環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

色を言葉で評価するための方法 その2

2010-12-03 20:46:08 | 日々のこと
美大のデザイン学科でも建築学科でも。ある課題の色彩の部分について、適格な判断や評価を行うことの出来る指導者が、一体どれくらい存在するのだろう…。ふと、そんなことを考えています。例えば私がこれまで耳にした発言を挙げてみましょう。

“日本人建築家は色オンチだから”
“大体、課題を持ってこられてもこちら側が評価できない、その術(すべ)を持っていない”
“色なんて結局のところ個人の好き嫌いに拠るところが大きいから” …等々。

日本人の色彩感覚の素晴らしさについては、ヨーロッパのデザイナーからの評価が大変高く、繊細で儚げな色を東洋的なものの象徴として参考にしている例が多く紹介されています。先日読んだ“美しいもの(赤木明登著・新潮社刊)”という本の中に、日本で暮らすヨーガン・レール氏が川原で拾った小石を色見本にしている、という項がありました。
私も兼ねてから自然素材の持つ微細さ、多様さをもっと丁寧に読み解く必要がある、と考えており、そのような行為がモノを生み出すデザイナーにとりとても自然な行為であると思っています。

私が普段計画に携わっている建築や工作物、都市の色彩については、決して好き嫌いや印象論、感覚論で片付けることなど出来ません。もちろん、判断・評価は単一の色そのものについて行えるわけではありません。
例えば一つの建築(小さな戸建住宅としましょう)の場合、以下のような評価例があります。

・屋根色と壁色の色相が揃っていて、色相調和型の配色が構成されている
・サッシ、雨樋などの設備色が壁色に馴染んでおり、一体的な壁面が構成されている
・穏やかなYR系の低彩度の基調色に対し、玄関周りのやや彩度のあるYR系の低明度色のタイルが適度な変化を与えている …等々。

また、その計画が周辺との関係性においてどう見えるか、という観点でも評価を行うことが出来ます。

・暖色系の高明度、低彩度の基調色は、両隣の住宅の明るい基調色と同調しており、まちなみの連続性が形成されている
・右隣のYR系基調色、左隣のY系基調色に対し、やや対比的な寒色系(B系)の色相を展開しているものの、色のトーンが揃っているためまちなみとしての一体感が形成されている
・公道の舗装材と玄関ポーチ床タイルの明度対比が適度に設けられており、玄関周りの個性や存在感が適度に演出されている

といった具合です。色彩は常に周辺との関係性により見え方が決まります。そのためまず第一には、色彩が“どういう状態でどのように見えているか”ということに注視することが重要です。
次に、色彩的な調和感が建物全体で、あるいはまちなみとして見た時、美しい色彩調和が構成されているか否か。これはもちろん、建築物の規模や形態・用途、更には素材感や表面の光沢感なども相互に影響し合っていますので、中々一筋縄では行きません。

色を評価すること。経験と訓練が必要ですが、空間を、そしてカタチを扱う建築家であれば、総合的な検討の際に“色彩(+素材)の視点”を持つことはそう難しくないはずです。
そうすれば実際に立ち表れた姿を見て、“こんなはずじゃなかった”“もっと明るく見せるはずだったのに”“見本で見たときと印象が違う”と後悔するようなことを無くすことが出来ます。色彩がある状況下で、どのような見え方をするか、を普段から意識すること。
これは私が今、何かを生み出すことに興味を持っている学生、学部・学科を問わず出来るだけ多くの方に伝えて行きたいことの一つです。