アジア映画巡礼

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第19回東京フィルメックス:私のDAY 5(上)

2018-11-24 | アジア映画全般

さて、5日目の11月22日(木)は、『自由行』『8人の女と1つの舞台』を見ました。どちらもなかなかの作品で、いい写真も撮れたため、1作ずつご紹介します。『自由行』は最終日、明日25日(日)の21:15からの上映もTOHOシネマズ日比谷スクリーン12でありますので、興味を持たれた方は公式サイトをご参照の上、ぜひいらしてみて下さい。


<コンペティション部門>
『自由行』
2018/台湾、香港、シンガポール、マレーシア/107分/原題:自由行/英語題:A Family Tour
 監督:イン・リャン(應亮)
 出演:ゴン・チュウ(宮哲)、ナイ・アン(耐安)、ピート・テオ、タン・シンユェ(譚心悦)


フィルメックスの常連、イン・リャン監督の新作です。主人公は、中国から香港に移り住んだ女性監督のヤン(楊/ゴン・チュウ)。中国で作った作品が当局に問題視され、マスコミやネットでも叩かれたりしたため、香港に逃れたのです。今は画家の夫(ピート・テオ)と幼い息子と共に香港で暮らしながら、中国に残してきた母親(ナイ・アン)とはスカイプで連絡し合う日々でした。そんな時、ヤンは台湾南部の高雄で開かれる映画祭に招かれます。中国領である香港ではヤンと母親は会うことが難しいのですが、第三国と言える台湾では会える可能性があります。母親は映画祭の時期に合わせた台湾ツアーに申し込み、ヤンの夫は中国の旅行会社と連絡を取りながら、一家が母親と問題なく再会できるよう心を砕きます。こうして、「ツアーの行った先で偶然会ったことにして下さい」という中国側旅行会社の配慮を受けて、母親と一家は高雄で顔を合わせます。初めて会う孫息子に、頬を緩める母親。いろんな行き違いもありながらも、両者は短い再会を何度か繰り返しますが、急速に老いた母親を見て、ヤンの心は穏やかではありませんでした...。


事前の情報を入れていなかったため、ピート・テオが出て来たのにびっくり。何でも監督が、「これまでヤクザっぽい役をやってきたピート・テオに、穏やかでいい人の役をやらせたい」と思い、起用したのだとか。いろんなプレッシャーに囲まれている上、数年ぶりに再開した母親のやつれぶりにショックを受けてつい不機嫌になる妻ヤンを様々に思いやり、子供の面倒も見ながら彼女を支える理想的な夫&婿を、控え目な演技で演じています。しかし、香港人にこんな控え目な人、あんまりいませんよね...。あと、広東語と普通話の両方が話せるというのも、ピート・テオが起用された理由の一つだったようですが、そのおとなしいしゃべり方も、香港人でなさすぎますよ、ピート。


イン・リャン監督自身を投影させたような主人公の女性監督ですが、高雄での映画祭の場面もなかなか興味深く、会った中国人監督が「帰国しなくてもいいよ。中国の空気は汚すぎる」と意味深の発言をしたりと、細かく見ていくとメッセージがいろいろ隠されていそうです。香港の監督張同祖もカメオ出演しています。終了後のQ&Aに登場したイン・リャン監督からは、以前と違った落ち着いた雰囲気が感じられました。


市山:イン・リャン監督はフィルメックスはもう4回目になりますが、前回からはだいぶ時間が経っているので、今回ご招待できてとても嬉しく思っています。では、まず最初にひとことご挨拶を。

監督:こんにちは。今日は皆さんにお目にかかれて、とても嬉しいです。フィルメックスにやってきて、皆さんにお目にかかるということは、私にとってはなかなか難しいんですよね。この作品は、古い友人と語り合うような気持ちで作ったので、馴染みであるフィルメックスの観客の皆さんと一緒に見るのにふさわしいと思います。私のこの5~6年の変化、どのような生活を送ってきたのか、ということを描いているので、ここで上映されてひとつの区切りがつくと思っています。

市山:どのようなきっかけから本作を撮るようになったのか、というか、このストーリーのアイディアはどこから?

監督:このような旅行は、実際にあったんです。違っているのは、映画監督、つまり僕の親が来たのではなく、妻の親が台湾に来て、僕たちと再会した、といういう点です。自分の親とは、もう6~7年会っていません。本作を作った動機としては、私には今年5才になる子供がいるんですね。脚本を書き始めた時は3才だったわけですが、将来この子が成長して、「あの時、どうして台湾で、母方の祖母と会ったのだろう?」と疑問に思った時、それに答えられる作品にしよう、ということでした。中国人は何代も、私のずっと上の世代は苦難にもまれてきたわけです。そして、国に対する恐れとかもあるのですが、それを直接的に表現することはできません。自分の今の生活に影響が出るのでは、という恐怖があるのです。そんな状況を、私はこの作品を撮ることで少しでも変えたいと思いました。それで、私の妻も脚本を担当し、さらに中国から来たツアコン役で出演もしました。妻はそこに、子供と一緒に来ています。


:涙が止まりませんでした。イン・リャン監督も、香港に留まざるを得なかったわけですが、劇中で記者がヤン監督に「あなたは中国人ですか、それとも香港人ですか?」と聞きますよね。その時監督は「異邦人(Passenger)です」と答えますが、このシーンを作った時のお気持ちを聞かせて下さい。

監督:ご質問、ありがとうございます。(ちょっと考えて)人生では自由に価値があるとしたら、それが得られないと失望することになります。もし自分の故国に自由がないとすれば、孤独を感じてしまいます。故国が自分からますます遠くなり、外でさすらう異邦人とならざるを得ません。いくつかの選択肢はあるのですが、自分が自由を得られる価値を手放してしまうこと、あるいは、自由が得られないというのを認めないこと、そして、そこから離れようとすること、そういった状態になると、自分の身分というものは国籍を超えてしまうことになります。それは、中国でも台湾でもアメリカでも、もうどこの国の人間でもいいわけです。そういう意味から、ご質問のシーンを作りました。


:主人公の監督を妻の方にしたのは、監督か、あるいは脚本を書いた奥様か、どちらのアイディアですか? 母性を対比する、ということで、監督を妻の方にしたことが成功していたと思います。

監督:脚本は3人の共同脚本ですが、私以外の2人は女性です。さっき言ったように妻のサンサン(三三)と、もう1人のチャン・ウァイ(陳慧)は香港の小説家で、少し年上の人になります。背景の違う3人が組んだことで、私たちにとってはあまりに近すぎて見えないことが、チャンさんにはきちんと見えてくる、その点が非常によかったと思います。もし男性を監督役にしたら、100%「あなた自身のことだろう?」と言われてしまいますしね。私と同じような境遇で、外に出てしまった人は結構います。そういう多くの人の経験を一緒に組み込んであるのです。そして、母と娘の関係性を描いたので、映画としても撮りやすかったです。本作は単に私の経験だけを語っているのではなく、私とよく似た経験をした人々、その集合体として主人公を描きました。チャン・ウァイは母子を題材にした小説もいろいろ書いているので、それもあって監督を女性にし、母と娘の設定にしました。


:6年前に監督の前作を見てから、ずっと監督のFBをフォローしていたのですが、一時期、香港演芸学院の講師の契約が切れてしまい、香港にいつまでいられるかわからない、と書かれていたので心配しました。でも、今年、香港の永久居民の資格を取られた、とあったので、ちょっと安心したところでした。活動もやりやすくなったのでは?

監督:細かいことまでご存じで、驚きました(笑)。確かに、この6~7年は苦難にみまわれて、香港に行った当初からそうですが、多くの方に助けてもらいました。たくさんの方たちが支援してくれ、動いてくれたお陰で、今年の9月28日に永久居民の資格を得たのですが、この日は以前雨傘運動の起きた日で、特別な意味合いを感じました。永久居民の資格は大きな助けになります。今回のフィルメックスのための来日も、実は前回もらったヴィザが切れてしまっていたので、永久居民の資格がないと来られないところでした。そういう心配は今後なくなるので、その意味では自由を得た、と言えますね。でも、別の問題もあって、香港の多くの友人たちは、映画を撮ったものの映画館で公開してもらえなかったり、大陸(中国政府)の目が怖くて、なかなか自分の作品を発表できないといった問題を抱えています。私はインディーズでずっと撮ってきたので、状況はどうであれ、自分が語りたいこと、映画で表現したいことがあれば、そしてそれを見て下さる観客がいれば、自分の仕事を続けていくと思います。


市山:台湾や香港での公開予定は?

監督:高雄映画祭で上映されましたし、香港のアジア映画祭でも上映中で、このあと台湾では公開される予定です。


ロビーに出ると、ファンが列を作って、イン・リャン監督にサインをしてもらっていました。ロビーでは奥様とお子さんも合流。お子さんは、パパがサインをするのを、ずっとそばで見ていました。イン・リャン監督、私は『あひるを背負った少年』(2005)が好きなのですが、また次の作品を楽しみにしています!

明日25日(日)の21:15からの『自由行』の上映@TOHOシネマズ日比谷スクリーン12で、本年の第19回東京フィルメックスはフィナーレを迎えます。特にピート・テオのファンの方、本作をお見逃しなきよう、有楽町に向かって下さいね!




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