマーケットのことというと、アメリカが何でも決めてしまっていると思い込んでい る。だが決してそんなことはないのである。マーケットにはそこで起きている現象を説明してくれる「経済論陣」なるグループがいる。そしてこれら「経済論 陣」のお歴々が集まる場として開催されているのが、あの有名な「世界経済フォーラム(ダボス会議)」を筆頭とする国際経済会議というわけなのだ。

そのことをいちばんよく知っているのが、金融資本主義の申し子とでもいうべきエマージングマーケットの筆頭格「BRICs諸国」である。だからこそ ロシアを率いるプーチン大統領は2007年から「サンクト・ペテルブルク国際経済フォーラム」を開催し、こうした「経済論陣」が寄り集う場を創ったという わけなのだ。国際社会、そして外交の現場では会議をする場所をどこにするのかが、たいへん重要な意味を持つ。なぜならば開催国(ホスト国)ともなれば世界 中から集まる人々のお世話をすることになるからだ。

逆に言えば参加者たちはトップリーダーから取材陣まで、全員がホスト国の「お世話」になるわけであり、当然、その悪口は言えなくなる。そしていちば ん重要なのが、議題に際してホスト国は大きな発言権を持つことになるという点である。誰が集まろうと議題の設定がホスト国にとって有利なものであれば、話 はおのずと、その方向に流れていく。たとえば今回の「サンクト・ペテルブルク国際経済フォーラム」でいえば、パネリストたちからロシアマーケットが依然と して抱えるリスクやその問題点について、言及は確かにあった。しかしそこには暗黙の了解として、「ロシアはこれから経済成長を着実に遂げる。だから皆で投 資しようではないか」という論調があらかじめセットされていたのである。

そして、そうした暗黙のベースのうえでの議論を3日ほど聞かされて母国に帰った参加者たちは、口々にこう言うことになるのである。――「ロシアへの投資を考えよう。ロシアはこれからまだ伸びる」。

中国の術中に、いとも簡単にはまる参加者たち

ロシア以上にこうした国際的な「経済論陣」が持つ意味合いを十二分に意識しているのが中国だ。非常に面白いことにたいていの場合、中国はこの手の国 際会議には、美人で見るからに聡明そうなアナリストを送り込む。あるいは男性であれば、いかにも「教授」といった感じの信頼感の持てるタイプの人物であ る。中国というとひと頃までは皆「人民服」で一緒といったイメージであったが、今はむろん、まったく違う。前者の女性アナリストはたいていの場合、明らか に高価なブランド物でミニスカートのスーツを身にまとっており、後者の男性「教授」も垢抜けた格好をしている。

だが彼ら、彼女らは、議場で一度口を開いた途端に豹変するのである。ノンネイティヴのアクセントではあるが、マシンガンのようなスピードで英語を話 し始めるのだ。しかもたいへん興味深いのがその「論調」であって、非常に巧みなことに、必ずしも中国がその時点で取っている経済政策について120%賛成 といった議論は一切しないのである。むしろ率直に「中国は影の銀行(シャドーバンキング)の問題に悩んでいる」といった形で中国自体の政治・経済が抱える 問題を指摘する。そのため、聞く者たちは至極納得といった感じになるのであるが、実はそれによって完全にその術中にはまってしまうのである。

今回のサンクト・ペテルブルクにおける会議でもそうであった。中国から大挙してやってきた彼ら、彼女らは口々に「中国経済で最大の問題は国有企業 だ。この国有企業を完全に民営化させ、中小企業がもっと活発に経済活動ができるようなシステムにしなければダメだ」と叫んでいた。たとえばそうした様子を 目の当たりにすると、勘のいい聴衆はこう思ってしまうのである。「なるほど、国有企業を完全に民営化するという意味での構造改革を中国から推し進めるとい うことなのだな。しかも中小企業を振興していくということは、新規株式上場(IPO)も推進していくということなのではないだろうか。まだまだ中国マー ケットには未来がある。よく語られている悲観論は、まったくもってデタラメだ」

しかし、である。よくよく考えてみると、これは大きなワナなのである。6月18、19日に開催された公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理 事会(FRB)は、これまで行ってきた量的緩和(QE)を今年後半には縮小し始める可能性があることはっきりと打ち出し始めた。ここで世界マーケットが激 変の時を迎えるのは、火を見るよりも明らかなのである。

中国は追いこまれている

これまでアメリカが大量のマネー(米ドル)を刷り出し、それを次々にホットマネーとして吸収してきたのが中国であった。いってみれば血液を送り出す 「心臓」がアメリカだったのであり、中国はどうひっくり返ってもその血液があってはじめて動くことのできる「手足」であったにすぎないのである。そのアメ リカが「心臓」であることを止めようというのであるから、「手足」の中国がどうなるのかは想像に難くないのである。下手をするとその経済は「壊死」してし まう。

本当はこのことこそが大問題なのである。だが、そうしたことはおくびにも出さず、今回のサンクト・ペテルブルクにおける会合で中国から送られた「専 門家」たちは、「中国経済は苦しいが、しかし普通の手立てで何とかなる」と繰り返し述べていたというわけなのである。しかもこれをほぼ同じ論調を世界中で 繰り返し、繰り返し刷り込んでいるのであるから、おのずと「経済論陣」たちも動かされざるをえない。

だが米欧から派遣されるこれら「経済論陣」の側にも立場がないわけではない。たとえば冒頭に紹介した「アベノミクス」に関する議論を行ったセッショ ンでは、ドイツから派遣された有名エコノミストが出席していた。あまり知られていない事実であるが、年金基金を中心にドイツ系金融機関は、わが国の不動産 とその証券化された商品をこの「アベノミクス」が始まる前から大量に買い占め始めているとささやかれている。

つまり「アベノミクス」から始まる我が国における資産バブル(「日本バブル」)の到来をあらかじめ察知していたというわけなのだが、そうであるから こそ、あまりこうした国際会議の場で「アベノミクス」批判をされてしまっては困るのである。だからこそこのドイツ人エコノミストは日本人のパネリストが誰 一人としていないその議場で「いや、そこまで言わずとも日本は何とかするのではないでしょうか、今の『アベノミクス』の後にも」と静かに反論し始めたので ある。

だが、これに対してくだんの中国人エコノミストは「冗談じゃない」といった感じでこう言い切った。「だから……、日本はもうダメだと言っているで しょう? いったんバブルにしても、それをどうやって処理すればよいのかわかっていないのだから。何がこれから起きるのかは目に見えている」

まさに一刀両断、取りつく島もないとはこのことだといった感じであった。そこでは何ら根拠は示されておらず、とにかく「日本人はダメだからダメだ」 の一点張りだったのである。だがこれと相前後して、わが国のマーケットの奥底で活動している向きから、サンクト・ペテルブルクにいる私に対してこんな連絡 があった。

「どうも中国の国営ファンドである中国有限投資公司(CIC)が日本株を売り始めたようですね」。ロンドンでこのコラムを書いている段階で、私自身 にはこの非公開情報を検証する手段はない。しかし仮にこれが“真実”であったとするならば、非常に納得がいくのである。「ダメなものはダメ」と中国人エコ ノミストが声高に言い切るのと、この「リーク」はあまりにもタイミングが符号しているからである。なぜならばこの2つに接すると、普通であればこう判断す るはずだからだ。「日本株は中国ですら手放し始めており、しかも中長期的にも将来性がないというのであれば、もはや売りだ」

中国は「日本バブル」のシナリオを察知した?

だが仮にこれが、円安誘導による資産バブルという意味での「日本バブル」の、「第1弾の後半戦」(前半戦は「5・23ショック」により終わった)開 始を察知した、中国による策動であるとするならばどうであろうか。世界中で「経済論陣」に対してあらゆるレベル、あらゆる手段を通じ、「日本株悲観論」を 叫び続け、やがてはその現実を動かしてしまう。しかしそうであればあるほど、わが国はいよいよ公的・準公的な資金を動員して(年金積立金管理運用独立行政 法人(GPIF)の基本計画見直しがその典型)「日本バブル」という名の官製バブルを盛り上げることになるはずだ。何せ参議院選挙が7月に控えているのだから、関係者たちは「政治」からのプレッシャーを受けてそう動かざるをえないのである。

私は前回のこのコラムで「6月大反騰」説を 提示した。「日本株は大反騰にもなっていないし、いったいあれはどうなったのか」などと思われている方もいらっしゃるのではないかと思うので、一言申し上 げておく。仔細に日本マーケットの状況を追われている方ならば先刻ご承知とは思うが、「5・23ショック」を引き起こしたのはわが国の機関投資家による 「売り」であったのであり、むしろいわゆる「外国人」はこれに出遅れたのである。だが、それでもその「外国人」たちは引き続き日本株を買い越してきてい る。これがいったいを意味するのか。

また、そもそもこの6月には何度も崩落が生じ、そのたびにひやっとさせられたわけであるが、どういうわけか時にはそれ以上に今度は株価の急騰も見ら れ、明らかに「何かが違っていること」が感じられたというわけなのである。そのような中で再び円/ドルレートは1ドル=100円を目指し始め、「5・23 ショック」よりも前の雰囲気が醸成され始めている。そう、構造としてはやはり官製バブルに向けた仕組みが6月にしっかりと形成されてきたというべきなので ある。

そしてそのことは参議院選挙がはっきりと見えてきた段階で、誰の目にも明らかになるのである。ダラダラと相場を形成するのではなく、一気に高騰させ たほうが政治的には効果的な演出となる。そしてそのことを誰よりも早く察知した中国が「日本悲観論」をあえて喧伝し、自らは「日本バブル」第1弾の後半戦 でしっかりと利益を得るポジションを積み上げているとしたならば、どうであろうか。

そう、これは形を変えたある種の「戦争」なのである。戦火が見えないだけに、わかる人にしかわからないが、だがある意味、誰の目にも明らかとなる 「戦争」よりもその影響は大きいというべきなのである。そこで勝利を収めるため、米欧はもとより、ロシアや中国は大量のマネーと人を投じ、せめぎ合ってい る。だが、そうしたゲームの場に私たち日本人は、まったくいないのである。

今回のサンクト・ペテルブルク会合で唯一、日本人パネリストとして奮闘していたのが前田匡史・日本政策投資銀行執行役員であった。第2次安倍晋三政 権になってからわが国がロシアとの間で始めた極東地域に対する共同投資スキームについて、流暢な英語で説明していたのが非常に印象的であった。だが、悲し いかなそのプレゼンテーションがカヴァーしていた範囲は余りにも狭く、およそ並み居る「経済論陣」を揺さぶるようなインパクトは、残念ながらいっさいな かったのである。いずれにせよ、この会合における「経済論陣」による議論の様子とそれに対する私の考えは、私の報告書の中で明らかにしていく。

安倍首相、正しい日本バブルの作り方をご教示します

最後にこの場を借りて安倍晋三総理大臣に提案したい。―――国務に忙しい我が国の総理大臣がわざわざロンドン・シティまで行って「日本に投資して下 さい」などと頭を下げる必要はないのだ。むしろ必要なのは、米欧のビジネス・スクールに留学し、海の向こうでキャリアを積んだものの、我が国に帰ってきて も居場所がないような中堅・壮年層のマーケットの“猛者”やエコノミストたちを100名ほど、国費で雇いあげるのである。そして世界中で開催されているこ れら国際経済会議に対して派遣し、「日本バブル」には未来があると「自然」な形で、同じメッセージを発し続けるのである。

しょせんは金融マーケットとの関係で素人集団である在外公館(大使館・総領事館)に東京からの訓令を棒読みさせたり、あるいは御老体の大学教授たち に高い旅費を払って型どおりの演説をさせるよりもはるかに効果があるはずだ。そしてそうした中堅・壮年層の「ジャパン・エコノミスト・チーム」の中から国 を挙げてスターを創り出し、そのブログを世界中が読むように仕向けていくのである。これ以上に効果的なやり方はないことが、やり始めればすぐさまわかるは ずだ。

サンクト・ペテルブルクで開かれた今回の会合で知り合ったフランス人は、「中国は今、自分たちが危機的だからこそ一生懸命説明しているのだろう。そ の必要がなければあそこまで一生懸命にはならないよ」と笑って言っていた。だが、同じくらい追い込まれているわが国が、それでは何もしなくてよいというこ とにはまったくならないのだ。「日本バブル」を斬新な発想で支える、抜本的な取り組みが、今、求められている。


「日本バブル」を否定する、中国の策略とは?
  より


橋下市長『慰安婦発言』の是非を論じる 

2013-05-31 20:53:23 | コラム

2013.05.30 (木)

特集 「 橋下市長『慰安婦発言』の是非を論じる 」

『週刊新潮』 2013年5月30日号
日本ルネッサンス 拡大版 第559回

橋下徹大阪市長の発言を聞いて、複雑な気持を抱いたのは私だけではないだろう。「歯切れのよさ」「わかり易さ」という氏の、いわば最強の武器を、語 るには最大限の繊細さが要求される慰安婦問題で炸裂させたのである。当然、反応は凄まじく、安倍晋三首相の歴史問題に関する発言も霞むほどだった。

強烈な衝撃を与えた橋下発言を、私は改めて調べてみた。5月13日の発言は以下の点にまとめられる。

(1)侵略だと受けとめ、反省とお詫びが必要、(2)慰安婦への配慮は必要、(3)当時、世界の軍は慰安婦制度を持っていた、(4)なぜ日本だけが 非難されるのか、(5)韓国などが日本を「レイプ国家」というが、証拠による裏付けはない、(6)日本の政治は謝るべき点を謝り、言うべきことを言うこと が出来ない、(7)兵士には慰安婦制度が必要、(8)米軍普天間飛行場で司令官に風俗業を活用してほしいと言った、(9)司令官は、そのようなことは禁止 していると言った、(10)そんな建前はおかしい、(11)朝鮮戦争のときも米軍の沖縄占領のときも同じようなことがあった。

問題は(7)以降の主張であろう。とりわけ沖縄の米軍司令官への助言は、政治家のみならず、一般人の常識としても想像を絶するものだ。

本来なら恥ずかしくて公表出来ないような申し入れだが、それをしたと、橋下氏が自ら公表したのは、政治という最も公の場で売買春を活用せよと言うことが、どれほど非常識でルール違反であるか、わかっていなかったということだ。

橋下氏周辺はいま、氏の主張をまず日本語で整理し、それを正確かつ、欧米の人々の機微に触れる洗練された英語に訳すべく作業を急いでいるという。本誌が出る頃には、英訳が完了する予定だというが、泥縄の感は否めない。

政治家としての発言のタイミングのはかり方、どの対象に向かってどのような状況で、どのような言葉で表現し、問題提起するのがよいのか、発言が大きな反響を呼ぶとして、それにどう対応するのかなど全く考えていなかったことは明らかだ。

下村博文文科大臣は橋下氏について「あえて発言をする意味があるのか。党を代表する人の発言ではない。その辺のおじさんではないのですから」とコメントしたが、まさにそれに尽きるだろう。

日本維新の会の中田宏衆議院議員によると、橋下氏は、日本が「レイプ国家」とされ、20万人の女性を強制連行したと証拠もなしに誹謗され続けること への強烈な不満があり、そのことを解決したいという思いがあるという。氏はその思いを打ち消すことはせず、果敢に議論を展開したいとして、来日中の韓国の 元慰安婦に会い、東京の外国特派員協会での記者会見にも臨む予定だという。

慰安婦問題の性格が変化

歴史問題を巡る状況は本稿執筆中にも日々変化しており、これからの展開には予測し難い面がある。なによりも橋下氏自身が慰安婦問題をより大きく、より烈しく世界に広げていく原因になるのではないか。氏は日本の国益を大きく損ないかねない局面に立っている。

それでなくとも、いま、慰安婦問題の性格が変化しつつある。加えて米オバマ政権内には日本に対して非常に厳しい見方が存在する。日本が過去に女性た ちを強制連行したのか、20万人だったのか、仕事だったのか、奴隷だったのかという個々の事柄の真否を超えて、女性の性を弄び利用すること自体の是非を 巡って、日本の過去を断罪する方向に議論が行きかねない動きがある。

そのような方向に事態が動く場合、人類普遍の価値観に照らし合わせて、永遠に日本を非難し続ける構造が作られる。日本の弁明は受け入れられず、かつ て他国も同じことをしたではないかと言っても、通用しにくくなるであろう。橋下氏の発言は、そのような方向への変化を促しかねない危険な要素を含んでいる のだ。

歴史認識問題はこれまで主として、少なくとも正式には韓国、中国との問題だった。橋下発言で初めて米国務省が不快感を表明するなど、米国を巻き込んだ軋轢となりつつあることの深刻さを、橋下氏は責任ある政治家として考えなければならない。

それでなくとも歴史問題で日本非難を続けてきた中韓両国は、歴史について史実よりもイデオロギーや民族感情、そして政治的思惑を先行させる傾向がある。理屈だけでは中々対応出来ないのである。

歪曲され、捏造された歴史

米国のスタンフォード大学アジア太平洋研究センター(APARC)の行なった日米中韓台の5つの国・地域の歴史教科書比較研究は、満州事変からサン フランシスコ条約の締結まで、1931年から51年までの期間を、これらの高校歴史教科書がどう記述しているかを調べたものだ。その報告書で、APARC 副所長のスナイダー氏は民族意識の高揚だけを意図している顕著な例として、韓国の教科書を挙げ、次のように報告した。

「高校生に教えられる戦時中の叙述は、もっぱら日本の植民地統治下での人々の苛酷な体験と抵抗運動である」

韓国の記憶は「日本が自分たち(韓国)に行なったことだけ」に集中しているというのだが、同件に関して氏は2009年3月25日号の『SAPIO』でもこう語っている。

「私が驚愕した一つの例は、主要な韓国の教科書には広島・長崎への原爆投下の記述がないことだ。それほどまでに彼らは自己中心的にしか歴史を見ていない」

氏は、歴史学の観点から見て最も問題が多いのは中国の教科書だとも断じている。

「中国の教科書は全くのプロパガンダになっている。共産党のイデオロギーに満ちており、非常に政治化されている」と語り、すでに捏造であることが定着した田中上奏文を真実の歴史資料であるかのように04年まで教科書に載せていたことを驚きとともに指摘している。

私たちが闘わなければならないのは、このような、歪曲され、捏造された歴史教育で国民を育て、反日感情を醸成してきた無理無体な国々なのである。

韓国の最高裁は昨年5月、「強制徴用被害者の個人賠償請求権は消滅していない」との判断を示した。韓国政府が日本政府に賠償請求する道を開いたこと がどれほど深刻な意味を持つか、弁護士である橋下氏には理解出来るはずだ。相手方は、日本を貶め、日本の力を殺ぐために国家の総力をあげて歴史問題に取り 組んでいるのだ。勢いがよくても軽々に発言することは、橋下氏のみならず、日本の命とりになる。

しかし、日本が慎重に賢く、歩を進めれば、歴史認識の闘いに勝てないわけではないことを、最後につけ加えたい。韓国人の側から慰安婦制度についての 真実を明かす研究が発表されつつある。そのひとつが、ハワイ大学名誉教授のジョージ・アキタ氏がこの夏に出版する『日本の朝鮮統合は公平だった』(仮題) の中で紹介されているサンフランシスコ州立大学人類学教授のC・サラ・ソウ(蘇貞姫)氏の研究だ。ソウ教授は、女性たちが「周旋業者に騙されて売春を始め たとの主張は間違っている」として、「ほとんどの場合、慰安婦になる過程は開かれたもので」あり、女性とその家族は、女性の運命を認識していたと研究発表 した。

ソウ教授はこう書いている。

「当時、おびただしい数の朝鮮人女性が、父親または夫によって売春宿に売られたり、あるいは一家を貧困から救うために自ら進んでその道を選んだりしていた。朝鮮の儒教的父権社会にあっては、女性は使い捨て可能な人的資源として扱われたのだった」

事実は徐々にではあっても、顕れ始めている。冷静に賢く対処することが大事だ。

 

特集 「 橋下市長『慰安婦発言』の是非を論じる 」 より


「独裁者の娘」を迎える米国の険しい目 核武装目指した父を追うのか

2013-05-09 12:41:07 | コラム

韓国の朴瑾恵大統領がワシントンで初の米韓首脳会談に臨んだ。「独裁者の娘」を迎える米国の眼差しは必ずしも温かくない。

クーデターで権力を握った父

「朴(瑾恵)は、1961年に軍事クーデターで権力を握り1979年まで韓国を支配した朴正煕の娘だ」

 米議会調査局(CRS)が4月26日に発表した「米韓関係」と題する39ページの報告書の一節(2ページ)だ。行政府のそれとは異なって、韓国に対する米国の懸念を率直に書いている。筆者はアジアや核不拡散、通商の専門家5人(注1)

(注1)「米韓関係」報告書はこちら

 この報告書ではっきりと、あるいはさりげなく表明された韓国に対する米国の懸念は、大きく分けて以下の3つだ。

 

韓国も核兵器を持ちたいのか

 

【1】北の核より南北を優先?
朴瑾恵大統領は一種の対北融和策である「朝鮮半島信頼醸成プロセス」を公約に掲げ当選した。しかし、就任直前の2013年2月に北朝鮮が核実験を実施。成 功した可能性が高いというのに、朴瑾恵政権はそれを降ろしていない。米国の疑念はそこから生まれている。報告書は「米国の一番の関心事である非核化と、韓 国の対北接近とを朴政権がどう調整するかが基本的に不明である」(3ページ)などと繰り返し疑問を呈した。

 

【2】核武装に走るのではないか
報告書ではずばりとは書いていない。しかし、「2013年の北の核実験は韓国の自前の核抑止力保持への希求を呼んだ」(3ページ)と指摘。さらに、米韓原 子力協定について4ページ分も説明に割いた。韓国は、核保有に道を拓くウラン濃縮の権利などを求め、同協定の改定を強く要求している。報告書は「多くの韓 国の官僚と 政治家が、民間の核活動にまで米国の許可が要るのは米国によって韓国の主権が制限されていると見ている」(28ページ)とも書いた。読む人が読めば、韓国 の 核武装への根強い志向が分かる仕組みになっている。

 

【3】離米従中に動くのでは?
「多くの韓国人が、米国に妥協し過ぎと感じ米国の影響に憤慨し不満を募らせている。韓国人は、中国を敵対視する米国の政策に引きずりこまれそうになること を懸念し始めた」(9ページ)。「韓国の民主化は進展しており、外交政策において世論がますます重要になっている」(7ページ)。

 

米国こそ、いざと言う時に降りた

 

 いずれも韓国にすれば大いに反論したい指摘だ。【1】の「非核化よりも融和」に関しては、韓国人なら「米国こそ、そうじゃないか」と言うだろう。

 

 2003年から始まった、北朝鮮の核問題を話し合う6か国協議でも米国はいざという時に弱腰になった。このため「米国に敵対する国やテロリストに北が核を渡しさえしなければ、米国は北朝鮮に核保有を認めるのではないか」という疑惑が韓国には燻ぶるようになった。

 

 そのうえ米国は韓国の頭越しで北と妥協することもあった。韓国メディアは、2012年2月29日の米朝合意に関して韓国はきちんと相談されていなかった と示唆している。米国に従って韓国が対北強硬策をとっても、いつ米国に梯子を外されるか分からないという恐怖を韓国は持つ。

 

 【2】の「核武装」も韓国人には反論があるだろう。アンケート調査では、2013年2月の北朝鮮の3回目の核実験の後、韓国人の3分の2が核武装に賛成するに至った(「今度こそ本気の韓国の『核武装論』」参照)。

 

 だが、それとて「米国が本気で北の核武装阻止に動いてくれなかった結果」と韓国人は考える。である以上は、米国に非難がましく言われるのは不快極まりない。ちなみに、米国が核の傘を保障すると言ってくれてはいるが、米国の退潮を考慮すれば期待しにくいのだ(「『中国に屈従か、核武装か』と韓国紙社説は問うた」参照)。

 

 【3】の「離米従中」も北の核武装が加速した。「北の非核化を米国に期待するのは現実的ではない。米国にそんな影響力はもうないからだ。だったら、世界で影響力を増す中国に頼むしかない。もう、中国に逆らうわけにはいかない」と韓国人は考え始めた。

 

「相性」にこだわる報告書

 

 韓国人はこの報告書を相当な違和感をもって読んだようだ。ことに米韓の両大統領の「相性」に疑問が投げかけられた点だ。

 

 報告書は1ページ目で「オバマ大統領と李明博前大統領の良好な個人的つながりにより米韓は例外的に強力な関係にあった」とした後「朴瑾恵大統領のもとでも米韓が利益と政策の優先順位を共有でき、個人的な相性もいいのか見守る必要がある」と書いている。

 

 中央日報の記事「朴瑾恵・オバマの平壌を見る視線、ワシントンで調整期待」(5月3日付)はこの「相性」に注目したうえ、駐米韓国大使館関係者の「首脳会談を契機に誤解を払拭し、相性も合うことを期待する」との談話を紹介した(注2)

 

(注2)この記事は日本語でも読める。日本語の記事はこちら

 なぜ、米議会の報告書はこれほどに「相性」にこだわるのか。韓国メディアは自国の大統領に配慮してであろう、一切触れないが、米国は「朴正煕の影」を見ているからに違いない。

 朴正煕少将がクーデターで政権を奪取した時から暗殺されるまでの18年間、米国にとって彼は悩みの種であり続けた。「自由主義陣営に属し北朝鮮と対峙し ているからといって、言論の自由を制限し不当逮捕と拷問を繰り返す朴正煕を助けるべきではない」という国内外からの強い批判に米国の歴代政権は直面したの だ。

米国が抱く既視感

 米議会の報告書もその記憶をきちんと書き留めている。「朴瑾恵の父、朴正煕の時代は評価が難しい。1つは世界の最貧国を工業国家に造り変えたという側 面。もう1つは鉄拳を持って支配したという側面である。彼は反対者あるいはそう思われる人々――野党政治家、労組の活動家、市民運動のリーダーを弾圧し た。例えば、1970年代初期に韓国の情報機関は2度に渡って野党指導者、金大中を殺そうとした。なお、2度目は米国の介入によって命を救われている。朴 政権下で始まった分裂は今日も続いている。韓国の保守派は彼の成し遂げた経済発展を強調する。一方、進歩派は彼の人権侵害を問題にしている」(31ペー ジ)。

 クーデターで独裁政権を築いた父親と、公正な選挙によって大統領に就任した娘を米国が同一視しているわけではない。しかし、娘の頑固で容易に妥協しない性格は父親譲りと言われている。何よりも、米国は朝鮮半島情勢に既視感を抱き始めていたところだ。

 1970年代、朴正煕政権は秘密裏に核とミサイル開発に邁進した。それが放棄されたのは、1979年10月に朴大統領が中央情報部(KCIA)の金載圭部長に暗殺され、権力を継いだ全斗煥大統領に米国が強い圧力をかけたことによる。

 そして今、娘の朴瑾恵大統領は「ウラン濃縮を韓国にも認めるべきだ」と談判を始めた。それだけではない。北朝鮮が核保有したと思われるのに、韓国はまだ融和政策にこだわっている。

 南北共同で運営する開城工業団地に対しては国際的にも批判が高まった。「北朝鮮の独裁政権に外貨を手渡す延命パイプ」だからだ。しかし、朴槿恵大統領の訪米直前まで韓国は操業を続けようとした。

 父親は1972年、厳しく対立していた北朝鮮の金日成主席との間で「7.4声明」という和解宣言を突然に発表した。核武装への試みと同様、米国に見捨てられるとの危機感を深めた結果だ。

老獪な中国はただで汗はかかない

 当時、米国は米中関係の改善も視野に在韓米軍の削減に動いていた(注3)。一方、金日成も米中接近という国際環境の激変により、国際的にも国内的にも自身の生存の余地が狭くなることを恐れ、宿敵との和解に応じたと思われる。

(注3)在韓米軍削減に関しては『大統領の挫折』(村田晃嗣、有斐閣)が詳しい。同書は第21回サントリー学芸賞などを受賞している。

 今、中国もようやく北の核問題に本腰を入れ始めた。核問題に限らず米中が朝鮮半島の将来像を決めていく可能性が強まった(「『北の非核化、米軍撤収』で手打ち~架空・米中首脳会談」参照)。

 2つの大国が核問題を解決してくれるのなら韓国にとって大いに幸いだ。しかし、老獪な中国がただで汗をかくとは思えない。北の実効支配を認めろとか、在韓米軍撤収を米国に言い出す可能性が大きい。面倒くさくなった米国は、それを呑むかもしれない(「米国が韓国に愛想を尽かす日」参照)。

 韓国の大統領としては、今こそ同民族の南北が意志疎通を図り、周辺大国に自分たちの運命を任せないという決意を見せるべき時だろう。そして大国に挟まれた小国が決意を実現するには核兵器という力がいる。少なくとも41年前には、朴瑾恵大統領の父親はそう考えたのだ。

 米議会委調査局の報告書は米政界に向かって「北朝鮮に関し、米国とことごとく意見を同じくした」(9ページ)李明博前大統領とは異なって、朴槿恵大統領は父親と同様に一筋縄ではいかないぞ、と警告を発しているのだろう。

「日本と軍事協定を結べ」

 一方、韓国に対して米国は「韓国を守っているのは米国だ。米中の間で二股外交しようなんて考えるんじゃないぞ」、「北は核兵器を向けて来る敵だ。北の兄弟と手を携えようなどと夢想してはいかんぞ」と念を押すつもりであろう。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン先任副所長が中央日報に寄稿した記事(4月20日付)はまさに米国の説得そのものだ。グリーン先任副所長は「韓米が北の核の脅威に確実に対処するには」というタイトルの記事で以下の4点を韓国に求めた。

(1)米国が主導するミサイル防衛(MD)網への参加
(2)米日韓軍事体制確立のための日本との軍事協定締結
(3)第5世代戦闘機など最新鋭武器の導入
(4)戦時の作戦統制権が米国から韓国へ移管されることを受けた、米韓の新しい指揮体系の確立

 

 (1)と(2)は以前からの米国の要求だ。しかし、中国から「対中包囲網に参加するな」と脅された韓国は、反日感情などを理由にそれらから逃げ回ってき た。韓国が北朝鮮の核に怯えるこの機会にそれら を一気に呑ませ、完全に米国の側に引き寄せてしまおう、という狙いがはっきりと分かる。それも世界最高の武器体系を見せつけながらだ。

 

 これに対し中国側も全面的な反撃に出ている。韓国紙には中国の専門家の意見がそれこそ山のように載る。単独インタビューだったり、シンポジウムでの発言だったりするのだが、朴瑾恵訪米の直前になって、韓国の意を迎えようとこれまでになく踏み込んでいる。

 

「北はもう緩衝地帯ではない」

 

 北京大学・国際関係学院の賈慶国副院長は中央日報の取材に答え「中国の意見も聞かず、数回にわたって挑発した北朝鮮は中国の(資産ではなく)お荷物だ」とはっきりと北を非難した(注4)

 

(注4)4月30日付のこの記事の日本語版はこちら

 

 「それなら、中国は北朝鮮を放棄するのか」との質問に対しては「中国の所有物ではないので、放棄するか否かの問題ではない」としつつも「戦闘機やミサイ ルがない時代は外国勢力が中国を侵略しようとすれば北朝鮮を通って来たので、緩衝地帯という戦略的価値があった。しかし、今は時代が変わった。過去には北 朝鮮を特殊な国家として待遇したが今は普通の国家関係にある」と答えた。

 

 事実上の放棄宣言だ。米韓日を相手に挑発する北朝鮮への警告でもあろうが、最大の狙いは「核問題の解決は、米国ではなく中国に任せよ」との韓国への誘いかけだ。

 

 これまで「中国は北朝鮮に困惑しようが、結局は捨てない」が定説だった。グリーン先任副所長も中央日報にそう書き「中国は頼りにならないぞ」と韓国人にメッセージを発してきた(「米国が韓国に愛想を尽かす日」参照)。まさにそうした米国の言説への反撃である。

 

「北の崩壊に中国は反対しない」

 

 5月6日付の朝鮮日報は、4日に中国・大連市で開かれた第4回中韓安保対話での中国側参加者の発言を詳細に伝えた。いずれも北朝鮮を冷たく突き放し、韓国を取り込もうとするものだった。

 

 清華大学国際関係戦略発展研究所の楚樹龍副所長は「まだ主流にはなっていないが、中国の政府、学界など意思決定集団では北朝鮮の崩壊が論議されている。東ドイツのように平和的に崩壊するのなら中国が反対する理由はない」と述べた。

 

 中国の責任ある高官が公の席で北の崩壊を語り、それも反対しない、と見捨てるのは前代未聞だ。「北が崩壊し南が吸収統一するのなら、どうぞご自由に」という韓国支持のメッセージだ。

 

 中国現代国際関係研究院・米国研究所の達巍所長は「米国が体制を保障する形で北朝鮮が軟着陸する可能性はほとんどない」と述べた。韓国人に対し「米国に頼っている限り平和的な解決は望めないぞ」と通告したのも同様だ。

 

 米中の言論戦は今のところ中国に分があるように見える。量で圧倒し始めたうえ、説得力で勝ると思われるからだ。

 

 北朝鮮内部に手を突っ込む意欲も能力も乏しい米国が、韓国を引き付けようとすれば、どうしても軍事力を売り物にすることになる。それは韓国人に戦争の臭いを感じさせてしまう。

 

 一方中国は、金正恩第一書記の首の挿げ替えなど陰謀路線を示すことができる。北朝鮮にとっては不愉快極まりない提案だろうが、韓国にとっては“平和的な解決方法”であるだけに魅力的だ。

 

「米韓」の次は「中韓」首脳会談

 

 5月7日(現地時間)、ホワイトハウスで朴瑾恵大統領はオバマ大統領と会談、米韓同盟60周年記念を共同宣言した。北朝鮮の核恫喝を奇貨として、米国は米韓同盟の必要性を韓国に確認させたのだ。もちろん、短期的には韓国もこの同盟が必須だ。

 

 ただ、朴瑾恵大統領は数カ月のうちに中国を訪問し、習近平国家主席と会談することになろう。その時、習主席は平和的な解決策を提示するに違いない。統一後かそれ以前の韓国の中立化を見返りに求めるであろうが。大国の間を泳ぎ渡る朴瑾恵大統領の旅は始まったばかりだ。

「独裁者の娘」を迎える米国の険しい目 より