介護施設で療養中の父はもう1か月以上食事をとれていない。
手足からの点滴をしていて、水分補給はできていたが、点滴ルートの確保がしづらくなって、「そろそろ点滴をやめようかと思う」と、弟から連絡が入った。
寝たきりの状態で、点滴だけをしていると、むくんでしまうことが多く、手足がパンパンに腫れあがる。
こういう状況は、本人はもちろん、見守る家族にとってもつらい。

父の場合、現在はいわゆる老衰に近い状態にあるようで、意識と身体の機能が並行して衰えていっているので、苦痛は少ないと思われる。
そう願いたい。
「点滴をやめると、残り時間は1週間から10日くらいだと思うけど、いい?」
どんなに経験のある医者でも、「残り時間」の推定は、難しい。
1週間かもしれないし、1か月かもしれない。
でも、いよいよ、その時は近づいてきている。
弟とラインのやり取りをしている私は、案外冷静だった。
3歳年下の母も同じ施設に入所しており、最近ご飯を食べなくなったので、少量の点滴を始めたという。
「ひょっとしたら、父親のあと、そんなに間をおかずに、母親も逝くかも」
施設の近くに住んで、最近はちょくちょく彼らの様子を診てくれている内科医の弟の言うことだから、そうなのかもしれない。
「夫婦がほぼ同じ時期に亡くなるっていう話は時々聞くけどさ、そういうのって、仲睦まじかった場合なんじゃないの?」
冗談のつもりで言ったのだけれど、「いや、そういう話じゃなくて、葬式とかの現実的な話」と、少し弟をムッとさせたようだった。
両親がもうすぐ亡くなるかもという時期に、冗談を言える自分がちょっと不思議だった。
「もう、なるようになれ、だな。少し気分が晴れた」
物心ついたころからは、仲睦まじい姉弟というわけではなかった私たち。
両親の最期を看取るという人生最大のイベントを前にして、血のつながりを少し認識している。

写真はルーマニアで保護された犬、Zoe.
Grisuの行きつけのドッグホテルで療養して元気になって、現在は新しい家族と暮らしている。
前回のホテル滞在中、偶然再会し、Grisuが帰宅する時には、一緒に行きたがって塀を乗り越えようとしていたそう。