クララのあしあと

英国ゴールデンレトリバーとの暮らしのあしあと

「沈黙」の海を思う

2024年08月29日 | 日記


29日から夫と五島列島を旅するはずだった。

なかなか台風10号の進路が定まらず、しかもかなり速度が遅い。

飛行機が大丈夫でも、世界遺産の教会を巡る船が欠航するかもしれない。

いやいや、飛行機が欠航するかもしれないと一人やきもきしていた。

天気図と睨めっこをして二人で相談した結果、26日の夜にすべてをキャンセルした。

この旅では五島列島にある世界遺産の教会3カ所を訪れる予定だった。

自然が相手とはいえ、なかなか行くことのできない離島・・・残念でならない。







遠藤周作さんの「沈黙」という本に出会ったのは高校生の時だった。

高校生には難解で、読破したことで終わってしまったが、

心の片隅から取り除くことができず、当時970円だった本を自分で購入した。


その後5回の引っ越しでもこの本だけは忘れることなく現在も手元にある。

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キリシタン禁制下の17世紀、日本に潜入したポルトガル人の司祭ロドリゴは、

キチジローという信徒の裏切りによって、長崎奉行に捕えられてしまう。

転び(棄教)を拒否するロドリゴの目の前で、拷問を受ける日本人信徒たち。

さらに棄教した恩師フェレイラの変貌ぶりが彼の信仰にゆさぶりをかける。

苦悩するロドリゴは「主よ、あなたはなぜ黙っているのです」と、神の沈黙を責める。

やがて追い詰められた彼は、とうとう「踏み絵」に足をかけてしまう。

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このようなストーリーだが、今もなぜかこの作品に心が揺さぶられるのだ。


20年前になるだろうか、子どもたちが佐賀の高校に籍をを置いていた頃、

佐賀に向かう特急かもめの中で何気なく手にしたJR九州の冊子に、

「外海(そとめ)遠藤周作の魂の源郷」という題で、遠藤周作文学館のことが掲載されていた。

その冊子を持ち帰り、記事のみを残したものをずっと大切にしてきた。


どこまでも碧い海と空が広がっている。長崎市内からバスで一時間余り。幾つもの入り組んだ海岸線を超えたところに長崎県西彼杵郡外海町(現在は長崎市東出津町)はある。
輝く角力灘(すもうなだ)に面した入江と、それを囲むように広がる集落。一見、何の変哲もない浦に見えるが、高台には赤レンガの教会や十字架を掲げた墓地が海を見下ろす。
この外海をはじめ、五島列島や生月(いきつき)などは「隠れキリシタン」の里として有名だ。藩政時代の過酷な迫害にもかかわらず、およそ二百五十年にわたって密かに信仰を守り続けてきた。
今でもこれらの浦々にはキリスト教徒が多い。中には、禁教時代に変容した信仰を頑なに守り続ける人々もいる。長崎の西に広がる海は、そんな信仰の重さを呑み込んでいる。
(JR九州の冊子より抜粋)

遠藤周作文学館にも行ってみたいが、外海歴史民族資料館のそばに立つ、

小説「沈黙」にちなんで建立された沈黙の碑を見てみたいと思っていた。







それから約20年後の2023年2月、夫と長崎・佐賀を旅行する計画があり、

ぜひ遠藤周作文学館と外海地区に行きたいと伝えた。

夫が計画に入れてくれて、駆け足で外海地区をまわった。

角力灘を望む高台に教会と集落が点在する。

出津(しつ)教会では教会守の方が丁寧に説明してくれた。

後で知ったことだが、事前予約が必要だったらしい。

教会守の方から私たちを責める言葉は一切なかった。



出津(しつ)教会堂



カトリック黒崎教会


そして翌日訪れた島原の原城址でこんな観光案内板を見つけたのだ。


2018年に登録された世界遺産『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』は、

6市2町(長崎市、佐世保市、平戸市、五島市、南島原市、新上五島町、小値賀町、熊本県天草市)

に所在する12資産で構成されている。ここ原城址もその一つ。

そして前日訪れた出津教会堂と出津集落も世界遺産だった。

この時から、いつかは五島列島に行き世界遺産の教会を訪れてみたいと思うようになった。







今回ようやく五島列島に行くことができると喜んでいたのだが、

私にはまだ時期尚早ということだろうか。


角力灘の彼方に、密かに信仰を守り続けた人々が住む祈りの島がある。

「いつの日か訪れることができますように・・・」と思う。




沈黙の碑より


人間がこんなに哀しいのに

主よ 海があまりに碧いのです

遠藤周作