環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

白い壁について、思うこと

2010-08-23 22:07:02 | 日々のこと
建築や工作物における白。これは本当に材料選定が難しい、と常々感じています。耐候性に優れたフッ素樹脂塗装なるものが出現した際、多くの建築物に採用された記憶がありますが、汚れの付着具合については他材料とあまり相違はないというのが、数年の経過を観察して感じていることです。

建築家とともに色彩計画を行う場合、この白の表現については常に議論になります。私は様々な観点から、大きくフラットな面に塗装を使用する際、高明度色を単一で使用することは出来るだけ避けるべきであると考えています。

それは高明度色が特に屋外環境において大変目立ちやすい色彩であること、また塗装の場合は建築的にどのような対策を取っても、数年で汚れが目立ち完成時の姿を保持しにくい、などの点が挙げられます。

環境色彩は地域の持っている色、あるいはその場にある自然の色が基本、ということを大学在学中から学んできた私にとっては、塗装(吹付け材を含む)の白、というのは人工的で硬質な色彩の象徴というイメージがあります。これは、学習によって刷り込まれたイメージなのかも知れません。白でなければならない建築、というのも存在すると思いますが、そこまでしてまっさらな白を“使用しなければならない理由”が、まだ実感できないで居ます。

ですが、まちの中の様々な建築物を見ていて、『ああこれは白でもまちなみに対して融和的で良いな』と感じる白があります。それは“表情のある白”です。



これはオフィスの近く、中目黒にある賃貸マンション。確か一昨年、竣工した建物です。
筋面のモザイクタイルを市松貼りにしています。タイル表面には艶があり、太陽の光線の加減で市松模様が浮かび上がったり、見えなくなったり。



私自身も経験があるのでわかりますが、これはコストを抑えつつ変化を出す手法の一つです。モザイクタイルというのは300角×300角のサイズで、工場で“紙貼り加工”された後、出荷されます。現場でタイルを貼る際にシートの向きに注意してい、交互に貼って行けば良いわけです。ですが、もっと細かい模様(例えば一列づつのストライプ等)を施す場合には、工場で紙貼りにする段階でストライプ状にパターンを組まなくてはなりません。これは手作業でしか出来ないため、その加工にどうしてもコストがかかります。最近ではタイルの定価の2割増しと言われます。

この建物も近くで見てみると打ち継ぎや梁下のところで“ややキリの悪い納まり”になっていたりするのですが、全体のスケール感に対しては7層のボリュームが適度に和らげられていますし、設計者の歩行者の目線に対する工夫や配慮を読み取ることができます。

色はそれぞれイメージを持っていますが、それは常に表裏一体、プラスとマイナスの面を併せ持っている、というのが私の実感です。たとえば白は無垢・繊細・清潔・上品などプラスのイメージに対し、形態や素材との組み合わせ次第では人工的・淡泊・寂しい…等マイナスのイメージを喚起させる場合もあると思うのです。

これは白に限ったことではありませんが、建築物の外観は自然に人を引き寄せたり、眺めたあとに余韻を漂わせたりするような、僅かでも何かしら、表情のあるものを創造していきたいと考えています。