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徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Dance with Midians 7

2014年11月06日 22時21分22秒 | Nosferatu Blood LDK
「――なあ、グリゴラシュ?」
「それを俺に言われても困るがな」 返事を期待していたわけでもないその独白に――欧州を離れてから久しく聞かなかった故国の言葉で返答を返され、彼は右足を引いて体ごと背後を振り返った。
 どこにひそんでいたのか、視線の先には癖の強い黒髪を背中まで伸ばした若い男が立っていた。ところどころに設置された篝火の光で、薔薇をあしらった装飾を施された疵だらけの甲冑がオレンジ色に染まっている。腰から下げた二点支持外装の拵の長剣は、鞘に荊が絡みついた様な装飾が施されていた。
 暗闇の中でおのずから光り輝く深紅の瞳が、こちらの視線を捉えて離さない――その瞳こそがなによりも正確に彼の正体を物語っている、彼と同じ様に。
「俺は別に命令はしていない――適当に捕まえたどもを二、三人噛まれ者ダンパイアにしたら、勝手に暴れ出したのさ。カースト制度を楯にとって散々虐め回されていたせいで、相当に鬱憤が溜まっていたと見える――まあ、止めなかったのは事実だがな」
 男がそう言って、ゆっくりと笑うのが見えた――深紅の虹彩が若干細くなる。
「なるほど。さっき外で噛まれ者ダンパイアを二、三人始末したが、あれがそうか」
「ああ、そうだ――それにしても、久しぶりだな」
「ああ、五十三年前のシュトゥットガルト以来だな――グリゴラシュ」
「やれやれ、随分と冷たいな、寂しくなるね。半世紀ぶりの兄弟の再会なんだ、もっとうれしそうな顔は出来ないのか?」 わざとらしくかぶりを振ってみせるグリゴラシュ・ドラゴスにはかまわずに、彼は無言のまま一歩足を踏み出した。両者の間合いは二十と三歩。まだ遠い。
 グリゴラシュもそれに合わせるかの様に一歩踏み出す。
「まあ、おまえが元気そうで安心したぜ」
「それはそれは、お気遣い痛み入るよ――貴様に俺の健康を気遣われる理由は無いがな」 取りつく島も無くそう返事を返して、彼はさらに一歩歩を進めた。
「やれやれ、可愛い義弟の健康を気遣う権利も無いのかね、俺には」 さらに一歩踏み出しながらもわざとらしく肩をすくめるグリゴラシュを無視して、彼は言葉を続けた。
「ドラキュラはどこにいる?」 ガチャガチャという甲冑の装甲がこすれる音が、だだっ広い広間に響いて消えてゆく。両者の間合いは十と三。
「それを知ってどうする?」
「知れたことだ。戦い、斬り、戦い、殺す――俺と貴様らの関係などそんなものだろう」
「ふん――まあ、おまえとしては俺と公爵は分断して戦いたいところだろうな。まあ真祖のおまえでも本来の魔力と異なる公爵の魔素を体内に宿した今の状態で、俺と公爵を一度には相手出来ないだろうからな」
 彼らが歩を進めるたびに、全身を鎧う重装甲冑の装甲板がこすれあう音が寺院の広間に響き渡る。やがて彼らは十歩の間合いを切り、八歩の境に踏み込み、六歩の線を越え、四歩の隔たりに至り、二歩の近接に達し、零歩の交わりに至って――
 たがいにのかたわらを通り過ぎてすれ違い、そのまま二歩踏み出したところで彼は足を止めた。無言のままで振り返りながら、右手を振り翳す。
 ヒィィィィィッ!
 ぎゃあぁぁぁぁっ!
 がぁぁぁぁッ!
 無数の老若男女の悲痛な絶叫を頭の中に響かせながら――霊体武装Asher Dustが結像する。魔力を閉じておくための不可視の力場――形骸の内側に一瞬で赤黒い血が流れ込み、それが一瞬激光を放ったあと、光を吸い込んでいるかの様なまったく輝かない漆黒の刃を持つ曲刀を形成する。
Aaaaaa――raaaaaaaaaaaaaアァァァァァァ――ラァァァァァァァァァァァァァッ!」
Syaaaaaaaaaaaaaaシィィヤァァァァァァァァァァァァッ!」
 金属音によく似た衝突の轟音とともに――たがいに振り返り様に繰り出した斬撃の鋒が激突した。両者の振るった剣の物撃ちが激突した瞬間――刀身の接触した箇所が激光を放つ。
 たがいが武装に通わせた魔力が干渉しあって周囲に紫色の火花を散らし、放出された魔力が衝撃波に換わって広間に置かれていた篝火を片端から薙ぎ倒した。
「懐かしい声だな――今のは誰だ? ボグダンとゲオルゲか?」 たがいに鋒を合わせたままそう言って――グリゴラシュが口元に笑みを作る。
「ディミトリとアンドレアとトライアンだ――自分たちが殺した奴の声も覚えてないのか」
 吐き棄てる様な口調でそう答え、彼――アルカード・ドラゴスは手にした塵灰滅の剣Asher Dustの噛み合いをはずし、左脇に巻き込んで身構えた。
 そしてそのまま、床を蹴る――撃ち込んだ唐竹割りの一撃を、グリゴラシュが鋒を下にして斜めに寝かせた長剣の鋒で受け流す。魔力で補強された長剣の物撃ちの上で塵灰滅の剣Asher Dustがずるりと滑り、それに引きずられて彼自身も体勢を崩し――そのままこちらの塵灰滅の剣Asher Dustの物撃ちを滑らせる様にして胴を薙ぎにくるグリゴラシュの胸元を、アルカードは左の掌で思いきり突き飛ばした。
 それで間合いを離され、グリゴラシュの繰り出した一撃はその鋒が甲冑の表面を若干削り取っただけに終わった。
 しっ――調息を取るために一瞬だけ歯の間から呼気を吐き出し、再び踏み出す。
Wooaaaraaaaaaaaaaaaaオォォォアァァラァァァァァァァァァァァァッ!」 咆哮とともに――両者の繰り出した一撃が、再び虚空で衝突する。
 鍔迫り合いは一瞬だった。噛み合ったままの剣を左脇に巻き込む様にして踏み込んできたグリゴラシュのショルダータックルを反応するいとまも無いまままともに喰らい、為す術も無く転倒する――小さく舌打ちを漏らし、アルカードは完全に体勢が崩れる前に地面を蹴って跳躍した。若干後退しながら、空中で一回転――転倒したこちらにとどめを刺すつもりで繰り出していたグリゴラシュの低い軌道の横薙ぎの一撃が、目標を失って空しく床を抉る。
 着地したときには、すでに体勢を立て直している――グリゴラシュが振り抜いた長剣を引き戻す暇も与えぬまま、アルカードは踏み込み様に肩口めがけて塵灰滅の剣Asher Dustの鋒を撃ち込んだ。
 右肩を狙ったその一撃を――グリゴラシュが左の掌で横腹を叩いて払いのける。軌道をそらされ床に撃ち込まれた鋒を踏みつけて、グリゴラシュが振り抜いた長剣を肩と腰を中心に腕ごと振り回す様にして斜めに強振してきた。
 この間合いだと完全に首を落とされる――毒づいて、アルカードは後方に跳躍した。鋒を踏みつけられて動きを封じられた塵灰滅の剣Asher Dustは、いったん消して再構築――視界を斜めに割っていく銀の閃光を見送って、アルカードは口元をゆがめた。
 いったん体に引きつけた塵灰滅の剣Asher Dustを、踏み込み様に突き出す――顔を狙ったその刺突を、しかしグリゴラシュは正確に回避してみせた。
「残念だな――たとえおまえが視えない様にしていても、俺にはおまえの武装が視える。忘れたわけじゃないだろう?」
「まあな――こいつの不可視形態、雑魚相手にしか通用しないもんな」 アルカードはそう返事をしながら、手にした塵灰滅の剣Asher Dustを軽く振った――同時にそれまでは細かく振動しているかの様に輪郭がぼんやりしていた塵灰滅の剣Asher Dustの姿が、はっきりと視認出来る様になる。
 塵灰滅の剣Asher Dustに限らず、霊体武装や魔具の類は魔力の一部をその機能に振り向けて魔力の弱い者には肉眼で見えなくすることが出来る。
 正確には最初から、肉眼で見えてはいない・・・・・・・のだが――もともと実体を持たない霊体武装は、肉の体で構成された眼には視認出来ない。
 塵灰滅の剣Asher Dustが発する霊声ダイレクト・ヴォイスの絶叫が聞く側には肉声と区別がつかないのと同じ様に、生物は霊体で織られた形骸で構成された霊体武装をみずからの霊体で見て霊体で触れ・・・・・・・・・・、それをまるで肉眼で目にし手で触れているかの様に錯覚するのだ。
 霊体武装は魔力の弱い者、訓練を積んでいない者の霊体では感知出来ない様に、その姿を隠匿することが出来る――問題は不可視の状態にするために霊体武装の出力がかなり喰われて霊体に対する殺傷能力がかなり低下することと、対峙している相手の目から塵灰滅の剣Asher Dustの姿を隠せているかどうかを確認する方法が無いことだった。場合によっては今回のグリゴラシュの様に、アルカードが隠しているつもりでも相手には見えていることもある。
 まあドラキュラの『剣』であるグリゴラシュを相手に、隠匿出来る道理も無いわけだが――形態秘匿を解除したことでそれまでは姿を見えなくするために費やされていた魔力が刃に充実し、それまでに数倍する魔力を放出し始めた。
 阿鼻と叫喚の混声合唱を奏でる塵灰滅の剣Asher Dustを手に、床を蹴る――同時にグリゴラシュも床を蹴った。
 死臭に満ちた寺院の広間で、剣戟の響きが交錯する――アルカードの手にした塵灰滅の剣Asher Dustとグリゴラシュの長剣が衝突し、そのたびに放出される魔力の干渉による衝撃波が大気を震わせた。
 すでに老朽化した寺院の中で暴風のごとき衝撃波が荒れ狂い、壁という壁に亀裂が無数に走って崩落しつつある寺院の中で、彼は手にした霊体武装の柄を握り直した。
 グリゴラシュの長剣は、ヴィルトールの手にした霊体武装と幾度となく撃ち合っても刃毀れひとつしていない――剣の性能というより、グリゴラシュ自身の技能の結果だ。
 グリゴラシュは手にした物体に魔力を通わせて、補強する技能に長けている――魔力強化エンチャントと通称される技能で、剣戟の接触のたびに光を撒き散らしているのはそのためだ。
 魔力強化エンチャントは長剣全体を包み込む様にして特殊な力場を形成し、これに外力が加わるとその衝撃を光と音に変換して放出する――このため、魔力強化エンチャントされた武器で撃ち合う激光と轟音が立て続けに放出されるのだ。
 剣そのものに手を加えるわけではないため刀身の剛性が物理的に向上するわけではないし切れ味も変わらないが、本来刀身にかかる負担の大部分を消失させ、残った負荷も全体に均一化し、局所的な負荷を軽減することで仮想的に強度を引き上げることが出来る。また、魔力強化エンチャントが施された武器は亡霊の様に肉体を持たない存在や、吸血鬼の様に肉体よりも霊体に依存して生きている生物に対しても効果的に攻撃を加えられる様になる。ヴィルトールもそういった技能には習熟していたが、それでもグリゴラシュには及ばない。
 グリゴラシュの長剣はなんということもない――業物には違い無いが――、ただの長剣だ。だが、それを霊体武装と互角に撃ち合えるレベルまで強化出来るというのは並大抵の技量ではない――霊体武装と違って、武器の持ち替えが利くのも強みだと言える。
 グリゴラシュはそこらにあるものに魔力を這わせて、対霊体殺傷能力を持つ霊的武装を生成する技術に長けている――霊的武装は物理的に存在しながら霊体に対する殺傷能力を持つ武装の総称で、その中でも極端に強力な魔力強化エンチャントを施された通常の器物と、器物自体が強大な魔力を得るに至った品物の二種類に大別される。
 後者はヴァチカンが保管しているとされる、キリストの脇腹を刺し貫きその血を浴びたとされる千人隊長ロンギヌスの槍など、それ自体が強力な魔力を帯びた品物のことを指し、強大ではあるものの数が極めて少ない。
 前者は訓練が必要ではあるものの、そこらにある物体に魔力を這わせることによって誰にでも作り出すことが出来る。使用者の技量にもよるが、霊体武装に匹敵する対霊体殺傷能力を引き出すことさえ出来る――今グリゴラシュがやっている様に。
 対してアルカードの魔力強化エンチャントは対象に直接手で触れていなければならず、かつあまり大きな物には魔力を這わせられない――魔力強化エンチャントは対象物を完全に魔力でくるむ必要があるため、補強強度のほかに強化対象の表面積によっても難度が変わってくる。
 また防具の場合は甲冑の装甲板だけでなく鎖帷子の鎖ひとつひとつを個別に強化する必要があり、表面積が広いだけでなく数が極端に多いために技術的な難易度が極めて高い。
 アルカードにはあまり数の多い物を複数同時に魔力でくるむ技能が無く、また表面積が広いと魔力強化エンチャントが行えないため、総面積の広い甲冑のたぐいを魔力強化エンチャントすることは出来ない。それに、手から離れた物体を長時間補強し続ける技能も無い――グリゴラシュの魔力強化エンチャント技能は強力なだけではなく、形状の制限が無い。さらにはいったん魔力を込めてしまえば、接触を継続する必要すら無い。
 彼は手で触れるものであれば包丁や果物ナイフだけでなく、そこらの木の枝や、その気になれば銃弾や鏃、投げナイフといった飛び道具はもちろん、そこらの石ころにさえ魔力を流し込んで『強化』することが出来る。
 そしてその魔力量たるや、ちょっとした霊体武装に匹敵するほど強力なものだ。魔力強化エンチャントの際に武器に込められる魔力の量と、それによる対霊体殺傷能力はアルカードのほうが上なのだが――じかに触った状態でなければ使えない以上、飛び道具に魔力を込めることは出来ない。
 その意味では、いったん接触して魔力を込めたあとは投擲も可能というグリゴラシュの極めて高い魔力強化エンチャントの技量は、こと手数という意味において深刻な脅威になる――直接接触している物にしか魔力を込めることが出来ず、手放した瞬間に魔力強化エンチャントの効果が消失してしまうアルカードと違い、グリゴラシュは手を放した状態でも物に込めた魔力を維持出来る。それはすなわち、時間さえあれば致命の魔力を込めた投擲武器を大量に用意出来るということだ。
 そしてそのひとつひとつが、霊体武装には及ばなくとも、それに近い殺傷能力を附加されているということは――たとえ桁違いの魔力と強靭な肉体を持つ真祖アルカードにとっても、相応の脅威になる。
 対して、霊体武装は使用者の魔力の顕現そのものだ――例外は決して珍しくはないが、たいていはひとりひとつ。アルカードの塵灰滅の剣Asher Dustの様に自分自身以外を魔力供給源として機能する霊体武装や、器物として作られた武器が人を斬り続ける中で攻撃対象の魔力を蓄積し、遂には実体が朽ち果てても魔力だけが形骸を伴って残った例も存在するが――基本的には強大な魔力を持つ戦闘者が魔力を凝集させて作り出す、自分専用の武装を指す。本人同士の合意がある場合に限り貸与も可能ではあるが、基本的には使用者がみずから遣う。
 放出した莫大な魔力を霊体を延長して構築した『形骸』と呼ばれる殻の内側に封入して構築しているため構築と消失を自由自在に行うことが出来、いったん消して再構築することで長さなどの融通がある程度利く。
 大抵の霊体武装は使用者の魔力供給によって極めて高い性能と強度を発揮する――弱い魔物であれば、放出される魔力の余波だけで消滅せしめることすらある。
 だがそれが使用者本人の魔力、すなわち霊体で構築されているがゆえに、いったん破壊されたが最後、使用者そのものであるともいえる霊体武装の『断末魔』は使用者の霊体と精神を直撃する。霊体武装の破壊が原因で廃人同様になった人間は何人も見たことがあるし、アルカード自身も彼の本来の霊体武装である魔人の鎧Deus Ex Machinaが破壊されたせいで、一時期指先ひとつ動かせないほどの深いダメージを負ったこともある。
 霊体武装は強力だが、代わりが無い――その意味では、差し替えが利き破壊された際の危険が無い魔力強化エンチャントで用意した武装のほうが恐ろしい。ことにその武装の遣い手が、直接接触して使う武装であれば霊体武装並みの威力を込められるほどの技量と、アルカードに匹敵するほどの剣技の持ち主となると。

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