「小太郎がゆく巻の十五」まえがき
「今日、何を見たか、絵に描いてよ」
上野動物園とウルトラマンハウスを見に
新潟から遊びに来た甥っこに絵を描いてもらった。
「これは鼻が長いから、、、ゾウ!」「当たり」
「これは首が長いから、、、キリン!」「当たり」
ここまでは順調だったが
トラ、ライオンになったあたりからは一発で当てるのは難しい。
ウルトラマンを描いたところでネタがつきたので、
幼稚園の友達を描いてもらった。
顔の輪郭、耳、髪、目まで進み、真ん丸な鼻を描いたトタン、筆が止まった。
できあがったようなので、事前に入手していた仲良しの名前を言った。
「これは男の子だから、、、ハルキくん、かな?」
すこしの間があったあとに甥っこは答えた。
「ブーッ!ブタッ!」
しばし笑い転げたあと、ふと思った。
描こうとしていたことが、途中、ちょっとしたハズミやイタズラで
変わってしまうことは、大人の世界でもよくある。
臨機応変と呼ぶか優柔不断と呼ぶか、は起こった結果次第かもしれない。
そんな現実社会がまた一年過ぎ去って
新しい年を迎えようとしている。
夢のあるステキな年になりますように。
今年いちねん、ありがとうございました。
それでは、【小太郎がゆく】はじまり、はじまり。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【小太郎がゆく】巻の十五
師走に見る「白いもの」雑考
◆天からの真っ白な手紙
この多様な(雪の)結晶の意匠を「天から送られた手紙」
と喝破したのは、中谷宇吉郎だった。(日経新聞) ※( )内筆者
通勤電車が大幅に遅れたホームでは、
携帯電話を相手に、遅刻の弁明がせわしなく絶えない。
それと対照的なのは純白に化粧をした街並。
交通量はいつもの半分にも満たない。
滑りやすい足元の不安から人の歩みも緩やかになる。
喧燥がやみ、澄みきった空気が心地よい。
十一年ぶりに師走の積雪となった白き東京。
今回はその「白」がテーマ。
◆寒い日はスープで温まりたい
ポタージュ系=車海老のポタージュ
トマト系 =メキシコ風チリポーク煮
クリーム系 =木の子と白身魚のスパイスクリームスープ
ブイヨン系 =白菜と豚肉の中華風スープ
本日おすすめ=仔羊のレッドカレー
霞ヶ関、オフィスビル地下のはやりのスープ店。
スープで温まりたいお客さんで賑わう。
黒板に白墨で手書きのメニュー。
5種類とも日替わりという新鮮さと、手作り感を意識しての演出。
昨今の健康志向を反映してか、どのスープも味付けは薄い。
お好みで調節ができるようにと、食塩と胡椒の小袋がつく。
味見の後、塩気を増そうと、振りかけた食塩。
スープに浮かぶその白い粉末に、なんだかケミカルな感じがして、
かえって削がれる食欲もある。
◆白い布というメディア
ノリの効いたYシャツに袖を通すと、スイッチが入ったように気持ちが引き締まる。
カラーシャツや柄ものもあるが、Yシャツと言えば白。
上着を羽織っても、襟元と袖口にはシャツが見える。
機能やデザインから収斂(しゅうれん)されての結果かもしれない。
しかし、わずかな部分でも、はた目にさらされているからこそ、
シャツの果たす役割は大きい。
汚れが目立つ白いシャツは、頻繁に取り替えなければならない。
それができたのは恵まれたごく一部の階級に限られていた。
つまり、白は豊かさの象徴であった。
ところ変わって、京橋のこじんまりとしたレストラン。
値ごろな価格も手伝って、ランチには行列ができる。
真っ白なテーブルクロスは
お客さまが入れ替わる度に惜しげもなく替えられる。
ここでも、汚れやすく手間のかかる白い布を用いるのはなぜだろうか。
気持ちのよい食事のためには、クロスは白く清潔でなければならない。
それを確実に行うことで、お店のサービスと商品は上質であるというメッセージにな
る。テーブルウエアの中で白いクロスはもっともシビアな広告塔でもある。
◆白き意味、ふるきをたずねると
白には神聖、清浄、純粋、無垢など、世界共通の清らかなイメージがある。
中国の陰陽五行思想では、白は生命が活動を終え、
再生への準備に入った状態を表すという。
方角は西、季節は秋と重なる。
白の語源は森羅万象をはっきりと見極める「しる」ことらしい。(日経新聞)
その日、雪に覆われた街並も少しずつ変わっていく。
車が走り、人が歩く。
それだけでも、東京の白い薄化粧ははがれ落ちていく。
轍が、そして、足跡がいくつも増えていく。
じっと見ていると、往来の方向や数量を知ることができる。
普段は気づきにくいことなのだが、
雪を消しながら目に見える形となって現れている。
雑事にまぎれて、大事な変化が見えなくなってしまうことがある。
そんなとき、この雪のように、一瞬でもすべてを白一色できたら、と思う。
真っ白にしたあとの変化は、手に取るようにわかる。
その変化こそ、日々の生きた情報なのだから。
新しい年をすぐそこに控えて、気持ちだけでも白くまっさらにしたい。
白くしたその後には、様々な情報や経験が色をつけていく。
年の瀬とは、そんな節目なのだろう。
そして絵描きが白いキャンバスに向かうように、新年を迎える。
果たして二〇〇三年はどのような色彩に彩られるだろうか。
次回『小太郎がゆく』、乞うご期待!
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Marketer's Essay【小太郎がゆく】<バックナンバー>
№000 序 章「おにぎり的な私」
№001 巻の壱「うりばのちからを信じています」
№002 巻の弐「スローバックなスーパースターにまなぶ」
№003 巻の参「いちねんの計は?やっぱりうりばにあります」
№004 巻の四「数字が教えてくれるもの うりばが教えてくれるもの」
№005 巻の五「目は口ほどにものをいう 耳は目以上にものを見る」
№006 巻の六「お酒飲む人 花ならつぼみ 今日も咲け咲け 明日も酒」
№007 巻の七「調査とは旅すること 旅することとは見聞きすること」
№008 巻の八「お食事系外食チェーンに見る『伝えたいその想い』」
№009 巻の九「『ワールドカップ』四年に一度の祭典に学ぶ」
№010 巻の十「ショー・ザ・スピリット!ショー・ザ・ゲーム!」
№011 巻の十一「売場に並んでいるのは『信頼』という名の商品」
№012 巻の十二「敬老の日に思う『わかりやすさ』というサービス」
№013 巻の十三「ノーベル賞、損得『感情』のむずかしさ」
№014 巻の十四「コタロウ的『北風と太陽』」
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「今日、何を見たか、絵に描いてよ」
上野動物園とウルトラマンハウスを見に
新潟から遊びに来た甥っこに絵を描いてもらった。
「これは鼻が長いから、、、ゾウ!」「当たり」
「これは首が長いから、、、キリン!」「当たり」
ここまでは順調だったが
トラ、ライオンになったあたりからは一発で当てるのは難しい。
ウルトラマンを描いたところでネタがつきたので、
幼稚園の友達を描いてもらった。
顔の輪郭、耳、髪、目まで進み、真ん丸な鼻を描いたトタン、筆が止まった。
できあがったようなので、事前に入手していた仲良しの名前を言った。
「これは男の子だから、、、ハルキくん、かな?」
すこしの間があったあとに甥っこは答えた。
「ブーッ!ブタッ!」
しばし笑い転げたあと、ふと思った。
描こうとしていたことが、途中、ちょっとしたハズミやイタズラで
変わってしまうことは、大人の世界でもよくある。
臨機応変と呼ぶか優柔不断と呼ぶか、は起こった結果次第かもしれない。
そんな現実社会がまた一年過ぎ去って
新しい年を迎えようとしている。
夢のあるステキな年になりますように。
今年いちねん、ありがとうございました。
それでは、【小太郎がゆく】はじまり、はじまり。
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【小太郎がゆく】巻の十五
師走に見る「白いもの」雑考
◆天からの真っ白な手紙
この多様な(雪の)結晶の意匠を「天から送られた手紙」
と喝破したのは、中谷宇吉郎だった。(日経新聞) ※( )内筆者
通勤電車が大幅に遅れたホームでは、
携帯電話を相手に、遅刻の弁明がせわしなく絶えない。
それと対照的なのは純白に化粧をした街並。
交通量はいつもの半分にも満たない。
滑りやすい足元の不安から人の歩みも緩やかになる。
喧燥がやみ、澄みきった空気が心地よい。
十一年ぶりに師走の積雪となった白き東京。
今回はその「白」がテーマ。
◆寒い日はスープで温まりたい
ポタージュ系=車海老のポタージュ
トマト系 =メキシコ風チリポーク煮
クリーム系 =木の子と白身魚のスパイスクリームスープ
ブイヨン系 =白菜と豚肉の中華風スープ
本日おすすめ=仔羊のレッドカレー
霞ヶ関、オフィスビル地下のはやりのスープ店。
スープで温まりたいお客さんで賑わう。
黒板に白墨で手書きのメニュー。
5種類とも日替わりという新鮮さと、手作り感を意識しての演出。
昨今の健康志向を反映してか、どのスープも味付けは薄い。
お好みで調節ができるようにと、食塩と胡椒の小袋がつく。
味見の後、塩気を増そうと、振りかけた食塩。
スープに浮かぶその白い粉末に、なんだかケミカルな感じがして、
かえって削がれる食欲もある。
◆白い布というメディア
ノリの効いたYシャツに袖を通すと、スイッチが入ったように気持ちが引き締まる。
カラーシャツや柄ものもあるが、Yシャツと言えば白。
上着を羽織っても、襟元と袖口にはシャツが見える。
機能やデザインから収斂(しゅうれん)されての結果かもしれない。
しかし、わずかな部分でも、はた目にさらされているからこそ、
シャツの果たす役割は大きい。
汚れが目立つ白いシャツは、頻繁に取り替えなければならない。
それができたのは恵まれたごく一部の階級に限られていた。
つまり、白は豊かさの象徴であった。
ところ変わって、京橋のこじんまりとしたレストラン。
値ごろな価格も手伝って、ランチには行列ができる。
真っ白なテーブルクロスは
お客さまが入れ替わる度に惜しげもなく替えられる。
ここでも、汚れやすく手間のかかる白い布を用いるのはなぜだろうか。
気持ちのよい食事のためには、クロスは白く清潔でなければならない。
それを確実に行うことで、お店のサービスと商品は上質であるというメッセージにな
る。テーブルウエアの中で白いクロスはもっともシビアな広告塔でもある。
◆白き意味、ふるきをたずねると
白には神聖、清浄、純粋、無垢など、世界共通の清らかなイメージがある。
中国の陰陽五行思想では、白は生命が活動を終え、
再生への準備に入った状態を表すという。
方角は西、季節は秋と重なる。
白の語源は森羅万象をはっきりと見極める「しる」ことらしい。(日経新聞)
その日、雪に覆われた街並も少しずつ変わっていく。
車が走り、人が歩く。
それだけでも、東京の白い薄化粧ははがれ落ちていく。
轍が、そして、足跡がいくつも増えていく。
じっと見ていると、往来の方向や数量を知ることができる。
普段は気づきにくいことなのだが、
雪を消しながら目に見える形となって現れている。
雑事にまぎれて、大事な変化が見えなくなってしまうことがある。
そんなとき、この雪のように、一瞬でもすべてを白一色できたら、と思う。
真っ白にしたあとの変化は、手に取るようにわかる。
その変化こそ、日々の生きた情報なのだから。
新しい年をすぐそこに控えて、気持ちだけでも白くまっさらにしたい。
白くしたその後には、様々な情報や経験が色をつけていく。
年の瀬とは、そんな節目なのだろう。
そして絵描きが白いキャンバスに向かうように、新年を迎える。
果たして二〇〇三年はどのような色彩に彩られるだろうか。
次回『小太郎がゆく』、乞うご期待!
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Marketer's Essay【小太郎がゆく】<バックナンバー>
№000 序 章「おにぎり的な私」
№001 巻の壱「うりばのちからを信じています」
№002 巻の弐「スローバックなスーパースターにまなぶ」
№003 巻の参「いちねんの計は?やっぱりうりばにあります」
№004 巻の四「数字が教えてくれるもの うりばが教えてくれるもの」
№005 巻の五「目は口ほどにものをいう 耳は目以上にものを見る」
№006 巻の六「お酒飲む人 花ならつぼみ 今日も咲け咲け 明日も酒」
№007 巻の七「調査とは旅すること 旅することとは見聞きすること」
№008 巻の八「お食事系外食チェーンに見る『伝えたいその想い』」
№009 巻の九「『ワールドカップ』四年に一度の祭典に学ぶ」
№010 巻の十「ショー・ザ・スピリット!ショー・ザ・ゲーム!」
№011 巻の十一「売場に並んでいるのは『信頼』という名の商品」
№012 巻の十二「敬老の日に思う『わかりやすさ』というサービス」
№013 巻の十三「ノーベル賞、損得『感情』のむずかしさ」
№014 巻の十四「コタロウ的『北風と太陽』」
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