goo blog サービス終了のお知らせ 

自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

黒い内装色の問題点

2012-06-28 02:42:13 | デザイン評
 突然だが、僕は真っ黒い内装色が大嫌いである。室内が狭く感じるし、乗ると気分がなんとなく落ち込んでしまうからだ。気分が落ち込むと笑顔が消える。何度も言うが、笑顔になれないクルマはいいクルマであるとは言えない。

 一時期よりはだいぶ減ったのだが、それでも黒い内装色は依然として存在している。特にマツダとスバルはほぼ全車種が真っ黒インテリア、というありさまで、真っ黒地獄を回避するためにはオプションで黒以外のカラーの本革仕様を注文するしかない。僕自身がまさにそれで、レガシィを購入する時にあえて高いお金を支払ってアイボリーの本革仕様にしたのである。ちなみに購入したのは3.0Rというグレードなのだが、本当は3.0RスペックBというグレードが欲しかった。なぜ諦めたかというと、このスペックBは本革仕様でも真っ黒地獄が待ち構えていたからだ。つまり標準のファブリック仕様は黒、そしてオプションの本革仕様でも黒、という設定だったのである。レガシィはプレミアムカーとして一定の評価を得てはいるが、僕から言わせてもらえればインテリアカラーを選べないクルマなどプレミアムカーとは呼べない。それはただの大衆車、である。
 ユーノス・ロードスターのほうは残念ながら真っ黒い内装なのだが、こちらはオープンにすれば冒頭で述べたような問題はすべて解決する。僕がユーノス・ロードスターに乗る時は、オープンにして走れる時だけである。

 黒い内装色というのは以前の日本車にはそれほど多くはなかった。『スポーツカーの内装は黒』というイメージが強いためにいわゆるスポーティ系のクルマにはいくつか存在したが、それでもステアリングやシフトノブがウッドであったり、ステアリングのスポーク部分がシルバーであったりと、いわゆる『箸休め』的な色使いを部分的に施しているクルマがほとんどだったように思う。隅から隅まで真っ黒、というインテリアは恐らく存在しなかったのではないだろうか。あのAE86レビン/トレノでさえインテリアにはグレードによって赤やグレーが配色されていたのである。そのクオリティは現在のクルマとは比べようがないほど安っぽいものだが、それでも僕は現在のBRZ/86の真っ黒インテリアよりもAE86のインテリアのほうがセンスは上だと思っている。どちらかを選べ、と言われれば迷うことなくAE86のインテリアを選ぶだろう。ついでに付け加えると、エクステリアデザインもAE86のほうがスッキリしていてカッコいい。

 時代の流れとともにしだいに黒い内装色のクルマが多くなってきた原因は、やはりドイツ車の影響が大きかったのだと思う。ドイツ車といえばインテリアは真っ黒、が長らく定番だっだ。日本人はドイツ車が大好きだから、ドイツ車のコンセプトを真似し、ドイツ車の走りを真似し、そしてドイツ車のデザインやセンスまでも真似してきた。大好きだからこそ作り手はひたすら真似をし、そして我々買う側の人間はそれを受け入れてきたのである。自動車評論家の方々がドイツ車のこの真っ黒インテリアをスポーティだ、などと褒めちぎってきたせいもあるだろう。しかも黒い内装色というのはとりあえず『無難』である。日本の自動車メーカーはこの『無難』をとても好むから、黒い内装色はまさにうってつけだったわけだ。
 しかし僕はドイツ車のクオリティは確かに素晴らしいとは思うが、その真っ黒インテリアに対して素晴らしいと思ったことは一度も無い。スポーティだと思ったことも無いし、ましてやセンスが良いなどと思ったことも無い。メルセデスベンツの初代Cクラスのシート生地にはBENZ BENZ BENZ・・・と細かいロゴが無数に織り込んであるものが存在したのだが、これなどはむしろ悲しくなるほどのセンスの悪さだった。さすがにここまでセンスが悪いものは今日の日本車には無いが、それでもドイツ車風の真っ黒インテリアは相変わらず存在し続けている。今ではメルセデスやBMWなどはこの真っ黒インテリアから脱却しつつあるのに、である。日本の自動車メーカー、特にマツダとスバルはいいかげんに目を覚ましたらどうかと思う。

 そもそも『黒』という色は日本の文化には似合わない。日本という国は世界的に見ても稀なほど色彩に富んだ国なのである。四季折々の美しい自然の風景はもちろんだが、その他にも例えば極彩色に彩られた豪華絢爛な日光東照宮、青空の下で真紅の姿が美しく冴える沖縄首里城、華やかな着物、浴衣、帯、宝石のような螺鈿(らでん)や朱漆を塗った漆器、そして陶器や磁器など、それこそ挙げていけばきりがない。なかでも日本の磁器の代表格とも言える伊万里焼は17世紀頃にヨーロッパへと輸出され、その美しさからヨーロッパの貴族達の間で盛んにもてはやされるようになった。あの有名なドイツの磁器メーカー『マイセン』は、ザクセン王国の王様が職人を幽閉して強制的に日本の伊万里焼を真似て磁器を作らせたのが始まりである。かつては日本の美しい色彩をドイツ人(正確にはザクセン人)が真似をし、現在では美しくもなんともないドイツの真っ黒インテリアを日本人が真似している。こんなにバカバカしくて悔しくて情けないことが他にあるだろうかと思う。

 真っ黒い内装色は、色彩豊かな日本の美しい文化を否定しているようなものである。デザイナーの方がどう考えているのか知らないが、少なくとも僕自身はそう考えている。