サイレント

静かな夜の時間に・・・

氷河期(11)

2006-11-12 07:40:30 | Weblog



一月の中旬、この国は、
やや厳しめの寒さはいまだあるものの、
ほぼ例年通りの年明けという趣になっていた。

12月上旬までは暖冬を予測していた日本の気象庁は、
その月の下旬には慌てたようにその予測を撤回し、
厳冬予測に切りかえていた。
そしてこの頃になると、再度予測を修正し、
二月以降はむしろ暖かめになるとの観測を打ち出した。


私はカゲからの報告をいくつか受けた。

この約一ヶ月間に世界中で活動したクトゥルー族の総数は、
およそ6000億であること、
その半数にあたる3000億ほどが、
これまでに世界各地の管理者たちに撃退されていること、
そして、
主力級はその後は現れていないこと・・・

私は、敵の総大将格とそれに準ずる副将格が、
いつ復活してくるのかじっと待っていた。
しかし結局、
それらは一度も出現せずに春を迎えることになる。


私「相手方はトップが出てこないな」
カゲ「・・・・・・」
私「どれだけ大量の兵隊を退けようが・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「主力級を何人倒そうが・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「これでは勝ったことにはならない」
カゲ「・・・・・・」

彼らとしては、
おそらく計画の中止ではなく、
延期のつもりなのだろう、と私は感じていた。

カゲ「敵の眠る本拠に追撃しますか?」
私「・・・・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「いや」
カゲ「・・・・・・」
私「しない」
カゲ「・・・・・・」
私「この星は年々温まっている」
カゲ「・・・・・・」
私「冷やす連中も必要といえば必要だ」
カゲ「・・・・・・」
私「攻めて来るたびにやり合えばそれで済むことだ」
カゲ「・・・・・・」
私「要はバランスだな」
カゲ「・・・・・・」
私「氷河期に戻されることさえなければ、それで十分だ」
カゲ「・・・・・・」


日本においては寒波のピークは過ぎてはいたが、
この後もロシアやウクライナでは凍死者が続出したし、
二月にはアメリカのニューヨークにおいて、
観測史上最高といわれる70cm近い積雪があった。

しかしそれでも、
どの国にもやがて春は訪れた・・・

彼らは必ずまた大がかりに攻めてくるはずだ。
それがいつになるのか、
一年後の冬か、二年後の冬か、
あるいは5~10年後か、20~30年後か、
少なくとも、
二度と来ないということは決して考えられない。

私「もし総大将が出てきてたら何をしてただろう?」
カゲ「・・・・・・」
私「隕石かね?」
カゲ「・・・・・・」
私「たぶん隕石だろうな」
カゲ「・・・・・・」
私「隕石だとしたらかなり問題だな」
カゲ「・・・・・・」

太古の昔、
この星が爬虫類族の天下だった時代に終止符を打ち、
氷河期になった原因が、
巨大な隕石が落下したせいだろうという有名な説を、
じんわりと想像しながら私は話していた。


ひとつだけ気になる報告があった。
いくつかの地域で、
クトゥルー族の大兵力の中に混じって、
クトゥルー族以外の兵隊が確認されたとのことだ。

それを聞いた私は、いやな直感が働いた。

私「ひょっとして星外の奴か?」
カゲ「そうです」
私「すると・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「今回大規模な復活を狙ったクトゥルー族の背後に・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「それを手引きしサポートした星外の連中がいたと・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「考えるべきということか?」
カゲ「・・・・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「おそらく」


星外・・・
地球の外のことを私はしばしばこのように呼ぶ。
宇宙とは呼ばない。

私「ちと面倒なことになった」
カゲ「・・・・・・」
私「クトゥルー族の件が治まっても・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「星外の奴等、必ず別件をまた仕掛けてくるぞ」
カゲ「・・・・・・」
私「これからも忙しくなるな」
カゲ「・・・・・・」

星外の勢力が共通した脅威となり利害が一致すると、
普段は争いばかりしてるこの星の管理者たちが、
笑ってしまうくらい協調することがある。
この度のクトゥルー族の脅威に対してのように・・・

さて、
これからも必要なときに、
うまく協調関係が築けるのだろうか?


四季は素晴らしい。
季節がはっきりしていない地域や国も多いが、
その点、この国の四季はかけがえもないほど美しい。

春があり夏があり、秋があって冬がある。
そして冬の次にまた春が来る。
私は子供の頃からそれが当たり前のことだと思っていた。
これからも、
それはずっと当たり前であるべきだ。