徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

In the Distant Past 29

2015年11月01日 21時40分52秒 | Nosferatu Blood
 
   *
 
「で――」 ガリガリと頭を掻いて、アルカードは半眼で周囲を見回した。
「ひょっろ、ひいへまふか?」 まるっきり呂律の回っていない口調で、すっかり出来上がったフィオレンティーナがアルカードの髪を引っ張る。
 どういうわけだか隣に移動してきてくだを巻いているフィオレンティーナを横目で見遣ってから、アルカードは盛大に嘆息した。いつもだったら考えられないことだが、彼女はアルカードの隣に座り込んで片手で彼の髪の毛を引っ張っている――アルカードはフィオレンティーナの呼びかけを黙殺して、
「この子に酒飲ませたのは誰だ」
「ごめん、それわたし」 と、申し訳無さそうにデルチャが手を挙げる。
「その子、わたしの頼んだカシスオレンジをジュースと間違えて一気飲みしちゃって」
「なるほど」 嘆息して、アルカードはさっきから妙に絡んでいるフィオレンティーナに視線を向けた。ちょっとしたアルコールでほんのりと頬が桜色とかなら色気もあるのだろうが、すでに顔が茹で上げられたばかりのタコみたいに真っ赤になっている。たかがリキュールのジュース割一杯にしては、かなりの酩酊具合ではある――否、まだ子供なのだから仕方が無いか。
 でもなりかけヴェドゴニヤとはいえ吸血鬼なのに、たかがカクテル一杯で酔うもんかな?
 と思うのは、当のアルカード自身が若いころは一滴も飲めなかったからだ――当時は今のフィオレンティーナよりもまだ若い子供だったのだが、別に現代の様にお酒は二十歳になってからなどと口を酸っぱくして言い含められるわけでなし、周りの同年代の者たちはグリゴラシュもアンドレアも飲酒を忌避してはいなかった。
 別段飲酒自体は珍しくなかったのだが、彼自身はちょっと飲んだだけで前後不覚になるほど酒に弱かったためにほとんど飲めなかった。
 それも吸血鬼化するまでのことで、真祖として蘇生して以降は蒸留酒を樽で一気飲みしてもまったく酔わなくなったのだが――肝機能を抑えて適度に酩酊するという方法を身につけるまでは、それまでとは違う理由でやはり酒は一滴も飲まなかった。
 なりかけヴェドゴニヤだからだろうか? それとも自分の様な真祖ロイヤルクラシックと、なりかけヴェドゴニヤも含めた噛まれ者ダンパイアでは違うのだろうか。
 そんなことを考えていると、再び横から腕を引っ張られて、アルカードはそちらに視線を向けた。
「まじめにはらしをききらさいっ!」 フィオレンティーナは手にしたカシスオレンジのタンブラー――すでに飲み干されて氷の解けた水だけが残っている――に口をつけて残った氷水を全部飲み干すと、アルカードの耳たぶを指でつまんで顔を近づけ、
「そーやっていつもいつもふまじめだから、あららは――」 酔っているせいか声が大きくなっている。正直うるさい。あと顔が近い。
「ああ、聞いてる、聞いてるよ」 そう返事をして、アルカードは溜め息をついた。その様子に、フィオレンティーナがますます柳眉を逆立てる。
「なんれすか、そろめんろーくさそーらへんじは!」
 誰か助けて。絡み上戸だこの子。
 助け船を求めて周りを見回すが、パオラとリディアはへべれけに酔っぱらった相手の処置をした経験が無いからだろう、困った顔でアルカードとフィオレンティーナを見比べている。
 凛と蘭はどうしていいかわからないらしく、残る面々はむしろ面白がっているのかそろってこちらを注視していた。あとで覚えてろ。
 なおも耳元で大声を出しているフィオレンティーナに視線を向け、彼は何度目かの溜め息をついて日本酒の瓶に手を伸ばした。
 
   *
 
 ズシンズシンという地響きの様な重々しい疾走音とともに、巨大な調製槽を担いだ05が突っ込んでくる。
 瘤に足首を銜え込まれて動きが止まっているうちに、瘤ごと叩き潰そうという胆か。
 だが――
 唇をゆがめて、アルカードは右手で保持した塵灰滅の剣Asher Dustを肩の高さに翳した。刃を水平に寝かせて肘から背後に引きつけ、鋒のあたりに左手を添える。
 魔力を注ぎ込まれて励起した塵灰滅の剣Asher Dustの刀身が蒼白い激光を放ち、刃の周囲に纏わりついた電光が視界を焼いた。
Wooaaaaaa――raaaaaaaaaaaaaオォォアァァァァァァ――ラァァァァァァァァァァァァッ!」
 咆哮とともに――アルカードはその場で踏み込みながら刺突を繰り出した。足を銜え込んで回避行動を制限している04でもなければ、今まさに巨大な調製槽をかかえて突っ込んできている05でもなく――アルカードの矮躯を叩き潰さんと撃ち下ろされてきた調製槽の筺体に向かって。
 刃の周囲に纏わりついた強烈な魔力が刺突動作とともに一点に収束された衝撃波に変換されて、巨大な調製槽の筺体を一撃でぶち抜く。
 世界斬・貫World End-Pierceの衝撃波は周囲に撒き散らされる余波で調製槽をばらばらに分解しながら05の右腕を吹き飛ばし、そのまま射線上にあった調製槽の筺体数基と貯水槽、さらには轟音とともにビルの外壁までも貫いた。
「やれやれだ、もう事態の隠蔽もくそもあったもんじゃねえな」 地響きとともにその場にひっくり返る05を見下ろして、アルカードは嘆息した。ばらばらと音を立てて、衝撃波で破壊された調製槽の細かな部品が周囲に散乱する。
「まあこれだけずしんどかんやってれば、侵入も露顕してるだろうしな――もうちょっとばかり本気でやろうか」
 首をかしげる様に頭を傾けて――再び襲いかかってきた高周波スピアがちょうどそれまで頭のあった空間を貫通し、背後の調製槽の筺体に大穴を穿った。
「病み上がりにはちょうどいいヌルさだし――なぁ!」 声をあげて――引き戻されるより早く、高周波スピアの穂先を切断する。続いて足首に喰らいついた瘤も切断すると鏡の様に滑らかな切断面から赤黒い血が噴き出し、04が激痛に悲鳴の様な叫び声をあげた。
 足首を銜え込んだままの瘤を蹴り剥がして、再び床を蹴る――標的は片腕を失って立ち上がれずにいる05でも攻撃手段を失い身動きもままならない04でもなく、蹴り砕いた膝関節の修復を終えたのか立ち上がっている01。
 ここにいる中で、01がもっとも修復能力に優れているらしい――まあ当然の話で、あれだけころころ戦闘形態を変更出来るスペックを確保するには通常のキメラよりもさらに高い代謝速度が必要だ。それはつまり、受傷したときの復元性能が優れているということでもある――代わりに寿命はさらに短いのだろうが。
 01がこちらに向き直って身構えるよりも早く塵灰滅の剣Asher Dustを振るい、アルカードはたまたまこちらに向いていた01の右腕を肘から切断した。斬撃の軌道に巻き込まれて右脇を鎧うクチクラの外殻も浅くはあるが薙がれ、01が再び体勢を崩す。
 それを好機と、アルカードは再び塵灰滅の剣Asher Dustを振るった。攻撃動作を止めないまま背後に廻り込み、返す刀で背中から首を薙ごうと――
 するより早く横合いから飛び込んできた05の高周波振動する鈎爪を躱して、アルカードはいったん距離を取った。01の首を刎ね飛ばすはずだった必殺の一撃は目標をはずし、01の左肩の装甲を深々と薙ぐにとどまっている。
 攻撃そのものはしくじったが、アルカードはさほど気にしていなかった――代謝速度が早いということはただ動き回るだけでも通常の数倍のカロリーと栄養を消耗し、体組織にも負担がかかる。まして傷を修復するとなれば――
 噛まれ者ダンパイアどもがたとえ霊体にダメージを与えうる攻撃でなくとも、手傷を負わせ続ければ力を使い果たして死ぬのと同じだ――たとえ仕留めきれなくとも、ひたすら手傷を負わせて修復させ続ければいずれ衰弱して死んでしまう。
 01が足元に落下した右腕を拾い上げ、傷口に押しつける様にして接合している。ものの数秒で傷口同士が癒着し、再び神経がつながったらしい――瞳に爛々と燃える殺意を湛え、01はこちらに向き直った。
 そのときになってようやく、爆発に巻き込まれて薙ぎ倒された構造物の下敷きになっていた03が姿を見せる――先ほど姿が見えなかったのでどうなったのかと思っていたが、どうやら死んではいなかったらしい。
 ぐるぐるといううなり声とともに、01がわずかに重心を沈める。
 次の瞬間、咆哮とともに01は床を蹴った。肘から生えた放熱突起はさほど役に立たないと判断したか、鋭い鈎爪を引っ掻く様な軌道で繰り出してくる。その攻撃を体を沈めて躱し、アルカードは床を蹴った――右脇に吊った簡易防具に仕込んだ樹脂製の鞘から格闘戦用の大ぶりの短剣、心臓破りハートペネトレイターを引き抜いて、01の脇を駆け抜け様に脇腹に突き立てる。
 魔力強化エンチャントを施された短剣の鋒が強固なクチクラの外殻を易々と突き破り、手元リカッソまで深々と胸郭に喰い込む。おそらく心臓に届いてはいないだろうが、それでも肺を傷つけたはずだ――口蓋から動脈血と静脈血の入り混じったまだら色の血を吐き散らして、01が含漱音の混じった悲鳴をあげる――これで即死はしないだろうが、どうでもいい。
 しばらくは動きが止まる――血を吐いたということは内臓を傷つけているから、01の復元性能を以ってしても完全修復にはそれなりの時間が必要だろう。そして修復を行うために、また01の寿命は縮まる。
 突き刺した心臓破りハートペネトレイターはそのまま、それで01は無視して、アルカードは05に殺到した――05が迎撃のために、無事に残った左腕の鈎爪を振るう。
 だが、片腕を失った敵の攻撃を躱すなど造作も無い――05の腕は長いが、それはあくまでもその巨躯に見合った長さでしかない。ただ単に失った腕のほうへと廻り込むだけで、自身の体が邪魔になって05の攻撃はアルカードに届かない。
 そのまま05の右側後方へ――そこで転身しながら、アルカードは塵灰滅の剣Asher Dustを振るった。
 はるかに小柄な体躯のアルカードを撃ち倒すために体勢の沈んだ05の膝裏、キチン質の外殻クチクラに覆われていない個所を塵灰滅の剣Asher Dustの鋒が深々と薙ぎ、人間で言えばふくらはぎの筋肉束を切断された05がその場で膝を突く。
 とりあえずとどめを刺すのは後回しにして、アルカードは斬撃動作のまま転身して再び床を蹴った――05の背後で床にうずくまっていた04のほうへ。
 04の脚はいまだ治癒していない――普通であれば治っているのだろうが、高周波スピアを高速で振動させるために大量のエネルギーを必要だったので、そちらに優先的にカロリーが消費されたからだろう。04には今、傷の修復に回す余力が無いのだ。
 04の額から伸びた金属質の放電頭角が、バチバチと音を立てて電撃を纏わりつかせるが――遅い。
 左手で装甲の隙間から数本の短剣を引き抜いて、投擲――先ほど目潰しのために投げつけたのは鎧徹アーマーピアッサーだが、今度は肺潰しラングバスターと名づけた飛苦無に似た形状の投擲用の短剣だ。
 柳の葉の様なスリムな形状の両刃の短剣が、04の顔面と胸部に次々と突き刺さる。
 先ほど顔に投げつけてやった鎧徹アーマーピアッサーも含めて合計九本の短剣が顔面と胸部に次々と突き刺さり、04の口から叫び声がほとばしった――先に投げた鎧徹アーマーピアッサーも含めて両目とその周辺に五本、胸部に四本。目的は目視による放電攻撃の照準を定められなくすることと、ガス交換の阻害。
 04の弱点は、喉か肺だ――槍状器官を高速で振動させる高周波スピアにせよあるいは高周波スピアを突き出したり瘤状器官を繰り出すための細胞組織の急速な分裂や融合にせよ、あるいは損傷箇所の修復機能にせよ、それらを機能させるために04は大量の酸素を必要とする。おそらく放電攻撃のための電力は生体燃料電池によってまかなっているからそれには直接ガス交換はかかわらないが、目視が出来なければ正確な照準は出来まい。
 呼吸が満足に出来なくなることによって、04はそれでなくても滞っている損傷箇所の修復にさらに支障が出てくる――脳の機能にも支障が出てくるし、そうなれば今繰り出そうとしている放電攻撃を実際に行うことも難しくなるだろう。
 胸部に突き刺さった短剣を抜き取ることも出来ないまま、04が水音の混じった叫び声をあげ――頭角に纏わりついていた電光が消えて失せる。
 った――胸中でつぶやいて、アルカードは手にした漆黒の曲刀の柄を握り直した。どの程度の時間が作れたかはわからないが、どうでもいい――ほんの数秒間攻撃の発生を遅らせられれば、それで十分だ。どのみちあと十秒もたたずに、04の生命活動は終わるのだから。
 しっ――歯の間から息を吐き出しながら、アルカードは04に殺到した。両腕を失っているために身を守ることも出来ないまま横薙ぎの初撃で頭蓋の上半分を削り取られ、続く撃ち下ろしの一撃で肩を割られて、04の巨体が地響きとともに崩れ落ちる。
 脳を破壊され、心臓と肺も破壊。これでもう復活の恐れはあるまい。
 これでふたつ――!
 胸中でつぶやいて、アルカードはその場で転身した。一対多数戦における基本のひとつは、動きを止めないことだ。
 仲間から離れたからか再び攻撃体勢を取ろうとしていた03に殺到して、アルカードは手にした塵灰滅の剣Asher Dustを頭蓋めがけて叩きつけた――頭蓋割の撃ち下ろしは人間が相手であれば、頭蓋骨の丸みで刃が滑ってしまうことも多い。だが全身が棘状突起物を備えた外殻で鎧われた03の頭部であれば、その恐れは無い。
 全力で撃ち込んだ塵灰滅の剣Asher Dustの物撃ちが、ズガンという轟音とともに03の頭部に衝突する。だが重さが足りなかったのか、塵灰滅の剣Asher Dustの刃は強固な外殻に阻まれて頭蓋を一撃で砕くとはいかなかった。
 その代わり、03の巨体をハンマーで殴り倒したみたいに地面に叩き伏せる――ガァァという咆哮とともに、03が右腕を振り回してアルカードを振りほどいた。いちいち近接を維持する必要も無かったのでそれに逆らわずに間合いを作り直し、立ち上がりながら振り回した03の腕の間合いから逃れる。
 攻撃が不発に終わったことに小さく舌打ちを漏らし、アルカードは唇をゆがめて笑った。03の頭部の外角は、剣の刃の形に沿って多少の傷跡が残っている。
 だが傷跡といっても外殻の表面が刃が喰い込んだ跡に沿って、溝状に多少陥没しているだけだ。陥没と言えば聞こえはいいが、深さにしてみれば数ミリとないだろう。ほんのわずか、その痕跡が見て取れる程度だ。頭部への衝撃が加わっているはずだが、先ほど腕を振り回してアルカードを引き剥がしたときはまるで俊敏さが落ちていなかった。脳震盪、あるいはそれに似た脳への一時的なダメージも入っていないらしい。
 外殻が堅い――今の一撃、斬撃動作中に発生させた微弱なものとはいえ世界斬・纏World End-Followを這わせていたのだ。それが多少の瑕にはなっても外殻を破れていない。ということは――
 今の俺の剣圧ではあの外殻を斬ることは出来ない、ということか――
 たいしたものだ――自分を相手にここまで持ちこたえるキメラというのは、おそらくはじめて出会っただろう。南仏のヌなんとかのキメラも手強かったが、彼らはあのキメラと違って一対一の戦闘ではないのでなおのこと攻略が難しい。
 胸中でだけ讃辞をつぶやいたとき、03がこちらに殺到してきた。
 だが・・剣で斬り抜けないなら・・・・・・・・・・――胸中でつぶやいて、塵灰滅の剣Asher Dustの剣を消す。
 ふるえ浮嶽ふがくも使えない――どちらもいったん内懐に入らなければならないうえに、撃ったあとで一瞬動きが止まる。もしそれで仕留めきれなかった場合、自分とそう変わらないパワーを誇る相手に至近距離で捕まえられることになる。
 だが――
 別に自分の手持ちの得物や能力だけで、事態を解決する必要は無いのだ。
 ここには高周波系の武器を装備したキメラが何体かいる――彼らを巧く利用出来れば、攻略はさほど難しくはない。
 あの回転攻撃を繰り出す間合いは無いからだろう、そのまま掴みかかってきた03の両手を掴み止め、がっぷり四つに組み合って、アルカードは笑った。
 どうやら03のパワーは、今のアルカードとほぼ互角らしい――膂力でひねり潰そうとする03に全力で対抗しながら、背後から殺到する05と01の行動を重層視覚で確認する。
 三次元俯瞰視界3Dオーバールッキング・ビュアー全方位視界オムニディレクショナル・アラウンド・ビュアー、周囲の状況を脳裏に投影する憤怒の火星Mars of Wrath視覚が、背後から殺到する二体のキメラの姿を捉えている――01はさすがの復元性能ですでに重傷から立ち直り、05もすでに膝裏を切断されたダメージから立ち直っているらしい。そちらのほうが復帰が早かったのか、あるいは近接格闘戦においては有利な高周波クローを持っているから先行しているのか、05のほうが先に到達する――そう、05のほうが早い。
 それを確認して、アルカードは唇をゆがめて笑った。
 いいね・・・――それは助かる・・・・・・

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