グー版・迷子の古事記

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ぼくのなつやすみ(2)

2013年12月12日 | 落書き帖
次の日も昨日と同じく良く晴れた日だった。
約束の朝10時には誰も遅れることなく昨日のグラウンドにみんな集まっていた。
マア君も今日はうまく母親の手をすり抜けたようだ。
見回してみると僕たち4人はみんな同じ格好をしていた。
自らの身長ほどもある虫取り網を片手に持ち、首からは期待のいっぱい詰った虫かごを下げている。

早速僕たちはサッちゃんを先頭にクワガタ取りに出発した。
定時制高校のグラウンドを出ると、そこから西にある小学校の東の縁を流れる用水路の土手に登り北へ向かい国道を横切った。
今はすっかり変わってしまいましたが、当時は車の往来も少なく幼い子が歩いててもあまり危なくない所でした。

ここで少し僕たち4人の紹介をしたいと思います。
先頭を歩くサッちゃんは面倒見が良く、友達が泣いたり困ったりしてると声を掛けてくれるような優しい男の子、背も高くてみんなからとても信頼されていました。
2番目を歩くマア君はいたずらっ子、彼に「ダメ。」だと言うものなら必ずダメな事をやり遂げてしまうような男の子でした。
3番目を歩くエイジ君は4人の中でも一番背が低いのですが一番すばしっこい男の子で、とにかく逃げるのが得意でした。ジャングルジムでの鬼ごっこでは彼の右に出る者はいませんでした。もしオリンピックにジャングルジムの鬼ごっこがあったならきっと彼は金メダルを取っていたと思います。
最後尾を歩いていたのが僕。いつも友達の後ろから歩いて着いていくだけであまりこれといった取り柄の無い男の子でした。

国道を渡った僕たちは、頂上に神社のある小高い山を左に見てさらに北へ向かった。
いつもならこの山で虫取りをするのですが、この日はさらにその先の北へ冒険です。
サッちゃん以外の3人にとっては、ここから先はまだ行った事もない場所でした。

さらに100メートルほど北へ歩いた所で、サッちゃんは一旦止まった。

「ここだよ。」

そこから西へ向かって細い土くれた道が続き、さらにその先を見ると大きな森が黒い口を開けている。
サッちゃんを先頭にその道を森へと向かっていると、道の右側に赤い涎掛けの様なものを首からつけた七体のお地蔵さんがならんでいた。
お地蔵さんには水とお饅頭がお供えしてあった。

マア君以外の3人はお地蔵さんが怖かったのだろう。
お地蔵さんからなるべく離れた道の左端を音を立てないようにそっと通っている。
マア君はと言えば、饅頭を見つけると何の躊躇も無くつかみ取り食べてしまった。

「ダメだよ、饅頭取っちゃあ、バチが当たるよ。」

エイジ君が心配そうにとがめた。
マア君は面白そうに今度は別のお地蔵さんの饅頭をつかみ取り食べてしまった。
これ以上マア君に何か言ってもお地蔵さんの饅頭が無くなるだけなので、僕たちはもう何も言わずに道の奥へと進んでいった。

森の入り口まで来た所でサッちゃんは再び止まると一つの木を指差した。

「この木だよ、この木の下にクワガタがいるんだ。」

そういい終わると木の下の土を手で掘り始めた。
後ろから見ていると本当にクワガタが土の中から出てきた。しかも2匹も。
僕たちはもう、先ほどのお地蔵さんの前を通った時に感じた不安を忘れていた。

「すげぇー、本当に出てきた。」

後ろでサッちゃんを見ていた僕らは急いでそこら中の木の下を掘り始めた。

「その木じゃないよ、この木。」

サッちゃんは親切にクワガタがいる木を教えてくれる。
でも僕にはどの木か分からなかった。

つづく

(迷子の古事記 2013.11.14)