COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

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アフリカ人医師アーネスト・ダルコーさんのエイズ撲滅戦略

2006-08-23 09:46:53 | Weblog
 8月13日のNHK衛星第一「未来への提言」で、ダルコーさんと日本人で初めて国境なき医師団で活動した貫戸朋子さんの対談が放送されました。世界で毎日8000人がエイズで死んでいると聞いても身近に感じにくいけれど、ジャンボ機が1機墜落して数百の人命が失われれば大ニュースになります。失われる人命数で見たら、毎日何機も落ちているのと同じとの状況説明がありました。ダルコーさんは米国で医学を学んでから英国で経営学を学び、MBA (Master of Business Administration、経営学修士)の資格を得て、コンサルティング会社マッキンゼーに入社しました。ボランティア精神だけではエイズ撲滅は不可能、ハーバード大学の医療をそのままアフリカに当てはめるのも不可能、伝統的医療の枠組みにとらわれず、人を動かす指導力、ビジネスとして成り立たせる経営力、資金をやりくりする財政力が伴わないと世界4000万のエイズ患者を救えないと考えたからです。
 ダルコーさんは2001年、ボツワナのエイズ対策国家プロジェクトの責任者として招聘されました。当時のボツワナはエイズ感染率世界最悪の国でした。そのボツワナでのアフリカ最初の試みとして、プロジェクトは西欧諸国からも注目されました。大統領の呼びかけによる公的機関でのエイズ検査実施と感染実態の把握、国内での医師の養成と国外からの雇用、エイズに関する情報提供と引換えの米製薬会社からの抗エイズウイルス治療薬(ARV)のほぼ無償調達、ビル・ゲイツが創設した財団からの1兆円を含む国外からの基金集めなどの施策を組合せて、ARV配布のネットワークを構築しました。この時モデルになったのが米国ウォールマートの納品システムでした。このプロジェクトにより、下降しつつあったボツワナの平均寿命は上昇に転じました。
 対談はダルコーさんがケープタウンに設立した、コンサルティング会社ブロードリーチ・ヘルスケアで行われました。南アでは交通アクセスの悪い貧しい地域に人口が集中しており、医療より食料と水の方が緊急性を要する劣悪な食住環境、医者が貧困地域に行きたがらない、多くの国民が霊媒師に頼っているなど難しい問題を抱えています。ダルコーさんが立ち上げたのは医師や病院に頼らないシステムです。まず感染者のいる地域で雇用した現地スタッフがマニアルに従った簡単な診察を行い、得た情報を出先機関に報告します。出先機関は情報を集積してデータベース化し、中央とネットワークで結びます。中央の医師の総合判断に応じて、現地スタッフが感染者にARVを届けます。中央には社会福祉師、看護師、薬剤師も常駐しています。個人情報の扱いとか医師直々の診察を経ない投薬など先進国の常識から見ると問題がありそうですが、医師が得られずに人がどんどん死んで行く状況を、少しでも早く脱するために構築されたシステムです。地球上にはそれだけ緊急性を要する状況を抱えた地域が実在するのです。
 対談の終わりに、貫戸さんの求めに応えてダルコーさんが書いた21世紀に大切にして行きたいキーワードは、Humility (自分のことだけを考えるのではなく、謙虚であること)、Understanding (理解すること、相手が誰でも耳を傾け、互いに理解しようと努めること)、Knowledge of Self (自分と自分を取巻く環境を理解すること)でした。
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