徒然なるままに修羅の旅路

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The Evil Castle 24

2014年11月10日 23時56分19秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   *
 
 ひゅっ――軽い風斬り音とともに、頭上で旋廻させた塵灰滅の剣Asher Dustの刃が虚空で踊る。
 周囲を取り囲んだ鎧たちが、突き出した槍を引き戻しながら旋廻した塵灰滅の剣Asher Dustの鋒を躱す――後退した鎧の一体を追って、アルカードは床を蹴った。
 重量に見合わない軽やかな動きで後退する鎧に易々と追いついて、アルカードは左手を伸ばし――後足を地面につけるよりも早く胸元を突き飛ばされた鎧が、着地にしくじって背中から転倒する。
 これが生身の人間なら、そのまま下顎を踏み砕けば終わりだが――相手が鎧ではそうもいかない。
 それに――
 背後から聞こえてくる甲冑の足音に小さく毒づきながらその場で転身、塵灰滅の剣Asher Dustを眼前に翳す――背後から殺到してきた鎧が大剣をそうする様に縦に振り下ろす挙動で撃ち込んできた巨大な大身槍スピアの穂先と塵灰滅の剣Asher Dustの物撃ちが衝突し、さしものアルカードも力負けしてよろめいた。
 こちらの体勢が崩れたと見るや、鎧が撃ち込んできた槍を保持していた右手首を返す。
 鎧がそのまま上体をひねり込み、槍の柄頭を突き込む様にしてこちらのこめかみを狙ってくるのを、アルカードはその場で体を沈めて躱した――やはり鎧たちを相手に長剣で撃ち合っては勝負にならない。膂力だけなら、鎧の腕力はアルカードよりも上だ――特にホールにいる鎧たちは先ほどの書斎の鎧と違って邪魔臭い楯を装備していないので、武器を扱うのに両手を使える。
 両手で扱う武器は重さも精度も速度も、片手のときとは比較にならない――得物の違いもあって剣を装備した鎧とは比較にならないほど捌きにくい連続攻撃を、アルカードは舌打ちしながらことごとく受け流した。
 力は十分だが装備が重いために、鎧の動きはやや鈍い――だがそれでも、ホールに設置されていた鎧十数体が間断無く波状攻撃を仕掛けてきている状況では決して侮れたものではない。
 体勢を立て直そうにも攻撃が激しすぎて、武器を持ち替えることもままならない――攻撃を捌くことに精いっぱいで、これでは包囲網を抜けて仕切り直すことも無理だ。
 それでも徐々に戦力を削り取ってはいるのだが、こうも手数が多くてはそのペースも遅々たるものだった。
 小さく舌打ちを漏らして、アルカードは手にした塵灰滅の剣Asher Dustを足元に投げ棄てた。
 突き込まれてきた槍を掌で押しのける様にして内懐に踏み込みながら、鎧の脇を駆け抜ける――背後に廻り込んだところで転身して膝の裏に蹴りを叩き込み、アルカードは体勢を崩した鎧の背中側の装甲を掌で突き飛ばした。
 その反動で後退しながら、別な鎧の内懐に飛び込む――相手にもたれかかる様にして背中を密着させながら、アルカードはぎっと奥歯を噛み締めた。
 次の瞬間、強烈な震脚の轟音とともに鎧の体が弾け飛んだ――重装甲冑を身に纏った鎧の体がなす術も無く吹き飛ばされ、目の部分や口のスリットから動脈血と静脈血が入り混じってまだら色になった血液を噴出させながら、後続の鎧を巻き込んで床の上に背中から倒れ込む。
 草薙神流における格闘組討術の奥儀のひとつ『クダキ』――確か、あの子供はそんな名前で呼んでいた様に思う。技術としては八極拳の『カォ』――背面からの体当たりのそれに近く、重量と膂力に差があるために破壊力は比べ物にならない。
 いわゆる『奥儀』を持たず、連続した動きの連なりを以て技とする武芸を修めたヴィルトール・ドラゴスにとって、数少ない単体で繰り出す技のひとつでもある。
 とりあえず鎧の向こう側にいくらか開けた空間が出来たので、アルカードはそのまま床を蹴った――その場で転身し、『砕』をまともに喰らって倒れた鎧の向こうにいる鎧に向かって殺到する。
 目標にされた鎧が、手にした槍を水平に薙ぎ払う様にして迎撃を繰り出す。
 振り回された槍の穂先を躱して重心を沈めながら鎧の内懐に飛び込み、アルカードは抜き放った心臓破りハートペネトレイターの鋒を鎧の着込んだ胴甲冑の隙間から脇の下に捩じ込んだ――鋼の様な肋骨をぶち抜いた短剣の幅広の鋒が肺を貫いて心臓に達し、鎧が電撃に撃たれた様に全身を硬直させるのと同時に口元のスリットからまだら色の血が噴き出す。
 手元まで突き立てた心臓破りハートペネトレイターを引き抜くいとまが惜しかったので、柄から手を離してその場で転身――回転しながら跳躍し、別の鎧が振るった槍の穂先から逃れて距離をとる。
 転身動作を止めないまま別な鎧の内懐に飛び込んで、アルカードは突き出されてきた槍の穂先を手の甲でいなしながら鎧に組みついた。
 重い槍を振り回して体の崩れていた鎧の胴甲冑の裾に指をかけ、上体をひねり込みながら体を持ち上げる様にして様にして引き回しながら足を刈り――そのまま槍を突き出してきていた別の鎧の前に、楯にする様にして放り出す。
 巨大な大身槍の穂先が頑丈な胴甲冑の胸部をぶち抜いて背中まで貫通し、赤黒い血にまみれた穂先が顔を出した。
 なるほど、たいした威力だ――胸中でつぶやいて、アルカードは側方に踏み出した。
 だが――それだけだ。
Wooaaaraaaaaaaaaaaaa――オォォォアァァラァァァァァァァァァァァァァァァ――」 低い声をあげて、アルカードはカニ歩きの様に右に踏み出しながら鎧の突き出してきた槍の穂先を掌で押しのけた。
 槍の穂先が鼻先をかすめ、風圧で前髪が揺れる。
 刺突は手首を返せば横薙ぎの一撃につなぐことが出来る――その隙は与えない。
 相手に合わせて向き直ることはしない――再び体勢を変えなければならない以上、姿勢変化は最小限でいい。こちらが内懐に飛び込んできたからだろう、刺突を繰り出してきた鎧が後退のために体を後傾させる。
 なら――脚が残る。
 アルカードは後退のために跳躍する瞬間を狙って前足を捕り、同時に上体を沈めながら鳩尾のあたりを狙って肘を撃ち込んだ――後退動作を開始していたところで跳躍のために前に残った蹴り足を捕ったために鎧の体は大きく後傾しており、それゆえに打撃の威力そのものはさほど大きくない。
 『矛』はあくまでも打撃の衝撃力や反作用を増幅するものなので、元々の威力が小さければ増幅してもやはり打撃は軽い。十に十を掛ければ百だが、一に十を掛けても十にしかならないのと同じだ。だがそれでも――
 瞬間的に発動した『矛』の衝撃で胴甲冑が大きく変形し、鎧が背中から床に転倒する――立ち上がることも出来ずに、鎧が喘鳴をあげた。
 鎧の胴甲冑が大きく陥没し、鎧がその場で転げ回っている――変形させられた甲冑の装甲板が胴体に喰い込んで横隔膜の動きを阻害し、呼吸困難に陥っているのだ。
 『矛』は発動タイミングがシビアになればなるほど、反比例して増幅率が上がる――極限まで発動時間を絞り込めば、破壊力を数十倍にまで増幅させることも不可能ではない。衝突のタイミングを自分で調整出来る状況でなければまず成功しない、非常にリスキーな賭けではあるが。
 人間に限らず生物を斃そうとするなら、大仰に首を刎ね飛ばしたり胴体をぶった切るだけが芸ではない――大袈裟に首を絞めたりしなくても、ただ頸動脈を指で押さえつけるだけで人間は昏倒させられる。
 それは肉体を持っていれば、人間以外の生物でも似た様なもので――その一撃で仕留めることが出来なくても、呼吸を封じればそれだけで生物は行動出来なくなる。それが明らかに人間よりも基礎代謝率が高く、したがって酸素消費量の多い生物であればなおのこと――
 この鎧の代謝速度がどれだけ速かろうが関係無い――細胞分裂にはエネルギーが必要で、体内の、脂肪や糖分をエネルギーに変えるには酸素が必要だ。酸素を取り込むには呼吸が必要で――したがって酸素を取り込めなければなにも出来ない。
 体内に取り込んだ酸素を使い尽くしてきたのだろう、痙攣が鈍くなり始めた鎧の最期を見届けることもせずに、アルカードは視線を転じて別な鎧に向き直った。じりじりと包囲網を狭めてくる鎧を睥睨して唇をゆがめながら、右手を振り翳して――
 ギャァァァアァッ!
 脳裏に直接響く絶叫とともに、投げ棄てた場所で消滅していた塵灰滅の剣Asher Dustが再び形骸を形成する――通常の長剣程度のサイズで再構築された塵灰滅の剣Asher Dustを軽く振り回して、アルカードは右足を引いた。
「ふん――あの薄汚いイェニチェリどもを、トゥルゴヴィシュテで蹴散らしたころを思い出すな」 わずかに目を細めて、アルカードは床を蹴った――壁際に近くなってきたからだろう、接近しすぎると槍の突き代が取れないからか鎧の包囲網はいくらか広がっている。先ほど突き倒した鎧もすでに立ち上がり、こちらに向き直って包囲網に加わっていた。
 しっ――歯の間から息を吐き出しながら、アルカードは左手にいた鎧に殺到した。どうも先ほど同士討ちさせた鎧らしく、槍の穂先が赤黒い血でべっとりと濡れている――踏み込みながら迎撃を繰り出してくる鎧の大身槍の軌道から体をはずし、アルカードは塵灰滅の剣Asher Dustを振るってその鋒を迎え撃った。
 塵灰滅の剣Asher Dustの刃が、鎧の突き出してきた大身槍の穂先をまっぷたつに割って入る。
 穂先を刃筋に沿う様に火花とともに斬り裂いてその先の柄を薪の様に切断し、柄を握る指を斬り落としながら胴を薙いで――槍の位置が高かったために、その鋒は隕鉄の重装甲冑の胸部を引き裂いて肺を斬り裂き心臓に達した。
 甲冑の裂け目から動脈血と静脈血が入り混じったまだら色の血が大量に噴出し、口元のスリットを赤く濡らした鎧がその場で崩れ落ちる。
 塵灰滅の剣Asher Dustを振り抜いた体勢のまま動きを止め――アルカードはすっと目を細めた。同時にアルカードが包囲網から離脱したことで突き代が取れる様になったからか、周囲にいた鎧が一斉に槍を突き出してくる。
 そのまま喰らっていれば、針鼠みたいにされていたのだろうが――鎧たちの繰り出した刺突はいずれも目標を失い、互いに衝突しあって火花を散らしただけだった。
 目標を探して鎧たちが周囲を見回すより早く――アルカードは彼らの背後に着地した。二度、三度と跳躍するために足場にした壁や柱が蹴り砕かれて、破片がパラパラと落ちてくる。それらの砕片が床に落下するより早く、アルカードは剣を振るった。
Aaaa――lalalalalalalieアァァァァ――ララララララララララァィッ!」
 鎧がこちらの移動に気づいて振り返るより早く――雄叫びとともに、背後から鎧三体の胴体をまとめて上下に分断する。
 高い軌道で繰り出された角度の浅い逆袈裟の一撃の軌道に巻き込まれて、鎧の腕や切断された鎧の頭角と一緒に削り取られた頭部装甲が床の上に落下する――頭部装甲にへばりついた頭蓋の下に隠されていた、巨大な脳髄もまた。
 仲間の脳髄を踏み潰して、間合いの外にいた鎧の一体がこちらに向かって足を踏み出す。大上段に振りかぶって叩きつけてきた大身槍を左にサイドステップして躱し――そのままの体勢で振り抜いた塵灰滅の剣Asher Dustを保持する手首を返した。
 しぃっ――歯の間から呼気を吐き出しつつ、手にした漆黒の曲刀を振るう。人間で言えば耳の下あたりから入った刃に頭蓋を斜めに削り取られ、鎧が断面から血の混じった髄液を溢れ出させながら全身を弛緩させた。
 真っ赤な絨毯に動脈血と静脈血、脳髄液の混じったまだら色の血がしたたり落ちて、なんとも言えない色の染みを作ってゆく――柔らかい脳髄が床に落下して潰れ、その上にひざまずく様にして床に膝を突いた鎧がそのまま前のめりに崩れ落ちた。

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