グー版・迷子の古事記

古事記の世界をあっちへふらふらこっちへふらふら
気になったことだけ勝手に想像して勝手に納得しています

鳴らない電話(2)

2013年12月24日 | 落書き帖
明日香は確かに綺麗な女性ではあったが、四十代くらいの男性が同伴していた。
彼は鋭い目線を周囲へ配り、彼女に近づく男性を寄せ付けない様な雰囲気を醸し出している。
また服装も田舎者から見ると少し派手目の高級そうな上下を身に纏い、見ようによっては堅気とは違うようにも感じられた。
自然僕も彼女に対して客以上の感情はまるで抱いていなかった。
いや抱いていなかったと言ったら嘘になるかもしれない。
抱かないように努めていた。
そしてこの日は30分間のバンドの演奏が一通り終わると、二人は長居することなく店の外へと出て行った。

二人が次に来店したのは次の週の金曜日だった。
前回と同じくフロアーのテーブル席に座った二人に僕は注文を取りに行った。
何か嬉しいような気持ちは勿論押し隠し営業用の笑顔を作った僕に、彼女は前回と同じ微笑を投げかけている。
僕は注文を取ると気恥ずかしい気持ちを抑え店の奥へ戻っていった。

バンドの演奏が始まり店内の照明が落ちると、僕はいつもの通り壁に寄りかかりそれを眺めていた。
すると暗くなった店内を明日香が僕の方へゆっくりと歩いてきた。
そしてすぐ側まで来ると同じように壁に寄りかかり何も言わずバンドの演奏を眺め始めた。

僕は混乱していた。
どう言うつもりなのだろう?
連れの男性の方をみると注文を取った時とあまり変わらないような表情はしているが、その鋭い目線はバンドの方ではなくずっとこちらを向いている。
二人はどう言った関係なのだろう?
この時初めて二人の関係に興味が出てきた。
彼女の方を見ると悪びれた風は無く、楽しそうにバンドの演奏を眺めている。
楽しげな目線をバンドへ送っているが、その実こちらの出方を窺っている様にも見える。
何か話しかけるべきなのだろうか?
僕はその言葉が見つからず、壁に寄りかかったまま全く動けなくなっていた。
彼女に対する好意の様な物が芽生え始めていたのだ。
彼女と連れの男性の関係はどう言った物なのだろうか?
聞いてみたい気もするが、聞かない方が良い様な気もする。
取り合えず何か話しかけてみたいが、何から話したら良いのか分からなかった。

30分間の演奏が終わり周りが明るくなると、僕は呪縛から解かれた様にウェイターの仕事へ戻っていった。

つづく

(迷子の古事記 2013.11.26)