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徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Evil Must Die 19

2014年10月28日 23時39分08秒 | Nosferatu Blood
 ――ギャァァァァァッ!
 ――アァァァァァッ!
 ――ひぃぃぃぃぃッ!
 いきなり凄まじい絶叫が響いて、香澄はあわてて耳を押さえた――だが、その絶叫は少しも遠くなる様子が無い。まるで鼓膜が震えて音を認識しているのではなく、頭の中にじかに叫び声が聞こえてきているかの様に――
「さて――」 どうも肉眼では見えないが、彼は棒状の武器を手にしているらしい。彼は手にした得物を無造作に下げる様にして身構えた。
 時代劇によると、柳生新陰流では大仰に構えず鋒を下げたこの構えを『無形の位』と呼ぶらしいが――
 しぃっ、という歯の間から息を吐き出す音のあと、
Aaaaaa――raaaaaaアァァァァァァ――ラァァァァァァッ!」 咆哮とともに、彼は床を蹴った――のだろう、たぶん。コンクリートが剥き出しになった床にびしりと音を立てて亀裂が走り、踏み砕かれた細かな砕片が飛び散る。
 なにをしたのかも、わからない――手近にいた全裸の男女ふたりが一撃で胴体を分断され、巻き添えを喰って切断された腕や手首がぼとぼとと床に落下し、そして床に触れるよりも早く胴体ともども塵と化して消滅した。
 次の瞬間フォークリフトの車体が火花とともに斜めに切断され、その斬撃で先ほど蹴りを喰らった女の体が左肩から右腰まで分断されてその場に崩れ落ちる――切断面を滑る様にしてずり落ちた女の上半身が落下しながら肌はがさがさに乾燥し目は落ちくぼんで頬は削げ落ち、あっという間に即身仏のごとき有様に変貌してゆく。
 そのまま塵になって消滅するよりも早く、女の体は切断されてバランスを崩し、倒れ込んできたフォークリフトの車体に上下まとめて押し潰された。
「くそっ!」 ジーンズだけ穿いて上半身裸の金髪の男が、小さく毒づきながら床を蹴って跳躍する――香澄の目にはまったく捕捉出来ないアルカードの動きだが、男にはある程度見えていたらしい。
 掴みかかって動きを止め、ほかの連中に攻撃させようとしたのかもしれない。だが、次の瞬間アルカードは掴みかかってきた男の腕を掻い潜る様にして内懐に踏み込み、左手で男の腕を担ぐ様な体勢で男の脇腹に右肘を埋め込んでいる――それがわかったのは、アルカードが男の脇腹に肘を埋め込んだ瞬間動きが止まったからだが。
 だが、アルカードの攻撃はそれだけで終わらなかった。
 ふっ――鋭く呼気を吐き出しながら、アルカードが続く一動作で男の足を鮮やかに刈り払ったのだ。
 見覚えのある動きだった――といっても中国を舞台にした映画の中で見ただけなのだが。
 中国拳法、八極拳の技だったはずだ――彼が使ったのが八極拳なのか、それとも動きが同じだけで違う武術なのかは知らないが。折れた肋骨が肺に突き刺さり、男が口蓋から動脈血と静脈血が入り混じったまだら色の血を吐き散らかしながら床に倒れ込む。受け身を取り損ねてどこか骨折したのか、ゴキリという音と悲鳴が聞こえてきた。
 その眼窩をめがけて、アルカードが踵を撃ち降ろす――頭蓋骨が粉砕されて衝撃で眼球が飛び出し、細かく砕けた頭蓋骨の骨片と脳漿を撒き散らしながら、動きを止めた男の体が塵に変わって消滅してゆく。
「――おせぇよ、阿呆」 蔑みきった表情を浮かべて、アルカードが男の屍を見下ろして剣呑な嘲弄の言葉を口にする。
 そのアルカードに、あられもない格好の若い女が襲いかかった――殴りかかったその動きに合わせて踏み込みながら女の腕を左手の甲で押しのける様にして払いのけ、そのまま腕の外側を滑らせる様に左手を伸ばし、掌で顔面を叩き潰す。
 アルカードの反撃動作と自分の突進動作の勢いを全部顔面で受け止めてよろけながら後ずさった女の体が、跳ね上がること無く見事に両断された――右手で保持した不可視の得物を床を磨り上げる様にして振り上げ、女の股間から頭頂までまっぷたつにしたのだ。
 鏡の様に滑らかな切断面から一瞬遅れて血が噴き出し、同時に胴体の中に詰まっていた内臓を撒き散らしながら――まるで斧を入れられた薪の様に左右に分かれて倒れ始めた女の体が、床に倒れるより早く塵と化して消滅した。
「殺せッ!」 号令をかけたのは、誰だったのだろう――ほかの連中が陽輔を痛めつけている間、女数人に奉仕させながらげらげら下品に笑っていた男がそんな声だった様な気がするが、よくわからない。
 いずれにせよ、その号令とともに数人の男女が一斉にアルカードに飛びかかった――ひとりは武器のつもりなのか、倉庫の片隅のドラム缶を使って肉を焼くときに火かき棒代わりに使っていた鉄パイプを持っている。
 今度は個別に対応する余裕は無いだろう。
 香澄はそう思った。そう思ったが――
 アルカードが少しだけ笑い――否、笑ったのだろう、きっと。こちらに背を向けているアルカードが笑ったのだと、どうしてわかったのかは自分でもよくわからないが。
 アルカードが両手で保持したあの不可視の得物を右後方に引き戻して構え――剣道において八双と呼ばれる構えに近いが――、次の瞬間咆哮とともにその武器を振るった。
 右から左上に、若干角度のついた水平の斬撃の軌道に巻き込まれて突っ込んできた男女が胴体や胸を切断され、首を刎ね飛ばされて、つんのめる様にして床に倒れ込む。
 鉄パイプを持った男は背後から背中に打擲を加えようとパイプを振り下ろしたが、アルカードは左足を軸に転身してそれを躱している――のだろう、たぶん。動きが速すぎてよくわからない。香澄にどうにか見当がつくのは攻撃動作の直後など、アルカードの動きの速度が瞬間的に遅くなったときに、その体勢からどうにか読み取れるからだ。
 どういう手練かは知らないが、アルカードはとうにその動きを読んでいたらしい――さらに支点にした左足をバックステップして距離をとり、いったん離した間合いを再び詰めながら、アルカードが手にした不可視の得物を振るう。
 手にした鉄パイプを翳したのは、その攻撃を受け止めようとしたのだろう。だが翳した鋼管はまるで熱したナイフをバターに入れたときの様に派手に火花を撒き散らしながら易々と切断され、続いて首も刎ね飛ばされて、男の体は膝から床に崩れ落ち、倒れ込むよりも早く塵になった。
 しぃぃ、とアルカードが歯の間から息を吐き出す。その呼気を吐いた瞬間、アルカードの横顔が陽炎の様に歪んで見えたのはなんだったのだろう。いだいた疑問に解答を見出すよりも早く、アルカードが再び床を蹴った。
 ズガンと轟音を立ててアルカードが蹴った床が粉砕され、細かい砕片が周囲に飛び散り――そしてその破片が床の上に落下するよりも早く反応出来ずに棒立ちになっていた女ふたりがふたりまとめて胴体を袈裟掛けに切断され、自分の血溜まりの上に崩れ落ちた。
 別な男が金切り声をあげながら、折りたたみ式のナイフを手にアルカードに背後から飛びかかる――アルカードはその場で転身した、のだろう、たぶん。
 アルカードの動きが速すぎて、まるで黒い竜巻の様に見えたその瞬間、男が両足を足首から切断された――アルカードの反撃動作に気づいていったん距離を取ろうとしたのか、体が後傾していたために尻餅をつく様にして倒れ込む。
Aaaaaa――raaaaaaアァァァァァァ――ラァァァァァァッ!」 アルカードが咆哮をあげ、続く一動作で男の頭蓋を見事に唐竹割にした――そのまま塵になって消滅してゆく男にはそれ以上一瞥も呉れず、アルカードは左手をコートの下に突っ込んで、先ほどまで遣っていた鈎爪状の刃物を再び引き抜いた。
 裸絞めにされていたときに倒した男が床に落としたナイフを拾い上げ、全裸の女が金切り声をあげながら背後から飛びかかる――アルカードはまっすぐに突き込まれてきたナイフの刃を躱しながら踏み込んで、女の右脇腹に左手の鈎爪状の刃物を突き込んだ。
 右胸を殴りつける様な動きで突き込まれた刃が胸のふくらみに突き刺さり、肋骨の隙間から肺を貫通して心臓に達したのだろう、水音の混じった絶叫とともに女の体が塵になって崩れ落ちる。
「どういうこと? アルカードさんが吸血鬼、って――」 かたわらに座り込んでいる陽輔にそう問いかけると、事情を詳しく知っているわけではないのか陽輔はかぶりを振った。
「俺もあんまり詳しいことは――ただ、あの人が人間じゃないことだけは知ってる。蘭ちゃんがまだ赤ん坊だったころに、ねーさんと一緒に化け物に攫われて喰い殺されそうになったところを助けてくれたことがあるんだ」
 蘭が赤ん坊のころというと、七年以上も前の話だ。ということは、陽輔は、というより神城家の面々は皆、アルカードが人間ですらないことを知っていて友人づきあいをしてきたということか。
 真っ黒な肌の金髪の女が床から拾い上げたゴルフクラブを振り翳し、背後からアルカードに殴りかかる――アイアンのヘッドを振り向きもしないまま易々と躱し、アルカードが振り返りざまに下から突き上げる様にして左手の鈎爪状の刃物を女の鳩尾に突き立てた。
 鮫の歯を思わせるぎざぎざの刃が女の腹から背中まで貫通し、女が口蓋から赤黒い血を吐きながら、海老の様に体をのけぞらせて絶叫をあげる。アルカードはそのまま女の体を手近にあった朽ちた棚に背中から叩きつけ、不可視の武器を保持したままの右拳で女の顔面を殴りつけた。その攻撃動作の上体のひねり込みで、腹に突き刺さった鈎爪状の刃物を勢いよく引き抜く――ところどころ錆びた金属の棚が衝撃に耐えられずに女の体もろとも床に倒れて、けたたましい音を立てた。
 肝臓を貫かれたのか刃物を引き抜かれた傷口から黒っぽい血があふれ出し、女が血を止めようと無駄な努力をしながら悲痛な絶叫をあげる――とりあえず無力化したと判断したのか、アルカードはそれ以上そちらには一瞥も呉れずに振り返り、横合いから飛びかかってきていた男に向き直った。
 振り翳したナイフの刃を掻い潜る様にして踏み込みながら、背中からもたれかかる様にして体を密着させる――体当たりの一種だったのだろう、確か中国拳法に似た様な技があったはずだ。これも八極拳の技で、鉄山靠とかいったか――格闘ゲームでしか知らないが。違うところがあるとすれば、脇下を通す様にして突き出した鈎爪状の刃物を男の鳩尾に突き立てていることくらいだろう。
 体当たりで突き飛ばされたとは思えない勢いで十メートル以上も吹き飛ばされた男の体が背中からH字鋼の柱に激突しながら塵と化して消滅し、一瞬ののちには刃にこそげ取られてこびりついた内臓の切れ端や肉片と血糊だけがその存在の唯一の痕跡として残っている。
「てめぇぇっ!」 怒声をあげて――若い女がバーベキュー用の金属製の串を持ってアルカードに襲いかかる。肉を焼くのに使ったまま洗っていないからだろう、肉汁が焦げついたままのアウトドアメーカー製の串が、ドラム缶の焚火の光を照り返して一瞬きらめいた。
 同時にもうひとり、そちらに視線を向けたアルカードの背後から、全裸の男が飛びかかる。
 アルカードは完全に女のほうに注意を向けていて、男の動きには気づいていないだろう。
 だが、逆手に握って振り翳した串を女が振り下ろすより早く、女は悲鳴をあげながら体をのけぞらせていた――顔を手で押さえながら、後ずさる。
 同時にアルカードが後方に転身しながら跳躍して、間合いを読み誤った男の内懐に踏み込んだ。
 アルカードがすでに標的を自分に切り替え、自分を捕捉していることに気づいて、男の表情が驚愕にゆがむ――まさか五歩以上も離れたところから、わずか一歩で間合いを詰められるとは思っていなかったのだろう。自分が背後から攻撃することになるか、よしんば標的を自分に切り替えたとしても、接触するまでにはまだ時間があると思っていたのだ――今からでは到底対処が間に合わない。
 雷鳴のごとき轟音とともに踏み込んだアルカードが、踏み込んだ前足が交錯するほどの至近距離から強烈な左の縦拳を男の胸に叩き込んだ――胸骨が音を立てて砕け、折れた肋骨が臓器に突き刺さり、同時に握り込んだままの鋭利な鈎爪状の刃物の尖端が胸郭を穿って肺を、心臓を、大動脈を蹂躙する。
 まるで胸元で爆発でも起こったかの様に男の体が吹き飛ばされ、破壊されて横倒しになったフォークリフトの車体に激突した――その衝撃で、擱座したフォークリフトの車体が大きく揺れる。
 それ自体が一撃のもとに人間の体を西瓜のごとく粉砕する鉄拳に加え、穿った対象をずたずたに引き裂く鈎爪状の刃物。受け身など取るべくもあるまい。おそらく吹き飛んだそのときには、男はとうに絶命しているだろう。
 叩きつけられた衝撃で背骨が砕け、体が直角に折れ曲がったまま――信じがたいことにそれでも即死だけは免れたのか、襤褸雑巾の様な有様になった男がぴくぴくと細かな痙攣を繰り返している。だがそれもかなわなくなったのか、男の体が塵に変わり、床の上でひと塊の山になった。
 その光景にはそれ以上一瞥も呉れず、アルカードが今度は串を持った女に向かって床を蹴った――おそらくあらかじめ口の中に含んでおいたベアリングかなにかを含み針の様に吹きつけたのだろう、左目を完全に潰された女が憎しみもあらわにアルカードを睨みつける。
「残念だが――」
 だが睨みつけたときにはもう遅かった――滑る様な滑らかな動きで女の内懐に入り込み、アルカードが踏み込みの轟音とともに右の掌打で女の下顎を下から突き上げた。
 下顎が砕け、砕けた骨が突き上げられるままに喉笛に喰い込んで、細かな破片で気道をずたずたに引き裂く。一瞬ふわりと浮きあがった女の体が、続いて脚が交わるほど深く踏み込みながらの鳩尾への肘撃ちから続くショルダー・タックルで派手に吹き飛ばされた――先ほどまで何度か見せたのと同様、鈎爪状の刃物で腹のあたりを刺しながらの追撃だ。
 やはり肝臓を貫かれたのか傷口から赤黒い血を流しながら、派手に吹き飛ばされた女の体が仰向けに倒れ込み――そして倒れるよりも早く塵と化して消滅した。
「慎みの無い女は趣味じゃなくてな」

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