私は標的である動物に対して、
さっそく仕掛けることにした。
カゲに向かって矢継ぎ早に命令を下していく。
夜の街、車を走らせながら。
「標的の周囲を固めろ」
私のカゲの中には標的の周囲を制圧する集団がいる。
「標的を見失うな」
私のカゲの中には標的を同定し追尾する集団がいる。
「標的を捕らえろ」
私のカゲの中には標的を捕獲する集団がいる。
「新宿の駅前に移してハリツケにしとけ」
車はもうすぐで新宿に到着しようとしていた。
「動きは止めておくように」
標的の身動きが全く取れなくなるということである。
「加藤、準備しろ」
加藤とは、トドメを刺す役割の私のカゲのひとりだ。
私のカゲたちは、全て私が無から生み出した。
数え切れないくらいのカゲの中で、
ある特殊な連中には名前がついている者もいる。
名前のつけ方はいつも適当だ。加藤とか田中とか。
新宿駅に着いた。
様々な種類のたくさんの人混みで溢れている。
「加藤、カケラさえも残すな」
トドメを刺すことを私は命じた。
一瞬で破裂してバラバラになった標的の姿が、
私の脳内のスクリーンに浮かんだ。
その炸裂した肉片のひとつひとつがさらに破裂し、
この繰り返しで、
文字通り標的はカケラさえも残さずに消滅した。
加藤はかつて、
何人もの相手を霊的に封殺した。
肉持ち、つまり人間として生きている相手もいたし、
そして無論、
肉を持たない霊的な存在のみの相手もいた。
肉持ちの相手が霊的に封殺されると、
この世に生を受ける人間としてどうなるかというと、
多くは何となく精気を失い元気がなくなる程度だが、
明らかな鬱病になったり、
病気や事故で入院することもある。
加藤のような封殺の最終実行者は、
私のカゲの中ではひとりだけではない。
もっとたくさんいる。それぞれ特性や特徴がある。
私はそれらを、状況や目的によって使い分けてきた。
師匠が私に復帰の話を持ちかけた際、
私はこの手の裏稼業からは引退していた。
それまでは、
私は数年間こっそりと手を汚すような仕事を続け、
そして嫌気がさして引退を決意した。
およそ一ヶ月前のことだ。
しかし、
結局たった一ヶ月しか休めなかった。
師匠の誘いに乗ってしまったのは何故だろう?
正直にいうと、決断にあまり悩まなかった。
この理由については、
これからじっくりと自分の中で確かめていきたい。
当面、始末屋として働きながら・・・
新宿のような繁華街には、
一般には不可視のはずの存在が無数に集まっている。
いかがわしい者たちも多い。
今回、連続子供殺しの犯人であった動物を、
新宿のような場所で目立つように殺したことには、
ちょっとした意味がある。
いわゆる「見せしめ」としての。
毎日、日本のどこかで殺人事件が起こる。
それは仕方がない。
大昔からそうだった。今はむしろ減った方だ。
そして、それらの出来事の裏では、
ウマい汁を吸うために蠢く霊的原因もいたりする。
それも仕方がない。
大昔からずっとそうなのだから。
しかし目に余る行為というものもある。
今回の、ほぼ連日に渡る連続子供殺しなどはそうだ。
それはさすがにやり過ぎだろう、
という判断がどこかで誰かによって下され、
おそらくそれで私に始末依頼が来たのだろう。
もっと間隔を空けて散発的にやっていたら、
多分問題とはされなかった・・・のではないかと思う。
私は帰途についた。
うかつにも脳内スクリーンで垣間見てしまった、
何人かの犠牲者の子供たちを悼んで、
私は少しだけ合掌した。