COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

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インドの教育者ラジュニ・クマールさんが語った教育の本質

2009-12-20 12:31:05 | Weblog
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はじめに
 今年は子どもの保護や人権の尊重を謳った「子どもの権利条約」が採択されてから20年にあたる。BS1で夕方放送されるアジアクロスロードという番組でも、14日のアジアを読むという枠の中で、「子どもの権利条約20年 インドからの報告」として取り上げられました。この枠では、アジアの様々な地域をめぐる問題について、NHKの解説委員が丁寧に説明してくれます。今回の番組の担当は途上国問題に詳しく、最近もインドで取材に当たってきた道傳愛子解説委員の担当でした。番組の概要を紹介したいと思います。

1.インドの経済と教育の現状
 各国の2010年の経済成長の見通しがマイナスになる中で、冒頭の図左にあるように、インドでも2008年に経済成長が少し鈍化したが、世界銀行が2010年の経済成長率は8%になると予測するまで力強く盛り返している。インドは人口12億という世界第二の膨大な人口を抱えており、3億といわれる中間層が購買力を増す大きな市場となって、経済を牽引している。しかし少し気になるデータもある。ユネスコの統計で冒頭の図右のように、初等教育の就学率が2001年から2007年にかけて改善されているが、減少しているとは言え、まだ沢山の子ども、特に女の子が学校にが行かれないでいる。インドでは読み書きのできる15歳から24歳の成人の男性は70%を越えているのに、女性では最近のデータでようやく50%を越えたに過ぎない。つまり、今の成人インド女性の二人に1人は読み書きができない現状で、初等教育就学率が成人の識字率に大きく影響していることがわかる。
 子どもの権利条約28条では、締約国は「教育についての児童の権利を認め この権利を漸進的に かつ機会の平等を基礎として達成するため 特に 初等教育を義務的なものとし 全ての者に対して無償のものとする」としているが、上述のように男女の格差が歴然としてある。格差の背景は子どもが労働力とみなされて、学校に通わせると家族にとっては働き手が失われるので、生活のために働かなければならないという経済的な事情がある。また、畑や工場で働くだけなら、教育は要らないとか、女の子は結婚して子どもを育てることさえできれば教育など要らないという親とか、地域の無理解も背景にあります。こうしたことから、せっかく小学校に通い始めても、途中で止めて卒業できない子どもも多い。

2.ニューデリー市内の私立校の先進的取組
 2003年にインド政府は、女の子の就学率を高めるために教科書や制服の無償提供、女性教師の増員、男女別トイレ設置などのための政策を採用し、州によっては昼食を提供して、子どもの食費を一食でも浮かせることで学校に来させようという取り組みを始めた所もある。そうした中で、政府の取り組みを先取りするような取り組みを行っているニューデリー市内のスプリングデールズ学園という私立校が紹介された。5歳から18歳までの生徒2500人が通う男女共学校で、15%がスラムから通っており、スラムからの通学者全てに奨学金が支給されている。この学校には、インドの子どもたちの教育に尽力してきたラジュニ・クマールさんという校長(現理事長)がおり、以前にも道傳解説員が取材に訪れている。今年から多様性に配慮した教育を掲げて、異なる人種、民族、言語、階級、更に体の不自由な子ども達も積極的に受け容れている。体の不自由な子ども、少数民族や貧しい地域の子どもなど、多様な背景を持つ子ども達がおり、特別なケースを除いて、子ども達は分け隔てされること無く、同じ教室で一緒に学ぶシステムになっている。クマールさん25年前に校長を退いて理事長になったが、87歳になった今も、毎日校舎の中を杖をついて歩きながら、生徒達と言葉を交わすことを欠かさない。クマールさんの働きかけで今年の夏、国際交流基金の助成金で日本への短期留学した18歳の生徒は、「この学校のお蔭で日本に行ったり、多くのことを学び、アジア各国で友達ができた。だからこそ、学校で学んだこと、経験したことを他の子どもに教え。社会に還元するのが自分の役割だと感じている」と語っていた。

3.国の行く末がかかる教育の意義
 クマールさんにインドの教育の現状をどう捉えるかの問いに、クマールさんが語った。「教育を受けることで、女子も就職し、技術を身につけ、経済的自立が可能になります。女性の地位を低く見る社会の偏見や、男性への服従を強いる迷信に打ち勝つことができます。だからこそ教育の意義は大きい。国の発展の鍵を握るのは教育です。インドはITなどの分野では最先端を行っています。しかし教育が最下層の子どもにも行き渡り、全体的な底上げが無い限り、インドが目標とする超大国にはなれません」。


国の将来を担う子ども達の教育の意義は、国家としてあって当然であるが、特にインドではその意味が大きい。上図左の人口成長予測のグラフのように、中国が一人っ子政策のために将来的には減少してゆくと予想されるのとは対照的に、インドではこのように人口が増え続け、2030年ごろには中国を抜いて世界一になるという推計もある。更には、日本では少子化の影響で若年層ほど人口が少なくなるのとは対照的に、インドの場合は上図右のように若年層ほど人数が多い、人口の半数以上が25歳以下の若年層である。インドの成長の行く末は、子ども達が教育を受けられる環境が整って、これだけの若年層が読み書きができる大人に成長し、経済活動に貢献できるかどうかにかかっていると思われる。

おわりに
 クマールさんは、2007年春のNHK海外ネットワークでも、現地とスタジオを結んだインタービューで、「教育とは知識の習得以上の意味がある。教育は一人ひとりを啓発して能力を伸ばすばかりでなく、社会そのものの変革を意味する。教育の本質は、よりよき人を育むことにある」と語っていたことを思い出します。日本では、子ども手当て支給、学力低下、ゆとり教育の功罪などが論議されているが、クマールさんが語った教育の本質と、スプリングデール校で取り入れられた、多様性に配慮した教育方針に強い共感を覚えました。

追:12月20日(日)23:10‐23:55 NHK衛星第一 ASIAN VOICES「パワーマサラ~インドの経済成長とエネルギー問題~」にもご注目ください。


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