上田力 「クロス・トーク」

作・編曲家、ピアニスト:上田力とスタッフが徒然なるまま語ります。

嬉しくなってくるハプニング

2008-07-27 | diary

大相撲名古屋場所の12日目、ラストの千代大海と白鵬の取組で、立ち上がりざま、千代大海は(のど輪)で先制したが、白鵬の下半身はビクともせず、不全の右四つで寄り切り“流れのまま、相手の引きだけを注意していた…”と云ってのけているし、千代大海の方は“何とか腰を浮かせようと思ったが歯が立たなかった…”と、完敗を振返っている。

そして、この日の解説者、九重親方は、こうゆう相手に対しては、先ず“重く当たって、素早く動かなくちゃダメだ…”と、鋭いが、とても分かりやすい指摘をしている。

だが、この九重親方の言葉を耳にしたトタン、これはどうも“相撲の取組”だけに当てはまる教訓じゃないと思えてきたのだ。

“重く当たる”というのは、ピアノの鍵盤を、重力の法則どおり、深く確実なタッチで上下させることに共通するし、そのあとモタつかずに音の粒立ちを揃えるには、“重く当たる”のとは正反対の、指、手首、腕のバネの利いた“素早い動き”が欠かせないわけで、この相反する“動き”を、どうすれば瞬時に切り替えられるかが“表現”を左右する重要なポイントになってくるからだ。

でも、目下ず~っと続けているプライベート・レッスンの生徒諸君は、この難しい大原則の“体験的納得度”をごく自然に高めつつあり、これは近頃、掛け値無しに“嬉しくなってくるハプニング”の一つだ。

上田力のクロストーク 7月27日


トシをくう…くってない…

2008-07-20 | diary

ある人気テレビ番組の中で、渡辺貞夫さんの“トシくったぶんだけ、いろいろなものが見えるようになった…”という発言があり、その“いろいろなもの”の中に、音楽的には“どんなもの”が入っているのか、およその見当はつくのだが、ちょっと気になった。

一方スウェーデンでの初めて現地のミュージシャンとのスタジオ体験をした西山瞳は、“一応、ジャズとしてやっているつもりの私の音楽にビューティフル!なんて声がかかった”ことで、スウェーデンのミュージシャンやスタッフの“感じ方”が、日本での反応とかなり違って“柔軟”だった事を“記憶に残る瞬間だった…”という予想外のヨロコビとして、ボクとの対談で語っている。

もちろん、ジャズにもいろいろあって、快適にグルーヴするもののほか、美しさなどかんじさせないものがある反面、思わず“ビューティフル!”と云ってしまうようなリリカルなものもあって当然だ。

なのに、この時の西山瞳は“ジャズをビューティフルなんて云えない…”とする、一部の<単細胞的風潮>に、本心では反発しないが、ひょっとしたら無意識に犯されていたのじゃないか?

でなければ、貞夫さんとは正反対に“トシをくっていないぶん”だけ、西山瞳の<ジャズの見え方”が、ちょっと<ナイーヴ>であり過ぎたのかも…!!

上田力のクロストーク 7月20日

ドップリ「ヒトミ・ワールド」

2008-07-13 | diary

゛日本のジャズ新時代の幕開けを予感させるボーダーレスな世界゛というキャッチ・コピーがついた西山瞳の新作『パララックス』試聴盤(9月17日発売予定)を聴いて、やっぱりハマってしまった。

やっぱり…というのは、今回初めての、ベースもドラムスも、それにギターも日本人だけというレコーディング・コンセプトで、あの、限りなく優しく、しなやかだが、主張はガンとして崩さない「ヒトミ・ワールド」が、スウェーデン・セッションのときよりも、少しでも ゛変わった ゛のか、゛変わらなかった ゛のか、かなり気になっていたから。

が、結果は、よくぞこれだけピッタリ瞳の独創性にフィット出来るリズム隊を集めたもんだナという印象…だから、瞳のピアノが一段と大きく、太く、そして広くなり、トリオでオーケストラ効果を狙ったというタイトル曲のような成果も得られたのだと思う。

さらに言わせてもらえば、ベースの坂崎クン、ドラムスの清水クン、ギターの馬場クンそれぞれ三人とも、ドップリ「ヒトミ・ワールド」の ゛生けにえ ゛にされながら、それが自動的に極上のエクスタシーを漂わせることになり、そのエクスタシー効果を真っ先に楽しんでいるのがヒトミ本人ではないか…

となると、これを、ただ普通の< ジャズ >と呼んでしまうのは、゛日本のジャズ新時代の幕開け ゛のためにも、とてもとても ゛もったいないこと ゛になるんじゃないか…!!

上田力のクロス・トーク ~ 7月13日~


< 現在進行形 >の魅力

2008-07-07 | diary

シャンソン界の大御所、石井好子さんが、゛歌の神様だったダミアに捧げるつもりで作った゛という新作『ダミアからDamiaまで』が話題になっているが、先週の水曜日、NHK昼のスタジオパークで、司会の竹内アナが ゛今回のアルバムでは13曲も歌われ、お疲れになったのでは?゛と、85才という年齢を気遣う意味の質問をした。

石井さんの答は゛歌うというのは深呼吸しているようなものだから体に良いし、13曲だって大したことはないわ゛という、少しも< 特別なことじゃない >というニュアンスを含めた明快なもの…そんな石井さんの゛今゛を知りたくて早速アルバムを聴いてみて驚いた。 大きなシチュエーションの中で、歌も、語りも、すべてが絶妙なコントラストと間合いで響きあい、全く自然な快感を生み出しているからだ。

美しい…というより、日常的に ゛こなれた゛日本語とフランス語で石井さんが伝えてくれるのは、シャンソンというジャンルを越えて、歌うのが限りなく自然体でいられることの素晴らしさ…

それが ゛新作としては最後のアルバム゛と位置づける石井さん自身の ゛想い ゛に反して、85才という年齢ではなく、85年という時間を生き続けているからこそ生み出せる< 現在進行形 >の魅力なのだ。

上田力のクロス・トーク 7月6日