サイレント

静かな夜の時間に・・・

始末屋(5)

2006-03-02 15:46:01 | Weblog



私は標的である動物に対して、
さっそく仕掛けることにした。
カゲに向かって矢継ぎ早に命令を下していく。
夜の街、車を走らせながら。


「標的の周囲を固めろ」
私のカゲの中には標的の周囲を制圧する集団がいる。

「標的を見失うな」
私のカゲの中には標的を同定し追尾する集団がいる。

「標的を捕らえろ」
私のカゲの中には標的を捕獲する集団がいる。

「新宿の駅前に移してハリツケにしとけ」
車はもうすぐで新宿に到着しようとしていた。

「動きは止めておくように」
標的の身動きが全く取れなくなるということである。

「加藤、準備しろ」
加藤とは、トドメを刺す役割の私のカゲのひとりだ。

私のカゲたちは、全て私が無から生み出した。
数え切れないくらいのカゲの中で、
ある特殊な連中には名前がついている者もいる。
名前のつけ方はいつも適当だ。加藤とか田中とか。


新宿駅に着いた。
様々な種類のたくさんの人混みで溢れている。

「加藤、カケラさえも残すな」
トドメを刺すことを私は命じた。

一瞬で破裂してバラバラになった標的の姿が、
私の脳内のスクリーンに浮かんだ。
その炸裂した肉片のひとつひとつがさらに破裂し、
この繰り返しで、
文字通り標的はカケラさえも残さずに消滅した。


加藤はかつて、
何人もの相手を霊的に封殺した。
肉持ち、つまり人間として生きている相手もいたし、
そして無論、
肉を持たない霊的な存在のみの相手もいた。

肉持ちの相手が霊的に封殺されると、
この世に生を受ける人間としてどうなるかというと、
多くは何となく精気を失い元気がなくなる程度だが、
明らかな鬱病になったり、
病気や事故で入院することもある。

加藤のような封殺の最終実行者は、
私のカゲの中ではひとりだけではない。
もっとたくさんいる。それぞれ特性や特徴がある。
私はそれらを、状況や目的によって使い分けてきた。

師匠が私に復帰の話を持ちかけた際、
私はこの手の裏稼業からは引退していた。
それまでは、
私は数年間こっそりと手を汚すような仕事を続け、
そして嫌気がさして引退を決意した。
およそ一ヶ月前のことだ。

しかし、
結局たった一ヶ月しか休めなかった。
師匠の誘いに乗ってしまったのは何故だろう?
正直にいうと、決断にあまり悩まなかった。
この理由については、
これからじっくりと自分の中で確かめていきたい。
当面、始末屋として働きながら・・・


新宿のような繁華街には、
一般には不可視のはずの存在が無数に集まっている。
いかがわしい者たちも多い。

今回、連続子供殺しの犯人であった動物を、
新宿のような場所で目立つように殺したことには、
ちょっとした意味がある。
いわゆる「見せしめ」としての。

毎日、日本のどこかで殺人事件が起こる。
それは仕方がない。
大昔からそうだった。今はむしろ減った方だ。

そして、それらの出来事の裏では、
ウマい汁を吸うために蠢く霊的原因もいたりする。
それも仕方がない。
大昔からずっとそうなのだから。

しかし目に余る行為というものもある。
今回の、ほぼ連日に渡る連続子供殺しなどはそうだ。

それはさすがにやり過ぎだろう、
という判断がどこかで誰かによって下され、
おそらくそれで私に始末依頼が来たのだろう。

もっと間隔を空けて散発的にやっていたら、
多分問題とはされなかった・・・のではないかと思う。


私は帰途についた。
うかつにも脳内スクリーンで垣間見てしまった、
何人かの犠牲者の子供たちを悼んで、
私は少しだけ合掌した。