徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

In the Distant Past 26

2015年10月18日 20時05分53秒 | Nosferatu Blood
「……どこから出てきた?」 キメラの獣毛はまだ濡れている――つまり調製槽を出てからそれほど時間は経っていない。
 キメラ特に生体熱線砲装備型バイオブラスタータイプなどの飛び道具を備えた型式タイプを野放しにしていると研究者自身も危険に晒されるので、通常はスリープ・モードで保管されていることが多い――危険であることのほかに、キメラは成長が早いぶん寿命も短いため、覚醒した状態で飼育しているとすぐ死んでしまうという理由もあるが。
「研究者どもは全員始末したと思ってたが、な――」
 どうせまともに返事をすることは出来ないだろうから、誰に言うともなくそんな言葉を漏らしたとき、ガァンと音を立てて手近な調製槽の頂部に重いものが着地した。
 全身に牙の様に屈曲した棘を持つ装甲を纏った、かなりの巨体を備えたキメラだ。西瓜でも掴めそうな巨大な右手に、全身が疵だらけになった男の死体を持っている。白衣を着ているところを見ると研究者の様だが、先ほどここに突入したときに見落としたのか、トイレにでも行っていて席をはずしていたのだろうか。
「なるほどな、おまえらを解放したのはそいつか」 覚醒させた化け物に殺されるのは、お約束なのか? そんな言葉を口にしたとき、調製槽の陰から別の個体が姿を見せた。
 両肩から上膊にかけてと大腿部の外側に無数のフィン状の器官を備えた、比較的小柄な体躯のキメラだ。頭部には巨大な頭角を備え、右腕腕には巨大な棘が密生したまるでフレイルの様な瘤状の塊、左腕にはまるで槍の様に尖った器官がついており、手に相当する器官は無い。
 目の前に五基並んだ調製槽の陰、今しがた姿を見せたキメラとは反対側から、もう一体のキメラが姿を見せる。
 ごつごつしたキチン質の甲殻で全身を鎧い、突出した頭部のために全体の印象としては海老に近い。右腕はハサミ部分の長さが一・五メートル近い蟹の様な巨大なハサミを備え、左腕には三本の鈎爪からなる手を備えている。
 頭の中に直接響く警報音アラートに、アルカードは目を細めた。
 ――まだいる。研究員の死体を掴んだキメラが乗っていた巨大な調製槽が圧倒的なパワーによって持ち上げられ、調製槽の上に乗っていたキメラが研究員の屍を放り棄ててあわてて飛び降りた。
 調製槽を持ち上げて姿を見せたのは、ごつごつしたキチン質の装甲外殻によって全身を鎧われたキメラだった――分厚い装甲外殻で全身を覆い、口は下顎がふたつに分かれて蛇の様な二又の舌が覗いている。目は四つあり、こめかみと頭頂部から計三本の頭角が生えていた。
 最後に出現したキメラが、持ち上げた調製槽をアルカードに向けて投げ棄てる――おっと、と声をあげてそれを躱すと、轟音とともに調製槽の筺体が背後のコンソールを押し潰した。
 憤怒の火星Mars of Wrath情報表示視界インフォメーション・ディスプレイ・ビュアーが各個体をマーキングし、それぞれに通し番号を振っていく。同時にセンサー機能が施設全体をスキャンし、ほかに動いている個体がいないことをあらためて確認した。
「さて――」 彼らは特殊な装備を持たないオルガノンやアサルトとは違う――ある程度の筋力増幅度に加えて、なんらかの追加装備を備えた個体たちだ。
 奴らの様に、侮ってはかかれんか――胸中でつぶやいて、アルカードはすっと目を細めた。指の隙間から滴り落ちた血が形骸に流れ込み、絶叫とともに塵灰滅の剣Asher Dustを形成する。
 構築された霊体武装の柄を握り締めて――アルカードは床を蹴った。
 
   *
 
 アルカードが鳥勢に到着したのは、フィオレンティーナたちが店に着いてからほぼ三十分後のことだった。
「おーい、誰か開けてー」 聞き慣れた声が襖の向こうから聞こえてきて、襖の前にいた蘭が襖を開ける。
「おう、開いた開いた。サンキュ」 と言いつつ、襖の向こうからアルカードが顔を出す――どういうわけだか、彼は両手に一枚ずつトレーを持っていた。
「すみません、遅くなりました」
「否――どうしたんだね、それ?」 アルカードが手にしたトレーを指差して忠信がそう尋ねると、
「いえ、数が多くて柊ちゃんが苦労してたので半分引き受けました」 そう返事をしつつ、アルカードが手を伸ばした陽輔にトレーを渡す。トレーの上には炭火焼にされた鳥の胸肉がいくつか、レタスを添え物に載せられていた。彼は片手が開いたからか、もう一方のトレーに載せたお皿を取り上げて蘭に渡し、空になったトレーは襖の外側に置いてブーツの靴紐を解き始めた。
「えらく遅かったな、兄さん」 と、これは忠信である――こういう口の利き方をアルカードが許す相手というのは、実はそんなに多くはない。
 まあでも、彼女たちのアパートからここまでは十五分くらいかかる。アルカードの足なら十分くらいだろう。ここから普段ライトエースを止めている駐車場まで五分、そこからアパートまで歩きで三分、残りの時間を犬の散歩と餌やり。まあ順当な時間だろう。
 本格的に夜でも暑いこの季節だと、犬たちはあまり長い時間散歩に出たがらない。熱中症を防ぐために基本リビングに閉じ込めて冷房を効かせているので、室内のほうが居心地がいいのだろう。
 正直、動物の飼い方として感心出来るものはない気がするが――まあ、フィオレンティーナが口を出すことでもない。それにフィオレンティーナの知識は父親の飼っていたスピノーネ・イタリアーノとイタリアングレイハウンドで、日本犬にはそのまま当て嵌まらないだろう。
「すみません、犬がなかなか出かけさせてくれなくて」 そう返事をして、アルカードはあとからやってきた柊に道を譲った。姿を見せた柊が、お皿に盛られた鶏肉の載ったトレーを手に座敷に上がり込む。
「なるほど」
「ええ」
 そんな会話を交わしながら、アルカードが壁に沿って奥のほうへと歩いてくる。手前の席は当然すでに人が座っているので、アルカードは一番奥まで歩いてくると、フィオレンティーナの向かいに腰を下ろした。なんとはなしに女性陣が入口に近い場所に座り、男性たちはだいたい奥側に来たので、アルカードはその端っこということになる。
「ドラゴスさん、生ビールは?」 という柊の質問に、アルカードはちらりとテーブルに視線を向けた。すでに封を切られた瓶ビールの瓶数本を確認して、
「否、いい。それより揚げだし豆腐作ってくれない?」 はーい、と返事をして、柊が座敷から出ていく。
「ソバちゃんたち、元気でしたか?」 テーブルは違うが隣同士になったリディアが声をかけると、アルカードはうなずいた。
「ああ」 彼は短く返事を返してからテーブルの上に逆さにして置かれていたコップを手に取ると、
「でも、やっぱりあの部屋の中だでけ飼うのは運動量が不足するかもしれないな――小型犬じゃないしな」 でも外飼いもなぁ――お酌をしようとするリディアにやんわりと断りを入れ、グラスに手酌でビールを注ぎつつ、金髪の吸血鬼がそんなことを口にする。アルカードの逡巡も理解は出来た――先日の発狂寸前のパニック状態を思い起こせば、雨が降るたびにあの状況では飼い主としては安心して家を空けられないだろう。
「それじゃアルカードさんが来たところで、あらためて」 陽輔が音頭をとってグラスを掲げる。さっきから香澄とデルチャがいそいそと、周りのメンバーのグラスに飲み物を注ぎ足していたのはこのためか。
「乾杯!」 音頭に合わせて、それぞれグラスを軽く掲げる。
「で、さっきの話の続きなんだけど」
「はい、はい」 パオラとリディアが、うれしそうにデルチャのほうに向き直る。
「なんの話?」 冷たいビールを一気に空けて小さく息を吐き出し、アルカードがそちらに視線を向ける。
「貴方の話ですよ」 フィオレンティーナがそう返事をしてやると、アルカードはいぶかしげにこちらに顔を向けた。
「どういうことだ?」
「ええと、貴方が忠信さんの弟さんの娘さんの結婚式のときに、亡くなった奥さんのビデオメッセージでもらい泣きしてた話です」 リディアがそう説明する。それを聞くなりアルカードが思いきり顔を顰め、
「おい、デルチャ――おまえ、それ俺のトップシークレットじゃねーか」 なにべらべらしゃべってるんだよ、とアルカードが抗議の声をかけると、パオラがにこにこ笑いながら、
「いいじゃないですか、親しみを感じやすくなるエピソードですよ、これは」
「きっと素敵な結婚式だったんでしょうね。うらやましいです」 と――これはリディアである。アルカードはガリガリと頭を掻きながら、
「俺としてはあまり親しまれすぎるのも考えもんだが」
「まあまあ。いいじゃないですか――わたしはアルカードのそういう人間味のあるところは好きですよ」 冷たい人間より、温かみのある吸血鬼のほうが信用出来ます――リディアがこちらもにこにこ笑いながら、そんな言葉を口にする。
「……」
 リディアの言葉を聞いたアルカードが、なんとなく落ち着かなさげな表情でテーブルに頬杖を突く。
 アルカードは憮然とした表情で手近にあったフライドポテトを一本つまみつつ、
「そうか。そりゃどうも」
「なんだか不満そうですね」 というパオラの言葉に、
「アルカードは照れてるだけよ。こういうこと言われるのに慣れてないから」 横からデルチャがそう返事をする。アルカードは深々と嘆息して、
「デルチャ、頼むから黙って」
「あら、わたしはもっと聞きたいです」 パオラがにこにこ笑いながらそう答えると、
「駄目よ、パオラちゃん――アルカードさんが恥ずかしがってへそ曲げちゃうから」 香澄が横から口をはさむ。アルカードは嘆息して、手にしたグラスのビールを一気に乾した。

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