JBpress (小久保 重信:株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナー)
2024年7月12日
(写真:CFoto/アフロ)
国連の世界知的所有権機関(WIPO)がこのほど公表したリポートで、中国の生成AI(人工知能)分野の特許出願件数が米国の約6倍に上ることが分かった。国別出願件数で中国はトップ。米国がこれに次いだ。企業の上位には中国・騰訊控股(テンセント)や中国・百度(バイドゥ)、米IBMなどが並んだ。
中国3万8200件、米国6300件
WIPOによると、中国は2014年から23年までに3万8210件の生成AI関連特許を出願した。これに対し、米国は6276件だった。WIPO特許分析マネジャーのクリストファー・ハリソン氏は「中国の特許出願は、自動運転から出版、文書管理まで、幅広い分野を網羅している」と記者団に語った(英ロイター通信)。
3位は韓国、4位は日本、5位はインドで、それぞれ4155件、3409件、1350件だった。このうち、インドの出願件数が最も急速に伸びている。 ハリソン氏は、「小売業などで顧客サービスの向上を目的にチャットボットが広く利用されている。一方、生成AIは科学、出版、交通、セキュリティーなど、多くの経済分野を変革する可能性を秘めている」とコメントした。
1〜4位が中国企業・組織
出願件数が上位の企業・組織は、①テンセント、②中国平安保険(Ping An Insurance Group)、③バイドゥ、④中国科学院(Chinese Academy of Science)、⑤IBM、の順。中国は4組織が5位以内に入った。
6位以降は、⑥中国アリババ集団、⑦韓国サムスン電子、⑧米アルファベット(グーグルの持ち株会社)、⑨動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」運営の中国・北京字節跳動科技(バイトダンス)、⑩米マイクロソフト、の順だった。
米CNBCによると、中国は、大規模言語モデル(LLM)の開発において、米オープンAIやマイクロソフト、グーグルに後れを取っているが、最近は巻き返しを図っている。テクノロジー大手のアリババやバイドゥなどは、23年に独自LLMを開発した。
24年5月、中国政府はAI分野の3カ年行動計画を発表した。7月には、26年までにAIで50以上の「国家標準」を制定すると明らかにした。AI半導体や生成AIなどの標準化を強化し、国家計算能力の増強を図る考えだ。
創薬・化学分野での活用に期待
WIPOのリポートによると、生成AI特許の出願件数は、AI特許出願件数の6%を占める。そのアプリケーションの種別を見ると、画像と動画データが1万7996件と最も多く、次いでテキストが1万3494件、音声・音楽が1万3480件だった。
WIPOは、「近いうち、さらなる特許出願の波が来る」と予測する。WIPOのハリソン氏は「生成AIは、今後様々な産業に多大な影響を与える」とし、AIを活用した分子設計など、創薬・化学分野における役割の重要性を強調した。今後はWIPOも生成AIを活用しながら、傾向を詳細に分析した新たなデータを公表する予定だ。「特許出願の傾向とデータを分析することで、政策立案者が、我々の共通の利益のために生成AIの開発を具現化できるよう支援する」(WIPO)と、このリポートの意義を説明した。
小久保 重信
同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、JBpress『IT最前線』や日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」で解説記事を執筆中。
連載にはダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19~20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。
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