海外の制度の比較研究は、本ブログの姉妹版である「資料編」に譲っていますが、イギリス政府の今回の白書による提案は重要ですから、急いで読んでみた要点を紹介します。
坂之上介護福祉研究会(資料編)P4303
で紹介している白書本文は167ページもありますが、今日大学で印刷しました。(写真)
私が多少専門的に勉強しているのはドイツの介護政策で、イギリスの事情には暗いのですが今のところ日本語の紹介はまだ無いように思われるので急いで読んでみたのです。
介護政策は医療政策と密接に関連していますが、イギリスの医療制度はNHSといっていわゆる国営医療で日本の制度とは著しく違いますから、イギリスの介護政策にとっては極めて重要な今回の動向も日本にとってはあくまでも参考情報です。
* * * *
【重要な白書】
イギリス政府が発表した
Building the National Care Service (国民介護サービスの創設)
は、第2次世界大戦終了直後に創設されたNHS:National Health Service(国民保健サービス)に匹敵する大きな政策提案である。
167ページにわたる白書の概要を簡単に紹介します。
* この白書を補うものとして関連の文書が3件同時に公表されている。
(「坂之上介護福祉研究会」(資料編)4304,430,4306)
この報告書は、女王陛下の命によって、2010年3月30日、保健大臣から議会に提出された。
26.60ポンドで市販されているが、ネットによって、無料でダウンロードできる。
白書の目次(適宜私流の意訳です)
ブラウン首相による序言
関係9大臣による序言
要約
(以下本文)
1 序説
2 改革の背景
3 討論の経過
4 国民介護サービスの構想
5 構想案の広報
6 国民介護サービスの質をどう組み込むか
7 公正な財源調達
8 実施に向けて
用語解説
【ブラウン首相の序言】
pp.1-2
* 短いものですが、威厳に満ちた内容です。イギリス国民宛のもので平明な英語ですから是非原文を読んでみてください。
高齢者や支援の必要な人のケアは、文明社会の特徴である。
現在のケアや支援体制はもはや十分ではない。
われわれの回答は:
NHS国民保健サービスの誇り高い伝統に深く根付いた大胆な制度を創設すること。
NHSを作った時期は戦争終了後の困難な危機であったが、現在もまた経済的に困難な時期に遭遇している。
・ ・now the right time to fundamentally change our system of care and support.
(いまこそ、現在のシステムを根本的に変えるべき時期だ)
・ ・this is a new chapter in the story of our welfare state:
(これは我々の福祉国家の歴史に新しい1章を加えるものだ)
国民介護サービスは、公正と責任という堅い信念に基づいて構築される。
高齢になってもすべての人が威厳を持ち安全に過ごすこと、障害のあるひともその能力を発揮できることが最も重要だ。
今回の提案が、現実のものとなるべく政府各省と全力をあげたい。
【要約】
* pp.7-28
段階的な実施
検討の経過
*これまでの検討経過を基本的な文書で示している。
careとsupport
多くのイギリス国民は、ケアの問題はNHSで行われると思っているがこれは誤り。
低所得層に対する支援以外は制度は無い。
国民介護サービスが創設されれば、NHSとsocial care(社会的なケア)の関連は密接になる。
高齢者の介護のみではなく、障害者(精神障害、発達障害を含む)のケアも対象。
変革の背景
これから20年間に新たに170万人の高齢者を迎える。
討論の経過
2009年7月から11月までの4ヶ月間の討論期間(国民への意見聴取)には28,000件の提案が寄せられた。
2010年2月 国民会議
国民介護サービスの構想
構想の6原則
1 普遍的
2 支払い能力ではなくニーズに応じたサービス
3 関係機関との連繋
4 選択と規制
5 家族・介護者・地域を支援
6 容易なアクセス
国民介護サービスに期待できること
1 独立した老後
2 納得できる受給資格基準
3 アセスメント
4 情報とアドバイス
5 個々人に合ったサービス
6 公正な財源
国民介護サービスの供給
1 普遍的な給付
2 住宅
3 介護者
サービスの質
介護労働
財源
【感想】
膨大な内容を短くまとめるのは困難ですが、
・ 介護労働
・ 財源
の箇所はあまり明快ではないように思われました。
財源については、5つの選択肢をあげ、
両極端である
・ 全額個人負担
・ 全額国庫負担
を退けています。
「社会保険」という表現も随所に出てきますが、
comprehensive な国民介護サービス という表現が多用されています。
地方政府によるpersonal budget (個人別勘定)という説明もあります。
この点は(要約ではなく)本論を読んでみます。
* 直近のイギリスの専門論調では、この財源の点の不明確さを批判しています。
→別途「坂之上介護福祉研究会」(資料編)にアップ予定。
介護労働については、イギリスには日本のような介護福祉士資格はないので、どのようにしてサービスの質を担保していくのか、この点ももう少し調べないとわかりません。
《2570字》
坂之上介護福祉研究会(資料編)P4303
で紹介している白書本文は167ページもありますが、今日大学で印刷しました。(写真)
私が多少専門的に勉強しているのはドイツの介護政策で、イギリスの事情には暗いのですが今のところ日本語の紹介はまだ無いように思われるので急いで読んでみたのです。
介護政策は医療政策と密接に関連していますが、イギリスの医療制度はNHSといっていわゆる国営医療で日本の制度とは著しく違いますから、イギリスの介護政策にとっては極めて重要な今回の動向も日本にとってはあくまでも参考情報です。
* * * *
【重要な白書】
イギリス政府が発表した
Building the National Care Service (国民介護サービスの創設)
は、第2次世界大戦終了直後に創設されたNHS:National Health Service(国民保健サービス)に匹敵する大きな政策提案である。
167ページにわたる白書の概要を簡単に紹介します。
* この白書を補うものとして関連の文書が3件同時に公表されている。
(「坂之上介護福祉研究会」(資料編)4304,430,4306)
この報告書は、女王陛下の命によって、2010年3月30日、保健大臣から議会に提出された。
26.60ポンドで市販されているが、ネットによって、無料でダウンロードできる。
白書の目次(適宜私流の意訳です)
ブラウン首相による序言
関係9大臣による序言
要約
(以下本文)
1 序説
2 改革の背景
3 討論の経過
4 国民介護サービスの構想
5 構想案の広報
6 国民介護サービスの質をどう組み込むか
7 公正な財源調達
8 実施に向けて
用語解説
【ブラウン首相の序言】
pp.1-2
* 短いものですが、威厳に満ちた内容です。イギリス国民宛のもので平明な英語ですから是非原文を読んでみてください。
高齢者や支援の必要な人のケアは、文明社会の特徴である。
現在のケアや支援体制はもはや十分ではない。
われわれの回答は:
NHS国民保健サービスの誇り高い伝統に深く根付いた大胆な制度を創設すること。
NHSを作った時期は戦争終了後の困難な危機であったが、現在もまた経済的に困難な時期に遭遇している。
・ ・now the right time to fundamentally change our system of care and support.
(いまこそ、現在のシステムを根本的に変えるべき時期だ)
・ ・this is a new chapter in the story of our welfare state:
(これは我々の福祉国家の歴史に新しい1章を加えるものだ)
国民介護サービスは、公正と責任という堅い信念に基づいて構築される。
高齢になってもすべての人が威厳を持ち安全に過ごすこと、障害のあるひともその能力を発揮できることが最も重要だ。
今回の提案が、現実のものとなるべく政府各省と全力をあげたい。
【要約】
* pp.7-28
段階的な実施
検討の経過
*これまでの検討経過を基本的な文書で示している。
careとsupport
多くのイギリス国民は、ケアの問題はNHSで行われると思っているがこれは誤り。
低所得層に対する支援以外は制度は無い。
国民介護サービスが創設されれば、NHSとsocial care(社会的なケア)の関連は密接になる。
高齢者の介護のみではなく、障害者(精神障害、発達障害を含む)のケアも対象。
変革の背景
これから20年間に新たに170万人の高齢者を迎える。
討論の経過
2009年7月から11月までの4ヶ月間の討論期間(国民への意見聴取)には28,000件の提案が寄せられた。
2010年2月 国民会議
国民介護サービスの構想
構想の6原則
1 普遍的
2 支払い能力ではなくニーズに応じたサービス
3 関係機関との連繋
4 選択と規制
5 家族・介護者・地域を支援
6 容易なアクセス
国民介護サービスに期待できること
1 独立した老後
2 納得できる受給資格基準
3 アセスメント
4 情報とアドバイス
5 個々人に合ったサービス
6 公正な財源
国民介護サービスの供給
1 普遍的な給付
2 住宅
3 介護者
サービスの質
介護労働
財源
【感想】
膨大な内容を短くまとめるのは困難ですが、
・ 介護労働
・ 財源
の箇所はあまり明快ではないように思われました。
財源については、5つの選択肢をあげ、
両極端である
・ 全額個人負担
・ 全額国庫負担
を退けています。
「社会保険」という表現も随所に出てきますが、
comprehensive な国民介護サービス という表現が多用されています。
地方政府によるpersonal budget (個人別勘定)という説明もあります。
この点は(要約ではなく)本論を読んでみます。
* 直近のイギリスの専門論調では、この財源の点の不明確さを批判しています。
→別途「坂之上介護福祉研究会」(資料編)にアップ予定。
介護労働については、イギリスには日本のような介護福祉士資格はないので、どのようにしてサービスの質を担保していくのか、この点ももう少し調べないとわかりません。
《2570字》
はっと眼をさますことができました。
これから、読んでみようと思います。
ありがとうございました。
コメント有難うございました。
前からこのテーマをフォローしていたのですが
さいわい発表直後に知ることができました。
「資料編」の方でフォローを続けます。
国の代表者としての理念(もちろん、具体化への道は険しいとしても)、そして国民の育ててきたもの(歴史)が何か。
代表者はこのことを語るべきできすから、読ませていただきます。
コメント有難うございます。
その後も少しずつ読んでいます。
専門的なタッチでは「資料編」に
少しわかったことがあればこちらの「基礎編」にアップしていきます。
最も重要な財源論は
総選挙以降に詳細を決めるということです。