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中国経済を「通過」せよ! 2015年、中国バブルは崩壊する ――大和総研チーフエコノミスト熊谷亮丸に聞く

2013-04-19 13:37:03 | コラム

熊谷氏が書いた『パッシング・チャイナ』(講談社)は、刺激的なタイトルで、話題になっている。失われた20年で、一時期「ジャパン・パッシング」などと言われたが、なぜこの時期に中国の将来を大胆に予想した著書を出したのか、そのエッセンスは何かを聞く。

中国の実態を身に沁みて感じた経験

――この刺激的なタイトルには、どういった思いが込められているのですか?

「パッシング・チャイナ」という構想は、私が長年温めてきたものです。

 「バッシング」ではなくて「パッシング」――。すなわち、中国を「非難」するのではなく、もう中国を「通過」「素通り」してもいいのではないか、という主張です。

 われわれ日本人は「中国幻想」に振り回されるのではなく、もう少し気楽にいく必要がある、というメッセージが、この「パッシング・チャイナ」というタイトルには込められています。

 日本のすぐ近くには、「南アジア」という巨大な潜在市場があります。タイ、インド、インドネシア、ミャンマー、ベトナムなどの国々です。

 彼らは、戦後の焼け野原から不死鳥のように立ち上がり、アジアから初めて先進国の仲間入りを果たした日本人に対して、ある種の憧れを持っています。極めて「親日的」な国が多いのです。

 日本企業にとっては、中国に固執せず、「チャイナ・プラス・ワン」――つまりは、中国以外にもうひとつ海外拠点を作ることこそが喫緊の課題なのです。

――この本を書かれたきっかけは何かあるのですか?

 数年前、中国に出張した際、北京から羽田に帰る飛行機が、定刻の出発時間を前に、離陸してしまったことがあります。

 「百聞は一見にしかず」とはよく言ったものです。このときほど、中国の実態を身に沁みて感じたことはありません。

 日本の労働生産性が低いなどと言いますが、中国はその比ではありません。この空港ではほとんどの人間が全然働いていない様子なのです。

 空港の職員から荷物を取り戻す際にも、大きな発見がありました。

 最初は、「荷物を返してくれ」と強く主張しましたが、何時間待っても全く進展は見られませんでした、そこで中国人は「面子」を重んじるという話を思い出し、ペコペコと頭を下げると、すぐに荷物は返ってきました。

 この経験から、私は「日本人は中国の経済成長を絶対視しているが、中国の実態はそれとはまったく異なる」と確信したのです。

中国経済は間違いなく「バブル」

――中国経済は「バブル」だと見ていますか?

 中国経済は間違いなく「バブル」です。2015年あたりからは、いつ崩壊してもおかしくありません。

 中国にはリスク要因が山積しています。

 第一に、1979年から採用された「一人っ子政策」による少子高齢化の進展が懸念されます。

 第二に、中国の「政治リスク」も深刻です。中国では政治指導者が交代する5年毎に混乱が起きる傾向があり、将来的には中国共産党による事実上の一党独裁制が崩れる懸念が強まるでしょう。

第三に、「不動産バブル」の崩壊も心配です。中国の経済成長モデルは、不動産価格の上昇による「錬金術」を中核に据えています。驚くべきことに、地方政府の収入の6割程度が、不動産関連収入に依存しているのです。

 第四に、中国では設備の過剰感が強まっています。

 中国では、GDPに占める設備投資の割合が個人消費を上回っているのです。他の先進諸国で個人消費がGDPに占める割合を見ると、米国で7割超、日本でも6割程度です。しかし中国ではこの比率が35%に過ぎません。

 第五の問題点は、賃金インフレの進行です。中国にとってインフレは「天敵」です。「インフレ」が進行すると、低所得階層の不満が爆発し、政治的・社会的混乱を伴いながら、経済が「ハードランディング」に至るケースが多いからです。

日本企業が商売で勝つポイント

――しかし、中国経済を「素通り」して、日本経済は本当に大丈夫なのですか。日本企業がその強みを発揮するための戦略的なポイントは、なんでしょうか。

 日中関係の悪化は、最悪のケースでも、2013年度の日本のGDPを0.2%押し下げる程度の影響しかありません。まさに、日本経済にとっては「蚊が刺した」程度の影響なのです。

 日本企業は「技術で勝って、商売で負ける」と言われます。マーケティング力が弱いというのが日本企業の致命的な欠陥です。

 野球のピッチャーに例えれば「技術力」の高さは速い球を投げる能力です。日本企業は時速150キロ台の剛速球を投げる能力を持っています。しか し、韓国企業という、球速は時速130~140キロ台だが、絶妙のコントロール(「マーケティング力」)を有するピッチャーに苦戦しているのです。
 
 今後の日本企業の戦略としては、剛速球に一層の磨きをかける(最先端の「技術力」を磨く)ことと、コントロールを良くする(「マーケティング力」を高める)ことの双方に、バランス良く行う取り組む必要があるでしょう。

日本が採るべきは「中庸の道」

――今後の日中関係では、何が重要だと考えていますか?

 今後、日本が必要以上に中国を挑発することは控えるべきですが、「反日デモ」にビクビクして中国の顔色を伺うような外交だけはやめた方がいいと思います。

 「反日デモ」の本質はあくまで中国の国内問題であって、「反日」という要素は単なる口実・きっかけに過ぎません。

 中国では汚職・腐敗の蔓延や、所得格差の拡大・固定化などを背景に、国民の間で、現状に対する不満や将来への不安が、制御不能なレベルに近づいています。例えば、2012年に中国政府は治安維持に、軍事費を上回る7018億元(約9兆円)の予算を充てているのです。

 日本がどれだけ気を使っても、残念ながら「反日デモ」はいずれまた起きるでしょう。中国政府が、腐敗・汚職をやめ、所得格差を是正し、政治の民主化を行うことは、当面期待しづらいからです。

 今後の日中関係に関しては、原理原則を貫くことと、リアリズムのバランスを取った「プラグマティック(実利的)」な対応を講じることが最大のカギです。日本人が大切にしてきた「中庸の道」にこそ、日中間の懸案を真に解決する知恵が隠れているのです。

 われわれは、等身大の中国を見失い、日本を過小評価してこなかったでしょうか。

 今後、中国は「バブル」が崩壊し、政治的・経済的に大きな苦境を陥るでしょう。これに対して、社会の安定性が強い日本は、「アベノミクス」の効果もあり繁栄を続けると見られます。

 日本の未来は間違いなく明るいのです。

 「おごる平家は久しからず」――「中国幻想」はもはや臨界点に達しています。今、われわれ日本人は、「パッシング・チャイナ」という新たな決断を迫られているのです。

第328回 中国経済を「通過」せよ! 2015年、中国バブルは崩壊する ――大和総研チーフエコノミスト熊谷亮丸に聞く より


自衛隊は中国軍にボロ負けする『自衛隊vs中国軍』

2013-03-27 14:26:14 | コラム

素朴な疑問。自衛隊ってどれくらい強いのだろうか。軍事費世界第5位とか最新兵器揃いだとか聞いたことあるけど……。外国の軍隊と戦闘したらどうなる? たとえば領土問題に揺れるあの国と戦争になったら?

『自衛隊vs中国軍』という本が出版された。著者であるかのよしのりは、補給部隊に勤めていた元自衛官。以前エキレビで紹介された『狙撃の科学』など多数の軍事書籍を執筆する事情通だ。


本書は『最新兵器データで比べる中国軍vs自衛隊』として2007年の10月に発行されたものを大幅に改定したもの。わざわざ書きなおしたのは、2013年度の中国の国防予算が2007年と比べて2倍以上にもなった(約3472億元→約7406億元)からだ。急激な軍拡の行われる中国に対し、日本の自衛隊は十分な兵力を持っているのだろうか。
全5章構成となっており、第1章では中国の核戦力について論じられ、第2章で総論。残り3章で自衛隊と中国軍それぞれの陸上戦力、海上戦力、航空戦力を事細かに分析している。ピストルから戦闘機用の小ミサイルまで普段知りようのない兵器が写真や図説付きで解説されているので、兵器カタログとしても楽しめる。

著者の結論を先に言ってしまおう。
このままでは日本がヤバい
なにがどうヤバいのか、各戦力比較を簡単に紹介していこう。

――Round 1 陸上戦力

本書の解説を読む限り、陸上自衛隊は完敗だ。中国陸軍は、人数こそ40年前と比べて300万人から160万人と減った。だが一方の陸上自衛隊の定員は14万人。桁がひとつ違う。
質では勝ると見る向きもあるだろう。しかし著者いわく、「陸上自衛隊が中国軍に対して質的に優っていたことなど過去から現在に至るまで一度もなかった
中国陸軍はひとり当たりの兵器の数を増やし、ハイテク化・精鋭化をすすめている。その結果兵士の人数が減っているだけで、実際にはその兵力は増しているのだという。

――Round 2 航空戦力

航空自衛隊の要はF-15イーグルというアメリカ生まれの戦闘機。今まで実戦で一度も撃墜されたことのない世界最強の機体だ。ましてや航続距離が短いために九州に来ることさえ難しかったオンボロ中国空軍。20世紀の末まで航空戦力は日本が圧倒していた。
しかし今ではその力関係も変わってしまった。中国はF-15イーグルを超える機動性を持ったロシアのSu-27/30フランカー(そのコピーJ-11)約200機と、性能秘密の最新鋭戦闘機J-10を約300機も配備している。

いまや数でも質でも負けてしまったのである。

――Round 3 海上戦力

島国日本にとって一番大切な海上戦力だが、これは海上自衛隊に分があるようだ。隻数でいえば、中国海軍の方が多いのだがそのほとんどが話にもならない旧式艦である。
これで安心と思いきや、著者は中国海軍もあなどれないほど近代化しつつあると警鐘を鳴らす。
日本のイージス艦には劣るものの、「チャイナ・イージス」と呼ばれる最新レーダーを積んだ「旅洋II型(052C型)」が3隻就役しており、9番艦までつくられる予定。さらに研究用とは言えロシアから中古の空母まで購入している。
そもそも現代の戦争において、一大艦隊決戦など行われることはない。多数の水上艦や潜水艦で海上を封鎖し、経済に打撃を与えることが重要。その点、中国海軍は十分驚異となりうる。海上自衛隊も相手の港を封鎖できるような攻撃力を充実させよ、と著者は主張する。

――Final Round 核戦力

通常戦力が中国に対して能力不足なのは事実。しかも中国は核保有国だ。日本やアメリカまで射程範囲に収める核ミサイルを何十発も持っている。
そのうえ夏型戦略原潜と晋型戦略原潜という、二種類の原子力潜水艦まで所有しているらしい。当然、原潜には日本を狙うことのできるJL-2ミサイルという射程8000キロメートルの核兵器が搭載されていて、本土の発射基地が壊された場合でも、海上のどこからでも150キログラムもの核弾頭の雨を降らせることができるのだ。
核の爆発前に迎撃ミサイルによって空中で撃ち落とすという防衛方法も論じられている。だが著者いわく、たくさんのダミーミサイルも発射されるなか、数十発の核ミサイルを全て撃ち落とすことは技術的に難しく、費用対効果も悪い。
さらに本書は、日米安保条約をも一刀両断する。
「核の傘などというものは裸の王様の服だ。人々がそこに立派な服があると言っているけれども、実はそんなものはないのだ」
だから、何が何でも核装備しなければならないのだそうだ。

本書は平和ボケに対する薬、とあとがきで著者は言う。安倍政権は防衛費を11年ぶりに増額する方針だ。
日本の兵力を拡大して、戦争への抑止力を高めるべきだというのが著者の主張である。だが、むやみな軍拡競争の果てにあるのは一触即発の緊張状態でもあることも確か。慎重を期すべき核武装論も含め、議論の端緒となる一冊だ。(HK 吉岡命・遠藤譲)

自衛隊は中国軍にボロ負けする?  より



脱亜論

2013-03-26 18:44:49 | コラム

世界の交通の道は便利になり、西洋文明の風は東に進み、到るところ、草も木もこの風になびかないことはない。西洋の人物は古代と現在に大した違いはないのだが、その活動が古代は遅鈍、今は活発なのは、ただ交通の機関を利用し、勢いに乗じるがためである。ゆえに最近、東洋の我が国民のために考えると、この文明が東に進んでくる勢いに抵抗して、これを防ぎきる覚悟であれば、それもよい。しかし、いやしくも世界中の現状を観察し、事実上それが不可能なことを知る者は、世間と共に文明の海に浮き沈み、文明の波に乗り、文明の苦楽をともにする以外にはないのである。文明は、いまだ麻疹(はしか)の流行のようなものだ。 目下、東京の麻疹は西国の長崎地方より東に進み、春の暖気と共に次第に蔓延するもののようである。 この時、流行病の害をにくみ、これを防ごうとするにしても、果してその手段はあるだろうか? 筆者は断じて、その手段はないものとする。有害一辺倒の流行病も、その勢いにはなお抵抗できない。 いわんや利益と害悪がともない、常に利益の多い文明はなおさらである。 これを防がないばかりではなく、つとめてその普及を助け、国民を早くその気風に染ませることが智者の課題である。

近代西洋文明がわが日本に入ったのは、嘉永の開国を発端とする。国民はようやくそれを採用するべきことを知り、しだいに活発の気風が生じたものの、進歩の道に横たわる時代遅れの幕府というものがあり、これはいかんともできなかった。 幕府を保存しようとすると、文明は決して入ってくることができない。なぜかというと、近代の文明は日本の旧体制と両立するものではなく、旧体制を改革すれば、同時に幕府も滅亡してしまうからである。 だからといって、文明をふせいてその侵入を止めようとすれば、日本国の独立は維持できなかった。なぜならば、世界文明の慌しい情勢は、東洋の孤島の眠りを許すものではなかったからだ。 ここにおいて、わが日本の人士は、国を重く、幕府を軽いとする大義に基づき、また、さいわいに神聖なる皇室の尊厳によって、断固として旧幕府を倒し、新政府を立てた。政府も民間も区別なく、国中がいっさい万事、西洋近代文明を採り、ただ日本の旧法を改革したばかりではない。アジア全域の中にあって、一つの新機軸を確立し、主義とするのはただ、脱亜の二字にあるのみである。

わが日本の国土はアジアの東端に位置するのであるが、国民の精神は既にアジアの旧習慣を脱し、西洋の文明に移っている。 しかしここに不幸なのは、隣国があり、その一を支那といい、一を朝鮮という。 この二国の人民も古来、アジア流の政治・宗教・風俗に養われてきたことは、わが日本国民と異ならないのである。だが人種の由来が特別なのか、または同様の政治・宗教・風俗のなかにいながら、遺伝した教育に違うものがあるためか、日・支・韓の三国を並べれば、日本に比べれば支那・韓国はよほど似ているのである。この二国の者たちは、自分の身の上についても、また自分の国に関しても、改革や進歩の道を知らない。交通便利な世の中にあっては、文明の物ごとを見聞きしないわけではないが、耳や目の見聞は心を動かすことにならず、その古くさい慣習にしがみつくありさまは、百千年の昔とおなじである。現在の、文明日に日に新たな活劇の場に、教育を論じれば儒教主義といい、学校で教えるべきは仁義礼智といい、一から十まで外見の虚飾ばかりにこだわり、実際においては真理や原則をわきまえることがない。そればかりか、道徳さえ地面を這うように残酷破廉恥を極め、なおふんぞり返って反省の念など持たない者のようだ。筆者からこの二国をみれば、今の文明東進の情勢の中にあっては、とても独立を維持する道はない。われらの明治維新のように、幸い国の中に志士が現れ、進歩の手始めとして政府の大改革を企て、政治を改めるとともに人心を一新するような活動があれば、それはまた別である。もしそうならない場合は、今より数年たたぬうちに亡国となり、その国土は世界の文明諸国に分割されることは、一点の疑いもない。なぜならば、麻疹と同じ文明開化の流行に遭いながら、支那・韓国の両国は伝染の自然法則に背き、無理にこれを避けようとして室内に引きこもり、空気の流通を遮断して、窒息しているからだ。 「輔車唇歯」とは隣国が相互に援助しあう喩えであるが、今の支那朝鮮はわが日本のために髪一本ほどの役にも立たない。のみならず、西洋文明人の眼から見れば、三国が地理的に近接しているため、時には三国を同一視し、支那・韓国の評価で、わが日本を判断するということもありえるのだ。 例えば、支那、朝鮮の政府が昔どおり専制であり、法律に従うことがなければ、西洋の人は、日本もまた無法律の国かと疑うだろう。支那、朝鮮の人が迷信深く、科学の何かを知らなければ、西洋の学者は日本もまた陰陽五行の国かと思うに違いない。支那人が卑屈で恥を知らなければ、日本人の義侠もその影に隠れ、朝鮮国に残酷な刑罰があれば、日本人もまた無情と推量されるのだ。 事例をかぞえれば、枚挙にいとまがない。喩えるならば、軒を並べたある村や町内の者たちが、愚かで無法、しかも残忍で無情なときは、たまたまその町村内の、ある家の人が正当に振るまおうと注意しても、他人の悪行に隠れて埋没するようなものだ。 その影響が現実にあらわれ、間接にわが外交上の障害となっていることは実に少なくなく、わが日本国の大不幸というべきである。

そうであるから、現在の戦略を考えるに、わが国は隣国の開明を待ち、共にアジアを発展させる猶予はないのである。むしろ、その仲間から脱出し、西洋の文明国と進退をともにし、その支那、朝鮮に接する方法も、隣国だからと特別扱いするに及ばず、まさに西洋人がこれに接するように処置すべきである。悪友と親しく交わる者も、また悪名をまぬかれない。筆者は心の中で、東アジアの悪友を謝絶するものである。

 

明治18年(1885年)3月16日
 

サムスン、狙いは実効支配  シャープに104億円出資

2013-03-22 14:03:57 | コラム

韓国サムスン電子がシャープへの出資を決めた。液晶パネルの安定調達が表向きの理由になる。だが、真の狙いは別にあるとの見方がくすぶっている。

 「これで少し未来が明るくなった」

 3月6日、韓国サムスン電子との資本提携を発表し、シャープのある幹部は、安堵の表情を見せた。

 サムスンがシャープに出資するのは約104億円。これだけでシャープの資金繰りが解決するわけではない。ただ、これから液晶パネルを安定してサムスンに供給できれば、工場の稼働率アップに結びつくという期待がある。

 シャープの大口顧客である米アップルや、アップルが生産を委託する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と、サムスンは激しく競争してきた。そのサムスンと手を組めば、アップルなどとの関係が悪化するリスクはある。

 しかし、アップルはかつての勢いを失いつつある。シャープ内部では、「今サムスンと組めば、むしろアップルを焦らせることができる」(幹部)という強気 の見通しさえある。ホンハイと進めてきた資本提携交渉は今月26日に期限を迎えるが、この交渉も先送りする方針。アップル陣営に対し、シャープは大胆な カードを切った格好だ。

 だが、サムスンがシャープが期待する通りに「救世主」となってくれる保証はどこにもない。

 シャープは今回の提携について「経営や技術に踏み込んだ内容には発展しない」(幹部)とし、サムスン側も「パネルの安定調達が主目的」(日本法人)と説明するが、サムスンにはパネル調達にとどまらない狙いがあるという見方は社内外でくすぶっている。

「丸ごとのまれる」との声も

 「これだけ工場のラインが空いているのに、安定調達のためだけにサムスンが100億円も出すとは思えない。絶対にほかの狙いがあるはずだ」と、ある技術者は本音を吐露する。

 「サムスンは世界有数のシビアな会社だ。カネも出し、パネルも引き取ってくれるなどという虫のいい話はない。技術を含めてシャープを丸ごとのみ込むのが狙いではないか」とは、ある金融筋の見立てだ。

 日本とアジアでM&A(合併・買収)に携わる専門家は、「サムスンとホンハイが共通して欲しがっているものは、シャープが持つ高精細液晶の技術」と語 る。株式市場では、サムスンが情報機器やLED(発光ダイオード)といった技術の取得を狙っているとの見方も出ている。出資に応じる見返りとして、サムス ンがシャープの経営関与や技術取得に動く可能性は残る。

 現状でも、両社の思惑は微妙にずれている。サムスンが安定調達を最も望んでいるのは、堺工場(堺市)で生産する60インチなどの大型液晶パネルだ。世界 的に大型テレビの人気が高まる中、シャープと提携することで設備投資を抑えつつ、世界首位のテレビ事業を一段と強化できる。

 一方、シャープの課題は稼働率が低迷する亀山工場(三重県亀山市)のてこ入れだ。サムスンにはタブレットやスマートフォンなどに使う中小型パネルを供給 したい。しかし、サムスンは今年になって、亀山工場で生産しているテレビ用パネルの発注を減らしている。サムスンが主導権を握る状況下で、シャープの思惑 通りに亀山工場の稼働率や収益性を高められるかは、極めて不透明だ。

 シャープは昨年から米インテル、米クアルコム、アップルなどと相次いで資本提携の交渉を進めてきた。財務体質の強化が経営再建の前提になるためだが、現 在までの取り組みを見ると、次々と交渉を持ちかけるばかりで、再建に向けた確固たる戦略が見えづらい。サムスンとの提携を株式市場はひとまず前向きに受け 止めているが、サムスンの真の狙いは、株式市場もシャープ自身すらも、読み切れていない。

サムスン、狙いは実効支配 より

 


今度こそ本気の韓国の「核武装論」 日本の核武装も認め、米国への言い訳に

2013-03-01 12:35:04 | コラム

韓国で核武装論が盛り上がる。北朝鮮が3回目の核実験を実施したうえ、韓国への「核恫喝」に乗り出したからだ。「日本の核武装を認め、自国の核保有のテコに使おう」との意見さえ韓国には浮上した。

軍事的な対処を独自に模索するしかない

 韓国紙がついに「核武装論」を社説で主張した。朴瑾恵(パク・クンヘ)大統領の就任式当日の3月25日、最大手紙の朝鮮日報は「北の核を切り抜ける新しい国家安保戦略が必須だ」との見出しの社説を掲げた。その社説の骨子は以下の通りだ。

・6カ国協議を再開しても、これまでと同様に北朝鮮に対し核兵器を持たせるための時間的余裕を与えることになるだけだろう(なぜなら周辺各国は北朝鮮の核除去ではなく、他の思惑で動いているからだ)。

・制裁が米国の軍事介入の名分となることを恐れ、中国とロシアは北への厳しい制裁は避けるべきだと言い出した。

・米国は北朝鮮への制裁を通じ「日米同盟強化」、つまり中国牽制を狙っている。

・日本は北朝鮮の核実験を機に「平和憲法見直し」に向け国内外の環境整備に乗り出している。

・北朝鮮から「最終的な破壊」と核兵器で脅迫されている韓国としては、国際協力とは別次元の軍事的・政治的な対処方法を独自に模索するしかない。

・国家と国民の保護という厳粛な課題を大統領が実践しようとするなら米日中ロに対し、我々の切迫した必要を満たしてくれない場合には我々自らが解決策をとるしかないということをはっきりと伝えなければならない。

「韓国の最終的破壊につながる」

 「核武装」という言葉は1度も使っていない。しかし、「国際協力とは別次元の軍事的・政治的な対処方法」や「我々自らが解決策をとるしかない」という文言は「核武装」以外の何物でもない。明確に核武装を訴えれば北朝鮮に核武装の名分を与えてしまうため、こうした表現を使っているに過ぎない。

 

これまで韓国人が核武装論を語る時、必ずしも本気ではなかった。「北朝鮮の核に対抗して韓国が核武装を唱えれば、日本も追従するであろう。すると日本の核武装を嫌う中国や米国が本気になって北朝鮮の核武装を抑えてくれるはず」――という「口先介入効果」が本音だった。

 

 だが、今度は本気だ。2月12日の北朝鮮の3回目の核実験は「広島級の3分の1程度の威力」を発揮したとされ、北朝鮮の核兵器が実用段階に達したことがほぼ確実になったからだ。

 

 さらに、この社説でも触れられているように北朝鮮が韓国を核で威嚇するなど、早くも「北の核保有の実害」が出始めたことも韓国の焦燥を募らせた。

 

 韓国各紙によると、ジュネーブでの国連軍縮会議で2月19日、ジュネーブ駐在の北朝鮮の一等書記官が「生まれたばかりの子犬は虎の恐ろしさを知らない」ということわざを引用しながら「韓国の軽々しい行動は最終的破壊につながる」と語った。「最終的破壊」とは核攻撃を意味し、これは露骨な韓国への威嚇と受け止められている。

 

3人に2人が核武装に賛成

 

 韓国民の3人に2人が「核武装に賛成」――。世論調査会社の韓国ギャラップは2月20日、こんな調査を発表した。調査時点は3回目の核実験の翌日の13日から15日。「北の核威嚇」以前だが「我々も核兵器を保有すべきか」との質問に対し64%が賛成し、反対した人は半分以下の28%だった。

 

 ただ、「北の核実験は脅威か」に関しては76%が「脅威だ」と答えた半面、「脅威ではない」とした人も21%いた。調査時点では北朝鮮は「核ミサイルは対米用」とだけ宣伝していた。もし、韓国への核威嚇の後に調査したら「脅威だ」という認識と「核武装すべきだ」という意見がもっと増えていた可能性が高い。

 

 韓国の民間研究所、峨山政策研究院も北朝鮮の核実験を受けて同じ期間、世論調査を実施した。それによると、66.5%が「韓国も核兵器を開発すべきだ」と答え、「核兵器開発に反対する」の31.1%の2倍に達した。

 

 しかし、「有事の際には北朝鮮の核施設を先制攻撃すべきか」との問いに対しては「戦争の可能性があるので避けるべきだ」という回答が59.1%を占め、「すべきだ」の36.3%を大きく上回った。ただ、この質問も「核威嚇後」に聞いたら、回答の比率は相当に変わったに違いない。

 

韓国の核武装論を必死で抑える米国

 

 こうした韓国の「空気」の変化を見てのことだろう、米国は必死で韓国の核武装論を抑え込み始めた。20日、ソン・キム駐韓米大使は核武装論について「韓国がそのような行動をとれば大きな失敗を犯すことになる」と財界団体の集まりで述べた。

 

 キム大使は「そのような行動は朝鮮半島非核化に向けた(米韓)共同の努力を阻害する」とも語り、韓国の核武装が北朝鮮の核武装に名分を与え、非核化の放棄を意味することを指摘。さらに「重要なことはもっとも強力な抑止力をいかに維持するかだ」と述べ、米国の核抑止力を信頼するよう呼びかけた。

 

 ただ、この説得が韓国人を十分に納得させたかは疑わしい。北朝鮮が米国まで届く長距離ミサイルを持った今、米国が自国への核攻撃のリスクを甘受しつつ北朝鮮の核基地を攻撃してくれるか、100%信頼できないからだ。

 

 1年前、米大統領の国家安全保障担当補佐官を務めたブレジンスキー氏が新著の中で「米国の衰退により、日本や韓国は米国の核の傘を期待できなくなる。日韓両国は新たな核の傘を求めるか、自前の核武装を迫られる」と書いて、韓国人にショックを与えたこともある(「『中国に屈従か、核武装か』と韓国紙社説は問うた」参照)。

 

米国の核の傘は破れた

 

 日本のメディアがこの本に全く関心を払わなかったのに対し、韓国各紙は一斉にとりあげた。韓国人は米国の核の傘が本当に機能するのか、真剣に見守っているのだ。

 

 19日、与党・セヌリ党の大物議員、鄭夢準(チョン・モンジュン)氏は自身が理事長を務める峨山政策研究院の主催した核フォーラムで「米国の核の傘は破れた傘だ。それを直さねばならない」と演説した(中央日報2月20日付)。鄭夢準氏は「破れた傘」との表現で米国の核の傘が機能するかに疑念を呈したうえ、持論の核武装を改めて主張したのだ。

 

 これに対し1993年の第1次北朝鮮核危機当時、米国務次官補を務めたロバート・ガルーチ米マッカサー財団会長は「そのような表現には同意しがたい」と反論。

 

 「米韓同盟に基づいて韓国に核の脅威を与えるどの国に関しても米国は核抑止力を提供するという確固たる意思は今も変わらない。韓国を核攻撃した場合、米国の核報復が必ずあることは北朝鮮を含むすべての国が知っている」と核抑止力が依然として健在であると強調した。

 

米韓同盟を打ち切るぞ

 

 韓国の核武装に対する米国の「抑止力」は2つある。まず、米韓原子力協定により、核兵器の原材料となるプルトニウムや濃縮ウラニウムを韓国には持たせないようにしていること。ただ、「韓国は決意すれば6カ月で核兵器を完成する能力がある」(中央日報2月22日付「核武装論、得失を探ると」)。

 

 もう1つの抑止力は、もし韓国が核兵器開発に踏み切れば「米韓同盟を打ち切る」あるいは「経済制裁する」との脅しである。朴正煕政権末期、韓国は密かに核・ミサイル開発に邁進した。

 

 それを察知した米国は核兵器研究を中止させる一方、ミサイルの射程に歯止めをかけた(「『ミサイルの足かせ』はずそうと米国に『NO!』と言う韓国」参照)。韓国を従わせたのはもちろん、「米韓同盟を打ち切っても、あるいは経済制裁してもいいのか」という脅しだった。

 

核武装したインドと米国は関係を改善した

 

 このため「韓国が核武装するには米国と決別し、米韓同盟を破棄する決意があって初めて可能」と韓国人は信じてきた。だが、北朝鮮の第3次核実験の後、保守派は前面突破論を主張し始めた。

 

 保守派のイデオローグである趙甲済氏は自身のウェブサイトに「韓国の核武装はなぜ可能か」という記事を載せた(2月18日)。要約すると以下の通りだ。

 

・韓国は交戦相手のテロ集団から核兵器で挑発されており、核兵器による正当防衛の権利がある。「北朝鮮が核を放棄すれば我々も放棄する」と約束して核開発すれば、米国民の支持を得られる。

 

・米韓FTAと米韓同盟により、米国は韓国に対し経済制裁を下すことができない。

 

・韓国の国力と戦略的価値の大きさから、核兵器を持った韓国に経済制裁できる国はない。

 

・インドは核実験の後、米国と親密になった。米国は中国を牽制する役割をインドに見いだしたからだ。

 

(注)この記事は日本語でも読める。URLはこちら

 

 趙甲済氏の強硬策を果たして米国が受け入れるのか、判断は難しい。しかし、韓国内でこの主張に賛成する人は急速に増えると思われる。北朝鮮が核兵器を持ったうえ、それを持って脅してくるという厳しい現実に直面したからだ。そして「これだけ国力を付けた以上は、もう昔のように米国の思い通りにならないぞ」との思いも韓国に高まっているからだ。

 

韓国保守派が勧める「日本も核武装を」

 

 興味深いのは、保守派が核武装を主張する際に「日本の核武装」にしばしば触れ、肯定的に受け止めるよう韓国民に訴えることだ。

 

 「日本が核武装に動けば米国や中国が焦って北朝鮮の核武装を本気で阻止する」という期待からだけではない。最近は日本が「核保有に動く」だけでなく「本当に保有する」ことを歓迎する空気も出てきた。

 

 活字ではまだ、あまり書かれないが、韓国の核保有論者が日本の保守派に対しそう語ることが増えた。「核拡散に対する米国の反対」をまず、日本に突破させることにより、韓国は容易に核武装できるようになる、という計算だ。

 

 いくら保守派とはいえ、核コンプレックスの強い日本人は韓国保守派の「核武装の勧め」に驚く人が多い。でも、確かに「米国の核の傘」が日本に対してだけ破れていないという保証はない。

 

 ことに日本は、北朝鮮だけではなく中国の核ミサイルにもしっかりと狙われている。そして中国に近い日本人が「尖閣という小さな島を守るために、中国から核ミサイルをワシントンやNYに撃ち込まれるリスクはとりませんよ」とささやき始めてもいる。今度こそ本気の韓国の核武装論は日本にも必ずや影響するに違いない。

今度こそ本気の韓国の「核武装論」 より


「人民日報」が断言していた「尖閣諸島は日本のもの」

2013-02-22 13:06:06 | コラム

 前回の記事では、「中華民国」国民政府の主席である蒋介石が、かつて尖閣諸島の領有を放棄した事実と、それを中国共産党が自らのメディアで公開していることをお知らせした。

 これに関して、「そんなことをいっても、現在の中国(中華人民共和国)は、『あれは中華民国の主席が言ったことであって、中国とは関係ない』と言われるのがオチだ」という主旨のコメントをいただいた。

まずちょっとだけ解説を

 この点に関して少しだけ説明をさせていただきたい。

 中国は「一つの中国」を大前提として1971年に国連に加盟した。日本やアメリカ合衆国と国交正常化をするときにも必ず「一つの中国」を条件とし た。「一つの中国」とは主として「台湾を中国の不可分の領土」とする立場を意味し、「中華人民共和国」を唯一の「中国」を代表する国家である、とする言葉 だ。

 その根拠に関して、2004年3月14日、温家宝首相は全人代(中国の国会に相当)の後、次のように述べている。

 

中国が台湾に対して有している主権は、「カイロ宣言」および「ポツダム宣言」において明確に規定されている。

 

カイロ宣言、ポツダム宣言で中国を代表する立場にあったのは、蒋介石である。

 つまり中国は、かつての「中華民国」の主席(のちに総統)であった蒋介石が発言した「カイロ宣言」を基軸として領土問題を主張しているのである。 だからこそ、2012年9月27日、中国の楊外交部長もまた尖閣諸島(釣魚島)の領有権を主張する際に、この「カイロ宣言」と「ポツダム宣言」に根拠を置いた。

 この基礎知識を共有していないと、「カイロ密談」の舞台裏を発掘した意義はご理解いただけないだろう。ご迷惑をおかけした。

 気になったのは「何を言ったところで、中国はなんだかんだととぼけたり難癖を付けてまともに対応しないだろう」という声の意外な多さだ。「無益な 論争に巻き込まれるのはムダだ」という態度は理解できないではないが、しかしそれなら私たちに何ができるだろう。ただ武力衝突を待つのか、それとも日本の 軍備を強化するのか。いずれにしても行きつく先は戦争か日本の敗北だ。それを招かないようにして次世代を守っていくために努力するのは、筆者は無駄なこと ではないと思う。

 気楽な読み物としてはしんどい、ということならばお詫びするしかないが、私も、そして多くの読者の方々も、真剣に日本を守りたいと思ってこのページをご覧いただいていると私は信じたい。そのためにも、疑問にはできる限りお答えしていくつもりだ。

 コメントの中には「カイロ密談」の信憑性を疑うものもあった。これに関しては次回の記事で、アメリカ公文書館にあった議事録をご紹介することを予告しておこう。

 さらに「カイロ密談」において琉球群島(=沖縄県)を論じる時に「尖閣諸島」が「台湾の所属か」それとも「沖縄に帰属するのか」が問題となるというご意見もあるだろう。

 「尖閣諸島は沖縄県に所属し、沖縄県は日本の領土である」ことに関して、「カイロ密談時」では微塵も疑問がもたれなかった。日清戦争の講和条約で ある下関条約の時にも「尖閣」も「琉球(沖縄)」も、台湾に属する可能性については一切言及されていない。その議事録を発掘し、それを拙著『チャイナ・ ギャップ 噛み合わない日中の歯車』で資料付きで説明している(p.158)。疑問を抱かれる方は、そちらをご覧いただきたい。

現在につながる中国政府はどう発言してきたか?

 さて、国民党政府が領有を否定したという事実は事実として、では1949年10月1日に誕生した中華人民共和国(以下、中国とのみ表記)は、「尖閣諸島」を含んだ「琉球群島」を、どのように位置付けていたのか。今回はこれがテーマだ。

 結論を先に述べる。

 中国は「尖閣諸島」を中国流の「釣魚島」と呼ばずに日本流に「尖閣諸島」と呼称し、かつ「琉球群島(沖縄県)に帰属する」と定義している。また琉球群島に関して「いかなる国際協定も琉球群島が日本から脱離すると言ったことはない」(日本に帰属することを否定したことはない)とさえ言っている。これ はつまり「尖閣諸島は中国のものではない」と中国政府が断言していたことを証明するものである。

 この発言は、中国共産党の機関紙である「人民日報」が何度も載せている。また「人民日報」だけでなく、毛沢東自身も明確に「沖縄県は日本の領土」と言明し、そのときに「尖閣諸島」を除外していない。その記録も含めてご紹介する。

【典拠1】1953年1月8日付け「人民日報」

 「人民日報」には昔から「資料」という欄があった。一般の記事や社説とは別に、あまり社会現象を知らない人や、何かしらの話題となっているトピックスに関して、別枠で解説する「親切欄」だ。

 1953年1月8日付の「資料」欄には「アメリカの占領に反対する琉球群島人民の闘争」と言うタイトルの解説が載った。

『チャイナ・ギャップ』p.131の資料5より
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 この「資料」欄の最初の部分には以下のようなことが書いてある。

 

琉球群島は我が国・台湾東北と日本の九州西南の海面上に散在しており、尖閣諸島、 先島諸島、大東諸島、沖縄諸島、大島諸島、トカラ諸島、大隅諸島等を含む、七組の島嶼(とうしょ)から成る。

 

 このように定義した上で、「アメリカ帝国主義の占領に対して琉球人民が抗議し闘争している」ことを紹介している。そして「琉球人民よ、頑張れ!」と「エール」を送っている。

 中国流の呼称である「釣魚島」を使わず日本的呼称の「尖閣諸島」を用いて表現し、かつ「尖閣諸島」を「琉球群島」の領土として定義しているのである。

 これは「尖閣は日本の領土」と認めているということだ。

 事情に詳しくない人たちのために解説してあげる「資料欄」に書いてあるのだから、論説委員たちの総意を反映しているはずである。なんと言っても中国共産党の機関紙なのだから。

 いま中国では、「これは単なる資料であって、中国政府の見解を示したものではない」という弁明が数多く聞かれる。中国のネット空間には「日本はいよいよ日本の領土であると主張する根拠が無くなったので、ついには藁(わら)をもつかむような気持ちで古い『人民日報』の揚げ足を取り始めた」という書き 込みもある。

 しかし、この「資料」が、どれほど当時の社会状況を如実に反映したものであるかは、これも拙著『チャイナ・ギャップ』で詳述した。私はそのとき天津の小学校にいたので、授業で教わり、また毎日歌わされた歌が、覆せない事実として残っている。その頃の歌集(1952年5月出版)を日本に持ち帰ってお り、それも資料として拙著に貼り付けてある(p.133)。

 概略を述べると、要は1950年6月25日から始まった朝鮮戦争によりアメリカが対中包囲網を形成した。これに反発して「アメリカ帝国主義憎し」 の雰囲気が中国全土を覆い、「アメリカ帝国主義を打倒せよ!」というスローガンが叫ばれた。その勢いが高じて出されたのが、この解説欄の記事だ。中国社会の実像を反映していると筆者は確信している。

中国のネットにあふれた悲鳴

 実はこの日の「人民日報」は中国でも閲覧できる。5億4000万人を超える網民(ネット市民、ネットユーザー)の中の一人が、これを見つけた。2010年4月6日のことだった。

「ウソだろう――っ?!」
「ああ、絶句!」
「売国奴は誰だ?」
「ぼくたちはいつもこうして騙されてるんだよ」
「おい、GCDよ、回答しろよ!」(GCDとはGong-Chan-Dang、「共産党」の中国語発音を表したネット上の隠語である。削除から免れるために考え出された隠語の一つ)

 といった類の書き込みが中国のネットに出始めた。そのサイト(中国歴史-「鉄血社区」)には「1953年1月8日」の「人民日報」の記事と、 1958年11月に中国北京地図出版社から出版されたと投稿者が注記している『世界地図集』の中の「琉球群島」などが載っていた(リンクはこちら)。

 衝撃を隠せない書き込みが一瞬ネットに溢れたが、そのほとんどは削除された。中にはURLはそのままに内容が全く別の物に書き換えられ、地図の文字が繁体字だったり、横書きなのに右から書いてあったり、図形まで赤線で書き換えられているものもある。

 私は辛うじて二つのページをダウンロードしていたので、今、なんとか正確なことが書けるのだ。

 この「人民日報」に関して次に書き込みが現れたのは2010年9月15日。

 そして2012年8月17日になると再び本格的にこの「人民日報」報道が問題になり、中国網民の書き込みが日本語に訳されて日本語のネット上に載ったので、多くの日本人の知るところとなった。したがってご存知の方もおられるかもしれない。

 では続いて、中国建国後、二度目の「琉球群島」に関する「人民日報」の記事を見てみよう。

【典拠2】1958年3月26日付け「人民日報」

 1958年3月26日付の「人民日報」には「無恥なる捏造」という見出しの「社説」が載っている。書いたのは「本報評論員」とあるので、「人民日報」の評論員だ。日本語流に言えば「論説委員」。現場で最も高い職位の者が書いた社説である。

 そこに書いてある内容の趣旨は「中国が琉球群島に対する領土主権を絶対に放棄しないという情報は、アメリカ人が捏造したデマである」というものだ。

(『チャイナ・ギャップ』p.140)
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 「無恥なる捏造」とは次のことを指している。58年3月26日「人民日報」の記事の一部を転載する(日本語訳:筆者)。

 

占領者アメリカは、沖縄民主勢力の選挙活動を破壊し選挙民の反米感情を和らげるために、いろいろな陰謀を企て多くの手段を用いてきたが、その中でも最も卑 怯で恥知らずなのは、選挙前日北京ラジオ局の名義で虚偽のラジオ放送を行ったことである。この他人の名前を騙(かた)ったデマ宣伝によれば、中国外交部の スポークスマンが「中国は絶対に琉球の主権を放棄しない」と言っているというのだ。これは明らかに悪辣な挑発で、目的は沖縄人民が沖縄を日本に帰せという 強烈な情熱に打撃を与えようというものである。

(※新聞記事を忠実に訳しているので、少々わかりにくいかもしれない。もう少し自由に筆者の文章で説明を加えると、この記事の背景はこういうことだ。

 沖縄県民は沖縄を爆撃し占領している米国への反発が強かった。そこで「沖縄を日本に復帰させよ」という県民の要望と、米軍基地を拡大させる米国に 対する反米感情をくじくために「米国に逆らっていると中国に占領されてしまうぞ」というデマを米国が流している、というものである。「中国が絶対に琉球を 放棄しない」ということが真実であるのを証明するために北京ラジオ局の名を使って偽の放送をした。そのことに対する中国側からの抗議が、この記事だ)

 

この記事の信憑性を証明するために、中国のネット言論(2010~12年)はさらに1951年における「琉球群島と小笠原群島を含めたこれらの島嶼 (とうしょ)に関して、過去におけるいかなる国際協定の中においても、日本に所属しないと規定したことは一度もない」、つまり「これらの島嶼は完全に日本 のものだ」という趣旨の周恩来の声明をも引き出してしまった。

周恩来が米国を意識した発言の中で…

 これはどういうことかというと、1958年3月26日「人民日報」の社説「無恥なる捏造の中に、以下のような記述があるのである。

 

我が国の周恩来首相は、1951年8月15日に米英対日講和草案およびサンフランシスコ会議の声明に関して″(という発言)において、「アメリカが 琉球群島や小笠原群島に対して?委託管理権″を持っているという言い方に反駁するときに、われわれは?これらの島嶼(とうしょ)は過去のいかなる時におい ても、またいかなる国際協定においても、日本から脱離すると規定されたことはない″と言ってきた。

 中国赤十字会代表団の副団長・廖承志が昨年訪日したときも函館市民による歓迎大会の挨拶の中で、やはり同じように中国人民は日本人民が沖縄を日本 に返還させる闘争を支持すると表明した。我が国の新聞は過去において関連の評論を発表してきたが、どんな時でも常に沖縄人民が生存と民主を争奪するために 沖縄を日本に返還すべきであるという要求を出して闘っていることに対して、(我が国は)同情と支持を表明してきた。

中国政府と中国人民のこういう公明(中国語は光明)正大な態度は、他国の領土を侵略するアメリカ帝国主義が陰でコソコソとデマをまき散らすようなやりくちによって、その(光明盛大な)光が覆われることは絶対にない。(中略)

 沖縄の立法院の選挙結果は、明らかに沖縄が(アメリカの)核武器基地になることに反対しており、沖縄を日本に返還せよという沖縄愛国民主の力が、 さらなる進歩を遂げたことを示している。沖縄人民が一致団結して闘争を進めていけば、彼らは必ず彼らの目的を達成できると、われわれは信じている。

 

 2012年8月17日の中国語版ツイッター「微博」(マイクロ・ブログ)には、次のような皮肉が書き込まれた。

思うに、あの保釣連盟の人たちは、五星紅旗や青天白日旗を(尖閣諸島に立てるのではなく)、人民日報の総本部に立てに行った方がいいんじゃないか? そうしてこそ正しい行動だと私は思うんだよ。

 

この書き込みは多くの網民の拍手喝さいを浴び、もちろんすぐに削除された。

 書き込みにある「保釣連盟」とは「釣魚島を守ろう」という中華民族の人たちが民間レベルで結成している聯盟のことである。ここで「中華民族」と書 いたのは、実はこの連盟に参加して活動している者たちは中国政府に対して「反政府的思想を持った者」が多く、大陸よりも香港や台湾の人たちが多いからだ。 「青天白日旗」は「中華民国」の国旗である。

 ネットにはさらに「人民日報」を

 

自分が過去に何を言ったかを一切覚えていない新聞?

自分の「喉と舌」が何を言ったかを一切覚えていない大脳。

 

といった書き込みもある。「喉と舌」というのは「人民日報」に対する蔑称で、人民はこの新聞を「党と政府の喉と舌」と呼んでいる。「記事の内容で正しいのは日付だけだ」という言い方もある。

毛沢東の発言

【典拠3】1961年6月22日――毛沢東が沖縄県を日本の領土と認める

 1961年6月13日から22日にかけて、日本共産党の国会議員訪中代表団(団長:志賀義雄)が訪中し、毛沢東らに会ったことが、中国政府あるい は中国共産党などの複数のウェブサイトに載っている。この会談では「沖縄が日本の県である」ということが声明文で明記されている。

 しかも声明文は、最も近い日付では2010年5月28日の「中華人民共和国国史網」に載っているので、これらの詳細をご紹介する。

1:まず「中華人民共和国国史網」(The Histry of the People’s Republic of China、HPRC、リンクはこちら)から。

タイトル:中日両国人民はアメリカ帝国主義に反対する共同闘争を強化しよう 中国側出席者:毛沢東(中共中央委員会主席)、劉少奇(国家主席)、周恩来(国務院副総理)

  この記事の中ほどに、毛沢東が言ったとする次の言葉が載っている。

 

軍事上、アメリカは日本をアジアに対する不沈航空母艦とみなして、5万人の在日米軍 を保持し、2百個以上の軍事基地を保有して、日本の領土である沖縄と小笠原群島を覇 権的に占領し、かつ日本の“自衛隊”を扶植拡大して、アメリカの極東における作戦軍 事力と位置付けている。

 

 「尖閣諸島が明記されていないのでは」と考える方もいるだろうが、前述の【典拠1】にある通り、1953年1月8日の「人民日報」は尖閣諸島を琉 球群島(沖縄県)の所属と定義づけており、これは1971年10月に国連に加盟するまで正式には覆したことがない。また2010年の反日デモでは、「琉球 は中国のもの。琉球を返せ」と叫ぶ若者さえ現れている。今後もそういうことがあるといけないので、その領有権は明白ながらも、この記事は注目に値する。

 この同じ記事の終わりの方には、次のような記述もある。

 

中国人民は日本人民が米軍の日本からの撤去を要求していることを支持し、米国が日本の軍事基地を撤去させ、沖縄と小笠原群島を日本が取り戻し、日本の独立と民主と和平と中立を闘い取る正義の闘争を支持する。

 

 ここでも沖縄が日本の領土であることを明確に認め、しかも琉球ではなく沖縄という言葉を用いて日本の主権を明示していることは注目に値する。

2:中国政府の「網(サイト)」の一つである「中国人大網」(人大は全人代のこと)から。

「中国人大網」自身のURLは http://www.npc.gov.cn で、この記事が載っているURLは http://www.npc.gov.cn/wxzl/gongbao/2000-12/25/cntent_5000768.htm だが、このページは不安定で、うまくアクセスできる時とできない時がある。

 URLの中にある「gongbao」というスペリングは「公報」の中国語読み。つまり「全人代公報」として出されたものと思われる。このページに は記事を公開した日時が書かれていない。おそらくURLの中にある「2000-12/25」が、それに相当するのではないかと思う。ということは、 2000年になってもなお、中国政府が「沖縄は日本の領土」ということに関していかなる疑義も挟んでいないことの証左となる。

「沖縄県は日本の領土」になんら注釈なし

 その沖縄には、日本の法規により当然ながら尖閣諸島が入っているので、注釈付きでなく中国政府網が「沖縄は日本の領土」として認めていることは、すなわち「尖閣は日本の領土」として認めていることになる。

タイトル:中華人民共和国全国人民代表大会と日本共産党議員訪中代表の聯合声明

 声明発布日時:1961年6月22日

 署名者:彭真(中華人民共和国 全国人民代表大会代表団団長)
     志賀義雄(日本共産党 国会議員訪華代表団団長)

 署名場所:北京

 出席者:毛沢東、劉少奇、朱徳、周恩来、彭真等(中国側)
     志賀義雄等の訪中代表団(日本側)

 書かれている声明文の内容はほぼ1と同じなので、ここでは省略する。

 なお、2と完全に同一の形での記事は、たとえば杭州市浜江区司法局のウェブサイトにもある(こちら)。比較的アクセスが安定しているので、確かめたい方はこちらを試していただきたい。

【典拠4】1972年5月15日――沖縄は日本の県

 2009年5月14日付の「中央政府門戸網站」という中国中央政府のウェブサイトに、1972年5月15日に沖縄が日本に返還された記事を載せている。

 これは「5月15日は何の日か」というシリーズの記事で、ページの頭には真っ赤な下地に黄色い大きな文字で「中華人民共和国中央人民政府」とある。完全な政府網だ(リンクはこちら)。

 このページには次のような記事がある。

 

1972年5月15日、アメリカは沖縄を日本に返還することを決めた。但し(アメリカは)沖縄にはなお(米)軍を駐留させることにしている。沖縄は古くは 琉球と呼ばれていた、日本の一つの県だ。日本列島の最南端に位置し、60以上の多くの島嶼から成り立っている。沖縄はその中の最も大きな島嶼だ。1945 年6月、第二次世界大戦が終わろうとしていたときに、米軍は沖縄を占領し、極東の重要な米軍軍事基地の一つにした。

 

 このように、2010年9月、民主党政権において中国漁船衝突事件に関し船長らを逮捕送検するまで、中国政府自身が沖縄を日本の県として明確に認めているので、反日デモで沖縄(琉球)まで「本来は台湾のものだから、したがって中国のもの」と叫ぶ若者に対しては、「論争以前の問題」と言ってあげるしかない。

中国の自己矛盾を見逃すな

 この「沖縄県」を定義するときに、中国政府とて「釣魚島を除く」とは書いてないことは注目に値する。

 「釣魚島は中国の領土」と言い始めるのは1970年1月~2月に在米台湾留学生が「琉球は台湾の領土」というデモを米国で始めてからである。これ は69年11月の日米首脳による沖縄返還共同声明がきっかけだった。それはやがて、68年10月~11月のECAFE(国連アジア極東経済委員会)が尖閣 のある東シナ海海底に石油資源が埋蔵しているという報告と結び付いて「釣魚島(台湾では釣魚台)は台湾のもの」という主張に変わっていく。

 中華人民共和国が「釣魚島は中国のもの」と公式の場で言い始めるのは国連に加盟してから2カ月後の71年12月のことである(『チャイナ・ギャッ プ』p.104時系列参照)。しかも主張の根拠は「台湾は中国のものだから、台湾が釣魚島は台湾のものと言うのならば、それは中国のものである」という論 理展開なのである。

 つまり1895年に明治政府が尖閣諸島を沖縄県に編入すると閣議決定してから1971年まで、中国は釣魚島(尖閣)を琉球(沖縄)から切り離して論じたことはない。「中華民国」の蒋介石は「(尖閣を切り離さずに)沖縄は要らない」と言っただけだが、中華人民共和国は自ら積極的に「尖閣は沖縄に所属 し、沖縄は日本の県である」と明言していたことを、私たちは見逃してはならない。

 

「人民日報」が断言していた「尖閣諸島は日本のもの」 より


中国共産党も知っていた、蒋介石が「尖閣領有を断った」事実

2013-02-14 13:46:14 | コラム

 中国が尖閣諸島の領土主権を主張する最大の根拠は何か。

 一つは日本が日清戦争時代(1894~95年)に、清王朝が弱体化したことを良いことに、「ドサクサ」にまぎれて釣魚島(尖閣諸島)を清国から不当に奪ったというものである。

 もう一つは2012年9月27日に中国の外交部の楊潔篪部長(外相)が、国連総会で述べた根拠である。それは「第二次世界大戦後、『カイロ宣言』と『ポ ツダム宣言』などの国際文書に基づいて、釣魚島を含む島嶼は、日本に占領されたその他の中国領土と共に中国に返還された」というものだ。中国共産党の機関 紙「人民日報」の日本語版が伝えている。この表現は同紙のウェブサイトからダウンロードした(リンクはこちら)。

 ところが、この二つとも事実とは全く逆であることを証明する決定的な情報があった。

 しかも、その情報は中国共産党の「中国共産党新聞網」(網はこの場合ウェブサイト)、および中国政府の新聞である新華社の「新華網」が載せていた(リンク先参照)ことを、このたび発見した。現在の中国政府の主張と、彼らが(と言っていいだろう)自らのウェブサイトに載せている情報は完全に相反し、決定的に矛盾する。

 記事のタイトルは「蒋介石后悔拒収琉球群島」(蒋介石は琉球群島を領有するのを拒んだことを後悔した)で、発表されたのは2008年1月16日。中国の 雑誌「各界」に王幸福という人が書いたものを転載したようだ。その評論を胡平という人が隔週の雑誌「中国人权双周刊」第86期(2012年8月24日-9 月6日)に出していることから、筆者はこの情報を知るに至った。

「カイロ会談」での蒋介石とルーズベルトの密談

 この記事で語られているのは、1943年12月23日から25日にかけて行われた「カイロ密談」の内容とその舞台裏だ。

 今回は、ここに書かれている「カイロ密談」の舞台裏を読み解くことによって、尖閣問題の解決を握るカギを模索したい。

 1943年12月1日に日本の戦後処理を巡って連合国側から「カイロ宣言」が出されたことは周知のとおり。後のポツダム宣言のひな形はここで作られた。 しかし、その宣言が出される前に当時の中国、すなわち「中華民国」の蒋介石主席とアメリカ合衆国のルーズベルト大統領との間に交わされた機密会談を知る人は、戦中・戦後史の研究家を除けばそう多くはない。イギリスのチャーチル首相は参加せず、蒋介石とルーズベルトの二人だけによる、完全な密室会談だ。

 中国のウェブサイトの記事の内容は「アメリカのルーズベルト大統領が中華民国国民政府の蒋介石主席に『日本を敗戦に追いやった後、琉球群島をすべて中華民国(中国)にあげようと思うが、どう思うか』と何度も聞いたのに、蒋介石が断った」というものである。

琉球群島を巡る権力者の生々しいやりとり

 現在の日本人にとってはルーズベルトの発言はショッキングだろう。「戦後の体制を、米英中ソの四カ国で固めよう」と考えたルーズベルトが、中国の大国化 を支援するために気前の良い提案をした、とされるが、ここでは置く。この記事の前半、「米中で琉球群島を共同管理しよう」という提案の部分までは一定程度 知られている内容だ(※『日米戦争と戦後日本』五百旗頭真著、講談社学術文庫などを参照)。

 しかし、中国のこの二つのウェブサイトに掲載された内容には「蒋介石がルーズベルトのオファーを断り、断った後に、ひどく後悔し、絶対に口外するなと部下に口止めをした」といった内部情報が生々しく書いてある。この「拒絶と後悔」および「口止め」の部分は、私が知る限りこの時点までは公になっていなかっ た。中国国外でも、これに注目した動きはなかったようだ。

 今回の「カイロ密談の舞台裏」に基づいて今日の尖閣問題を読み解く試みは、何よりもこの情報が中国共産党と中国政府のウェブサイトに書いてある、ということがキーポイントだ。

 詳細は2月20日に発売される『チャイナ・ギャップ 噛み合わない日中の歯車』で述べている。版元の都合を言えば発売後に公開したいところではあろうが、尖閣諸島を中心とした東シナ海情勢が危険な水域に達し始めたので、思い切ってここで公開させていただく。

 以下、二つのウェブサイトに載っていた内容をご紹介する(訳は筆者)。

 

 

 

 1943年11月23日夜、蒋介石は王寵惠(おうちょうけい=蒋介石の部下:筆者注)を伴ってルーズベルトと単独会談を行い、日本が収奪した中国の土地は中国に返還されるべきであるという四項目の要求を提出した。

 蒋介石の要求に対して、ルーズベルトはすべて同意した。ルーズベルトはさらに「日本が発動した侵略戦争は中国人の生命財産に大きな損害を与えている。中国の要求は合理的である」と言った。

 日本が太平洋で占拠した島嶼(とうしょ)の剥奪に関して話が及んだ時に、ルーズベルトは琉球群島を思い出した。彼は蒋介石に「琉球群島は多くの島嶼に よって出来上がっている弧形の群島である。日本はかつて不当な手段でこの群島を争奪した。したがって(日本から)剥奪すべきだ。私は、琉球は地理的に貴国 に大変近いこと、歴史上貴国と緊密な関係があったことを考慮し、もし貴国が琉球を欲しいと思うなら、貴国の管理に委ねようと思っている」と語った。

 ルーズベルトの提案があまりに唐突だったので、蒋介石にとっては予測がつかなかったし、またどう答えていいか分からなかった。しばらくして、蒋介石はようやくルーズベルトに次のように答えた。

 「私はこの群島は中米両国で占領し、その後、国際社会が中米両国に管理を委託するというのがいいかと思います」

 蒋介石のこの言葉を聞いて、ルーズベルトは「蒋介石は琉球群島を欲しくないと思っているのだ」と解釈し、そのあとは何も言わなかった。

 ところが、43年11月25日、蒋介石とルーズベルトが再び機密会談をした時に、またもや琉球群島のことに話が及んだ。

 ルーズベルトは言った。

 「何度も考えてみたのだが、琉球群島は台湾の東北側にあり、太平洋に面している。言うならばあなた方の東側の防壁に当たる。戦略的位置としては非常に重 要だ。あなた方が台湾を得たとして、もし琉球を得ることができなかったとしたら、安全上好ましくない。もっと重要なのは、この島は侵略性が身についている 日本に長期的に占領させておくわけにはいかない、ということだ。台湾や澎湖列島とともに、すべてあなたたちが管轄したらどうかね?」

 ルーズベルトが再びこの問題を提起したのを見て、蒋介石は「琉球は日本によってこんなに長きにわたって領有されているため、もともとカイロ会談で制定さ れた提案には、琉球を含んでいない(筆者注:カイロ宣言のために提案した文書の中では、「中華民国」に返還されるべき領土の中に琉球群島は含まれていな い。なぜなら琉球は長いこと日本が領有しているので日本固有の領土だと思っていたから、という意味)」と思っていたので、何と答えていいか分からなかっ た。

 ルーズベルトは蒋介石が何も答えないのを見て、もしかしたら聞こえてないのかと思って、さらに一言付け足した。

 「貴国はいったい琉球を欲しいのかね、それとも欲しくないのかね。もし欲しいのなら、戦争が終わったら、琉球を貴国にあげようと思うのだがね」

 蒋介石はようやくその前の質問のときと同じように「琉球の問題は複雑です。私はやはり、あの考え、つまり米中が共同で管理するのがいいのではないかと……」とあいまいに答えた。

 ルーズベルトはここで「そうか、蒋介石は本当に琉球群島が欲しくないんだ」と思った。と同時に、蒋介石のこの反応を不思議だとも思った。

 最後にルーズベルトは「米中両国で共同出兵し、占領してはどうか」と持ちかけたのだが、蒋介石はそれでもやんわりと断っている。

 

 

――といった内容だ。

東シナ海の地図が決まった瞬間

 東シナ海を巡る世界地図はこうして、この瞬間に決まった、と言ってもいい。

 1943年12月1日に出された「カイロ宣言」には以下のような文言がある。なお、文中にある「同盟国」というのは第二次世界大戦で日本・ドイツ・イタリアと戦った連合国側を指す。

●同盟国の目的は日本国が1914年の第一次世界戦争開始以降に奪取または占領した太平洋における一切の島嶼を剥奪すること、および満洲,台湾および膨湖島の如き、日本国が清国人(中国)より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することにある。

●日本国はまた、暴力および貪欲により日本国が略取した他の一切の地域から駆逐されなければならない。

●(カイロ会談に参加した)三大国が朝鮮の人民の奴隷状態に留意して朝鮮を自由かつ独立国家とさせることを決意する。

●日本国と交戦している諸国と協調して日本国の無条件降伏を目指すこと。

 この宣言はあくまでもコミュニケに過ぎないが、しかしここで宣言された内容自体は1945年7月26日に出された「ポツダム宣言」に受け継がれている。 日本との終戦協定であるサンフランシスコ平和条約にも、このポツダム宣言が盛り込まれているので、カイロ宣言はサンフランシスコ平和条約の中で生きている ことになる。

 重要なのは、ここに書かれた「一切の島嶼」「一切の領域」の中に、「琉球群島」は含まれてないことが、「カイロ密談」で明確になったということだ。琉球 群島とは言うまでもなく沖縄県のこと。1895年の時点で、尖閣諸島は沖縄県に編入されていた。その沖縄県を「中国にあげるよ」とルーズベルト大統領が蒋 介石に言ったのに、蒋介石は再三にわたって断っているのである。

 なぜか――。

共産党との戦いを優先した蒋介石

 様々な理由が考えられる。私は、国民党の蒋介石は日本と新たな摩擦を起こすより、毛沢東が率いる中国共産党を倒すことに全力を注ぎかったかたらではないかと思う。

 ちなみに中国の二つのウェブサイトは、この部分の記述に関して「日本を恐れるあまり、二度も断る」という小見出しがついている。

 国民党と共産党の間で戦われた「国共内戦」は、第二次世界大戦中も何度か戦われていたが、終戦後(特に1946年以降)から激化して1949年10月1 日に中華人民共和国が誕生した。惨敗した蒋介石は台湾に逃亡し、亡命政府である「中華民国」を継続、国連にも創立時から加盟していた。しかし1971年に はついに国連から脱退している。「中華人民共和国」が国連に加盟したからである。

 蒋介石は結局、国共内戦に敗れ去る。しかしルーズベルトと秘密会談をした時点では、日本との揉め事が起こるリスクを避け、全ての力を中国共産党打倒に注ぎたかったのだろう。彼は中国の覇者になることを優先して、明確に「尖閣諸島を含んだ琉球群島=沖縄県の領有を拒否した」のだ。

 しかし「カイロ密談」の後、実は蒋介石は琉球群島領有を断ったことを、ひどく後悔した。密談後、「果たしてこれで良かったのだろうか」と悩み、王寵恵にこっそり悩みを打ち明けたというのだ。

 「中国共産党新聞網」と「新華網」の情報の、最も興味深い部分はここにある。

 二つの記事は続ける。以下は、新聞記事の後半部分の紹介である。

 

 

王寵惠:琉球の戦略的位置は非常に重要だ。もし軍事的視点から言うならば、われわれには必要だ。

蒋介石:でもそんなことをしたら、将来、日本といがみ合うことになると思う。そうなったら、どうするんだ?

王寵惠:いや、いろんな角度から見て、琉球は歴史上われわれの付属国だ。われわれにくれるというのは理にかなっている。日本が文句を言うというのは道理が立たない。

(蒋介石は王寵惠のこの言葉を聞いて、少し後悔し始めた。)

蒋介石:もしそう言うんなら、なぜ(あのときに)君はそう言わなかったのかね?

王寵惠:ルーズベルトが最初に琉球をわれわれにくれると言ったときに、あなたは中米が共同で占拠し、共同で管理しようと言った。私は委員長(蒋介石)の部下として、委員長と意見を一致させていなければならない立場にある。

 

 

 

「中国共産党新聞網」と「新華網」はこのように二人の会話を公開し、蒋介石のさらなる秘密を暴露している。以下、ふたたび記事からの引用である。

 

 蒋介石はあまりにもったいないことをしてしまったと後悔した。そこで王寵惠にしつこく念を押した。

「いいか?ルーズベルトが琉球を我々にくれようとしたことは、ほんの少数の人しか知らない。だから絶対に外部に漏らしてはいけない。もし誰かがこのことに関して尋ねたら、われわれにはいかなる条約も根拠もなく、理由なんかはないと答えるんだぞ、いいな」

 その後、国民党におけるすべての書類、雑誌および書物に関して、琉球諸島に関連した問題に触れるときにはすべて「根拠がない。なぜならカイロ会談では琉球問題は一切取り上げられなかったのだから」と書くことが決まった。

 そして第二次世界大戦後、米国は単独で琉球群島を占領した。

 

 

 ここまでが中国共産党と中国政府が持つ、二つのメディアのウェブサイトからの引用である。この記事の最後にある一文は非常に重要だ。

 つまりアメリカが当時の中国(中華民国)に「共同出兵して日本を占領しよう」と申し出たのに、中国は「出兵に参加しなかった」ということである。「中華 民国」の蒋介石主席は自分が提案した「米中による共同管理」さえ自ら放棄した。なぜなら毛沢東が率いる中国共産党を倒すことに全力を尽くしていて、他国の 事などに力を注ぐゆとりはなかったからなのである。

 カイロ宣言を出す前に蒋介石とルーズベルトの二人だけの間で「会談」があったことは、一部の関係者や研究者は知っている。ルーズベルトが我々の感覚からすると、あまりに日本をないがしろにした提案をしたことも、研究論文や書籍に出たことがある。

 しかし、蒋介石が「琉球群島はいらない」と、ルーズベルトのプレゼントを拒否してしまったことをひどく後悔し、「この密談はなかったことにしろ」と部下 に命じたことまでは、あまり知られていない。もちろん、中国人の間では何となく囁かれてはいた。だから筆者もそれを追いかけてきた。

 筆者は、この中国側が正式に公表したに等しい「カイロ密談」の内幕を読み解くことによって、尖閣問題解決の糸口が見い出せるのではないかと考えている。

 中国は今、「一つの中国」を大原則としている。

 ならば、「中華民国」の主席だった蒋介石が国際舞台で言明したことは引き継ぐべきだろう。

 日本は決して清王朝が弱体化したのをいいことにしてその「ドサクサ」に紛れて尖閣諸島を掠め取ったのではない。中国の楊外交部長は2012年9月、国連総会においてもこの「掠め取った」という言葉を用いて日本を攻撃した。そして冒頭に書いたように「カイロ宣言」で釣魚島を含む島嶼は日本に占領されたその他の中国領土と共に中国に返還されたと語った。

 しかし事実は全く逆だった。

 1943年11月、カイロ密談が行われていたとき、中国(当時の「中華民国」)は権力の絶頂期にあった。世界の三大強国として米英とともにカイロに集まったほどなのだ。

 もし中国がこのとき「尖閣諸島=釣魚島」に関心を持ち、それを「欲しい」と言えば、100%、ルーズベルトはそれを承認したはずだ。それどころかルーズベルトが「琉球全体を中国にあげるよ」と言っているのに、中国が「いらない」と言ったのである。

 また「カイロ宣言」にある「一切の島嶼」の中に琉球群島(沖縄県)が入っていない根拠を、中国にとって最も権威ある「中国共産党新聞網」と「新華網」に載せているのだから、現在の中国政府が認めたということになる。

尖閣問題に関する中国政府の「矛盾」はまだある

 中国共産党は、この二つの事実において大きな自己矛盾を来していることを認識しなければならない。

 実は、中国政府が自らのメディアを通して尖閣諸島問題に示した“意外な姿勢”は、これだけではない。

 1949年10月1日に誕生した中華人民共和国(現在の中国)は、中国共産党の機関紙である「人民日報」に、「尖閣諸島を沖縄県の所属と認めた」うえで、「いかなる国際協定もこれらの島嶼が日本のものではないと規定したことはない」という周恩来(元)首相の言葉を明記しているのである。これに関しては、一部は外務省のホームページにも出ているが、より深い内容を次回にご紹介したい。

(筆者は、この「カイロ密談」を含めた一連の情報を中国が認めて、威嚇行動をやめることを望む。そして安倍内閣には、これらの情報を最大限に活用し、尖閣問題の平和的手段による解決を図ることを切望する)

中国共産党も知っていた、蒋介石が「尖閣領有を断った」事実 より


北の核保有で笑うのは中国

2013-02-13 12:37:25 | コラム

「離米従中」へと韓国の背中押す核実験

北朝鮮が3回目の核実験に踏み切った。東アジアはどう変わるのだろうか。

北の核を抑止できない米国

 もちろん、最も大きく変わるのは北朝鮮だ。核兵器を手にますます強気の外交に乗り出すだろう。ことに韓国に対しては相当な“上から目線”の姿勢に転じるのは間違いない。

 韓国はすでに米国に核の傘をかざしてもらっている。理屈の上では北の核保有後も韓国の安全は依然として担保されることになる。ただ、この理屈――核報復理論は仮想敵が「核戦争による自国の消滅を避けようとする合理的な国家」であることを前提としている。

 北朝鮮は「合理的な国」とは見られていないので、米国の核の傘が北の核使用に対する完全な歯止めになると韓国は信じることができない。

韓国で語られる北への先制攻撃

 このため、韓国では北の3回目の核実験以前から先制攻撃論が語られていた。韓国国軍の制服組トップである鄭承兆・合同参謀本部議長は2月6日に国会で「核保有国となった北朝鮮が韓国を核攻撃する兆候があれば、先に北の核基地を叩く」と主張した。

 この先制攻撃論は一見、勇ましい。しかし、実質は韓国の弱腰を如実に示すものだ。なぜなら「北朝鮮が核を保有するだけでは韓国は軍事行動には出ない」ことも暗に意味するからだ。「南を核攻撃する兆し」を気取られない限り攻撃されない、と北は安心したかもしれない。

 軍事専門家によると、北への先制攻撃は韓国軍単独では難しく、米軍が主軸とならざるを得ない。しかし、米国が乗り出すかは不明だ。ペリー元米国防長官は2月5日「軍事攻撃で北の核能力を抑止することは可能でない。(核施設のある)寧辺への先制攻撃が計画された1994年とは状況が異なる」と聯合ニュースに語った。

 不可能な理由は「1994年当時は北朝鮮の核施設が(寧辺の)1カ所に集まっており、1回の攻撃で核施設を破壊することが可能とみられた。しかし、現在は北朝鮮全域に核施設が散在しているうえ、核兵器の運搬が可能であり、軍事的攻撃は難しい」からだ。

イスラエルは敵の核を自ら攻撃

 ただ、米国の本音は「1カ所かどうか」などという実現性の問題ではなく、朝鮮半島でリスクをとりたくないだけかもしれない。「1カ所しかなかった」1994年だって先制攻撃を実施しなかったのだ。北との全面戦争になれば在韓米軍の軍人や家族に多数の死傷者を出すとの予測からだった。

 それに今、米国の外交的な優先課題は「イランの核」であり「北朝鮮の核」の優先順位は低い。イランに対しては「核を一切持たせない」決意のもと、いつイスラエルが先制攻撃するか分からない状況だ。

 一方、韓国はそれほど必死ではない。「核攻撃の兆しがない限り」北を攻撃しないというのだ。韓国人の心の奥底には「同族の北の人々が我々を核攻撃するなんてありえない」という心情がある。

在韓米軍の家族は殺せない

 米国が自国の軍人と家族を危険にさらしてまで、そんな国を助けるかは疑問だ。米国は、核兵器をテロリストなどに売ろうとしなければ、消極的にだが北の核保有を認めていくのかもしれない。

 この際、韓国に対しては「核の傘を提供しているのだから安心しろ」と、やや心細い担保を示して納得させようとするだろう。

 結局、韓国の選択肢は3つ。まず、米国を頼り続ける現状維持路線だ。このケースでは北の核への恐怖を少しでも減らそうと、米国の協力を得てミサイル防衛(MD)網を造ろうとの声が出るだろう。

 実際、韓国紙上でMD導入論が主張され始めた。ただ、中国が韓国に対しそれを強く禁じていることから実現は容易ではない。これまでも、米国からMD開発に強く参加を求められながらも中国の圧力に屈して断ってきたのだ。

 米国頼りの道は先細りかもしれない。核を持つ北が次第に増長するのは確実だからだ。兆しはもう出ている。

北がコントロールする韓国

 韓国と北朝鮮と経済協力事業を行う開城工業団地。ここを通じて南から北に流れる外貨は、北朝鮮にとって文字通りドル箱だ。核開発を続ける北にドルを渡すことこそが奇妙な話であり、米国も時に疑問を呈するのだが韓国はやめようとしない。

 韓国の統一部報道官は2月8日の定例会見で、同工業団地に関し、対北制裁手段の対象として検討していないと表明した。また「開城工業団地は南北協力の重要な資産との立場に変わりはない」と強調した。

 昨年12月の北朝鮮のミサイル実験への制裁の一環として、韓国は2月4日、同工業団地に運ばれる物品に対する点検を強化する方針を打ち出した。これに対し北朝鮮は報道官名義の談話を発表し「少しでもおかしなことをすれば極悪な制裁とみなす。開城工業団地に対する全ての特恵を撤回し、再び軍事地域に戻すなど対応措置を取る」と強く反発した。

韓国も核武装で、北東アジアに恐怖の核均衡

 すると韓国は大慌てし「開城工業団地の正常的な生産活動に制約を加える意図はまったくない」と軌道修正したのだ。ある意味で、北が核を持つ前から韓国は北のコントロール下にある。

 今後、核を持った北に対してはさらに言いなりになる可能性が高く、この工業団地を通じ、さらに巨額のドルが北に流れ込むようになるかもしれない。

 韓国の親北派は目的達成と大喜びするだろうが、怒り心頭に発した保守派は対北強硬策を求めるだろう。

 すでに保守派の大御所である、金大中・朝鮮日報顧問(同名の元大統領とは別人)が「北の核実験、見学しているだけなのか」(2月5日付)で、実現性の高い解決策の1つとして韓国の核武装をあげた。これが韓国の選択肢の2つ目だ。

 北東アジアに「核の恐怖の均衡地帯」を造ることで、北の核の脅威をなくす――という発想だ。そもそも保守派も左派も、韓国には核兵器への渇望が根強い。

遠くの米国より隣の中国

 大国に挟まれた小国が属国に落ちぶれず生き残るには核保有国になるしかない、との思いからだ。自国内での核燃料の再処理を米国に強く求めるのもそのためだ。

 だが、それは米中がともに全力で抑え込みにかかることになろう。北朝鮮に続く韓国の核武装は、日本の核武装も呼ぶ可能性があるからだ。中国との衝突が日常化して以降、核武装への日本人の嫌悪感は急速に薄れつつある。日本の核武装は、中国はもちろん米国にとっても歓迎すべきことではない。

 韓国の識者が外国人のいるシンポジウムで語ることもないし、新聞が記事や社説で主張することもない。しかし、韓国人同士が小さな声で語り合っているのが3番目の選択肢――米韓同盟を打ち切って中国と同盟を結ぶ手だ。

 少なくとも理屈ではそれは極めて合理的だ。遠く離れた米国よりも隣の中国の方が朝鮮半島の安定を強く望むとすれば、韓国を北朝鮮の核の脅威からより真剣に守ってくれるのは中国に違いない。

米国の裏切りを恐れる韓国

 米国は最後の段階で韓国を裏切って「核を輸出しなければいいよ」と北の核保有を事実上、認めるかもしれない。だが、韓国が中国と同盟を結ぶ一方、米国との同盟を打ち切れば、中国は「韓国はもう、核の後ろ盾がないではないか。なぜ、核を持ち続けるのか」と北から核を取り上げてくれるだろう。米国と比べ中国は北朝鮮に対し、はるかに大きな影響力を持つのだ。

 中国との同盟は、安全保障では米国に頼り、しかし経済では中国市場に頼るという“また裂き状態”をも解消できる。日本との対立が深まる中、米韓同盟下では米国はケンカするなというばかりで助けてくれなかった。だが中韓同盟を結べば、日本を敵とする中国が韓国の代わりに日本をやっつけてくれる。「中韓同盟」は韓国にとっていいことばかりだ。

 理屈だけではない。2012年7月、朝鮮日報がミサイルの射程距離を伸ばそうと大キャンペーンを張った。核兵器の運搬手段であるミサイルの射程に関し米国は韓国に制限をかけている。

 同紙は反米感情をあおり、米韓交渉で譲歩を引き出そうとした。以下は、その時、読者の書き込み欄で「BEST」に選ばれたものだ。

中国との同盟が要る

 「韓国の軍事力拡大を制約し続ければ、むしろ韓国の対中接近を加速化してしまうことを米国は明確に理解せねばならない。北塊(北朝鮮)が核武器を持った状況下で、韓国が在来式武器だけで何とか自らの土地での戦争を回避するには、韓米同盟ではなく中共(中国)との単一経済圏、軍事同盟が要ると判断する状況を招くだろう」(「『ミサイルの足かせ』はずそうと米国に「NO!」と言う韓国」参照)。

 韓国人が3つの選択肢の中からどれを選ぶのか、まだ分からない。だが、忘れてはならないことが2つある。韓国が北朝鮮の核から身を守るには「離米従中」がもっとも合理的であるという論理。もうひとつは、永い間、中国の宗属国だった韓国には、中国の傘下に入ることへの拒否感が保守派を含め薄いことだ。

 

北の核保有で笑うのは中国 より

 


中国の「レーダー照射」「領空侵犯」は何を意味しているのか

2013-02-07 14:21:06 | コラム

2月5日、小野寺五典防衛大臣は緊急記者会見を行い、「東シナ海で1月30日、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用のレーダー を照射していた」ことを明らかにした。小野寺防衛大臣は「大変異常なことであり、一歩間違えると、危険な状況に陥ることになると認識している」と述べ、外 務省が中国側に抗議したことを明らかにした。

 射撃の際に使う火器管制レーダーの照射は、言うまでもなくかなりの挑発行為だ。

 東シナ海における挑発的な行動に含まれている、中国政府の意図を分析してみよう。

 2012年12月13日午前11時前後、中国の航空機が尖閣諸島の上空で領空侵犯をした。この日付と時刻を覚えておいていただきたい。

 昨年9月11日の野田内閣による尖閣諸島国有化の閣議決定以来、尖閣諸島周辺で中国の漁業監視船や海洋監視船が航行を続け、領海外側にある接続水域を出入りする状態がほぼ常態化していた。しかし領空を侵犯したのはこれが初めてだ。

 それ以後、国家海洋局の航空機が何度か領空侵犯し、2013年1月に入ると、中国の軍用機が東シナ海上空で日本領空への接近飛行を繰り返していることが分かった。

 12月13日から、領空侵犯がなぜ活発化しているのか。さっさと結論を言おう。
 これは「南京事件」の日である。中国の言い方に従えば「南京大虐殺」。

 

いつも以上に加熱した記念式典

 日中戦争(中国側で言うところの侵略戦争)が始まった年である1937年の12月13日に、日本軍が南京市民を含めた中国人を大量に虐殺したとされてい る。南京市では、毎年この日の午前10時になるとサイレンを鳴らし黙祷を捧げる。犠牲となった人数や状況に関して日中双方に異なる言い分があるが、ここで はそのこと自体は論議の対象ではないので省く。

 昨年の12月13日は、ことのほか大規模な「南京大虐殺記念日」の行事が行われた。

 中国の国営テレビCCTV(中央電視台)の画面は、涙を流しながら黙祷をする膨大な南京市民の顔を映し、蝋燭をともす人々の姿を映し出した。そして生き 証人が年々少なくなっていくので、口述による資料を集め、「南京大虐殺史研究」をより充実させていこうとしている人々の声を伝えた。また日本軍による殺戮 画面の映像が、何度も何度も繰り返し放映された。

 この日のCCTVは、南京軍区における空軍の超低空飛行訓練の様子も同時に伝えた。一週間で107回の超低空飛行を実施したという。

 中国には「北京軍区、瀋陽軍区、済南軍区、南京軍区、広州軍区、成都軍区、蘭州軍区」の七大軍区がある。「南京軍区」はその中の一つで、「安徽省、江蘇省、浙江省、江西省、福建省、上海市」を管轄する。

 その総本部は南京市にあるのだが、南京軍区の超低空飛行訓練が昨年12月初旬に入ると繰り返し伝えられていたので、「何かあるな」とは思っていた。

 尖閣領空を侵犯したのは中国国家海洋局所属の「中国海監(海洋監視)多用途小型プロペラ機Y12海洋調査機(B-3837航空機)」で、中国の国家海洋 局のウェブサイトには、尖閣諸島領海周辺にいる「中国海監46、50、66、137船」(海洋監視船)と時間を合わせて空と海から挟み撃ちをしたと報じて いる。

 中国ではこれを「立体巡航」と称している。
 尖閣諸島周辺の垂直上空は中国の領空であるという意味から、領海の巡航と同時に、領空の巡航を垂直法線上に囲んだ立体内で行うことを指している。

 南京市における「南京大虐殺記念集会」が大々的に行われたのは、この日に「立体巡航」を行うことが、かなり前から計画されていたものと解釈できる。

 もちろん南京軍区で低空訓練をしていたのは中国人民解放軍の軍用機であり、尖閣領空を侵犯したのは中国海洋局の海洋調査機だ。軍隊ではない。しかしCCTVが連日南京軍区の空軍低空飛行訓練を放映するということは少なくとも私の経験では記憶にない。

 さらに中国では中国人民政府(国務院)管轄下にある国家海洋局(行政)と、中国共産党中央軍事委員会管轄下にある中国人民解放軍(軍隊)が緊密に連携を取り、共同で人材養成や訓練をしていることが、最近では明らかになっている。

 

戦争の屈辱と領土問題をリンク

 「南京大虐殺」の日に合わせ、調査機や艦船を現地に送り込み、同時に上陸支援作戦にも見える軍用機の低空飛行訓練を繰り返し報道するということから、中国当局は「南京」と「尖閣」、両者をリンクさせようと目論んでいると見ていいだろう。

 「南京大虐殺哀悼日」に合わせて「12月13日」に空と海から挟み込み「立体巡航」を実現した。すなわち、すべての中華民族にとって「日本軍に侵略された、屈辱の日を忘れるな」という意思表明と「領土問題」を接合したわけだ。

 これは、尖閣諸島の領有権がただ単なる国際法上の問題ではなく「民族の屈辱の問題」であり「政治問題だ」と位置付けたことを意味する。

 こうなると厄介だ。日中両国ともがナショナリズムの方向に動きやすくなる。資源の問題だけなら、テーブルについて会話をする可能性が開けてくるが、中華民族の屈辱や誇りといった歴史問題を絡めた方向に中国がテーブルを持っていってしまった。

 中国のネット空間では、「日本の自衛隊のレーダーは、中国の航空機を捉えることができなかった」と、まるで「戦争に勝利した」かのように書き立てている。NHKの報道をわざわざPDFを用いて転載し、「最初に発見したのは自衛隊ではなく海上保安庁だった!」という解説付きで、いかに日本の防衛能力が低いかを指摘し、盛り上がっている。

 こうした中国国内の好戦的な気分は、CCTVで毎日報道される「日本は軍国主義国家に向かおうとしている」という報道によって煽られていると見ていい。

 習近平が中共中央総書記になり中共中央軍事委員会主席になった際、最初の視察地として広東省を選んだ。日程は2012年12月7日から11日。広東省は改革開放の発祥の地だ。「新政権も改革開放を重んじる」という意味で広東を選んだことは確かだろう。

 しかし、この視察は「中共中央総書記」としてのものか、それとも「中共中央軍事委員会主席」としてだったのか。服装を見ればわかる。

 軍事委員会主席として行動するときは、胡錦濤の場合も江沢民の場合もそうだったが、必ず軍服を着るのが決まりだ。そして、習近平は軍服を着て現れ、「広東軍区」を視察した。

 習近平は広東軍区の海軍基地に行き、南シナ海を守備範囲とする艦船「海口艦」に乗って詳細に視察。甲板に上がって望遠鏡で遠方を見たり海軍兵士と談笑し、昼食時には船員(戦闘員)たちとともに船員食堂で食事もしている。その姿がCCTVで大きく映し出された。

そして三カ条の訓示。

1.どんなことがあっても、党の言うことに従うこと。それは強い軍隊になるための基本的な魂だ。いかなることがあっても、党の軍隊に対する絶対的な指導権を揺るぎなく肝に銘じるのだ。いかなる時もいかなる状況にあっても、党の言うとおりに行動し、党についていくこと。

2.いつでも戦闘ができ、戦うからには絶対に勝利を勝ち取るというのが強軍たるものの要だ。戦闘態勢の基準に沿って、常にレベルを上げ準備を怠ってはなら ない。わが軍が「召集されたらすぐに集まり、集まったらすぐに戦い、闘ったら必ず勝つこと」を常に確保できるようにしておかなければならない。

3.法を以て軍を治める。厳格に軍を統治することは強軍になる基本だ。必ず厳正なる生活態度と鉄の規律を保ち、部隊の集中的な統一と安全安定を確保すること。

 習近平は「新南巡講話」と呼ばれたこのスピーチの最後に「中華民族の偉大なる復興」に触れた。

 「中華民族の偉大なる復興」という言葉は、習近平が総書記および中共中央軍事委員会主席に選出された第18回党大会一中全会(第一次中央委員会全体会 議)のスピーチで使った言葉だ。これはまるで習近平政権のキーフレーズのように、一中全会以降、CCTVで放映しない日はない。

 

「大国のプライド」で前のめりに

 日本にとって重要なのは、このキーフレーズを用いることが何を意味しているかである。

 復興という言葉だけみれば、経済成長を意味しているように見えるが、これには「かつてアヘン戦争(1840年)以来列強諸国に踏みにじられて植民地化され、日本侵略によって蹂躙を受けた民族の屈辱を忘れず、中華民族がいかに偉大であるかを人類に見せつける」ことをも意味する。

 従って習近平政権になっても「中華民族に誇りを持て」という「愛国主義教育」は緩めず、「中国共産党がいかに日本侵略を勇敢に戦ったか」を強調すること はやめないということだ。その結果、「反日傾向」は加速するだろうということを示唆している。もう一つは陸軍を中心としていた中国人民解放軍が、民族の誇りを高めるために海軍と空軍の強化に徹底した重点を傾けていくということだ。昨年11月8日の第18回党大会における胡錦濤の総書記としての最後のスピー チでも、そのように宣言している。

 これらすべてを象徴的に表しているのが、12月13日の尖閣領空侵犯なのである。

 時間も「11時少し前に到着し、11時10分ごろには飛び去った」という、ピッタリ「11時」を挟んだ飛行時間帯であったことに注目していただきたい。

 中国と日本の時差は1時間。つまり日本時間の「11時」は中国時間の「10時」。この瞬間、南京市では、近隣にまで鳴り響く巨大な音のサイレンが全市を覆い、全市民は全ての動作を止め、運転していた車も止まってクラクションを鳴らし、1937年12月13日に亡くなった犠牲者への黙祷が始まっていた。

サイレンの音に合わせて、尖閣の領空を中国の航空機が飛び、尖閣の領海ギリギリを中国の海洋監視船が巡回する。

 そしてサンフランシスコを始め、全世界に散らばる華人華僑が同時に街頭に出て、あるいは集会所に集まって、その黙祷に呼応したのである。私のパソコン画 面には、サンフランシスコに拠点を置く華人華僑の団体代表から、「屈辱の日、南京大虐殺75周年記念日を忘れるな」というメールがCCで入っていた。

 習近平体制の対日政策を読み解くのに、これほど具体的な現象はほかにない。

 事態は深刻だ。射撃管制用レーダーとは、艦艇に搭載されたミサイルなどを発射する際に照準を合わせるための装置だ。2月5日にはミサイルは発射されず、 その準備の練習をしただけだろうが、米国が素早く中国に警告を送ったことからも分かるとおり、これはもう一触即発の状況にあると解釈していい。

 尖閣問題の鎮静化には日中首脳会談が不可欠だが、1月25日、日本の公明党の山口代表と北京の人民大会堂で会談した習近平は、前向きの姿勢を示してい る。その際習近平は「日本がそのための環境づくりをすることを望む」という趣旨のことを述べている。公明党は自民党と連立内閣を形成している与党。領土問題で激しい衝突を招いた民主党時代では考えられなかったことではある。

 しかし、今回挑発しているのは中国側だ。

 しかも中共中央軍事委員会の直接の管轄下にある中国人民解放軍の海軍が動いた。
 行政側の国家海洋局のミスではない。

 

国内事情と意識のズレが重大危機を呼ぶ

 中国共産党指導体制は、中国の経済発展を保障することによって統治の正当性を主張し、貧富の格差を是正することによって人民からの支持を得ようとしてい る。万一にも戦争などになったら、一人っ子の命を奪うことになり、その親たちが許しはしないだろう。統治の正当性を逆に失う。だから、いかに彼らが挑発し ようと、戦争に持っていくことは考えにくい。

 となると、彼らの意図は日本から譲歩を引き出すために威嚇しているということになる。しかし「威嚇の範囲」と考える程度は両国で異なっている。野田内閣の時の尖閣諸島の「国有化」に対する概念の違いよりも大きい。

 そして今回見たように、領土問題を民族の屈辱に結び付けている限り、中国は「威嚇の範囲」を拡げこそすれ、狭めることはないだろう。なぜなら「民族の誇り」とリンクしているからだ。中国が経済的に発展すれば、自然と消滅していくどころか、「大国の威信の傷」ととらえて、エスカレートする危険性すらある。

 この危険性を日中両国が見抜かなければならないと思う。


中国の「レーダー照射」「領空侵犯」は何を意味しているのか より



「アベノミクスが韓国を打ち破る」は本当なのか? 円安・ウォン高でも日本が浮かれていられない理由

2013-02-05 12:37:25 | コラム

アベノミクスで顕著な円安・ウォン高に
為替変動は韓国に打撃を与えるのか?

 アベノミクスによる金融緩和策の積極的な促進の効果もあり、足もとの為替市場で円安傾向が進んでいる。今まで円高傾向に悩まされてきたわが国の輸出企業にとって、円安の進展は大きなメリットだ。

 それに伴い、主力輸出企業の収益状況の改善期待を背景に、株価も堅調な展開を続けている。昨年の12月以降、わが国の株式市場は世界最強の様相を呈している。

 ドル・円の為替レートにどうしても目が行きがちなのだが、もう1つ忘れてはならないことがある。それは、韓国のウォンが対円で強含みになっていることだ。ウォンの為替レートを見ると、まだリーマンショック以前の水準には戻していないものの、直近のウォンの安値であった2011年の秋口と比べると、15%以上ウォン高・円安になっている。 

 こうしたウォンの強含みにより、韓国の自動車や造船、鉄鋼などの産業分野で収益力の低下が顕著になっている。通貨安を背景に快進撃を続けてきた韓国企業は、重要な転換点を迎えつつあると言える。

 最近、韓国のメディアなどでは、「円安・ウォン高を招いているアベノミクスが、韓国企業に打撃を与える」との批判記事が出ている。

 収益力が低下する企業の中で、強力な競争力を持つサムスンは、今や米アップルに代わって世界を代表するIT企業にのし上がっている。同社は、依然として強力な競争力を背景に圧倒的な収益力を誇っており、わが国の電機メーカーとの差はさらに拡大している。

 日韓の貿易関係を見ると、わが国の貿易黒字と韓国の貿易赤字の体制が続いている。韓国は、わが国の機械などの資本財・主要部品の主な輸出先である。そうした状況を考えると、ウォン高による韓国経済の後退を単純に喜ぶわけにはいかない。わが国の産業界にとっても、マイナスの影響が顕在化することが懸念されるからだ。

国際市場を睨んでウォン安政策を持続
露呈し始めた韓国ビジネスモデルの限界

 韓国の人口は約5000万人で、国内市場は主要先進国と比較して大きくない。そのため、韓国企業が大規模な市場を求めると、どうしても海外へと販路を拡大することになる。それが、韓国企業の積極的な海外市場志向の大本にある。

 そうした積極的な海外展開を狙う韓国企業の姿勢を後押しするためにも、韓国政府はウォン安政策を採ることが多かった。特に、1990年代後半のアジア通貨危機以降、市場介入を行って、ウォン安傾向を安定化してきたと言われている。

 しかし最近、そのウォン安政策に限界が見え始めている。その背景には、リーマンショック以降の世界的な景気低迷によって、主要国がいずれも金融緩和策をとっているため、それぞれの通貨が弱含みの展開になっていることがある。主要通貨が弱含むため、どうしてもウォンが相対的に強くなる可能性が高まる。

 それに加えて、ウォンの価値を政策的に減価させると、輸入物価の上昇を招くことになる。輸入物価が上昇すると、その弊害は一般庶民に及ぶことになる。物価上昇が、庶民の暮らしを苦しくする。そうなると、政府は安易にウォン安政策を継続することが難しくなる。

 その結果、韓国政府のウォン安政策は限界に近づいているのである。政策的にウォン安を維持できないと、今まで通貨安の恩恵で競争力を高めてきた企業には、ウォン高という逆風が吹くことになる。

 たとえば、わが国の自動車メーカーは、韓国とFTA(自由貿易協定)を締結している米国でつくった車を、ウォン高に乗じて米国から韓国に輸出することもできる。それは、韓国の自動車メーカーにとっては大きな脅威になるはずだ。そうした傾向は、鉄鋼や造船などの分野でも見られる。わが国企業にとって、追い風であることは間違いない。

強い企業はより強くなり
弱い企業はただ消えゆくのみ

 しかし、韓国企業の全てがウォン高によって元気がなくなっているわけではない。中には、ウォン高にもかかわらず圧倒的な実力を示す企業もある。その代表格がサムスンだ。

 サムスンは、スマートフォンやタブレットPCなど、IT関連の売れ筋商品で圧倒的なシェアを握り、今やアップルに代わって世界を代表するIT企業の地位を確固たるものにしている。カリスマ経営者のスティーブ・ジョブズ亡き後、アップルは消費者を驚かすような新製品の開発をできず、株価が高値からすでに30%以上下落しているのを尻目に、サムスンは拡大を続けている。

 現在のサムスンを支えるのは、高い技術力と常にイノベーションを求める経営力だろう。サムスン・グループの総統である李健煕氏の強烈なリーダーシップが、拡大を続けるサムスンの原動力になっている。

 同氏の飽くなき成長主義が健在な間、おそらく同グループの成長は止まらないだろう。たとえウォン高の逆風が吹いても、克服することはできるはずだ。

 一方、今までウォン安を最大の成長要因としてきた企業は、これから厳しい状況になる。すでに、自動車や鉄鋼などの企業の収益力低下は顕著になっている。わが国の鉄鉱メーカーにヒアリングすると、「ウォン高による韓国ポスコの競争力が低下していることもあり、日本のメーカーに対する引き合いが増えつつある」という。

 ウォン安という追い風が吹いているときは、いずれの企業も競争力が高まり収益が拡大するが、一旦追い風が止むと、実力のある企業とそうでない企業の業績は明確に違ってくる。為替の動きの影響があっても、強い企業はさらに強くなり、実力のない企業が消えてゆくことになる。

韓国経済減速の影響は日本に跳ね返る
巷説のような「単純な図式」にはならず

 今後もウォン高傾向が続くと、わが国企業にプラスに作用する部分は大きい。しかし韓国政府が、このままウォン高傾向を放置するかは疑問だ。韓国経済にとって輸出が生命線である以上、どこかで市場介入などによってウォン高に歯止めをかけるはずだ。

 それに、アベノミクスによってどこまでも円安傾向が続く、という見方もできまい。とりあえず米国政府は、95円程度までの円安を容認するだろうが、そこからさらに青天井で円安になることは考えにくい。

 わが国の輸出企業は、「円安だ!」と言って浮かれている場合ではない。むしろ円高が止まったことで、相応の時間的余裕が与えられたと認識すべきだ。つまり、円高が進まない間に、企業自身が本当の意味での実力を身に付けることが必要になる。今は、そのために時間を借りていると考えた方が良い。

 韓国企業のケースでも、本来の実力がない企業は、ウォン高の影響で収益力の低下が顕著になる一方、サムスンのような実力企業は、ウォン高になっても特段の問題が出てくるわけではない。わが国企業も、サムスンのように強い企業を目指さなければならない。それができないと、いつか外部環境の変化に耐えられず、淘汰を受けることになるからだ。

 もう1つ頭に入れて置くべきポイントは、韓国経済が大きく減速すると、マイナス効果がわが国経済にも波及することだ。日本にとって韓国は第3位、韓国にとって日本は第2位の貿易相手国であり、二国間の貿易総額は約8兆4400億円に上っている。

 しかも、日本の大幅貿易黒字と韓国の赤字という構図になっている。わが国からは多額の機械などの資本財や、IT関連の部品などの中間品が韓国に主に輸出されている。韓国経済が減速すると、わが国から韓国への輸出が減少する懸念もある。ということは、アベノミクスによって、わが国経済が回復し、韓国経済が大きく減速するという単純な図式にはならないだろう。

 「アベノミクスが韓国を打ち破る」は本当なのか? 円安・ウォン高でも日本が浮かれていられない理由 より

 


円安阻止へ日本包囲網を呼びかける韓国  結果は裏目。外資が逃げ始めた

2013-01-31 13:03:45 | コラム

 韓国紙が連日、「日韓為替戦争」を煽る。「安倍晋三首相の円安誘導は韓国をいじめる近隣窮乏化政策」と非難。さらには円安阻止のための日本包囲網を狙う。だが、薬が効きすぎたようだ。「韓国がそんなに窮乏するのなら」と外資が逃げ始めたのだ。

円安どころか異様な円高ウォン安が続く

 円・ウォングラフを見ると、昨年9月時点では1円=14.5ウォン前後。現在は1円=12ウォン前後だから、方向的には確かに円安・ウォン高だ。

2007年1月から2013年1月までの円・ウォン為替レート

 しかし、リーマンショック以前の2005年から2008年の3年間は1円=7―9ウォン台で動いていた。これと比べれば、円安・ウォン高どころか、異常な円高・ウォン安がまだ続いていることになる。

 では、韓国紙はなぜ「このままでは韓国は滅びる」と言わんばかりに大騒ぎするのだろうか。韓国では「我が国は日本と競合する商品が多いから」と説明されている。

 韓国貿易協会は1月28日「韓国の50の上位輸出品目のうち、26品目が日本の上位50品目と重なっている」と指摘した。競合度の高いのは、造船、プラスティック、自動車、電子部品、機械類という。

1円=7ウォンでも苦情はなかった

 日韓両国の産業構造が似ているのは事実だが、それは昔からのこと。1円=7―8ウォン台と円安・ウォン高に振れていた時も、韓国の輸出企業から為替レートに苦情が出ていたわけではない。サムスン電子や現代自動車のような国際競争力の高い企業はもちろん、普通の会社もそれなりの利益は出していた。

 現代経済研究院が1月16日に発表した報告書「懸案と課題 ウォン高で輸出景気の急落を憂慮」も、円安の影響度を業種別に分析している。当然、「値段勝負」の鉄鋼や化学製品への影響が大きく、携帯電話や半導体などのITや、自動車は影響が小さい。

 韓国の自動車の品質は急速に向上し、イメージも上がった。一昔前のように「安くないと売れない」わけではない。また、携帯電話では、日本ブランドは世界市場からほぼ姿を消した。そもそも競合していないのだ。

 
 
ウォンが1%切り上がった時の韓国の産業別の輸出額減少幅(単位:%)
家電は人民元に対しウォンが1%切り上がると0.71%輸出が増える。
 
 対円で対人民元で
鉄鋼 1.31 0.50
石油化学 1.13 0.74
機械 0.94 1.10
IT 0.87 0.06
自動車 0.68 0.38
家電 0.46 ▼0.71

出所:現代経済研究院「ウォン高で輸出景気の急落を憂慮」(2013年1月16日発行)から
 
 

アベノミクスとGHノミクス

 多くの韓国メディアが「日本が円安で韓国をいじめる」式に大騒ぎしているのは、いつもの条件反射的な被害者論からだろう。激しいライバル意識から考えて、円安で日本経済が回復するのは面白くない、という心境も働いているに違いない。

 その中で朝鮮日報がちらりと興味深い本音をのぞかせた。李志勲経済部長が書いた1月23日付のコラム「経済焦点 アベノミクスとGHノミクス」だ。

 「GHノミクス」とは朴槿恵次期大統領の経済哲学を指す。「GH」は「槿」と「恵」の頭文字だ。李志勲経済部長はさりげない形だがそれに懸念を表明した。

・400ページに及ぶ朴槿恵次期大統領の公約集にはマクロ経済に関する内容――経済成長率や物価などの目標値がほとんどない。

・アベノミクスによりウォンは対円で10%も切り上がったというのに、大統領職引き継ぎ委員会の関心対象ではないようだ。

 普通の日本人は「為替レートに関心がなかろうが、公約集になかろうが、問題の水準までウォンが上がれば政府が何とかするだろう。あれほどうるさい国民を抱えているのだから」と奇異に感じるかもしれない。

ウォン安政策で恨みをかった李明博大統領

 実は韓国社会には素直にウォン安に向け動きにくい情緒がある。李明博大統領は前任者とうって変わって露骨なウォン安政策を実施した。輸出ドライブをかけて成長を加速するとともに、貿易収支の黒字により外貨準備を積み上げて通貨危機を防ぐ――目的だった。

 しかし、前者に関して結果は出なかった。大企業は輸出を増やし利益も上げたが、国全体の成長率は伸び悩んだ。韓国では「大企業が工場を海外に移したため、儲けたカネを国内の消費や投資に使わず、その結果内需不振に陥った」と理解されている。さらには「投資や消費の不振で内需依存型が多い中小・零細企業の経営が苦しくなった」との批判も高まった。

 このため、多くの韓国人が「財閥を儲けさせただけではないか」と李明博大統領や保守政党に反感を抱いた。昨年末の選挙で左派候補が48%もの票を得た大きな原因でもある。

財閥より国民の故・朴正煕大統領

 保守系紙が「円安による被害」を毎日、訴える一方、左翼紙のハンギョレ新聞が「円安・ウォン高は韓国にとってマイナスだけではない。物価が安くなるし、日本円でカネを借りていた企業や個人は返済が楽になるなどのプラスもある」(1月13日付)と書いたのも韓国に満ちる「反財閥・反保守の空気」を反映する。

 朴槿恵次期大統領はもちろん左翼ではない。ただ、こうした空気の中で前任者と同様の「ウォン安政策」は採りにくい。故・朴正煕大統領は貧困を追放するため韓国全体の経済成長に心を砕いた。財閥を上手に使ったが、後任者のように財閥に取り込まれることはなかった。財閥を「取りつぶした」ことさえあった。

 朴槿恵次期大統領は「故・朴正煕大統領の生物学的な娘というだけではなく、政治的な意味でも娘」と韓国では言われている。今、韓国財閥は首をすくめて彼女の言動を見守る。

 李志勲部長も、今の韓国の空気と彼女の性向を意識して説得に努めようとしたのだろう。以下のようにも書いている。

・一般的な認識とは異なり、輸出企業の中で大企業より中小企業の方が為替変動の影響を受けやすいという分析もある。ブランドと品質競争力が弱く、海外生産比率が低いため防衛力が乏しいからだ。

・為替政策というと、しばしば、李明博政権のウォン安政策を連想しマイナスのイメージを持ちやすい。しかし、最近の為替問題は韓国の意志とは関係なく日本政府によって引き起こされた点で当時と異なる。

日本包囲網をつくろう

 李志勲部長の記事でもう1つ興味深いのは、日本包囲網の呼びかけだ。

・世界同時不況以前と比べ、まだ(対ドルでも)ウォン安の水準にある。しかし、最近の為替変動のペースが速すぎることには警戒すべきだ。

・日本にアベノミクスをやめさせねばならない。だが、欧米も自ら金融の量的緩和政策を実施してきたし、中国も為替操作国と見られていて日本に注文はつけにくい。2月のG20財務相会議で日本に対し世界が共同でメッセージを送ることに外交努力を注ぐべきだ。

 中国同様に韓国も為替操作国と見なされている。「リーマンショック後に対ドルで切り下がったアジアでは珍しい通貨」とも言われるなど、その主犯格だ。自分は表には出られないため、裏で反日包囲網を煽ることにしたのだろう。

中国のエコノミストも動員

 この記事の後、他の韓国メディアも「日本包囲網」つくりを後押しし始めた。中央日報は中国の国際金融の専門家、宋鴻兵氏にインタビューし「円安は中国経済に及ぼす影響は大きくない。しかし、中国人の対日感情は最悪なので、中国政府は円安により中国との貿易で利益を得ることを決して座視しないだろう」との談話を引き出すことに成功した(1月28日付)。

 日本包囲網に成功するかは分からない。しかし、その前に韓国はパニックに陥った。1月28日のことだ。為替が前週末比19ウォンのウォン安ドル高となる1ドル=1093.50ウォンで終わったのだ。1年4か月ぶりの大幅な下落だった。

 ウォン安になったと喜んではいられない。その理由がよろしくなかった。外国人投資家が韓国に見切りをつけて逃げ始めたのだ。同日、KOSPIは前日より6.98ポイント安の1939.71で引けた。外国人は5060億ウォンと今年最大の売り越しを記録した。

 韓国紙は「外国人が日本株に乗り換えた」と不満げだが、韓国メディア自身が「韓国は円安の被害者」「円安で韓国は終わる」と大合唱をしていただけに文句も言えない。朝鮮日報は28日の解説記事で「円安でも韓国企業に活力があることを示す必要がある」と姿勢を一転した。

 韓国は外貨不足という持病を持つ。外国人投資家はそれをよく知っているから、いったん株安・通貨安の方向に進むと投げ売りが出て、また、通貨危機に陥るかもしれない。輸出が増えるからウォン安であればあるほどいい、というわけではないのだ。

行き過ぎたウォン安もウォン高も危険

 実はインタビューで宋鴻兵氏は韓国人が一番聞きたかった「一緒に日本をやっつけよう」という言葉より先に「ウォン高が進めば、経常収支の赤字を呼ぶ。韓国は再び通貨危機を迎えるかもしれない」と不気味な未来を予言していた。

 29日の韓国株は小戻しし、ウォンも少し高くなった。しかし、いつ、韓国からの資本逃避が再燃するのかは分からない。

円安阻止へ日本包囲網を呼びかける韓国 より


日中間の緊張ますます高まる

2013-01-24 18:12:21 | コラム

衝突なら深刻な事態に

中国と日本は、いつの間にか戦争への道を進んでいる。両国の紛争の元となっている島々の領海と領空で、中国はここ数十年間にわたる日本の実効支配に 挑むべく、挑発行動をエスカレートさせている。この件を扱う中国メディアの表現は刺々しさを増してきた。中国日報は、日本が「世界にとって真の危険国であ り、脅威である」と報じた。環球時報(人民日報が発行する国際紙)も、両国間で軍事衝突の「可能性が高まっており…我々は最悪の事態に備える必要がある」 と書いている。中国は、両国間で70年ぶりとなる軍事衝突に備えている様子だ。

 歴史と領土に対する日中の認識の違いは広く知られている。現在切迫しているのは、東シナ海に位置し、日本が「尖閣諸島」と呼んで実効支配する5つの小島 を巡る問題だ。中国はこれらの島々を「釣魚島」と呼び、自国の領有権を主張している。経済が深く関わり合う両国の指導者に求められる理性ある対応は、双方 の食い違いを解決するか、あるいは問題を棚上げして波風を立てないことだ。少なくとも、以前はこれが日中間における了解事項となっていた。

 だが、その状態は昨年9月に崩れた。当時の野田佳彦首相が、日本がまだ所有していなかった3つの島を国有化したからだ。これは、昨年10月まで東京都知事を務めていた中国嫌いの右翼政治家・石原慎太郎氏の手に島が渡るのを阻止しようと日本政府が講じた苦肉の策であった。

 しかし中国は、国有化は領有権に関する主張を強化しようとする日本の反中的な陰謀だと主張した。そして、これらの島をとりまく領海と領空に対する日本の 占有状態を潰しにかかった。中国は、まず複数の監視船を送り込んだ。12月には偵察機1機を島々の上空に飛ばした。これに対して日本は戦闘機を緊急発進さ せた。この月、日中両国の航空機は島々の領空近くで追跡劇を演じている。

 新聞の報道によれば、日本は、中国が次に領空侵犯をしたら、警告射撃を命じる構えだという。中国のある将官は、そのような事態になれば「実際の戦闘」の 開始として受け取ることになると述べている。中国が島々の支配権を争う限り、両国関係は一触即発の状態となり、軍事衝突が危ぶまれる。

 米国の高官は今週慌てて東京入りし、タカ派の安倍新政権に対して警告した。日本が武力攻撃を受けた場合、米国は日本の防衛に駆けつける義務を負っている。中国との紛争に巻き込まれるのは、米国にとって考えるのも耐え難い事態だ。

 だが度重なる中国の進入を受けている日本の反応は理解できる。安倍晋三首相は、10年間削減が続いた国防費を増額すると発表した。1月の第3週、安倍首相は東南アジア諸国を歴訪し、中国の拡大路線に対する懸念を共有する各国との関係強化を図った。

 東南アジアにおける安倍首相の狙いはいかにも露骨だった。しかし中国は、尖閣諸島(釣魚島)を中国に引き渡さない限り、日本が何をしても満足しないのか もしれない。同じく1月の第3週、中国日報は社説で日本が中国との関係改善を図っていることを認めた。だが、その直後、日本のこの努力を「表裏ある戦略」 の一環だとしてはねつけている。中国は日本が脅威であると言う。だが、日本は中国と異なり、1945年以降は軍事行動を起こしていない。

 中国の外交官は、中国が国内の諸問題にあえでいる隙を突いて、日本が中国をやり込めようとしていると非難している。そして、中国による尖閣諸島への幾度 にもわたる進入が、弱体政権や経済不振などに悩む日本の弱みにつけ込むものだとの考えには不満を露にする。中国は他の視点や利害に目を向けるつもりはなさ そうだ。この熱狂的愛国主義がどこから出てくるのか、はっきりとはわからない。もしかすると、インターネット上で激化している超愛国主義的な国民感情に中 国政府が応えているのかもしれない。

アジアの悲惨な歴史を繰り返すな

 今の状況は1世紀前の東アジア情勢と非常によく似ており、見過ごすことはできない。当事、横暴な態度に出ていた日本は、大陸への拡大を正当化するため、 愛国主義という危険な思想を身にまとった。外国への侵略に道理を与え、同時に被害者ぶりをアピールした。現在、中国が海洋における拡大を追求する中で犠牲 者としての表現を使うのは、当事の日本のそれと驚くほど似通っている。中国は日本と軍事衝突する可能性に言及している。もしそんな事態になれば前回と同様 の悲惨な結果を招くだろう。それは中国及び周辺地域の平和、そして経済成長を危険にさらすことになる。

 米国をはじめとする世界は、たとえ「陰謀」と受け取られようとも、手遅れとなる前に中国に警告を発する義務がある。今、中国国内で展開している狂乱状態に対して、中国内の誰が異議を唱えるのだろうか。

©2013 The Economist Newspaper Limited.
Jan 19th 2013, All rights reserved.

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

日中間の緊張ますます高まる  より


原子力とクリーンエネルギーを政局のネタにするな

2011-06-29 15:39:27 | コラム

 福島第一原子力発電所の事故を受けて反原発の動きが広がっていたイタリアで6月13日、原発再開の是非を問う国民投票が行われた。実に94%以上 の人たちが原発再開に「ノー」の意志を表明した。投票率は54.79%になり、投票成立の条件である50%を超えたため、イタリアでは原発の新規建設や再 稼働が凍結される見通しだ。投票ボイコットを呼びかけていたベルルスコーニ政権にとっては、大きな打撃である。

さすがのベルルスコーニ首相も観念か

 今回のイタリアの国民投票では原発問題ばかりがクローズアップされたが、実は同国の水事業の民営化や首相ら要職者の公判出廷免除(免責特権)な ど、4つの事案の是非が問われていた。投票結果はいずれも否決で、そういう意味ではこれは「反ベルルスコーニ投票」といった性格も持つ。

 ベルルスコーニ氏といえば贈賄罪や脱税、買春などの容疑で100回以上も訴追されている「異色」の政治家で、これまでは免責法を成立させるなどして裁判を引き伸ばしていた。

 そんな彼もさすがに観念したのか、「政府と議会は4つの国民投票の結果を受け入れる義務を負う」との声明を発表した。特に原発再開問題については、「イタリアにおける原発利用の可能性はほとんどなくなった」との見解を示している。

「フランスに原発のリスクを押し付けるつもりか」

 イタリアの投票結果は世界の原子力政策に大きな影響を及ぼすだろう。たとえば、イタリアに電力を供給しているフランス。すでにフランス国内では 「イタリアはフランスに一方的に原発のリスクを押し付けるつもりか」という声も出始めている。自分のところでは原発をなくして、よそから原発による電気を 買うとは虫が良すぎるし、矛盾しているのではないか、というわけだ。

 おなじくフランスから電力を輸入しているドイツに対しても、フランス人の心中は穏やかではない。

 発電量の75%を原発でまかなっているフランスでは、国民投票で原発存続の是非を問うという選択肢はあり得ない。しかしそんなフランスの国民も、 原発の危険性は承知しているわけで、だからフランス政府が怖れているのは国民が「我々もイタリアのように国民投票で原発の是非を問おう」と言い出すこと だ。

 現にそういう動きが同国内では見られるようになっており、今後の成り行きによってはフランス政府も原子力政策の大きな見直しを迫られないともかぎらない。

 イタリアの国民投票の結果を受けて、日本でも脱原発の勢いが増している。「我々も国民投票で原発の是非を問うべきだ」という声がひときわ大きく聞こえてくるようになった。だが注意すべきは、イタリアのエネルギー事情と日本のそれとは大きく異なる点だ。

早急に脱原発を唱えるのはあまりにも「お調子者」

 イタリアには4基の原発がある。そのいずれもが現在のところ稼働を停止している。ベルルスコーニ氏が提案していたのはこの4基を廃炉処分とし、安 全性を高めた原子炉を新たに4基建設しようというものだった。今回の国民投票で否決されたのはこの点なのである。つまり、イタリア国民は現在動いている原 子炉を停止させようとしていたのではなく、新たな原発建設を中止させようとしていたのだ。

 こういう状況ならばイタリア国民も原発には反対しやすい。なぜなら国内で稼働している原発が存在しなくても、フランスからの輸入などを加えてなんとか電力需要がまかなえている現状があるからだ。だからこそ9割以上もの圧倒的大多数を獲得したのである。

 ところが日本の場合、まだ稼働している原発がいくつもある。にもかかわらず、今夏は深刻な電力不足が懸念されている。このまま行けばすべての原子炉が定期点検などで来年の4月には停止するという異常事態になるが、その時に不足する電力は30%にもなると想定される。

 ということは、日本の国民投票が「原発の新規建設の是非を問う」ものならいざ知らず、現状稼働している原発までも停めようとするのであれば、結果はかなり微妙なものになるはずだ。

 私の見るところ、イタリアの国民投票の結果をそのまま日本に重ねようとしている原発反対派の運動家も少なくない。しかし原発に代わるエネルギーも確保できていない状況にあっては、残念ながらあまりにも「お調子者」と言わざるを得ない。

タイミングとコストの問題を軽視するな

 原発をすべて停止しているイタリアでは、電気料金はかなり高くなっている。下のグラフはイタリアを100とした場合の主要国における1kWhあたりの家庭用電気料金の比較だ。

 これを見ると、日本は80をわずかに切るくらいの水準である。よく「日本の電気料金は世界有数の高さ」と揶揄される。確かに高い部類に属するが、それでもイタリアに比べれば2割以上も安い。

 反対に、抜きん出て高いのはデンマークで、日本の5割増くらいだ。これはデンマークが世界有数のクリーンエネルギー大国であることが背景にある。現状では、どうしてもクリーンエネルギーは「高くつく」のだ。

 福島第一原発事故を契機として、日本でもクリーンエネルギーへの移行が官民挙げて大きく取り沙汰されている。それはもちろん重要な議論ではあるの だが、ともすればタイミングとコストの問題が軽視されているように私は感じる。クリーンエネルギー利用についてはそれなりの歴史のあるデンマークですら、 日本の5割増の料金になっている事実を、果たして生活者は受け入れられるのかどうか。

再生可能エネルギーと原子力の議論は並行して行え

 菅直人首相は「2020年の早い段階までに、総発電量におけるクリーンエネルギーの比率を20%まで引き上げる」と明言している。

 しかし、太陽光発電にしても風力発電にしても、現状では全体の0.2%程度で、ほとんど誤差程度の電力しかまかなえていない。これを本当に10%まで引き上げたとき(水力とバイオや廃棄物が合計10%程度ある)、家庭の電気料金はどれだけのものになるのか。

 いま太陽光発電のコストは1kWhあたり50円程度である。ソフトバンク社長の孫正義氏が言うように、大規模にやればかなり安くなるかもしれないが、設備投資をした民間にうまみが出てくるフィードインタリフ方式(固定価格買取制度)にした場合には、それでもいまの料金の5割増しということになるだろう。国民がそれを受容したとしても、全体の30%をまかなう原子力が停止したままでは産業そのものが日本にいられなくなってしまう。

 つまり、この議論は再生可能エネルギーへのシフトをするにしても、その間、おそらく10年くらいの間は「いかにして原子炉を再稼働させるのか」という議論と並行して行わなくてはならない。

菅首相よ、学生運動とはわけが違う

 菅首相はいきなり「脱原発+再生可能エネルギー」と叫び始めているが、学生運動ならイザ知らず、日本の首相としては、産業界の悲痛な叫びをいかに 受け止めるか(事業継続リスクをいかに乗り越えるか)、そして住民の納得を得て定期点検中の原子炉をいかに再稼働させるかが最大の課題であることを忘れて はならない。

 菅首相が退陣前に成立させたいとしている再生エネルギー特別措置法においても、タイミングとコストを明確にしなければ、それが実現する前に日本 ら外資が、そして製造業が、データーセンターなどが……と、すべていなくなってしまっているだろう。原子力とクリーンエネルギーを政局のネタに使うことは やめてもらいたい。

 

原子力とクリーンエネルギーを政局のネタにするな より

中国は沖縄を狙っているのか

2011-06-15 16:22:23 | コラム

「返還協定40周年」を巡るきな臭い動き

 南シナ海で中国とベトナムの緊張が高まっている。既報だが、改めて説明しよう。

 5月26日に南シナ海でベトナムの資源探査船の調査用ケーブルが中国海洋局の監視船により切断され、ベトナム政府が中国政府に抗議し賠償を求めた。31日にはベトナムの漁船がスプラトリー諸島(南沙諸島)周辺で操業中に中国の監視船から威嚇射撃を受け、もう少しで衝突しそうになったとして、やはりベトナム政府が抗議を行った。

 これを受けて6月5日にハノイ、ホーチミンで「中国は侵略をやめろ」といったスローガンを掲げた300~1000人規模の抗議デモが行われた。ベトナムで市民・学生の反中抗議活動が起こるのは、2007年12月、南シナ海・パラセル諸島(西沙諸島)での中国海軍演習に対する抗議以来だとか。

 中国は6月9日にも再度、ベトナムの探査船を妨害。それで6月12日にもハノイとホーチミンでデモが起きた。13日夜には同海域でベトナム海軍が実弾演習を行った。ベトナム側はこれを「通常の軍事演習」とうそぶいているが、対中けん制の意図がないとは言えない。

 こういった問題が起きると、毎度のことながら「黒客」と呼ばれる愛国的中国クラッカー(ハッカー)がサイバー攻撃を展開する。今回の問題でも6月上旬、ベトナム外務省のホームページに五星紅旗と「南沙は中国のものだ」というスローガンを張りつけ、中国国歌「義勇行進曲」のBGMが流れるような細工をして、派手な嫌がらせをした。中国報道によれば、先に中国のサイトをサイバー攻撃してきたのはベトナムのクラッカーたちだという。

 いずれにしても領土問題は最も国民をエキサイトさせるテーマである。双方に対する嫌悪感情が世論となって盛り上がってゆくと、いかに共産党独裁政権下で世論のコントロールや言論統制に手慣れている両国とはいえ、当初予想していた以上にきわどい応酬をするはめになってしまう。両国は約30年前も戦争を何度かやった間柄であり、歴史的な因縁からくる潜在的な対立感情はかなり根が深い。

 

数百の漁船で尖閣諸島周辺に結集する計画

 

 日本にとって、この南シナ海の緊張は他人事ではない。日中の間には尖閣諸島(中国では釣魚島と呼ぶ)を巡る同じような緊張があるからだ。しかも今週あたり、その緊張が再び表面化するかもしれない。

 6月8日、9日と中国の軍艦計11隻が沖縄本島と宮古島の間を通過するなど、中国海軍のプレゼンス誇示ともいえる行動があった。これについて、日本政府はあえて抗議を控えたが、中国側はすかさず6月中下旬に西太平洋の公海における軍事演習を行う予定を発表し、評論家の鄭浩氏は香港フェニックステレビの番組で「日本はこの航路を中国海軍が利用することに慣れなければならない」と釘を刺した。中国海軍は、今後定期的にこの航路を通過して演習を行うつもりなのだろう。

 そういう中で17日には沖縄返還協定40周年を迎える。当初、この日に合わせて、中国内外の愛国人士ら1200人による「世界華人保釣聯盟」(世界華人釣魚島防衛聯盟)が数百の漁船で尖閣諸島周辺に結集する計画があった。

 共同通信によると、この計画は日本が東日本大震災という未曽有の大災害に見舞われたことを受けて中止されたそうだが、一部の日本人有志は、中国側のアクションを警戒して、18日に石垣島で「尖閣諸島を守る集い」を予定している。これは国会議員や著名評論家たちも参加し、万が一、中国サイドに動きがあれば、抗議集会になるという。

 また中山義隆・石垣市長が66年前の尖閣列島戦時遭難事件の慰霊祭(7月10日)のための上陸申請を出している。今の政権下でこれが許可されるとは思えないが、やはり6月中下旬から7月にかけて、尖閣諸島周辺では何がどうこじれるかわからない、きな臭い空気がただよっている。

 

全国海洋宣伝デーに展開した主張

 

 南シナ海のベトナムとの対立にしろ、尖閣諸島をめぐる日本との対立にしろ、私の個人的見解では、仕掛けてきているのは中国に見える。

 3月に発表された中国国防白書では、中国は「海洋権益保護」という言葉を明記し、海洋強国への意欲を隠さなくなった。6月8日の全国海洋宣伝デーに合わせ、中国海洋局の劉賜貴局長は機関紙上で論文を発表し、以下のような主張を展開した。

 「海洋巡ら力の増強は中国海洋権益の推進と争議を伴う海域に対する管制力を強化するための一番の方法である」

 「国際間の資源争奪と戦略利益の核心である海洋権益の争奪は日に日に先鋭化複雑化しており、我が国の海洋権益保護の任務はますます重要になってくる」

 「中国は必ず我が国の経済水域と大陸棚の定期的海上監視を強化せねばならない。同時に争議を伴う海域で緊張が暴発しないように気をつけ、慎重に海洋権益と海域の安定問題を処理せねばならない」

 ほぼ同じ時期に陳炳・解放軍総参謀長が香港メディアを通じて中国初の空母建設を公式に認めたことと併せれば、中国は海軍力で、他国と領有権の対立が存在する東シナ海や南シナ海を含めた海域について自国の領海として管制力を強化していく方針なのだ、と読めるだろう。少なくとも、中国の軍事オタク系のネット・ユーザーはそう読んでおり、軍事系掲示板で盛んに自国の大国崛起ぶりを喜んでいる。

 では、中国が海洋強国としてどこまでの野望を持っているのだろうか。

 

「領土領海拡大の夢」は一部庶民に受けがいい

 

 とにかく対立や争いが嫌いで、テレビ討論番組で尖閣諸島のようなちっぽけな諸島など、中国にあげてしまえばよい、とあまり深く考えずに放言してしまう人もいるくらいだから、日本人にはなかなか想像が及ばないのだろうが、最近の中国メディアやネット世論で、沖縄奪還を主張する声が増えている。

 例えば昨年暮れから、今年に5カ月かけて香港の苹果日報や月刊誌「前哨」などに「中華民族琉球特別自治区準備委員会」の設立広告が掲載されている。発行部数が香港華字紙で2番目に多い30万部を誇る苹果日報などに数度にわたって広告を掲載する費用を考えると単なる個人のお遊びとも考えがたく、やはり本気でそういう世論を盛り上げようとする組織的な動きがあると考える方が自然だろう。

 中国の在野学者の間では、古典から尖閣諸島や沖縄の中国帰属の歴史的文献的根拠を求めようとする辺境考古学がちょっとしたブームになっている。インターネット上では「沖縄県民自身が日本からの独立を望んでいる」「中国政府は沖縄の独立運動を支持すべきだ」といった主張も散見される。

 また軍内部では以前から「収回琉球」(琉球奪還)という野望は、しばしば語られていた。

 米国と日本を中国の仮想敵国として論じた『中国最大の敵 日本を攻撃せよ』(徳間書店)などの著書もある空軍きっての鷹派論客、戴旭上校が一昨年11月17日の広東省深セン市で行った講演で「多くの中国人は琉球を日本の領土だと思っているが、学術的角度からいって、琉球は日本の国土ではない。・・・それは、もともとは我が国の属国であり、民国時代はわれわれも琉球を中国の領土だと思っていた。・・・琉球国が1979年に日本に併呑されたのは、中国の国力が当時衰退していたからだ」と主張。中国が国力を再び盛り返せば、尖閣のみならず、台湾、琉球、ベトナムにまで取り返せる、と言わんばかりの過激な論を展開し、拍手喝さいを浴びていたと聞く。

 外交の常識からいえば、そんな主張はあり得ない、妄想にだと一蹴されるのだろうが、軍部というのは外交の現場とはかけ離れた発想の主張がまかり通る閉じられた世界である。そして、人民解放軍という組織は、いわゆる国軍ではなく、完全なシビリアンコントロールのもとで動いているわけでもない。

 しかも漢唐式の領土領海拡大の夢は、目の前の社会の不平等や矛盾に不満をくすぶらせている一部の庶民に、意外に受けがいい。彼の本は、北京の書店で売れ筋だと紹介されたし、環球時報などで時折掲載される論文はネットブログなどでしばしば引用されている。

 こういう軍部内で流れているタカ派の主張やそれが一部庶民に結構受けている現状については、日本人も知っておいた方がいい。

 

海洋権益とは経済と安全保障の生命線

 

 日本政府も日本人も今は東日本大震災の復興と福島第一原発の事故処理に手がいっぱいで、国際社会がどういう情勢なのか、中東がどうなっているのか、そして、お隣の中国が何を考えているのか、それに対して米国がどう受け止めているかまで顧みる余裕も必要もないと考える人が多いかもしれない。

 しかしやはり、思い至らなければならないのは、復興を考えるならば、その財源を考えねばならず、その財源を支える経済や金融を回すのにもエネルギーや資源がまず必要であるということだ。

 海洋権益保護とは、海洋資源確保のことであり資源の海上輸送の安全を確保するシーレーン防衛に通じ、経済と安全保障の生命線を守ることである。被災地の復興を考えるにしても、日本経済の将来を考えるにしても、領海や領土の問題に無関心でいてはならないだろう。仮に、今後、脱原発を図ってゆこうというのであれば、夢の新エネルギー技術を手に入れるまでは、当面は他国との資源争奪戦のさらなる激化は避けられない。

 中国との貿易の緊密化や中国人観光客の誘致が日本経済にとって重要であり、中国が親切に日本の震災復興にさまざまな便宜を図り協力を申し出てくれていることに感謝するべきであるというのは言わずもがなだ。そういう時期に、中国への警戒論を言うのは相手に失礼ではないか、というのも一理あろう。

 だが、国内が深刻な打撃に見舞われている時こそ、国際社会の動きに注意を払うことも必要だろう。20世紀の100年の間にどれほど世界の国境線が変わったかを考えれば、21世紀に今の国境線が絶対変化しないとも言い切れない。自国の領土・領海の主権を自分で守れないようでは、国内復興どころではない。

中国は沖縄を狙っているのか より

 


AKB総選挙と株式投資の違い

2011-06-13 15:31:39 | コラム

日本経済研究センター主任研究員 前田昌孝

ベストを選ぶ権利をお金を出して買い、選択の結果が自分の「幸福度」に跳ね返るという点では、9日に結果が発表された人気アイドルグループAKB48の選 抜総選挙は、株式投資と似た面がある。巧みな商売といえばそれまでだが、1人1票ではなく、出資額(CDの購入枚数)に応じて議決権(投票権)を持てる点も、株式投資と似ている。ただ、異なる面もある。一番の違いはファン投票は自分の好みに従えばいいが、株式投資は他人の好みを当てる必要があることだ。

 ファン心理をくすぐって、1枚買えば十分なはずのCDを何枚も買わせようと誘導する商法には強い批判もあるが、今回はそちらには立ち入らな い。3回目となった今回の「総選挙」は要するにファン投票。ただ、1人1票ではなく、5月下旬に発売された1枚1600円の投票用シリアル番号カード入り CDを購入してパソコンや携帯で専用サイトにアクセスし、この番号を入力して投票する仕組みだった。

 選ばれる側の候補者は150人。8日午後3時締め切りの投票を集計し、上位12人に入ると「メディア選抜」と呼ばれ、テレビの音楽番組や雑 誌で優先的に活躍をする権利を得られる。1~21位は8月に発売予定の次のシングルCDのメーン曲を歌うことができ、22~40位はカップリング曲(かつ てのアナログレコードで言えば、B面に収録されていた曲)を歌うことができるというルールになっていた。

 ネット上の情報などによると、大量投票のために、880万円を投じて5500枚のCDを購入した人もいたらしい。実際、今回、第40位に なったアイドルの得票数は4698票だったから、もしこの大量購入者がボーダーライン上の女性を応援していたのならば、集中投票の効果はあっただろう。株 式投資の場合も、魅力がない銘柄でも大量に買えば、株価を一時的につり上げることは、できなくもない。

 ところで、20世紀前半に活躍した英国の著名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズ氏は株式投資にも精通していたが、その投資行動の本質を美人投票になぞらえていた。

 ただ、ファン投票とケインズの言う美人投票とはちょっと違いがある。ファン投票は自分が最も気に入ったアイドルに単純に票を投じればいい。 ケインズは「雇用・利子および貨幣の一般理論」という代表的著書で「株式投資は、投票者が100枚の写真の中から最も美しいと思う6人の女性を選び、その 選択が投票者全体の平均的な好みに最も近かった者に商品が与えられるという美人投票に見立てることができよう」と説明している。

 つまり、自分が美人だと思う人に票を投じるのではなく、大勢の人が美人だと感じそうな人に票を投じる必要があるというわけだ。自分好みの銘 柄に投資してもダメで、大勢がいいと思いそうな銘柄に投資することが、成功の秘訣ということになる。もっと言えば、不人気銘柄を大量に買って一時的に株価 をつり上げても、自分の利益につながるとは限らない。株式投資は売却して初めて利益を手にできる。買った後に自分の売りで値下がりしたら、利益は消えてし まう。

 ところが、ファン投票では他人の好みを予想して投票したところで、自分の満足感が高まるわけではない。CDを買って自分が好きでもないアイ ドルに投票して、そのアイドルが予想通りに上位に入選してテレビなどで活躍しても、それほどうれしくないだろう。国政選挙も同じ。他の大勢が支持するから といって自分の意に沿わない候補者に投票し、予想通りに当選して活躍しても、うれしくも何ともない。

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 もう一つ、株式投資では多くの収益を得ようと思えば、それなりに多くの出資をしなければならない。いくら他人の好みが読めても、購入額が少 なければ、もうけも少ない。AKB総選挙では出資額と得られる幸福感とは比例しない。自分の好みが他の大勢のファンと似ていれば、わずかな出費で(あるい は投票しなくても)幸せを感じるが、自分の好みが特殊ならば、幸福感を味わうのに何百万円も払う必要が出てくるかもしれない。

 どちらも過度にのめり込むべきではないという点は共通している。ところが、AKB総選挙は多くの人を夢中にさせるのに、株式投資には多くの 人が背を向けている。AKB48のメンバーは「ファンの期待に応えて頑張ります」というけれども、企業経営者はしばしば「株主だけのために会社を経営して いるわけではない」などと発言して白けさせる。若い人がほとんど買わない現実に、もっと危機感を持つべきではないだろうか。

 

AKB総選挙と株式投資の違い より