徒然なるままに修羅の旅路

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In the Flames of the Purgatory 62

2014年11月23日 13時39分27秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   *
 
「で、ちんちくりん――このあとどこに行くんだ?」
 アルカードのちんちくりん呼ばわりにはもはや突っ込む気にもなれず、セアラは深々と溜め息をついた。この部屋に入ってくるときに通った扉と正対する位置の壁際に設置された巨大な石柱を指差して、
「あの向こう側です」 そう答えてから、歩き出す――グリーンウッドがすぐにかたわらに並び、壁に突き刺さったままになっていた漆黒の曲刀を引き抜いたアルカードが数歩遅れてついてくる。
 この円形の部屋は上から見ると正確には真円形ではなく、一部がまっすぐに切り欠かれた形になっている。
 天井ぎりぎりまで届く高さの石柱――この場所に並べられていた調製槽を管理管制している魔術による演算装置が設置されているのは、その切り欠かれた部分の前だった。
 演算装置の横を通り過ぎてその向こう側に廻り込むと、この部屋に入ったときと同じ両開きの扉がある。扉がどこにも接触せずに、魔術によって支持されている。
 グリーンウッドは、扉に手をかけるセアラを止める様子は無い――危険は無いと判断しているのか、それともなにかほかの理由か。おそらくは前者だろう――グリーンウッドは視覚を体内に取り込んだ魔神のものに置き換えることで赤外線やエックス線といった可視光線外の光線を光源にしたり、熱分布などを増幅することで物を見ることが出来る――真祖であるアルカードもそうだが、これらは使い方によっては壁の向こうを透視したりすることも出来るものだ。
 光源になる赤外線やエックス線を魔術で発生させることが出来るぶん利便性という意味ではグリーンウッドのほうが上だろうが、霊体にかかる負荷が結構大きいらしいので、その意味では生命体の機能として視覚の使い分けが出来るアルカードのほうが有効性は高いのかもしれない。
 振り返ってみると、アルカードはセアラの肩越しに扉を注視している。その瞳は先ほどまでとは違い、金色に輝いていた――おそらく可視光線以外の光を見るために、視覚を切り替えているからだろう。
 それを確認して、セアラは扉の鎹状の取っ手に手をかけた――このふたりがこちらの動きを止めに入らないということは、扉の向こう側に不審な動きは見当たらないのだろう。左右二枚の扉は軽く取っ手に触れるだけで滑らかに動き出し、向こう側に向かってひとりでに開いてゆく――音がまったくしないのは、蝶番を使っていないからだ。
 遺跡そのものの動力源になっている魔術装置から供給される魔力によって、まるで磁気の反発力で宙に浮く磁石の様に扉をどこにも接触させること無く決まった位置に浮遊させながら固定しているのだ。扉を開く際に支点になる部分がどこにも接触しないから、蝶番も必要無い。取っ手になんらかの力が加わると自動的に開く仕組みになっており、取っ手をちょっと触るだけで扉は開く。
 扉の向こうはさほど広くない小部屋で、設備とおぼしきものはなにも無い。否――部屋の床には円形の穴が開いており、直径二ヤードほどの穴を塞ぐ様に円形の昇降装置リフトが嵌まり込んでいる。
「入口にあったのと似た様なものか」 アルカードの質問に、
「理屈は同じだ――ただ、地上の入口にあったものと違ってロックはかかっていないが」 グリーンウッドがそう答えを返して、乗る様に手で促す。アルカードが最初に乗ると、グリーンウッドとセアラも続いて昇降装置リフトの上に足を置いた。
 セアラが床を踏み鳴らすと同時に、昇降装置リフトがゆっくりと下降し始める――アルカードは興味津々といった様子で、
「これは一種の昇降機なんだろう? もしほかの奴が上の階に昇降装置リフトを移動させたら、下にいる奴はどうするんだ?」
 ちょうどそのタイミングで昇降装置リフトが下の階についたので、セアラは昇降装置リフトの上から降りて足元の丸いパネルを指差した。
 真っ白な床の石材の上で、そこだけがつやつやと黒い――セアラはそれを軽く踏んで、
「今はこの昇降装置リフトが下にあるから反応が無いですけど――誰も使ってないときにこれを踏むと、踏まれたパネルのあるフロアに昇降装置リフトが移動するんです」
「なるほど」 そう返事をして、アルカードが周りを見回す。下のフロアは上のフロア同様に円形で、昇降装置リフトはその端に近い箇所にある。
 だだっ広い部屋の中央に、直径三十ヤードほどの円形の貯水池がある――深さが数インチ程度なので、貯水池というほど大層なものではないのかもしれないが、まあ意図的に水を貯めておく設備であることには違い無い。
 その手前には、四角柱状に切り出された石塊が設置されている――石塊は腰ほどの高さで外側に向かって斜めにカットされており、斜めになった面に銅板が埋め込まれていた。
「……で、これは?」
 自分でなにかするつもりは最初から無いのだろう、グリーンウッドに丸投げする気満々のアルカードが興味津々といった風情で床の貯水池を覗き込む。
「で、これは?」 グリーンウッドがそんな言葉を口にして、セアラに視線を向けてくる――なにやらこの数時間の間に、かたわらの吸血鬼から妙な悪影響を受けつつあるらしい。人をおもちゃにして楽しむ悪趣味というかなんというか。
「ここがこの施設の中心部だと思います」
 セアラはそう答えて、貯水池のそばに歩み寄った。
「これが扉だと思うんですけど、解析が出来なくて」
 グリーンウッドはセアラの脇に立つと、床から直立した石塊のひとつに手を伸ばした。磨き上げられた銅のプレートに指先を滑らせると、表面に赤い光が燈る。
「なるほど、これの術式改竄クラッキングは今のおまえにはまだ無理か」 どうやら真面目にやる気になったらしく、グリーンウッドはそう返事をしてから――貯水池に張られた水になにか仕掛けがあると思ったのか、貯水池の縁にかがみこんで短剣の鋒で水を掻き回している吸血鬼に視線を向けた。
「それをやめてくれ、吸血鬼――水が波立っていると術式が起動しない」
 それを聞いたアルカードがおっと、と声をあげて短剣の尖端を水から引き抜いた。適当に水を振り払って短剣を鞘に戻す吸血鬼から再び銅板に視線を戻し、グリーンウッドが水面の波紋が完全に収まるまで待ってから銅板に指を滑らせる。
 グリーンウッドの指先が銅板に触れると、銅板に赤い文字が燈った。興味深げにその手元を覗き込みながら、アルカードが口を開く。
「なにをしてるんだ?」
「『扉』を接続するためのパスコードの解析だ――技能としては術式改竄クラッキングに近いが」
 それで納得した様に口を閉じたところをみると、術式改竄クラッキングがどういうものかは知っているらしい。
「接続?」 だがそれでも疑問点はまだ残っているからだろう、水面に視線を向けて吸血鬼が口にした言葉に、グリーンウッドは返答を返さなかった――見ていればわかる、ということなのだろう。
 実際に吸血鬼が二の句を継ぐよりも早く、水面の下に見える貯水池の底に変化が生じた。まるで黒く塗り潰されたかの様に真っ黒になったかと思うと次の瞬間透明になり、最後には黒々とした縦穴が姿を見せる。
「つながったぞ」
 グリーンウッドがそう言って、銅板から手を離した。
「なんだ、これ?」
「この水面とかなり地下にある縦穴を、水面を使って接続する――まあ、魔術師でない相手に説明するのはかなり時間がかかるから、興味があるなら後日にしてくれ」
 そう返事をして、グリーンウッドは縦穴を覗き込んだ。
「昇降機が無いですね」
「下に降りたまま止まっているのかもしれないが」 誰にともなく発したセアラの言葉に、グリーンウッドがそんな返事を返す――彼は縦穴の内周に打ち込まれた、杭状に削り出した丸太をさらに半分に割った形のステップに視線を向けた。
「あんなものを用意しているということは、壊れている可能性のほうが高そうだ――地味にあれで降りて行くしかないのかな」
「下まで飛び降りるのは?」 アルカードの質問に、グリーンウッドはかぶりを振った。
「セアラには無理だろう――それに下に敵がいる可能性もあるし、それ以前にまともな空気があるかもわからないのに、一気に下まで降りるのは無謀すぎる。魔術で浮遊落下していくのは術式の維持で反応が遅れるし、やはり無防備になりやすいからやらないで済むならやりたくない」 アルカードの意見を却下してから、グリーンウッドはあらためてアルカードに視線を向け、
「おまえので穴の底が見えるか?」 アルカードはその問いかけにかぶりを振って、
「否。深すぎるのと、温度が低すぎる。光源も乏しいんだろうな――おまえは?」
「俺もだ」 グリーンウッドがそう返事をしたのは、真祖の視覚の話だろう。
 真祖ロイヤルクラシックは人間から変化した時点で眼球の構造が大きく変化し、光を増幅したりエックス線や赤外線といった可視光線外の光を光源にしたり、温度分布で物を見たりということが出来る――ただし光源がまったく無かったり、あるいは極端に温度が低い環境では、やはり役に立たないのだ。赤外線を感知する視界は、いったん下まで降りてしまえば自分自身の体から放射される赤外線を光源に出来るからどうにかなるだろうが。
「じゃあ、やっぱり降りてみるしかないか――ところで、どうやって降りるんだ? これ」 水面を見下ろして、アルカードがそんな疑問を口にする。グリーンウッドはその質問に答えずに、足元の床を踵で踏みつけた――轟音とともに足元の床に亀裂が走り、細かな砕片があたりに飛び散る。
 足元の石材を踵で踏み砕いたのだ――足元に飛び散った大小さまざまな砕片を、グリーンウッドが足で寄せる様にして水面に向かって蹴り落とす。
 ぽちゃんと音を立てて水面に落ちた砕片が小さな漣を立て、そのまま内壁に突き立てられた半割にされた丸太の縁にぶつかった。そのまま跳ね返って縦穴のはるか奥底へと落下していく石くれを見送って、アルカードがなるほど、と声をあげる。
「この穴の中は水浸しなのか? 呼吸は問題無く出来るのか」
「否、この水面はただの『境界線』を示すものだ。濡れることは無いし、呼吸も問題無く出来る」
 グリーンウッドが次は見本を見せるということなのか、足元の内壁に打ち込まれた丸太に足を下ろした。水面に靴の爪先が触れ、そのまま水面を『突き抜いて』ステップに足を置く。数段下りると、縦穴の中に満たされた水の中に腰まで浸かっている様な風情に見える。
 それを真似する様に、アルカードもステップに足を下ろした――まるで踵で踏み抜く様にして足が水面を突き抜けると同時、パシャンと音を立てて水面に波紋が走る。水が靴の中に入り込んだり脚絆を濡らす様子も無いのを珍しがっているらしく、アルカードは膝を高く上げて足を水面より上に持ち上げては再び足を水に浸すという行動を何度か繰り返してから――やがてそれにも飽きたのか、いったん貯水池から上がってからセアラに先に行けという様に手で促した。

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