「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.539 ★ アップルが「折りたたみ」をやらざるをえない理由 海外では折りたたみ時で1センチ未満のスマホも

2024年08月05日 | 日記

東洋経済オンライン  (山根 康宏:携帯電話研究家・ジャーナリスト)

2024年8月4日

アップルが「折りたたみ」をやらざるをえない理由

アップルの折りたたみスマートフォンの噂話は、まるで狙ったかのように現れては消えていく。2024年7月にはAndroidスマートフォンの大手3社が折りたたみスマートフォンを相次いで発表したが、最近、出てきた噂もその話題に乗ろうとしているように思えてしまう。

だが、アップルも折りたたみスマートフォンの投入に待ったをかけている場合ではない状況だ。日本人の知らない間に、折りたたみスマートフォンは、とある国で大きな進化を遂げている。

シャオミの折りたたみはiPhoneと同サイズ

日本ではサムスン電子が7月31日から折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Fold6」「Galaxy Z Flip6」の販売を開始した。7月10日にパリで行われた新製品発表会には世界中から記者が大勢訪れて、サムスンの第6世代となる折りたたみ端末の完成度を絶賛した。

だが、その興奮も冷めやらぬタイミングで、「後だしじゃんけん」のように新世代を感じさせる折りたたみスマートフォンが相次いで登場したのだ。これらは一見すると折りたたみスマートフォンすら見えない。もやは「普通のスマートフォン」を買う理由が見当たらなくなるほど薄く、軽くなったからだ。

スマートフォンメーカーながら3月にEV(電気自動車)を発売し、その勢いは増すばかりのシャオミは、7月19日、中国で折りたたみスマートフォン「MIX Fold 4」を発表した。本体の大きさは折りたたんだ状態の厚さがわずか9.47ミリ、重量226グラムと信じられないほど薄くて軽量だ。ちなみにアップルのハイエンド端末「iPhone 15 Pro Max」は、厚さ8.25ミリ、重量221グラム。iPhone 15 Pro Maxのほうが薄くて軽いが、MIX Fold 4は“折りたたみ”スマートフォンであることを忘れてはならない。MIX Fold 4は閉じたときは6.56インチ、開くと7.98インチの大画面が使える。一方、iPhone 15 Pro Maxは6.7インチの画面“だけ”だ。わずかなサイズ差の両者を比べた時、1台2役で使えるMIX Fold 4のほうが使い勝手のいい製品だと私には思える。

ところが、上には上がいた。中国ではMIX Fold 4よりもさらに薄いモデルが出たのだ。日本ではまだニッチな折りたたみ市場だが、世界では激しい開発競争が繰り広げられているのである。

折りたたみとは思えない薄さのシャオミ MIX Fold 4(写真:シャオミ提供)

アップルもサムスンもライバルではない

2019年にサムスンとファーウェイが折りたたみスマートフォンを市場に投入してから今年で5年目となる。当初は画面を曲げられるだけでも目新しさがあったが、各メーカーはカメラ画質を高めるなど性能アップを進めてきた。しかし、2023年にファーウェイが「Mate X3」を出すと一気に風向きが変わった。

Mate X3は、本体を閉じると11.8ミリの厚みで、重量は239グラム。発表時の売りは「iPhone 14 Pro Max(240グラム)より軽い」だ。Mate X3は折りたたみスマートフォンが初めて一般的なスマートフォンと同じサイズ感で戦えるようになった製品であり、中国で折りたたみスマートフォンユーザーを一気に増やした。

「iPhoneより軽い」をうたったファーウェイのMate X3(写真:ファーウェイ提供)

当時、ライバルだったサムスンの「Galaxy Z Fold4」は15.8ミリ、263グラムであり、当時の一般的な常識である「折りたたみスマホは厚くて重たい」というイメージそのものだった。ちなみにファーウェイの1ヵ月半後に海外で発表されたグーグルの折りたたみスマートフォン「Pixel Fold」が中国でほとんど話題にならなかったのは、中国で販売されなかったこと以前に重量が283グラムと時代遅れ感があったことが大きい。

サムスンは2023年7月に「Galaxy Z Fold5」、そして2024年7月には「Galaxy Z Fold6」を発表し、サイズの薄型化と軽量化を進めていった。しかし、中国メーカーはそれを上回る速さで小型化を成し遂げていったのだ。この動きの速さはサムスンの予想をはるかに超えたものであり、市場がここまで動くとは予想もしていなかったに違いない。

では、前述した「Xiaomi MIX Fold4」より薄いモデルとは何か。2024年7月時点で世界最薄の折りたたみスマートフォンはオナー(HONOR)の「Magic V3」である。サムスンの発表から2日後に発表されたこのモデルは、重量こそシャオミMIX Fold 4と同じ226グラムだが、閉じたときの厚さは9.2ミリとシャオミよりさらに0.3ミリ薄い。さらに本体を開いたときの厚さは4.35ミリとこちらも世界最薄だ。シャオミのMIX Fold 4も4.59ミリと十分薄いが、薄型化技術ではオナーが上回っている。

横折りスタイルのスマホで世界最薄のHONOR Magic V3(写真:HONOR提供)

折りたたみの新モデルが続々登場

それでは折りたたみスマートフォンはグローバル市場でどれくらい売れているのか。調査会社IDCによると、2023年の折りたたみスマートフォンの出荷台数は1810万台だった。一方、スマートフォン全体の出荷台数は11億6690万台。折りたたみスマートフォンの割合は全体の2%にも満たない。同社によると2024年の予測台数は2500万台、2028年でも4570万台であり、全出荷台数が変わらないとした場合でも約4%にとどまる。

それにも関わらずスマートフォン大手各社は折りたたみスマートフォンの新規開発にしのぎを削っている。その理由はスマートフォンの次の進化モデルとして折りたたみスマートフォンに期待を寄せているからだ。

スマートフォンの本体性能は現状のアプリケーションやサービスを使う限り、ほぼ満足できる領域に到達した。今や5万円程度のスマートフォンでも十分なカメラ性能を搭載している。また、英国のベンチャー企業、Nothing(ナッシング)のように、性能よりもデザインやユーザーインターフェースに特徴を持たせた新しい概念の製品も登場した。スマートフォンメーカーにとっては高性能をうたう高価格な製品が売りにくくなっているのだ。また、他社との差別化も難しくなりつつある。

しかも先進国のみならず中国でもスマートフォン需要は一巡しており、スマートフォンを売るためには買い替え需要に頼らなくてはならない。そのような中で現れた折りたたみスマートフォンは、次世代のスマートフォンとして目新しさを消費者に訴えることが可能であり、さらに比較的高価格で販売できる。

中国の家電店。折りたたみスマホはプレミアムモデル(筆者撮影)

アップルがやらざるをえない理由

例えばサムスンの高性能カメラモデルであるGalaxy S24 Ultraは18万9700円だが、折りたたみモデルのGalaxy Z Fold6は24万9800円だ。また、縦折り型のコンパクトな折りたたみモデル、Galaxy Z Flip6は15万9000円、それに対してストレート型の一般的なスマートフォンであるGalaxy S24は12万4700円となっている。単純に比較はできないものの、折りたたみモデルは一般的なストレート形状のモデルよりも高価格だ。それでも一定数売れており、年々販売台数を伸ばしている。

「カメラが良い」「本体性能が高い」スマートフォンは、すでに各スマートフォンメーカーがフラッグシップモデルとして投入している。しかし、その製品を最高価格で売るのはもはや難しい。そこで折りたたみスマートフォンを高価格なプレミアムモデルとしてメーカーの「顔」とし、利益を稼ぐとともに消費者に先進性のあるメーカーというイメージを植え付けるわけだ。

筆者は2023年10月にドバイのIT系展示会を取材したが、アラブ衣装「ディシュダーシャ」に身をまとった来場者の多くがサムスン電子のGalaxy Z Fold5を所有していた。しかし、彼らの使い方を見ると、折りたたみの本体を開くことなく閉じたまま使っているのである。つまり彼らにとってこのスマートフォンは折りたたみ式だから魅力があるのではなく、高価なモデルであるから所有欲を高められるのかもしれない。

ドバイではファーウェイの折りたたみスマホが大人気(筆者撮影)

このように中国では「高性能スマホ」と「プレミアムな折りたたみスマホ」の2本柱で各社が製品展開を進めている。そして「高価格・プレミアムモデル製品」を求める層の間で折りたたみスマートフォンへの需要が高まっている。Counterpoint Researchによると、2024年第1四半期の世界の折りたたみスマートフォンのシェア1位は、ほとんど中国でしか製品を売っていないファーウェイだった。いかに中国で同社の折りたたみモデルが売れているかを認識させられる結果といえるだろう。

この状況が進めば、折りたたみモデルのないiPhoneの製品ラインナップに魅力を感じなくなる中国の消費者は確実に増えていくだろう。事実、アップルは稼ぎ頭であった中国での業績を落とし始めている。それを打破するためには新世代iPhoneの投入が必須であり、その製品は本体性能やカメラの使い勝手を強化した程度ではまったく力不足だ。噂はさておき、アップルが折りたたみ式iPhoneの投入を、本気で急がねばならない状況にあることは確かだ。

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