サイレント

静かな夜の時間に・・・

始末屋(1)

2006-01-15 04:41:16 | Weblog



「始末屋として復帰しないか?」
師匠は唐突に切り出した。
いつも何の脈絡もなく、脳内に話しかけてくる。


「始末屋? なぜ?」
私は聞き返した。
心の声で返事をするようにしているが、
つい言葉として、口に出してしまうこともある。
それが人前だったりすると、ひどく後悔する。

「お前、仕事しろよ。引退してる場合じゃない」
師匠は、目には姿が見えない。
それでもなんとなく周りにいる。
何か用事があるときだけ、私に声をかける。
耳では聞くことのできない声で。

「始末? 誰を?」
だいたいの見当はついていたが、一応確かめた。
私のところに回される仕事は、
ほかの人たちがやりたがらない事柄が多い。

「犯罪者だ」
いちいち分かりきったことを、という感じで、
師匠はひとことだけ吐いた。

「強くて面倒な連中?」
それぞれの地域で、担当者は既にいるはずだ。
彼らにとって荷が重い強者・・・
であろうことは想像に難くない。

「・・・・・・」
師匠からの返事はなかった。
答えるまでもない、という意味だろう。

「肉持ちの相手も多いはず・・・」
仕事を受けるかどうか即答せず、私は絡んだ。
私は師匠をからかうのが好きだ。
師匠の方は、それを好まない。


肉、とは生身の人間のことだ。
この世で一般には不可視であるはずの存在が、
力の容器として、潜伏する隠れ蓑として、
生身の人間を所有していることは、実は多い。

「相手が肉を持っていた場合・・・
その人間を、害することもありえますが・・・」
私は、またも無駄口を叩いた。
師匠はこの手の初歩的なことには返答しない。


「この話、受けるのだな?」
しびれを切らした師匠が、確認を急いだ。

「喜んで」
私は淡々と答えた。