サイレント

静かな夜の時間に・・・

氷河期(3)

2006-10-06 02:51:42 | Weblog



私は急いで車を運転しながら、
携帯電話でネットにアクセスし、
ある掲示板を開いた。

連絡をするためである。

かつて半年くらいの間、
仕事を手伝わせたことのある人物がいた。
その人物とは、偶然にネットで知り合った。
私自身その異能を確かめ、
やがて私は、仕事のサポート役を任せるようになった。

サポートといっても、
お互い別々の場所で、別々のことをしながら、
思念を使って個々に仕事をするということなのだが。


ハルとは違って、私はこの知人が、
どの地方に住んでいて、実生活で何の仕事をしていて、
どんな顔をしているのか、知っている。

名前はユイチという。

ハルは、生身の人として男か女かも知らないわけだが、
ユイチは、男か女かよくわからない人間そのものだ。
普段の実生活では女の姿で女言葉を話し、
ネットでは主に男言葉で話す。

ユイチとは、何回か実生活で直接会った。
裏家業の話は一切せず、世間話しかしなかった。
その後、いつの間にか協調関係は途絶え、
仕事の連絡をすることはなくなった。

そのユイチに、久々に連絡した。

「仕事だ、手伝え」
私はその掲示板に、たったこれだけ記した。
名無しの相手に対して、名無しでの書き込みだ。
仕事の詳細については勝手に調べるだろう、と思った。
師匠が私に、いつも簡単な連絡しかしない理由が、
私にもなんとなくわかる。面倒なのだ。

脳内でメッセージを交わすのに比べて、
ネットで連絡する方が、はるかに確実だ。
思念のやりとりだと、
その時々の調子や、感情的な状態や、
外部からの妨害などの影響を受けやすい。
その点、ネットは確実に文字になる。

私には、ネットを介した仕事の知人が、
十人以上いる。
いずれも、油断のならない曲者ばかりだが。


おそらく、人知れず異能を持った、
この国の裏家業の人間たちには、
総動員体制といっていいほどの規模で、
緊急連絡が出回っているはずだった。
使える者は全員使う、いや、使うべき事態だった。

いま、この国に、
このような事態で仕事をする者がどれくらいいるのか、
それも生身の人として生活しながらの人員の総数について、
私の知る限りでは、
だいたい、千人程度いるようだ。
関東だけでも、きっと数百人はいるだろう。


私は、首都高速に乗った。
霊的な防壁を張るつもりだった。

私「関東以外は・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「もう間に合わない」
カゲ「・・・・・・」

気象衛星画像を見る限り、そうとしか思えなかった。

カゲ「敵の真の目標を・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「くれぐれも見誤らないで下さい」
私「・・・・・・」

カゲのいっていることの意味が、私には理解できた。

私「わかってる」
カゲ「・・・・・・」
私「敵の主目標は、東京だ」
カゲ「・・・・・・」

おそらくは、他の地域の寒波襲来は囮であって、
最も強力に攻め落としたいのは、東京のはずだった。
より多くの人間を贄として得るのならば、きっとそうだろう。

私「防ぎきれない最悪の事態での・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「首都圏における最大死者数の予想は出せるか?」
カゲ「・・・・・・」

その次の瞬間、私は自分の背筋が凍るのがわかった。
カゲが、数千でも数万でも数十万でもなく、
数百万人と答えたからだ。