アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第19回東京フィルメックス:私のDAY 2

2018-11-19 | アジア映画全般

本日は、明日の授業の準備があったり、別の作品の試写に行ったりしていたため、1本だけ見てきました。

『幻土(げんど)』
2018/シンガポール、フランス、オランダ/95分/原題:幻土/英語題:A Land Imagined
 監督:ヨー・シュウホァ (楊修華)
 出演:ピーター・ユウ(宏榮)、リュウ・シャオイー(劉暁義)、ルナ・クォク(郭月)、ジャック・タン(陳澤耀)


シンガポールの、海縁に広がる工場地帯と埋め立て地。その埋め立て地で危険な作業に従事するのは、多くが外国からの労働者でした。この埋め立て地では、中国本土からとバングラデシュからの労働者が多数を占めていたのですが、その中で中国人の王必成(リュウ・シャオイー)が失跡したというので、刑事(ピーター・ユウ)が相棒と共に捜査に入ります。彼らの宿舎に行ってみると、狭い部屋に2段ベッドが3台も押し込まれ、劣悪な環境で暮らさざるを得ない労働者たちの実態がわかってきます。王が寝ていたベッド近くの窓からは、ネットカフェのネオンが見えました。そのネットカフェを仕切っているのは、若い女性ながら全身にタトゥーを入れたミンディ(郭月)。彼女から王の不眠症やネット遍歴を教えてもらった刑事は、姿を消すまでの王の足跡を辿ろうとし、王と親しかったというバングラデシュ人のアザド(アーザード)を捜します...。


途中から、どんどん夢というかネットの世界に人々がからめとられていく感じで、一体何が真実だったのかわからないような作品になっていきます。ただ、バングラデシュ人の労働者たちが集まって、パーンスリー(横笛)やドーラク(太鼓)、バイオリンなどを演奏しながらベンガル語の歌を歌うシーンなどもあり、シンガポールの外国人労働者社会を少しだけ垣間見ることができます。彼らは通勤時、ピックアップの小型トラックに乗って運ばれる、というのも、シンガポールではよく見かける風景です。その運転手をしていたのが王で、だから彼らと仲良くなった、という設定ですが、バングラデシュ人たちは好意的に描かれていて、一部皮膚の色に基づいたちょっと差別的な呼び名が出てくる以外は、とても感じがよかったです。終了後の監督のトークでは本作の製作意図がわかり、それでこんな夢幻的な作品になったのか、と納得しました。


今回、ヨー・シュウホァ (楊修華)監督は、カメラマンの浦田秀穂さんと共に登壇。浦田撮影監督は現在シンガポールのラサール芸術大の教授として教鞭をとっているそうで、会場からは「ヒデー!」というかけ声が。ヨー監督と浦田撮影監督お二人のご挨拶から始まったトークを、簡単にアップしておきます。


監督:こんにちは、満員で、すごく感激しています。お仕事先から急いで来て下さった方もあるのでは、と思いますが、本当にありがとうございます。さっき市山さんがご紹介下さったように、私はタレンツ・トーキョーという若手映画人を育てるプログラムの出身で、そこからこの映画の企画も始まりました。ですので、その企画が円を描いて戻ってきた、という感じです。

撮影監督:月曜日のビミョーな時間帯のこの作品上映に、足を運んで下さってありがとうございました。


市山:どのようなところから、本作のストーリーを思いつかれましたか?

監督:私の母国シンガポールの土地、それが英語題名「A Land Imagined」になっていますが、シンガポールは他国から運んできた砂で海を埋め立て、それで土地が拡大していった国です。埋め立てはもう50年も続き、国土が25%増加しました。そういう国で生きている者として、この題材を扱いたいと思ったのです。それでリサーチを始め、現場に足を運んでいるうちに、こういった所の労働者の99.9%は外国人労働者だということがわかりました。シンガポールでは人口の4分の1が外国籍の人々なので、彼らを描くことは欠かせません。彼らの物語は、私たち自身の物語であると感じています。


市山:浦田撮影監督はシンガポールのラサール芸大で教授をしてらっしゃるので、この作品を担当なさることになったのだと思いますが、どういったスタイルで撮ってほしい、というような指示が監督からあったのでしょうか。

撮影監督:3年ぐらい前に本作のドラフトをもらっていたんですが、クランクインするまでに、いろんな場所を6~8か月かけてロケハンし、バングラデシュの人たちがいるところを捜して歩きました。監督からは、「これまで撮られたことのないシンガポールを撮ってほしい」と言われていました。美術担当もイギリス人だし、アウトサイダー的視点から撮ってほしかったのだと思います。


Q:音楽について聞きたいのですが、演歌に近い曲が使われていたと思います。あの曲を使った意味は?

監督:本作に使った音楽は、いずれも記憶の引き金になるようなものばかりです。本作は夢の世界を作り上げようとしています。ですので、楽曲もノスタルジックなもの、アイロニーがあってセンチメンタルなものを選びました。印象的だったあの曲は、自分が子供の頃に聴いていた中国のバラードです。劇中のネットカフェは、中国人の出稼ぎ労働者がたくさん住んでいる地区にあり、そのあたりにはカラオケ店もいっぱいあります。そういう所で流れる曲ですね。この曲はマレーシアの歌手で台湾で有名になった人の持ち歌なんですが、元は日本の歌謡曲で、それがカバーされたものです。マレーシア、台湾、日本がミックスされていて、ピッタリだと思って使いました。


Q:お二人にうかがいたいのですが。まず監督、夢と現実、移民という現実に夢というシチュエーションを取り入れたのはなぜですか? それから撮影監督、撮影で何か技術的なご苦労とかはありませんでしたか?

監督:よく聞かれる質問ですね。こういう内容の作品だと、社会派の作品として描かれることが多いのですが、違ったやり方をしてみたいと思ったのです。私自身シンガポールに住んでいるのですが、シンガポールが夢のように思えてくるんです。シンガポールは繁栄しているから夢の街だ、ということはもちろんよく言われることですが、シンガポール自体が国をどんどん作り直している感じがするんですね。そこで生きているのは、ふわふわした感じがして、まるで夢の中で生きているような感覚がある。もちろん、シンガポールが埋め立て地だからふわふわしているということもありますが。労働者の人たちに話を聞いてみると、シンガポールは夢のような場所だ、とよく言われました。私自身の立場としては刑事の立場に近いと言え、地元の人間と外国からの労働者たちとではやっぱり違ってきます。でも、みんな夢の世界を見ている、その夢を通してみんなは繋がっている、という感じがするのです。それぞれの意識は違っていても、みんなは夢で繋がっているんですね。シンガポールで生きる、という経験を同じように味わっているわけです。

撮影監督:中国語のタイトルも「幻土」というのですが、マイノリティという意味があります。シンガポールとは何か、と問われると、「テーマパーク」です、と答えますね。ホテルにチェックイン&アウト、というような感覚で暮らしているんです。あの刑事は何にも属さない存在で、夢の中にいる、というのがメタファーになっています。今回の撮影は、シンガポールだけでなくマレーシアでもずいぶん撮影しています。シンガポールでは許可が取れなかったところをマレーシアで撮ったりしてるんですが、ランドスケープがきれいに見えるところはマレーシアでだいたい撮っていますね。それも含めて、監督が夢見るシンガポールになっているのでは、と思います。

監督:その通りですね。シンガポールにもかつて山があったけれど、すべて切り崩されてしまい、今のシンガポールは平坦な土地になってしまいました。シンガポールにない風景をほかで撮ったりして、いろんなロケーションをミックスした作品になりました。例えば、シンガポールの風景を船から撮影していて、その後船を下りたところはマレーシアで撮ったりしています。沿岸警備隊が来たら捕まるかも知れないとびくびくしながら撮影したんですが、それがドキュメンタリータッチを生んでいると思います。私はもともとドキュメンタリーを撮っていて、前作は半分はドキュメンタリーなんですが、自分を半分ドキュメンタリー作家だと思って撮っているところがあります。出演してくれた労働者の人たちも、主役以外はみんな本物の外国人労働者の人たちです。


『幻土』はロカルノ映画祭では金豹賞を受賞。映画の冒頭では、それを讃えて黄金の豹が画面に現れます。22日(木)にも上映がありますので、ご興味がおありの方は公式サイトでスケジュールをご確認のうえ、ぜひお運び下さい。



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