上田力 「クロス・トーク」

作・編曲家、ピアニスト:上田力とスタッフが徒然なるまま語ります。

なまはんかな「固定観念」

2008-09-27 | diary


「先入観」という言葉、岩波の国語辞典によれば「初めて知った事に基づいて作られた固定的な観念」とあり、さらに「それによって自由な思考が妨げられる場合に云う」と続いている…まさにこれだ!!

ある曲、特にアレンジされたポピュラー楽曲を演奏する場合、その原曲を全く知らないより、ある程度は知っていた方が表現上のプラスになるかどうかは、奏者によって意見が分かれるかもしれないが、はっきりしているのは、 ゛知っていること ゛が、なまはんかな「固定観念」となり「自由な表現の妨げ」になってしまうとすれば、全く知らない白紙状態の方に、味わい深い自然な表現が期待できる…ということだ。

ただし、この場合は、アレンジそのものが、譜面どおり演奏すれば一定のサマになるように ゛ちゃんと書けていること ゛と、そのアレンジの譜面上の指定を ゛ちゃんと読みとれる ゛という奏者の表現力とが大前提となるし、特にクラシック畑の奏者がポピュラーを演奏するには欠かせない条件でもある。

「Jobim My Love~45~」では、特別参加の『正之とファゴッティーニャ』が、まるで当たり前のように ゛そのこと ゛を証明してくれたのだが、来年草々に予定されているレコーディングでは、当然、先入観などには惑わされない、さらに<Mellow & Delicious >な演奏を楽しませてくれるのだろうと、ワクワクしながらアレンジを進めているところだ…!!

ハモリ感覚の度合い

2008-09-21 | diary

ジョビンの『デサフィナード』は、意図的に ゛調子外れ゛を強調して、フラット5度が効果を大きくしている好例だが、本来、合うのが当たり前のはずのプロ歌手、ほとんど無意識の(というふうに見えた)ピッチ不安定になるとすれば、これはちょっと ゛そんなこともあるさ ゛にはしておけないこと。

NHK「歌謡コンサート(9月16日)」で(故)伊藤久男のヒット曲『イヨマンテの夜』を歌った秋川雅史の場合だ。実はこの曲、昭和25年の正月新譜として出した二葉あき子のシングル『恋の乙女』のB面だったのに、例外的な大ヒットになったという、伊藤の代表作だ。

でも当時、スケールの大きな ゛豪快さ ゛を ゛売り ゛にしていた伊藤久男の歌いぶりは、レコード会社が勝手に作り上げたイメージ上だけのもので、実際は、不定調和的に盛り上げるアレンジとのチグハグさが残るだけで腹立たしくなった…という記憶がある。その ゛チグハグさ ゛を払拭するため、音量豊かに表情が出せるはずの秋川登場だったのだろうが、意に反して彼もまた、声を張れば張るほど上づってハモリの悪さが目立つ場面が多く、豪快な味わいには届かないまま終わってしまった。

結果、ピッチが合う合わないより、そのサウンドの中での ゛ハモリ感覚の度合い ゛が問われるという、誰にもわかる教訓を残したのが、せめてもの収穫だった…!

テンポの役割と重要さ

2008-09-15 | diary

何度目かの来日のときのトゥーツ・シールマンは、クインシー・ジョーンズが゛慎重に時間をかけて曲のテンポを決める゛ことを賞賛していたが、そのクインシーも某TV番組で ゛テンポの役割と重要さを自分はカウント・ベイシーから学んだ ゛ことの好例として、ニール・フェフティがアップテンポの想定で書いてきた『Li'l Darlin'』を、ベイシーは大幅なテンポ・チェンジでブルージーなスロー・バウンスに一変させ ゛曲のイメージを決定的なものにした ゛ことを語っていた。

一方最近の、いかにも日本らしい俗例が、NHK夏の定番「思い出のメロディー」で島倉千代子が歌った『人生いろいろ』だ。だが、この場合は<大幅に違う>のではなく、ホンの紙一重の違いでテンポが<寸足らず>になり、結果、作曲者、浜口庫之助さん独特の、ゆったりと軽くポップな曲想の中で、いつもは絶妙にかもし出されていた<熟女のおしゃれ風味>が消えてしまったのだ。

こんな ゛お粗末な結果゛が出てしまうのは、バックのリズム・セクションや指揮者に<最もその曲らしいテンポ・バランス>をキープするための、プロとしての直感的把握力が足りないからで…となると、この曲本来の<持ち味>とは、ちょっと間合い
が違っていて、とてもノリにくそうだったのに、゛いつもの笑顔゛で最後まで歌いきったお千代さんの ゛したたかでキュートなプロ根性゛には、文句なしの ゛天っ晴れ゛を…!!

<美しいもの>への認識度合い

2008-09-07 | diary

~当たり前とも思える自然の成り立ちが私達の体にゆったりとしたリズムや安心感を与えてくれている(にもかかわらず)~人間による環境破壊によって自然界のバランスが崩れようとしている~という危機感を<告発>するのではなく“前向きな気持ち自然との毎日を楽しんで欲しい…”というのが、最新作『Eternal Ones』(9月12日発売)に込められた、コンポーザー鬼武みゆきの<気持ち>であり<願い>でもあるとすれば、<みゆき>のピアノを軸にして結成11年目になるトリオの表現力は、前2作を遥かに上回る好レベル達したといえるだろう。

環境問題や自然破壊というのは、今ではかなり多くの表現者が取り組んでいるテーマでもあるが、これを音楽として成立させるには、先ず何よりも<美しいもの>への認識度合いor何かが重要な条件になってくる。

<美しいもの>の破壊を止めようという実感を音で伝えるには、トコトン徹底して<美しさの表現>に集中し、“こんなに美しいものをブチこわすなんで!”という想いが、聴く人たち、自然に沸き上がってくるようなアプローチをとるか、もう一つは、<美しさ>と同時に<それに逆らうもの>の表現とを対照させ、批判への意識を自発的に促進させる…という手法もある。

アルバムの『Bihind The Silence』などでは、後者の手法で、しっとりと共感を誘う熟成度の高い<みゆき色>の表現を成功させている。