タイで自動車なりバイクなりの運転をしていると、とんでもない事故に巻き込まれたりするもんです。
その日は朝の9時ごろだったか、まだまだ通勤送迎ラッシュが冷めやらぬ時間帯、チェンマイ市内をぐるりと囲む幹線道路、通称スッパーハイウエーを空港側に向かって走ってました。
途中にセブンイレブンがありまして、そこは駐車スペースが無きに等しくて皆さん路駐でお買い物をしてます。
もちろん交通量の激増する朝夕の時間帯は駐停車禁止なのですが、そこはタイですから三車線のうちのひとつを路駐の列が塞き止めてます。
残りの2車線では大急ぎの自動車やバイクがビュンビュン走ってますから危険極まりない状態です。
セブンイレブンなどでお買い物をする自動車が走行路線から出入りする時には二車線同時に塞き止める事になりますから、後ろから走ってくる車両は特段の注意を怠れません。
路駐を終えて走行路線に戻ろうとする車両としては、まずはゆっくりと頭出しすることで、自らが「今から車線へ出ますよ」という意思表示を後続車へ伝える必要があるのですね。
この儀式を怠って突然車線に飛び出したりすると確実に後続車と衝突します。
タイの町を移動する時、ドライバーやライダーがノロノロと運転している場面に必ず遭遇しますが、我々日本国の運転技術を体得したドライバーからするとイライラしてしまいます。
「待ってんだから、はやく行って!」とか「もっとキビキビ走れないの?」といったイライラ言葉が脳の中で渦巻くと思いますが、実は、そんな動作の遅さには「危険を避ける意味」があるのです。
はっきり言って、タイ国のようなルールの曖昧な発展途上国でキビキビ走るのはNGです。
一般幹線道の法定速度が90kmだったりするし、かっ飛ばす場面では危険なほどにスピードを出すタイ人なのですが、事故が多発するような危険な場所になると信号機すら信用せずに特段に注意しながら走行しています。
そんな交通事情を知らない我々外国人にとっては、タイ国の道路は地雷地帯と言えるでしょう。
危険な場所がそこかしこに用意されていて、交差点を通行するときや車線変更を行う時は、自分でもイライラする程にゆっくり走った方が無難だと思います。
さて、その時は時速60kmくらいで走行してたかな?
通常は追い越し車線を90km~100kmで爆走している区間なので、気分的に遅いスピードですから油断したのかもしれません。
突然、左側の車列から白いセダンが飛び出しました。
急ブレーキにより前後ABSが作動しまして、カウンターを当てて後ろタイヤを滑らせるような回避運動にはなりませんでしたね。
「間に合わない!」と思う間もなく衝撃吸収体勢をとりました(いつものようにw)
自動車運転席の右側面辺り、私の左ハンドルからドーーーん!!とぶつかりました。
追い越し車線に倒れたりすると、もし後から大型トラックが来てた時に挽肉ミンチにされますから、もう倒れないように、とにかくコケないように踏ん張りました。
運良く後続車が離れていたこと、またぶつけた運転者が硬直せずにブレーキを踏んでくれたので大事故にはなりませんでした。
かなりの衝撃を受けまして、身体の左半分をシコタマ強打してます。
主要な骨と関節には異常なし、腕と膝とくるぶしの三ヶ所に損傷があり流血が確認できました。
「コノヤロ!」と思って運転手を窓越しに睨みつけましたが、白いセダンから出てきたのが、なんとエアーエイジアの赤服、フライトアテンダントさんなんですね。
「コートー!コートーナカ!」(ゴメンナサイ)としきりに謝ってますので、怒るに怒れなくなりまして(笑)
「血が出てますよ、痛いですか?」なんて気遣う赤服さんの顔を見ると、これがなんとBNK48にもいないようなパッチリお目目のカワイ子ちゃん。
「あいや~、大したことないですよ、骨は大丈夫だから」なんて態度を豹変させながら、彼女の自動車を見ると側面がボッコリ凹んでミラーが根本からボッキリ折れてます。
で、私のバイクN-MAX155といえば、左全面の外装がバキバキに割れてます。
でもホイールやフロントフォークが曲がるようなダメージはなさそうです。
「あ~こりゃバイクの修理代より自動車の方が高くつくわ…」なんて思いながら、しかし明らかにぶつけたのは彼女ですからね
「保険ありますか?」と聞いたところ、潤んだキラキラ瞳で見返しながら「保険、入ってないんですよ~・・・」ちゅーじゃありあませんか。
タイの田舎では強制保険に入ってても、高額な任意保険に加入している人は驚くほど少ないのです、加盟できないほど貧困な人も多くて、また人の命が安いっていう事情があるからでしょう。
「あちゃーどうするかなぁ、警察呼んだ方がいいかなぁ」なんて考えて、まずは仕事場の責任者であるLHに電話して地元流の判断を仰ぐしかありません。
仕事に没頭してたのか「またか」っていう面倒そうな態度になるLH、来たくなさそうな雰囲気が伝わりました。
「たかが4kmほどの距離をしぶるなんて」、痛みに耐えながら無性に腹が立ってきました。
「来たくないのなら来なくていいよ(マイヤークマー・ゴー・マイトンマーナ!」と二回怒鳴りつけてやっとこさ、しぶしぶ「私が行きますから」という返事がありました。
「いつか絶対にクビにしてやる(-_-;)」なんて逆ギレしながら待つこと約15分、LHが登場したころには赤服さんのお母さんも到着していて、LHとアチラ母親との現場検証になりますね。
しかしこの母親が実にクセ者でして、全面的に非を認める娘さんを押しのけて
「アンタは黙ってて!」と前面で腕まくり、喧嘩両成敗を主張したそうです。
どっちも悪いんだからお互いの損傷は自分で修理すればいいと主張。
この時点で普通の日本人なら「はぁ?」ってなりますよね
今回の事故は駐停車禁止区間から飛び出した事故、その時点で10対0
もし前回の事故のように「前方不注意」なんていう言い掛かりをつけられても、9対1ではないかと思ってました。
その母親の強引な態度にカチンときたLHは、「それはないんじゃない?、血が流れてるんだよ」と抗議したそうです。
するとその母親
「じゃあ病院かバイク修理か、どちらかを選びなさいよ!」
と譲歩したポーズで交渉開始しました~
更にカチンときたLHは「それは飲めない、治療は受けないといけないし、日本人はバイクが大切だから」と意味不明な説明
「それ違うぞ、大切なんていうレベルの話じゃない」と思いましたが
すると赤服母さん
「なんで日本人なのにバイクなんかに乗ってるの?」
「キーニャオ!!! (ドケチ)」 と罵ったらしいです。
なにが哀しゅーて被害者の私が罵られなくちゃならんのか?
普通の日本人ならば理解できませんよね、
階級社会のタイでは「大きい=エライ」、「外人=金持ち」このような大雑把な図式があるようでして、特に外国人観光客で潤ったチェンマイの人間にとっては「外国人は貧しいタイの田舎に富をもたらす者」という認識があります。
よってお金をバラ撒く役目の金満日本人が
小さな乗り物に乗っている=ケチ
とまあ、このような思考回路でしょう(笑)
そいうことで、相手は少しも払いたくないという態度を硬直化させてますので、LHは早々と示談を諦めて警察に電話しました。
タイの事故では、軽傷である場合は警察を呼ぶことは稀で、なるべく示談で済ましちゃう傾向があります。
基本は「もっているヤツが出す」、保険だろうがお金だろうが持っている方が出せばスムーズに解決するという流れなのです。
持ってない人間は出しようがないですからね、日本でも加害者が居直って弁償ぜずというニュースがありますね。
ろくすっぽ現場検証などせずに、テキトーに両側からの話を聞いてます。
「じゃ、警察署で話し合いでもしましょうか」ということで、市内の中心部ワットプラシンの近くにある警察署へ向かうように指示されました。
場所を移して話し合いをする段取りなのですが、驚くことにタイの警察は事故現場検証はやらないのですね。
どちらに過失があったのか、またはどちらに非が何%あるのかなんてどうでもいいとばかりにバイクに跨って颯爽と去っていきます。
で、警察署の中では赤服のお父さんまで参上して、お母さんが事故処理担当官にアレコレと訴えかけてますが、後で聞いた話では「自分には警察官の知り合いがいる」と、それも役職の高い人物だというコネですね、コネを使って話を有利に持って行こうとしたらしいですね。
タイ国では「何を知っているかよりも、誰を知っているかで決まる」という暗黙公然のルールがありますので、日本人からすると「見境ない恥ずべき行為」に見える母親の態度は「然るべき当然の交渉ロジック」となります。
対してこちらには有力な知り合いなど居ませんから切り出すカードなどなくて、
警察からは「お前からもナニか強力なカードは無いのか?」という目で催促されてますw
「困ったな~」と思って隣にいる頼りないLHを見ても、オドオドしてるだけで役にたちそうにない。 そればかりか「話し合いに通訳が欲しいそうですよ」なんて言って、自分が矢面に立つのを露骨に嫌がっているwww