かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

タバコで焼肉

2016年05月26日 | がん病棟で
今はリタイアして無職でも、現役時代、どんな職業に就いていたのか? ということは、よく患者さんには尋ねている。
職業は、人と成り、人生観に大きく影響すると思うからだ。


朝から始めた外来診療が3時過ぎまでかかり、そのあと会議やらなんやらで病棟に行けず、その日入院した患者さんとゆっくり向き合えたのは、夕食も済んで、ナイター野球を見ながらくつろいでいるような時間になってからのことだった。


入院する前に外来で一通り病状説明と、治療方針についての大まかな説明はすでにしてあるが、いま一度患者さん本人がきちんと理解しているかの確認と、詳しい抗癌剤の説明を行ったあと、「ところで、どんなお仕事をしていらっしゃったんですか?」と、あくまでも世間話的に患者さんの「バックグラウンド」について尋ねた。

「煙の出ない焼き肉台ってあるでしょ?今はあたりまえみたいに使われてるけど、あれを考案したのは僕なんですよ」

奥さんとは離婚し、それぞれ独り立ちした3人のお子さんたちからは2年に一度くらい手紙で近況を知らせてくるくらい。
震災で家を失い、知り合いを頼って当地に来て、福祉の助けを借りながら一人暮らしをしているときに、背中の痛みで完治不能な肺がんにかかっていることがわかった。


「煙を吸い込んじゃう、アレですね!」


「煙は焼いてるんですよ。特許は取れなかったんですけどね」


煙を焼く???


「ある時、呑み屋でタバコを吸おうとしたら、オネエさんが火をつけてくれて、そしたら横からもう一人のオネエさんも火を差し出してきて、見たら、煙が炎に焼かれて消えてしまったんですよ。これだ!ってすぐに思いついて、すぐに会社に戻って、色々と実験を重ねて、あれを開発しました」


「今はもう頭が回りませんが、あの頃は随分と頑張りましたね。水で車が走る時代が必ず来るって言っても、会社の上の方はバカにして全く相手にしてくれませんでしたねえ」


「あの頃ずいぶんとタバコを吸ったツケが、今まわってきたんですねえ」



今日から初めての抗がん剤。
ぜひ長いお付き合いをして、もっとおもしろい話をうかがいたい。
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