介護福祉は現場から 2007.02.22-2011.01.25

新しいブログにリンクしています。7つのテーマにわけました。引き続きお読みください。

第3871号 介護福祉と政治哲学/サンデルを聞く

2010-08-22 04:50:36 | 福祉と人権
写真は、安曇野カンポンLIFE の8月19日付の記事からお借りしています。記事も合わせてお読みください。

「いくつもの土地で多くの人たちと出会い、それは一期一会というもので、偶然ではなく必然の出会い。
風景との出会いも同じようなものかもしれない。
だから、人との出会いを大切にし、風景との出会いを大切にしていきたいと思う。」



【きっかけ】

「研究のための覚書。」2010.08.09

を読み、コメントしたのが最初でした。

その直後、twitter で介護の現場で仕事をされているMさんが「サンデルの名前に惹かれて」読んでいる・・とあった(8月11日10:56)。
おそらく『これからの「正義」の話をしよう』のことだろうか?

と、そのときは漠然と思っていました。経済雑誌の『東洋経済』が哲学の特集をしていることを書きました。

第3864号 2010.08.19

このときは、たくさんの記事の中から全国で流行っている「哲学カフェ」の記事に書かれている5つの実践例をネットで調べたことを書いたのですが、
サンデルに関する大きな記事には触れませんでした。


【テレビで聞く】
ふだん土曜にテレビなど聞かないのですが、
昨日は、たまたまNHKハイビジョンでサンデル教授の講義を再放送しているというのでスイッチをいれました。
12回シリーズの最終回でした。毎回2時間。

4月から6月までに放送され、5月に刊行された上記の本(早川書房)も7月末で22万部売れているという。

なんとも遅れた気づきですが、テレビでのサンデル教授の講義の迫力は圧倒的でした。
吹き替えがありますが、あえて英語で聞きました。
言葉の抑揚などやはりナマのほうがいいです。ヒアリングの力は弱くたまにわかる程度ですがわかりやすい英語です。

それが、

介護福祉研究 P 6332 Sandel 2010.08.21

YouTubeで全巻(12回・24講義分)が無料で公開されているのです。


【インタビュー記事】
東洋経済(8月14日号)では、編集部がサンデル教授にインタビューしています。
(50ページから53ページ)その要点:

・ 政治はコミュニテイや共通善により大きな比重を置くべきだ。
・ 行きすぎた自由市場と個人主義に反対だ。
・ オバマ大統領が政治における道徳的価値の重要性を強調している点を評価。
・ コミュニテイが強力であるためには、環境問題、女性問題など特定の公共問題に取り組む中間団体が重要だ。
・ こういう団体は、地方に根ざしているだけではなく、人と人を結びつけ、市民の間に共通善を大切にする習性を生む。
・ 市場の役割が従来は非市場的価値によって支配されてきた領分(教育、医療保険)にまで広がったことを懸念している。
・ 世界経済の拡大ペース(グローバリゼーション)に追いつくようなシステムづくりはされていない。これは、われわれが直面する難問の一つだ。
・ コミュニティを築くことは、政治、文化、教育的なプロジェクトであり、経済や金融の側面からだけでは達成できない。
・ 人は、たいていの場合(絶対的なグローバルコミュニティよりも)もっと小規模の連帯の下で生きる。


【秋の授業から】
サンデル教授の講義は、1000人を超す受講者のため大きなホールで行われる。これだけの学生がじっと教授の一言一言に聞き入っている。
アリステレスやヘーゲルといった歴史上の哲人の名前が出たかと思うと、卑近な事例で学生の意見を聞く。
その学生の意見を要約しながら、反対の意見を会場から募る。難問を共に解いてゆく緊張感と爽快感が満場に溢れたいます。
昨日は、たまたま最終回でしたが、講義が終わると、学生達は次々に席から立ち上がり拍手を持って長く長く称えていました。
感動的な交響楽を聴き終えたときのように。

2011年は私の30年近くの教員生活の最後なので、少し準備して意義ある講義をしてみたいと思っていましたが、
2011年春からといわず、この秋からサンデル教授のスタイルの片鱗を真似てみようと思いました。

義母の認知症のこと、ブログでの介護判例をめぐるコメント、介護現場の人々によるオフ会(「笑福会」の活動)など、
身近な具体例を紹介しながら、学生達に問題を投げ返し討論していく、その結果をネットで社会に伝える。

先日、このブログに去年私の講義を受講した2年生からコメントがあった2010.08.17。
それに対してどりーむさん(「想い・思い・おもいver.2」)から再コメントをいただき2010.08.18、実習中の彼女を励ましていただいた。
こうして、教室と社会がつながる兆しを見ることができたのはなによりでした。


カテゴリ「介護と哲学」

介護福祉研究 カテゴリ「821哲学」

P6175(2010.08.11)マイケル・サンデル


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6 コメント

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サンデル教授 (岩清水)
2010-08-22 05:11:29
昨日も本屋でサンデル教授の本を手にとっていました。
詳しい情報ありがとうございました。
まず、youtubeから見たいと思います。
早々にコメントありがとうございます。 (bonn1979)
2010-08-22 05:33:15
岩清水さん

早々にコメントありがとうございます。

長年の習慣で
頭の使う作業は夜ではできないので
朝早くからになります。

サンデル教授の講義
日本では
あまり見かけられないのでは?

答える学生もすごいです。

これでは
リーダーの論理・倫理において
遅れるのは無理もない
と思いました。

岩清水さんが
ふだん説いておられるとおり
知識の暗記ではなく
根本的なところ
歴史的なこと
細かい事柄
みんな大事だと
つくづく思わされます。
本質 (しん)
2010-08-22 07:16:48
twitterで話題になったときに反応しなかったのですが、
私自身は、たまたまNHK教育で放送しているときに通りがかり、
そのまま見入ってしまい興味を持ちました。
もちろん、サンデル教授なんて知りませんでしたし、
基礎的な教養に乏しい私には理解しきれない議論もあったのですが、
テーマの理解はともあれ、ものごとの本質により近づこうとしている議論なのだな、
ということは理解できて、引き込まれるように学生との議論に見入ってしまいました。

人はなぜ存在するのか。
人は何をすべきなのか。

学問を含め、人間の営みはすべて
本質に迫っていくためにあるのではないか、
と思ってしまうほどです。

ものごとを突き詰めていく過程で
倫理や哲学に思い至るのは必然なのかな、
とあらためて気づいて、
そして慌しい現場でこそ考えなきゃいけないことだと思います。

ただ、思考するプロセスは
社会に出てから身に着けるのは
時間的にも、柔軟性からも
難しいです。
圧倒的に学生時代が最適な時期でしょう。
ぜひ、先生の授業で実現してください!

社会と、現場とのつながりは
このブログから果てしなく広がっていますので、
みなさん、議論にきっと乗り込んできますよ!



確かに若い頃こそ (bonn1979)
2010-08-22 10:15:15
しんさん

コメントありがとうございました。

今朝の新聞でも
サンデル教授の講義録が
東京地区での
ベストセラー1位になっていましたね。

たしかに
歳をとると
自分の考えが固定化してしまいますね。

文章一つとっても
学部3年生にもなれば
自説を譲らないです・・・
*院生などはどんなに理屈で問題点を話しても
自説が正しいとして誤りを認めないです。

そうしてみると
私が大学1年の頃
汚い寮の1室で相部屋だった
こと
その頃
古典などは一通り議論したことは
よかったですね。
*2年生の頃は
部屋の名前は「哲学研究会」でした。

私の今の世間へのスタンスのもとは
この頃に同室だった友人達との議論から形成されたと思います。
(権力を疑うとか、ジャーナリズムに自己顕示欲をみて反発するとか)

サンデル教授もさることながら
学生達の
真剣に難問に向かう目つきには
参りました。
お恥ずかしい~ (まう)
2010-08-22 13:19:55
私のような底の浅いミーハーな人間ではうまくサンデルの魅力を伝えられませんが、先生がこうしてきっちりブログでお話くださることでサンデルの面白さが際立ちます。
何年かおきに、ある特定の哲学者にスポットがあたる、いわゆる『○○ブーム』的な現象が起きますが、重要なのはその説がどんな内容か深堀することではなく、なぜ今、それを皆が求めているのか?ではないかと思います。
ですから、先生のように影響力があり理路整然と語れる方にこうしてブログで取り上げて頂くと、私自身、なぜ今世の中?がサンデルに焦点をあてたがるのかについて考えるきっかけにもなり、大変有難いです。
ありがとうございました。
きっかけ (bonn1979)
2010-08-22 17:58:54
まうさん

コメントありがとうございます。

正直言って
「サンデル?Who??」状態だった
私が
目覚めたのは
幾つかの偶然ですが
直接には
まうさんのつぶやきからですよ。

お話のとおり
「なぜ、いまサンデルか?」
ですよね。

東洋経済の記者のインタビューには
ずいぶん失礼な質問もあったように
思います。

こんどのブームは
経済的な価値だけを目指してきた
戦後日本のいきつくところ
ともいえますが
さりとて
善とかといった価値を大合唱する時代も
それは怖かったのは
太平洋戦争を始める前夜の日本を考えただけでも怖いですね。

日本が経済はもとより
文化・知識の面で依存してきた
アメリカ発というのが
面白いですね。

東京ではベストテン1位でしたが
鹿児島のベストセラーには
まだランク入りすらしていませんね。

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