グー版・迷子の古事記

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中山最終レース(2)

2013年12月19日 | 落書き帖
このままでは荷物を予定通りに届ける事は難しそうだった。
目の前には相変わらず例の白い軽四が走っている。
男はインターチェンジの入り口を見つけるとウィンカーを左に出した。
自腹を切って高速道路を使う事にしたのだ。
男がウィンカーを出し左へ曲がろうとしていると、前を走る軽四もまたインターチェンジに吸い込まれていった。

「あちゃー、ゲンがわりぃーなー。」

勝負事の前に思い通りに事が運んでない現実に男は少し不安を感じたが、男のトラックが料金所のゲートをくぐる時には、もう既に老人が乗る軽四は視界から消えようとしている。
これでもうあの軽四を見ることはないだろう。
そう思うと今さっき感じた不安は取るに足らない物の様に感じられてくる。
そろそろレースの始まっている時間である事を思い出した男は、ラジオのスイッチを気合を入れて押した。

カシャン!
「ばらばらっとしたスタートとなりました。先頭へ飛び出したのは赤い帽子のシロパーマ、悲劇の骨折から復活し一年半ぶりの出走となります。8歳と言う年齢ですが実績だけはどの馬にも負けていません。2番手には2番人気白い帽子のヒシトレーラーが好位置につけています。1番人気ピンクの帽子ナイスシャワーはスタートが合わなかったようです。最後尾からとなりました。」

男が握り締めている馬券は3‐8、シロパーマとナイスシャワーの往復馬連だ。
シロパーマとナイスシャワーのどちらが一位でもいいが、3→8または8→3のワンツーフィニッシュでないと配当はおりない。

ナイスシャワーは去年の三冠馬、スタートで出遅れたぐらい問題はないだろう。
2500メートルあれば、ゴール前では充分に勝負になるはずだ。
問題はヒシトレーラーだった。鞍上滝で好位置につけている。
もしヒシトレーラーが絡めば男に配当は無い。

「よし、敵はヒシトレーラーだけだな。」

シロパーマは骨折休養明けにもかかわらず毛艶も良く足色もいい。
クラシックでは菊しか取れなかったシロパーマだが、皐月・ダービーを取ったキンニクマシーンさえ居なければ三冠馬にもなっていたであろう馬だ。
もうシロパーマが大駆けする事に疑いは無い。
ナイスシャワーがヒシトレーラーさえかわせば男の買った3‐8は現実の物となってくる。

「ようし、この調子なら荷物も予定通り届けられそうだ。馬券も8割方いけそうだし調子いいぞ。」

男の期待はどんどん積もっていく。
男の足の下に置かれたアクセルにも自然と力が伝わっていた。
男のトラックのスピードはずんずん上がり、前を走る車をどんどん抜いていった。

大きな右カーブを曲がると男の目の前には急な坂道が現れてきた。
そして老人が乗ったあの白い軽四がその目に映し出されていた。

つづく

(迷子の古事記 2013.11.21)