「小太郎がゆく巻の三十」まえがき
僕は割りと数字が好きだ。スウガクではなくスウジ。
ただなんとなく好きなだけで、明確な理由はない。
そこで最近ちょっとだけ気になったスウジを2つ。
1つは「4538」。
深酒した深夜、東京駅のホームで拾った切符の番号。
厚手の紙でできていて、入鋏(にゅうきょう=ハサミを入れる)済み。
紙もハサミも今では珍しい。
表には「宝登山麓から宝登山頂ゆき」とある。
どこのどんな山かは知らないが、ちょっと縁起がよさそうだ。
もう1つは「2734」。
「星の王子さま」のサンテグジュペリが搭乗していた飛行機は地中海の底に。
その機体左側のターボ過給機にこの4ケタの数字があったという。
これが、サンテグジュペリ搭乗機の識別番号に対応していることが確認された。
結果「墜落地は陸か海か」という論争にケリがついた。
わたくしごと。小太郎がゆく、ようやく巻の30。皆さんに感謝。
今回のテーマはスウジの「1」がキーワード。
そして、間もなくゴールデンウイーク。今年はどんなスウジと出会うやら。
それでは、【小太郎がゆく】はじまり、はじまり。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【小太郎がゆく】巻の三十
タイトル:「一(ピン)客万来」
◆ピン芸人の「ピン」◆◆◆◆
「強烈な台風の日、新宿駅前からの生中継で、
テレビカメラの前でピースしているのは、
八王子市民か千葉県民である。間違いないっ!」
とびきりの辛口で社会風刺をしたあと、コメディアンの長井秀和はキメ台詞を吐く。
ついつい口走ってしまいそうな文句である。
3名をトリオ、2名をコンビ、というのに対し、
彼のように一人で舞台に立ち、ネタを演ずる芸人を、「ピン」の芸人という。
「ピン」とはポルトガル語の点を意味するpintaが語源で
「①カルタ・采(さい)の目などの一の数、②はじめ。第一。最上のもの」だそうだ。
◆◆ある人のために作られたヒット商品◆◆◆
「任されたのは、痔の患者などの医療用に細々と売られていた『洗浄便座』」
(NHKプロジェクトXより)
今や日本のトイレの半分以上は「温水洗浄便座」がついている。
いわゆる『ウォシュレット』。
もともとのターゲットは、用をたす時に難儀をしいられていた「ぢ」の患者。
最初から多くに受け入れられたわけではない。
クレームに次ぐクレームを糧に、より使いやすく、
より快適に、清潔にと度重なる改良を加え、今日の市場を築いた。
世のヒット商品には、このように「ある人」のために作られたものが、少なくない。
当初、アスリート向けに開発された『ウイダーinゼリー』もまた同様の商品である。
◆◆◆世界の誰とでも六人でつながる?◆◆
「この地球上に住む人はみな、たった六人の隔たりしかないの。
私たちと地球上に住むほかの誰もが、たった六次の隔たりでつながっているのよ。
アメリカの大統領も、ベニスのゴンドラ乗りも。
…有名人だけじゃなく、誰とでもそうなのよ。(中略)
ここに深い意味があるわ……人は誰も、別の世界へとつながる新しいドアなのよ」
(『私に近い六人の他人』ジョン・グエア原作の映画)
(たった六人で?つながるものかな…)
一見、無理のような気もする。
ところが、一人が平均百人の人間を知っているとすると、
五人を介した時点で、数学的には、百の五乗で百億となり、
地球上の人口を軽く超えてしまう。
このことが現実的に正しいかどうかはともかく、ある程度の年齢になると、
経験則として「世間はせまい」ということに異論はないといえそうだ。
こうした「たった六人でつながっている(といわれる)」ネットワークに
「情報」が有効に乗っかっていくとしたら…。
果たしてどんなことが起こるのだろうか。
◆◆◆◆「ピン」を大事に、やがて万来!◆
「…僕は『これ面白い!』を一つだけ提案する人間であろうと決めた。
その実現のため、『ほぼ日刊イトイ新聞』を開設しました。
今はみんな『知りすぎ』で疲れている。
信頼できる情報を求め、読者は迷っています。
そんな時代に『これはうまい』とか『これ可愛い』とか、
お試し済みの情報を手から手へと伝えたい」
(糸井重里談・朝日新聞)
……ある朝、一人の主婦の携帯電話に一通のメールが届く。
画面にはこんな「まる得情報」。
「本日午後二時、あの『富久家』のイタリアンロール、限定十個販売します!
沼津で食べてきました。おいしかったので今日だけ、おすそ分けです」
毎日のように利用するスーパーの店長から、自分だけに届く特売情報。
受け取るたびに
(独り占めしようか、それともミヨちゃんには教えてあげようか…)
と思いをめぐらす。そして
(ミヨちゃんだけには伝えよう)
とちょっとしたメッセージを添えて「まる得情報」が転送される。
受け取った彼女も同じように気の置けない友達に知らせていく。
かくして、このお店はほとんどチラシを打つことはなく集客できるようになった……。
こんな三流フィクションがフィクションでなくなる日も近い。「間違いないっ!」
次回『小太郎がゆく』、乞うご期待!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Marketer's Essay【小太郎がゆく】<バックナンバー>
№000 序 章「おにぎり的な私」
№001 巻の壱「うりばのちからを信じています」
№002 巻の弐「スローバックなスーパースターにまなぶ」
№003 巻の参「いちねんの計は?やっぱりうりばにあります」
№004 巻の四「数字が教えてくれるもの うりばが教えてくれるもの」
№005 巻の五「目は口ほどにものをいう 耳は目以上にものを見る」
№006 巻の六「お酒飲む人 花ならつぼみ 今日も咲け咲け 明日も酒」
№007 巻の七「調査とは旅すること 旅することとは見聞きすること」
№008 巻の八「お食事系外食チェーンに見る『伝えたいその想い』」
№009 巻の九「『ワールドカップ』四年に一度の祭典に学ぶ」
№010 巻の十「ショー・ザ・スピリット!ショー・ザ・ゲーム!」
№011 巻の十一「売場に並んでいるのは『信頼』という名の商品」
№012 巻の十二「敬老の日に思う『わかりやすさ』というサービス」
№013 巻の十三「ノーベル賞、損得『感情』のむずかしさ」
№014 巻の十四「コタロウ的『北風と太陽』」
№015 巻の十五「師走に見る『白いもの』雑考」
№016 巻の十六「顧客創造とは不断の手間と顧みる愛情」
№017 巻の十七「声に出して読みたい『お国言葉』」
№018 巻の十八「無記名・不特定というサービスにサヨナラ」
№019 巻の十九「そういう問題じゃない!」
№020 巻の二十「クレームの卵」
№021 巻の二十一「今どき流行のハコヂカラ」
№022 巻の二十二「花火の季節のブランド考」
№023 巻の二十三「ボーダーライン」
№024 巻の二十四「行列~待ちの効用~」
№025 巻の二十五「イライラフリー」
№026 巻の二十六「『が』商品『で』商品」
№027 巻の二十七「小レボで行こう!」
№028 巻の二十八「チャープとトリル」
№029 巻の二十九「スイッチ。その心理」
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僕は割りと数字が好きだ。スウガクではなくスウジ。
ただなんとなく好きなだけで、明確な理由はない。
そこで最近ちょっとだけ気になったスウジを2つ。
1つは「4538」。
深酒した深夜、東京駅のホームで拾った切符の番号。
厚手の紙でできていて、入鋏(にゅうきょう=ハサミを入れる)済み。
紙もハサミも今では珍しい。
表には「宝登山麓から宝登山頂ゆき」とある。
どこのどんな山かは知らないが、ちょっと縁起がよさそうだ。
もう1つは「2734」。
「星の王子さま」のサンテグジュペリが搭乗していた飛行機は地中海の底に。
その機体左側のターボ過給機にこの4ケタの数字があったという。
これが、サンテグジュペリ搭乗機の識別番号に対応していることが確認された。
結果「墜落地は陸か海か」という論争にケリがついた。
わたくしごと。小太郎がゆく、ようやく巻の30。皆さんに感謝。
今回のテーマはスウジの「1」がキーワード。
そして、間もなくゴールデンウイーク。今年はどんなスウジと出会うやら。
それでは、【小太郎がゆく】はじまり、はじまり。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【小太郎がゆく】巻の三十
タイトル:「一(ピン)客万来」
◆ピン芸人の「ピン」◆◆◆◆
「強烈な台風の日、新宿駅前からの生中継で、
テレビカメラの前でピースしているのは、
八王子市民か千葉県民である。間違いないっ!」
とびきりの辛口で社会風刺をしたあと、コメディアンの長井秀和はキメ台詞を吐く。
ついつい口走ってしまいそうな文句である。
3名をトリオ、2名をコンビ、というのに対し、
彼のように一人で舞台に立ち、ネタを演ずる芸人を、「ピン」の芸人という。
「ピン」とはポルトガル語の点を意味するpintaが語源で
「①カルタ・采(さい)の目などの一の数、②はじめ。第一。最上のもの」だそうだ。
◆◆ある人のために作られたヒット商品◆◆◆
「任されたのは、痔の患者などの医療用に細々と売られていた『洗浄便座』」
(NHKプロジェクトXより)
今や日本のトイレの半分以上は「温水洗浄便座」がついている。
いわゆる『ウォシュレット』。
もともとのターゲットは、用をたす時に難儀をしいられていた「ぢ」の患者。
最初から多くに受け入れられたわけではない。
クレームに次ぐクレームを糧に、より使いやすく、
より快適に、清潔にと度重なる改良を加え、今日の市場を築いた。
世のヒット商品には、このように「ある人」のために作られたものが、少なくない。
当初、アスリート向けに開発された『ウイダーinゼリー』もまた同様の商品である。
◆◆◆世界の誰とでも六人でつながる?◆◆
「この地球上に住む人はみな、たった六人の隔たりしかないの。
私たちと地球上に住むほかの誰もが、たった六次の隔たりでつながっているのよ。
アメリカの大統領も、ベニスのゴンドラ乗りも。
…有名人だけじゃなく、誰とでもそうなのよ。(中略)
ここに深い意味があるわ……人は誰も、別の世界へとつながる新しいドアなのよ」
(『私に近い六人の他人』ジョン・グエア原作の映画)
(たった六人で?つながるものかな…)
一見、無理のような気もする。
ところが、一人が平均百人の人間を知っているとすると、
五人を介した時点で、数学的には、百の五乗で百億となり、
地球上の人口を軽く超えてしまう。
このことが現実的に正しいかどうかはともかく、ある程度の年齢になると、
経験則として「世間はせまい」ということに異論はないといえそうだ。
こうした「たった六人でつながっている(といわれる)」ネットワークに
「情報」が有効に乗っかっていくとしたら…。
果たしてどんなことが起こるのだろうか。
◆◆◆◆「ピン」を大事に、やがて万来!◆
「…僕は『これ面白い!』を一つだけ提案する人間であろうと決めた。
その実現のため、『ほぼ日刊イトイ新聞』を開設しました。
今はみんな『知りすぎ』で疲れている。
信頼できる情報を求め、読者は迷っています。
そんな時代に『これはうまい』とか『これ可愛い』とか、
お試し済みの情報を手から手へと伝えたい」
(糸井重里談・朝日新聞)
……ある朝、一人の主婦の携帯電話に一通のメールが届く。
画面にはこんな「まる得情報」。
「本日午後二時、あの『富久家』のイタリアンロール、限定十個販売します!
沼津で食べてきました。おいしかったので今日だけ、おすそ分けです」
毎日のように利用するスーパーの店長から、自分だけに届く特売情報。
受け取るたびに
(独り占めしようか、それともミヨちゃんには教えてあげようか…)
と思いをめぐらす。そして
(ミヨちゃんだけには伝えよう)
とちょっとしたメッセージを添えて「まる得情報」が転送される。
受け取った彼女も同じように気の置けない友達に知らせていく。
かくして、このお店はほとんどチラシを打つことはなく集客できるようになった……。
こんな三流フィクションがフィクションでなくなる日も近い。「間違いないっ!」
次回『小太郎がゆく』、乞うご期待!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Marketer's Essay【小太郎がゆく】<バックナンバー>
№000 序 章「おにぎり的な私」
№001 巻の壱「うりばのちからを信じています」
№002 巻の弐「スローバックなスーパースターにまなぶ」
№003 巻の参「いちねんの計は?やっぱりうりばにあります」
№004 巻の四「数字が教えてくれるもの うりばが教えてくれるもの」
№005 巻の五「目は口ほどにものをいう 耳は目以上にものを見る」
№006 巻の六「お酒飲む人 花ならつぼみ 今日も咲け咲け 明日も酒」
№007 巻の七「調査とは旅すること 旅することとは見聞きすること」
№008 巻の八「お食事系外食チェーンに見る『伝えたいその想い』」
№009 巻の九「『ワールドカップ』四年に一度の祭典に学ぶ」
№010 巻の十「ショー・ザ・スピリット!ショー・ザ・ゲーム!」
№011 巻の十一「売場に並んでいるのは『信頼』という名の商品」
№012 巻の十二「敬老の日に思う『わかりやすさ』というサービス」
№013 巻の十三「ノーベル賞、損得『感情』のむずかしさ」
№014 巻の十四「コタロウ的『北風と太陽』」
№015 巻の十五「師走に見る『白いもの』雑考」
№016 巻の十六「顧客創造とは不断の手間と顧みる愛情」
№017 巻の十七「声に出して読みたい『お国言葉』」
№018 巻の十八「無記名・不特定というサービスにサヨナラ」
№019 巻の十九「そういう問題じゃない!」
№020 巻の二十「クレームの卵」
№021 巻の二十一「今どき流行のハコヂカラ」
№022 巻の二十二「花火の季節のブランド考」
№023 巻の二十三「ボーダーライン」
№024 巻の二十四「行列~待ちの効用~」
№025 巻の二十五「イライラフリー」
№026 巻の二十六「『が』商品『で』商品」
№027 巻の二十七「小レボで行こう!」
№028 巻の二十八「チャープとトリル」
№029 巻の二十九「スイッチ。その心理」
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