アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第19回東京フィルメックス:私のDAY 3(上)

2018-11-21 | アジア映画全般

昨夜は久々の午前様帰宅。東京国際映画祭の時は他の仕事が重なっていたこともあって、「禁午前様」にしたため、午後9時以降の上映は見なかったのですが、フィルメックスでは見放題。今年のフィルメックスでは、レイトショーに当たる午後9時以降の上映は、有楽町の帝国ホテル近くに新しくできたTOHOシネマズ日比谷のスクリーン12で行われています。以前は朝日ホールと同じ建物、マリオンの中にTOHOシネマズ日劇があって、レイトショーはそこでの上映だったため、移動も簡単だったのですが、「~日劇」は残念ながら閉館してしまいました。で、昨日昼間チケットをいただきに(我々プレスは、プレスパスを見せるとチケットをいただけることになっています。フィルメックス様、ありがとうございます)スクリーン12に行こうとしたら、案の定迷ってしまいました。年と共に、方向音痴がますますひどくなる....。でも、スクリーン12のチケット売り場の方(若い男性の方でした)の対応がそれはそれは丁寧で親切だったため、いっぺんに元気回復。こういうスタッフがいるシネコンって、いいですね。

朝日ホールで2本見てから、夜の9時前にスクリーン12に向かう道は、きれいなイルミネーションに飾られていました。ああ、あと1か月ちょっとでもうクリスマス、東宝のゴジラ(下写真左上)も寒そうです。(炎を吐いて暖まれ!)


<コンペ作品> 

『マンタレイ』
2018/タイ、フランス、中国/105分/原題:Kraben Rahu/英語題:Manta Ray
 監督:プッティポン・アルンペン
 出演:ワンロップ・ルンガムジャット、ラスミー・ウェラナ、アビシット・ハマ

Kraben rahu Poster

何となく、「マンダレイ」に引っかけたタイトルかなと思っていたのですが、本作の最後のシーンで大きなマンタが出て来たので「マンタ・レイ」なのか、とやっとわかった次第です。「マンタ・レイ」は和名を「オニイトマキエイ」と言うそうで、エイの仲間では世界最大なのだとか。今調べてみると、IMDbには上のようなポスターが掲載されていました。


舞台となるのは、タイ西部の漁村。ミャンマーと国境を接しているあたりらしく、顔にタナカー(白い化粧)を施した人たちもいます。そこで漁船に乗り込む金髪の漁師(ワンロップ・ルンガムジャット)は、その漁船の船長に命じられ、仲間と共に森に人を埋める闇の仕事もしていたのでした。漁師は、漁のない時はマングローブの根が張り巡らされた森で換金できそうな金網などを拾ったり、森で貴石を含むきれいな石を拾ったりして、生活の足しにしていました。そんなある日、漁師は森の中で泥だらけの男を見つけます。胸に銃創がありますが、息はしており、漁師は彼を家に連れ帰って手当てしてやります。男は徐々によくなっていったものの、ひと言もしゃべらず、名前も出身地もわからずじまい。不便に思った漁師は彼に、「トンチャイ」というタイで一番有名な歌手の名前を付けてやります。「バード・トンチャイだ。スーパースターだぞ」


体が回復すると、漁師はトンチャイにバイクの運転を教え、トンチャイは漁師が漁から戻る時間に港まで迎えにいくのが日課となります。二人はバイクで近場に遊びに出かけたり、市に行ったりしました。部屋には電飾を飾り、漁師は自分にも妻がいたことを語り始めます。近所の工場で働いていたサイツァイと結婚したものの、3~4年たって彼女は海軍兵士と出て行き、漁師は1人残されたのでした。そんな寂しかった日々も、トンチャイの存在で楽しいものに変わっていきます。漁師はもぐり方を教え、その時初めてトンチャイは「ウ゛~~~」というような声を発します。さらに漁師はトンチャイに森を歩くことも教え、「この森は身元不明の死体で埋め尽くされている。でも、満月の夜には原石が輝くんだ」と自分の持つ知識やスキルを教えてやるのでした。

ところがある日、船が戻ってきても漁師は乗っていませんでした。その少し前電話がかかってきて、漁師は「ボス、もうやりたくないんです」と返事をしていたのですが、それがボスの機嫌を損ねたようで、船に乗っている時に始末されたようです。トンチャイは彼を待っていたものの、いつまで経っても帰ってこないため、今度は自分が漁師として働き始めます。そんなある日、トンチャイが家に戻ってみると見知らぬ女が。漁師の妻サイツァイ(ラスミー・ウェラナ)でした。海軍兵士に捨てられ、行くところもなく戻ってきたのです。やがてサイツァイは、元の夫と同じようにトンチャイの髪を金髪に染め、妻のように振る舞い始めます。こうして、トンチャイとサイツァイの穏やかな日々が続くかと思われたのですが...。


オープニングに出てくるのは、「ロヒンギャ難民たちに捧ぐ」という言葉です。ミャンマー西部に住むイスラーム教徒ロヒンギャの人々は、ミャンマーでの迫害から逃れてバングラデシュに逃げる人が多いのですが、遠く離れたタイにも難民の乗ったボートが到着することがあり、彼らを経済難民と見るタイ政府との間でトラブルがたびたび起こっています。ある時はボートが押し戻され、多くのロヒンギャの人々が溺死したこともありました。そういった事実に基づいて本作は作られており、金髪の漁師はどうやら、タイに上陸しようとした難民たちを始末する仕事を課せられている、という設定のようです。妻にも逃げられ、貧しくすさんだ生活の中で、人を助けるという行為によって人間らしさを取り戻していく漁師。それに対して、何か理由があってかあるいは生まれつきなのか、言語によっては人とコミュニケーションが取れないトンチャイ。まるで映画にならないようなシチュエーションですが、プッティポン・アルンペン監督はディテールを丁寧に描き、漁師とトンチャイ、そして妻の関係性を構築していきます。


森の中のシーンでは、時折アピチャートポン・ウィーラセータクン監督作品を思わせるような描写があり、リアリズムだけではない幻想的な世界も描きながら、「人を遺棄する」「他人から遺棄される」とはどういうことなのかが描かれます。とても力のある作品で、漁師とトンチャイを演じる2人の男優の魅力もあって、観客を引きつけて放しません。また、妻を演じるラスミー・ウェラナはイサーンのソウル・ポップスを歌う歌手として知られており、本作の中でもトンチャイと温泉に入りながら、妖しくもしっとりした歌声を聞かせてくれます。19日(月)のQ&Aではそんな質問も出たのでは、と思いますが、これまでに見た中でも一番見応えのある作品でした。


昨日は他に、<コンペ部門>のペマツェテン監督作『轢き殺された羊』と、アミール・ナデリ監督の『マジック・ランタン』を見たのですが、こちらは(下)でご報告します。



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