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徒然なるままに修羅の旅路

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The Otherside of the Borderline 57

2014年10月19日 21時22分35秒 | Nosferatu Blood
「……?」 鎖帷子でも着込んでいるのか、その蹴りの感触は異様なものだった――相手が人間であれ吸血鬼であれ、肉を持つ生き物を蹴ったときとは感触が違う。まるで皮膚の下にもうすでに骨格が、それも鋼かなにかで出来た様な異様に硬い骨格が存在しているかの様な――
 それを裏づけるかの様に、体重も異様に重かった――三百キロ以上はありそうだ。
 だが三百キロ程度なら、アルカードの脚力であれば問題にもならない――普通の人間であれば一撃でばらばらになるほどの破壊力の蹴りをまともに喰らって、襲撃者の体が車に撥ねられたみたいに横殴りに吹き飛んだ。
 襲撃者の体が雑居ビルのコンクリート外壁に叩きつけられて、薄汚れた外壁を轟音とともに瓦解させながらビルの中へと消えていく。
 そちらには視線を呉れず――どうせ肉眼で見届けなくとも見えて・・・いる――、アルカードは最初に捕捉した敵影に注意を向けた。
 すでに最接近していたもうひとりの襲撃者、黒い人影が、こちらの顔に向かって左手を伸ばしてきている――その手の中でなにかが光を反射しているのを見てとって、アルカードは舌打ちとともに左手を翳した。次の瞬間苛烈な衝突音とともに、左手の掌に金属質の物体が衝突する。
 同時に左脇に巻き込む様にして体幹に引きつけていた塵灰滅の剣Asher Dustを、低い軌道で薙ぎ払う。一撃で首を飛ばす必要は無い。要は攻撃さえ封じればいいのだ――これだけ最接近していれば、こちらの斬撃はおそらく視界に入らない。気づくのは脚を薙がれたあとだ。
 おそらく視界には入っていなかったであろうその一撃を、しかし最初の襲撃者は俊敏な動きで後退して躱した――後退したのも束の間、着地の足で再び地面を蹴り、剣を薙ぎ払ってがら空きになったこちらの内懐に踏み込んできている。
 ちっ――毒づいて、アルカードはその左手の中で閃いた銀光を再び左手で迎え撃った。だがそれよりも早く、襲撃者の姿が陽炎の様に揺らいで消える。
 ――速い!
 振り返るより早く、側面に廻り込んできていた襲撃者の右手が閃く。
 素手……? なにも持っていない右手で明らかに届くはずもない間合いから繰り出してきた一撃に眉をひそめたとき、不意にその右手から銀閃がほとばしった――回避が間に合わず、こめかみをかすめて鮮血が噴き出す。
手前てめぇ――」 滅多に無い――シンの様に実力の知れている相手ならばともかく、ろくに見も知らぬ相手に自分の間合いにまで踏み込まれたことで、一気に頭に血が上る。
「図に乗ってんじゃ――」 低い声でうなる様につぶやきながら、アルカードは反撃を仕掛けた。追撃をかけるために最接近してきた襲撃者の顔面を左手で鷲掴みにし、そのまま後頭部から地面に叩きつける。
 ごしゃ、という物騒な音とともに、襲撃者の後頭部がたまたま足元にあったマンホールの蓋に衝突する。鋳物で作られたマンホールの蓋がその衝撃でいびつにゆがみ、そのまま耐えきれずにみっつに割れた。
「――ねぇッ!」 びくりと一度痙攣したその顔を掴んだまま引きずり起こし、手近な雑居ビルの壁に向かって襲撃者の体を投げつける。
 襲撃者の体はやんちゃな子供の投げつけた玩具の人形の様なポーズで背中からコンクリートの壁に派手に叩きつけられた――その衝撃で壁面には蜘蛛の巣状の亀裂が走ったが、壁をぶち抜いたりはしていない。
 やはり左腕の機能が低下しているせいで腕力も落ちているのだろう、先ほど蹴りで吹き飛ばしたときの様にはいかないらしい。
 小さく毒づいて、アルカードはアスファルトに塵灰滅の剣Asher Dustの鋒を突き立てた。
 背後にあったコカ・コーラの真っ赤な自販機の筺体に右の貫手を突き立て、内部のフレームを掴んで持ち上げる。
 転倒防止用のチェーンがすさまじい膂力に耐えかねて弾け飛び、数百キロはあろうかという筺体がゆっくりと持ち上がった。
「地獄へ行けぇッ!」 咆哮とともに――担ぎあげた自販機の筺体を、壁に叩きつけられたままの姿勢から微動だにしていない襲撃者めがけて投げつける。女を叩きつけたときの衝撃で脆くなっていたビルの外壁が自販機の直撃で今度こそ崩壊し、自販機の筺体に押し潰される様にして襲撃者の体はビルの中へと消えた。
「あ」 条件反射で反撃したあと、アルカードはふと我に返った。
 やべ、かっとなってたから手加減が――ちゃんとヒト型してるかな?
 胸中でつぶやいて、アルカードはレザージャケットの左腕の袖を肘まで捲り返した。路面に突き立てたままになっていた塵灰滅の剣Asher Dustを引き抜く。相も変わらずぎゃあぎゃあ叫んでいる剣を手に、アルカードは風通しの良くなった雑居ビルへと歩み寄った。
 どうしよう――これがシンのところの手先だったら、あとで揉め事になるかな?
 そんなことを考えながら、ビルの外壁に穿たれた穴から中を覗き込む。
 まあ、仕掛けてきたのはあっちだしな――投げ遣りに独り語ちて、アルカードはどうでもよさそうな声をかけた。
「おい、手足ちゃんと繋がってるか、っていうか生きてるか?」
 襲撃者はビルの内部で自販機の筺体と内壁の間に挟まって胸郭を叩き潰され、ピクリとも動く様子は無く、当然返事も無い――さすがに死んだかな? わずかに首をかしげたとき、金属の裂ける音とともに、自販機の筺体を貫いて飛び出してきた銀光が視界を引き裂いた。反応が遅れていたら眼窩を貫かれて、脳を破壊されていただろう。
 なに!?
 咄嗟に頭をそらしたものの――頬を切り裂かれて鮮血が噴き出す。だが魔力はまったく通っていないために、その傷は瞬時に治癒している――そのまま大きく後退したとき、銀閃とともに自販機の筺体が縦に引き裂かれて左右に割れて倒れた。
「……?」
 アルカードが持ち上げたときに引きちぎられた電源ケーブルが床の上でのたうち、引き裂かれた筺体の断面から漏れ出した冷却装置の冷媒が蒸発して白い蒸気を噴き上げる。
 そして――まるで何事も無かったかの様に、襲撃者はその場で立ち上がった。
 そこに佇んでいるのは、身長百七十センチほどの背の高い女だった。均整の取れたグラマラスな体型を、体にフィットした黒いレザースーツに包み込んでいる。
 まず美しいと言っていいのだろうが、アルカードは正直あまり魅力的だと思わなかった――能面の様な無表情に硝子玉を填め込んだ様な虚ろな瞳、マネキン人形と見つめ合っている様でつまらない。
 だがそれはともかく、アルカードは手袋を嵌めているはずの女の右手の素肌が見えているのに気づいて眉をひそめた。最初に攻撃を仕掛けていたときには、この女は手袋を嵌めていた。いつの間に脱いだのか――否、違う。
 なにがあったのかは知らないが、女の右手の手袋は、鋭い刃物で切り裂かれたかの様にずたずたに裂けている。その切れ端だけが手首に絡みついている状態なのだと、しばらく観察してからアルカードは気づいた。
 右手だけではない――左手も、一条だけだが手袋が大きく裂けている。指がまともに残っているから、動かすのに支障は無い様だが――
 なんだ……?
 胸中でつぶやいたとき、瓦礫の崩れる音とともに背後で動きがあった。見るまでもなく、さっき蹴りを喰らわしたもうひとりの襲撃者だろう。手加減したとはいえ、アルカードの蹴りの威力は樫の大木を薙ぎ倒すほどのものだ――それをまともに喰らってなお動けるとなると、こちらもまともな生き物ではないらしい。
 眼前の女が右手を広げる――ばりばりという肉と皮膚の裂ける嫌な音とともに、女の右手の五指の甲側から、指先を支点に湾曲した刃が飛び出した。
 皮膚の裂け目はあっという間にふさがり、血塗れになった刃が非常灯の明かりを照り返してぬらぬらと光っている。
 背後で似た様な音がしたところからすると、後ろにいるのも似た様なモノなのだろう――あの刃を出したときに引き裂かれたから、女の手袋は襤褸切れみたいになっていたのだ。
 だん、と音を立てて女が床を蹴った。獲物を定めた豹を思わせる、体勢を低く沈めた俊敏な動きで、女が間合いを詰めてくる。
 恐ろしく速い――靴がずたずたに裂け、足裏から飛び出した刃とも棘ともつかぬものがアスファルトを浅く穿っている。ちょうどサッカーシューズのスパイクの様に、地面を噛んで疾走をより効率化しているのだ。
 さっき接近されるときに聞こえてきた破砕音はこれか――
 背後でもうひとりの襲撃者も地面を蹴る――そちらはとりあえず無視して、アルカードは眼前の敵に対処した。
 伸びすぎの爪を思わせる、右手の刃を振るう女――別れ話に癇癪を起こした女が引っ掻いてきた様な絵面だが、そのダメージは痴話喧嘩で頬を引っ掻かれた程度では済むまい。
 とはいえ――
 速いな。胸中でつぶやいて、アルカードはわずかに上体をそらしてその攻撃を躱した。アルカードは脳を破壊されても死ぬことは無いが、脳の復元にはそれなりに時間がかかる――その間は自律行動が出来ないからいろいろな意味で危険だし、脳の機能が完全に回復するかどうかは疑わしい。
 運動制御機能に問題が生じることは無いだろうが、記憶の様に脳が記憶する情報が正確に再現されるかどうかはわからない――彼自身が脳を破壊されたことが無いのでなんとも言えないが、試してみる気には到底なれない。
 回避行動と同時に繰り出した横蹴りが女の下腹部にまともに突き刺さり、その体を再び雑居ビルの外壁に穿たれた風穴の中へと叩き込む。
 今度の蹴りは容赦しなかった――内部からコンクリートの崩落する轟音が聞こえてくるのをよそに、背後を振り返る。
 肉薄してきているのは、先ほどの女とよく似た雰囲気の女だった――先の女は艶やかな蜂蜜色の金髪だが、この女は燃える様な赤毛、顔立ちもパーツも共通点は無いのに、硝子玉の様な瞳だけが共通している。だがその事実を疑問に思う間もなく、女が右手の指先から伸ばした刃を薙ぎ払う。
 小さく毒づいて、アルカードは左手を翳してその攻撃を受け止めた。手首のあたりに手の甲を叩きつける様にして勢いを殺し――そしてそれよりも早く、レザーの繊維が裂ける嫌な音とともに女の右肘の先から手首を支点に飛び出した湾曲した刃が、アルカードの顔をかすめる。
「――!」
 瞼の上から入り込んだ刃が眼球を引き裂く激痛が、一瞬だったが脳を焼いた。
 躊躇無く――女の下顎を、塵灰滅の剣Asher Dustを握ったままの右拳で撃ち上げる。巨獣でも一撃で頭蓋を粉砕される様な打撃だったが、もはやアルカードの頭の中から容赦や手加減といった単語は消えていた。
 だが――
 なんだ、これは――
 女の下顎を撃ち上げたときのまるで金属片の詰まったサンドバッグを殴ったかの様な異様な手応えに、アルカードは小さくうめいた。
 骨の砕ける音もしない。下顎の変形すら無い――今の一撃はまともな生物ならば、一撃で頭蓋骨、否頭部を粉砕されていてもおかしくない様な打撃なのだ。
 一瞬とはいえ左眼を斬られて遠近感が損なわれていたために、入りが浅かったのか――否、違う。

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