その先を曲がると何が待っているのか。その向こうにはどんな世界が拡がっているのか。こういう想いにかられる場面によく出会う。まちの中心部を少しだけ外れ、かつてのサイズのままの路地を歩いているとき。自転車に乗り、緩やかにカーブした里川沿いや、適度なアップダウンを繰り返す里山の農道を走っているとき。ローカル鉄道に乗り、列車がスピードを緩めて蛇行した線路を進もうとするとき。手前の空間や風景が、魅力的であればあるほど期待感が膨らむ。その先が大きく開けていたり、あるいはさらにこうしたカーブが続いていたりすることで、その風景や空間はより価値の高い場所となる。
例えば、この掛川市内の路地。古い建築、煉瓦造りの壁、路地の狭さ、向こうまで見渡せないみちの曲がり方。このみちを使ってCMを撮影した。掛川の魅力ある風景を紹介する出版物にも採用した。掛川を訪れたサイクリストたちを、必ずといっていいほどこの空間へ案内した。単にお気に入りの場所を自慢げに紹介したかったのではない。何気ない日常空間に価値があることを、訪れる人にはもちろん、このまちに暮らす人にも示したかった。
また、掛川駅を発着するローカル鉄道「天竜浜名湖線」沿いは、素敵な空間資源の宝庫でもある。線路沿いに3kmも続く一直線の道があるかと思えば、小さな山の手前で大きく線路が蛇行する。田圃の直線と丘が作り出す曲線は、このまちにしかない風景財産だ。絶妙なカーブを描くその先には里川にかかる鉄橋が、その手前にはゆるやかな里山が待ち構えている。
その先をどうしても見てみたくなるところは、自然に加えた人の手が、意図なく効果的なチラリズムを演出している。自然と人との関わりが見える風景。時間が止まったままの空間。味わい深い建築群。日々の生活の中に、選りすぐったかのようなロケーションが存在している。掛川に例をとったが、決してここにしかない風景というわけではなく、ローカルには、こうした魅力的な空間がまだまだある。地域の人びとが、こうした価値に気付かないのはあまりにもったいない。遠くへと大がかりな旅に出るチャンスは少ないかもしれない。しかし、小さくとも魅力的な旅は、あなたの生活のすぐ近くにある。
(写真)
掛川市旭町には、時間が止まったかのような空間がある。
■ビジネスマガジンVEGA 8月号「しずおか自然回帰の旅⑨」として寄稿