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聖教新聞 (2019/ 2/ 7) 〈文化〉 福島県漁業の再生

2019年06月21日 21時46分33秒 | コラム・ルポ

〈文化〉 福島県漁業の再生

2019年2月7日 聖教新聞

風評被害でゆがんだ流通構造
トリチウム水放出には疑問
森田貴己
 
 
福島県の海産物調査結果 水産庁HP「水産物の放射性物質調査の結果について~1月28日更新~」を基に作成
福島県の海産物調査結果 水産庁HP「水産物の放射性物質調査の結果について~1月28日更新~」を基に作成
 

 福島原発事故後、試験操業を続けるなど、水産業の再生に取り組んできた福島県漁連。沿岸海域で実施する海産物の放射性セシウム検査では、2015年4月から全検体が基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を下回るなど(注)、安全性も確認されているが、風評被害は根強く、本格操業には至っていない。そのなか、トリチウムを含んだ水の処分問題も取りざたされる。中央水産研究所 海洋・生態系研究センター放射能調査グループ長の森田貴己氏に福島県漁業の再生を巡って聞いた。

安全面からは十分回復

 福島県では、2012年6月から試験操業を始めましたが、漁業再生に向けた取り組みのなかで、忘れられがちなのは、原発事故の直後、漁業者が操業を自粛する判断をいち早く決定したことです。これは国から禁止されたからではありません。

 そうして1年以上も自粛を続けた後、3種の魚種から試験操業を始め、十分安全を確認しながら、対象魚種を増やしてきました。現在では、解除に必要な検体数が確保されない出荷制限魚種を除く全ての魚種で国の基準値を下回ることが確認されています。
 従って、安全面からは、福島県の漁業は十分に回復しているといえます。しかし、試験操業を始めた漁業者でも出漁するのは週に2、3日。全体の水揚げ量も震災以前の約2割にとどまっています。それは、魚の安全も確保され、漁業生産力も十分に回復したけれども、水揚げした先にある流通機能が回復せず、停滞しているためです。
 震災以前、相馬双葉漁協には約180人の仲買業者がいましたが、現在は20人余りしかいません。以前のように水揚げしても、それを扱うだけの能力がないのです。津波の被害で廃業した仲買業者もいますが、原発事故後、福島県の海産物の水揚げがなかったことと、福島県の水産物に対する風評被害が固定化し、多くの仲買業者が離れてしまいました。そして、福島県産の水産物が消えた市場には、他の産地の魚が並び、それが固定化してしまったのです。
 福島県漁業が現在も本格操業に至らないのは、魚が汚染されているとか、漁業者の生産力が回復していないということではなく、事故後の風評被害によって、水産物の流通構造がゆがめられ、固定化したことに原因があるのです。

漁連だけが批判の的に

 この状況に追い打ちをかけるように、現在、持ち上がっているのが、トリチウム水の海洋放出の問題です。トリチウム水は、原発の廃炉作業で発生した汚染水を浄化処理した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ水のことですが、この問題は、突然出てきたものではなく、事故炉の冷却を始めた時から既に存在していました。

 そして、このトリチウム水の処分方法は、私も委員を務めた政府の小委員会(トリチウム水タスクフォース)で検討されてきましたが、そこで話し合われたのは技術論のみで、風評被害などの社会的な観点を含めた総合的な問題は、今後の課題とされ、現在の小委員会で議論されています。
 ところが、トリチウム水のタンクでの長期貯蔵は廃炉作業に影響を与えかねないとして、現在、海洋放出を含めた環境放出を前提に、合意形成を図ろうとする動きが強まっているのです。
 トリチウムは、人体への影響は極めて軽微とされ、通常稼働の原発でも海洋に放出されていることから、合意形成は容易と考えているのかもしれません。
 しかし、漁業者からすれば、事故の影響による風評被害でゆがめられた構造をそのまま放置しておいて、“海洋放出の影響は、セシウムに比べ小さいですから”では済まされない問題です。漁業者から強い反対の声が起きるのは当然です。受け入れられる話ではありません。
 しかも、福島県漁連は、先に汚染水の増加を食い止めるために、地下水バイパスやサブドレン(建屋近傍の井戸)は炉心に触れた水ではないということで、海洋放出を認めました。しかし、その苦渋の決断をした漁連だけが批判の的となったのです。
 合意形成といっても、それは国や東京電力の責任逃れでしかありません。批判や風評被害の影響は全て漁業者が受け止めることになります。これも漁業者が受け入れられない大きな理由になっています。
 また、風評被害について、現在、政府の小委員会で議論しており、被害対策を行うとしていますが、現状を見れば、それがいかに空虚なものであるかが分かります。

生業取り戻すのが復興

 トリチウム水の環境放出は、林立するタンクを処理し、廃炉作業を進める上で重要なことかもしれませんが、それが本当に「復興」につながるのか、疑問です。現在あるトリチウム水を希釈し全て放出するには数十年の期間が必要です。そうなれば、新たな風評被害も重なり、福島県の水産業が回復することはなくなるでしょう。それを「復興」と呼べるのでしょうか。

 これ以上、風評被害、社会的影響を生じさせないためには、増加するトリチウム水を抑制する対策を講じるとともに、現在のトリチウム水については、タンク保管を含めた環境放出以外の方法で保管を継続し、放射能の減衰を待つほかはないでしょう。
 こうした対策を進めながら、風評被害でゆがめられた流通構造を回復し、漁業を生業としていた人々が元の生活を取り戻していくこと、そこに真の復興はあると私は考えています。
 注 取材後の1月31日、エイの仲間で国の基準を超える検体が見つかった。他の同種の調査結果と比べ、非常に稀な検体と考えられるが、福島県漁連は安全を確認するまで出荷停止にした=編集部

 もりた・たかみ 1969年生まれ。米カリフォルニア大学等で海洋生物、環境放射能などを研究。2011年当時、水産庁研究管理官として原発事故対応に取り組んだ。著書に『水圏の放射能汚染』(共著)がある。


こういった記事を読む時に思い出すのは、大槌町からの震災ゴミ(と言っていいのか分からないけど)を新潟で処分しようとしたときに、頑として反対し続けた輩。

いくら震災後で混乱しているからといって、放射性物質は含まれていないだろうことは、落ち着いて考えれば分かりそうなんだけど。

自分は気にしないけど、やっぱり頑なに拒否する人は現にいるんだろうねぇ。

…なんだか無責任みたいなコメントになってしまったけど、言わんとしていることは分かってもらえるかなぁ?

ちなみにこの記事は4カ月半前のものなんだけど、その後はどうなっているんだろうか。

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