サイレント

静かな夜の時間に・・・

亜空間(3)

2006-08-26 21:08:12 | Weblog



「しかしだな・・・」
私はふと浮かんだ疑問を出そうとした。
ちょっと考えればすぐに気付くことだ。

私「日本全国のすべての建築物が・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「なんら設計や建設に落ち度がなく・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「しっかりと規定の耐震性を・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「実現できているかといえば・・・」
カゲ「・・・・・・」

やはりそのことを突っ込んできたかと、
カゲのただただ黙っている気配を私は感じつつ、
そのまま続けた。

私「それはとても疑わしい」
カゲ「・・・・・・」

カゲはあまり答えたくはない様子だ。
私の独り言は止まらない。

私「考えてみれば・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「あらゆるビルやマンション・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「高速道路や新幹線の線路など・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「十分な耐震性が守られているのか・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「疑い出せばキリがない」
カゲ「・・・・・・」


これはとても微妙な問題だ。
私たちは毎日、自分の身の回りの建築物を、
そう簡単には壊れないものだと信用して、
なにげなく暮らしている。

もし、周囲の建築物を信じることが、
まったくできなくなってしまったら、
乗り物にも乗れず、買い物もできず、職場にもいけない。
日常生活が成り立たなくなってしまう。


私「今回の件は、例によって・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「あまりにもやり過ぎだということで・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「表沙汰になったのだろう?」
カゲ「・・・・・・」

これは異世界の組織についてもいえるし、
耐震偽装のこの世の当事者たちにもいえる。

私「規模が大きすぎて、程度があからさまで・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「だからこそ騒がれているだけで・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「じゃあ、小さい規模のものは・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「放置しててもいいのかと・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「なるんじゃないのか?」
カゲ「・・・・・・」

私はどこか変にマジメなところがある。
こういう仕事は黙ってこなすだけこなして、
あとは余計なことは何も考えない方がいいのだ。


私「・・・・・・」
カゲ「・・・・・・」

少し間をおいてカゲがやっと口を開いた。

カゲ「それ以上はあえて触れない方が・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「利口な生き方ではないかと」
私「・・・・・・」

その通りだ。

あまたあるであろう小さな規模の違法建築にも、
それぞれ背後に異界の存在がいたとして、
それら全部を処分対象にしようなどとしたら、
とてもやり遂げられるとは思えない。

そしてなにより、
この世に生きる人として、
身近な建築物に対して不信を抱かない方が、
きっと気楽に暮らせるはずだ。
たとえそれが無根拠な信頼であったとしても・・・


私「よし、こう考えよう」
カゲ「・・・・・・」
私「この国は、きっとほかの国よりも」
カゲ「・・・・・・」
私「ずっとマシななずだ」
カゲ「・・・・・・」
私「日本に生まれてよかった」
カゲ「・・・・・・」
私「はははは」

いらないことばかり考えてしまい、
つい仕事にとりかかるのが遅れてしまった。


私「しかし、この組織の仕掛けについて・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「よく所轄はネタをつかんだな」
カゲ「・・・・・・」

このことに関しては、素直にすごいと感じた。
どんな事件や事故であっても、
未然に防ぐというのは、大変に難しいものだ。

カゲ「それはですね・・・」
私「ん?」
カゲ「所轄の諜報担当が・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「自分を犠牲にして曝いたそうです」
私「!!」

所轄の諜報担当・・・
情報収集を仕事とする連中のことだろう。
潜入捜査でヤクザ組織に潜り込んだり、
囮捜査で自ら囮になる者もいるらしい。

私「この件の仕掛けのネタを曝くのに・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「体を張って身を捨てた仕事をした者が・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「いたんだな?」
カゲ「そうです」


私はこの手の話にとても弱い。
子供が死んだとか、
情報収集の段階で覚悟の犠牲者がいたとか、
そういうことを耳にすると、
いつも手抜きができなくなってしまう。

情けないくらいに私はとても弱い。


「標的を全員、正確に捕捉しろ」
私はカゲに指示を出した。

「もう捕捉してます」
カゲは私に答えた。







亜空間(2)

2006-08-20 06:33:50 | Weblog



師匠はたった一言しかいわなかった。
捕縛できない一派を捕縛しろ、
たったそれだけだ。

その一言だけでは全く意味がわからないので、
私は即座に自分のカゲに調べさせて、
やっと具体的な事情を知ったのだった。
それが前述の内容だ。


異世界におけるその組織が、
この世の多くの人命を贄として狙ったという、
その「仕掛け」とやらについて、私は興味をもった。
そしてそれをカゲに尋ねた。

カゲ「いま世間を騒がせているアレですよ」
私「アレ?」
カゲ「・・・・・・」
私「アレといわれてもわからない」
カゲ「・・・・・・」

実をいうと、師匠だけでなく私のカゲも、
異世界の出来事とリンクするこの世の出来事を、
詳しく私に知らせることをしたがらない。
告げるときも必要最低限にとどめようとする。

その、知らせたがらない理由はいくつかあって、
そのひとつをあげると、
この世で人として生きる者にとっては、
異世界のことなどあまり詳しくは知らない方が、
必要以上に悩まずに生きていけるのだそうだ。


だがこれは仕事の話だ。
この時の私は、あえてカゲに吐かせた。

カゲ「耐震偽装です」
私「あ、マンションのアレか?」
カゲ「そうです」

最近、大きな社会問題として発覚し、
連日ニュースで報じられだした、
まさにその問題こそが「仕掛け」という意味だろう。

私「ああ、アレな」
カゲ「・・・・・・」
私「中規模の震度の地震でも倒壊してしまって・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「多くのマンションの住人の人たちが・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「死んでしまうかもしれないという・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「例のアレだな」

アレ、を私も連発することになり、
自分でも苦笑してしまった。

私「しかしそうか・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「あの問題は、背後で糸を引いてる連中が・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「しっかりといたわけだ」


よくあることだ。
旅客機事故、海難事故、列車事故、大火事などの事故、
のみならずさまざまな自然災害、
これらの多くの惨事の裏で、
霊的に干渉して仕掛けて儲けている連中がいる。

そう、こういうことは、
怖いくらいによくあることなのだ。







亜空間(1)

2006-08-16 23:46:12 | Weblog



始末屋として仕事に復帰した二日後、
次の仕事の話がきた。
ヤクザの捕縛だ。

ヤクザといっても、
無論この世の実世界におけるヤクザではない。
別世界における組織のことだ。

ここでヤクザという言葉を使うのは、
この世のヤクザと実態がとても似ていて、
これ以上合うような言葉がないからだが、
完全に同じかといえばそうでもない。


話は師匠がもってきた。
例によって用件を短く伝えるだけで、
詳しい事情は説明しない。

あちらの世界におけるヤクザ組織のひとつが、
ある計画を立てていたらしい。
かなり巧妙な仕掛けを用意しておいて、
相当数のこの世の人命を奪って収奪しようという、
大胆な企みだったらしい。

しかし、その計画は実行前に白日に晒された。
所轄がその動きを事前に察知し、
巧妙かつ大胆な仕掛けを潰したとのことだ。

そして所轄は、ヤクザ組織の頭領や幹部に対して、
ごく当然の成り行きとして、逮捕状を出した。
問題はここからだ。

所轄が逮捕できないでいるのだ。

異世界における、そのヤクザに相当する組織が、
強力な戦闘能力を有しており、
所轄が組織の本部に直接的に実行力を行使できず、
事実上、いまだ野放しになっている状態らしい。


私に話がきた仕事とは、
その、強力なヤクザ組織の本部に立て籠もっている、
頭領や幹部たちを逮捕することだ。

おとといの動物狩りよりも楽しそうだ。
私は無表情のまま口元を緩ませた。