サイレント

静かな夜の時間に・・・

始末屋(3)

2006-01-24 12:45:00 | Weblog



「今の会話、聞いていたな」
何もない空間に私は話しかけた。

「今夜のうちに片を付ける」
さらに私は、姿の見えない誰かに声を掛けた。
師匠ではない、別の誰かに。

「最近の一連の子供殺しを全て洗え」
部下に対するような口調で、私は命令を発する。
信頼できる絶対的な部下とでもいえる存在。

「目星がついたら知らせろ」
ひとこと伝えるごとに、これまでの絆を思い出す。
どれだけ修羅場を共にくぐってきたことか。

「公開処刑にしよう、人目の多い所がいい」
処刑・・・響きがあまり優しくない。
しかし適当な言葉がほかに見あたらない。

「私はこれから車で新宿にいく。そこで殺ろう」
夜の新宿。車で訪れる夜の新宿。


いい忘れていた。
私は東京に住んでいる。一人暮らし。
近辺には、家族も親戚も友人も知人もいない。
私はいつもひとりだ。

夜の東京で私は、人目につかないように、
こっそりと単独行動を取っている。
夜の闇に溶け込むように、暗い深海を潜航するように、
誰ともつるまずに夜の時間を歩いている。

そうなのだ。
私は生身の人間とは誰ともつるまない。


「標的を捕捉したら知らせろ」
私は念を押した。

「もう捕捉してます」
私が話しかけていた相手である、私の「カゲ」が、
姿を見せないまま脳内に届く声で答えた。

私の部下であり相棒であり守護役である、
私の「カゲ」が。







始末屋(2)

2006-01-17 03:27:34 | Weblog



師匠「子供殺しの件だが・・・」
私「連続子供殺し事件?」
師匠「そうだ」
私「いま日本のあちこちで起こっている・・・」
師匠「・・・・・・」
私「一件一件は独立した・・・」
師匠「・・・・・・」
私「大人による連続した子供殺し?」
師匠「そうだ」

師匠が仕事の話を持ってきた。
いつものことなのだが、
詳しい説明などはあまりしない。
基本的には、自分で考えさせるのが師匠流だ。


私「あれって、単独犯?」
師匠「・・・・・・」
私「日本の各地で何人もの大人に憑依して・・・」
師匠「・・・・・・」
私「次々と子供を生け贄にしている者が・・・」
師匠「・・・・・・」
私「いるんですね?」
師匠「・・・・・・」

よくあることだ。
血の贄は、美味しい御馳走である上に、
貴重なエネルギー源となる。
ただし、
そういう行為は処分の対象となりうるが。

処分されるか否かは、
その時代の、そしてその地域における、
管理責任者の方針にもよるし、
実行犯と処分担当との力関係にもよる。
取り締まる側の手に余る犯人であれば、
実際問題として、放置されてしまう。


私「最近、急に増えたというか・・・」
師匠「・・・・・・」
私「矢継ぎ早に連発してるというか・・・」
師匠「・・・・・・」
私「妙だな、とは思ってましたが・・・」
師匠「・・・・・・」

静かな師匠。語る私。

私「本当に単独犯ですか?」
師匠「・・・・・・」
私「変な組織の末端とかじゃないでしょうね?」
師匠「・・・・・・」
私「調査も含めて私に一任ということですか?」
師匠「・・・・・・」


師匠は寡黙な人だ。
典型的な職人肌の仕事師タイプであり、
自分にも他人にも厳しい。
無論、私にも厳しい。

そう、私が子供の頃から、
これまでずっと師匠は私に厳しかった。

姿の見えない師匠の存在を知ったのは、
ほんの四年前のことだが、
私が生まれた時からひたすら私を見守って、
成長期、そして成人してからも、
師匠が私を陰ながら指導してきたことを、
私はあとから理解した。

そして、
これまでの自分の数十年を振り返ってみて、
師匠の私への指導方針が、
どれだけ厳しかったか、私は知った。


師匠「頼むぞ」
私「わかりました」

私はこの件を引き受けた。







始末屋(1)

2006-01-15 04:41:16 | Weblog



「始末屋として復帰しないか?」
師匠は唐突に切り出した。
いつも何の脈絡もなく、脳内に話しかけてくる。


「始末屋? なぜ?」
私は聞き返した。
心の声で返事をするようにしているが、
つい言葉として、口に出してしまうこともある。
それが人前だったりすると、ひどく後悔する。

「お前、仕事しろよ。引退してる場合じゃない」
師匠は、目には姿が見えない。
それでもなんとなく周りにいる。
何か用事があるときだけ、私に声をかける。
耳では聞くことのできない声で。

「始末? 誰を?」
だいたいの見当はついていたが、一応確かめた。
私のところに回される仕事は、
ほかの人たちがやりたがらない事柄が多い。

「犯罪者だ」
いちいち分かりきったことを、という感じで、
師匠はひとことだけ吐いた。

「強くて面倒な連中?」
それぞれの地域で、担当者は既にいるはずだ。
彼らにとって荷が重い強者・・・
であろうことは想像に難くない。

「・・・・・・」
師匠からの返事はなかった。
答えるまでもない、という意味だろう。

「肉持ちの相手も多いはず・・・」
仕事を受けるかどうか即答せず、私は絡んだ。
私は師匠をからかうのが好きだ。
師匠の方は、それを好まない。


肉、とは生身の人間のことだ。
この世で一般には不可視であるはずの存在が、
力の容器として、潜伏する隠れ蓑として、
生身の人間を所有していることは、実は多い。

「相手が肉を持っていた場合・・・
その人間を、害することもありえますが・・・」
私は、またも無駄口を叩いた。
師匠はこの手の初歩的なことには返答しない。


「この話、受けるのだな?」
しびれを切らした師匠が、確認を急いだ。

「喜んで」
私は淡々と答えた。







2006-01-15 04:35:13 | Weblog



五年ほど前から、
詩のような小説のような、
そんなものを書きたいと思っていた。

改行せずに長々と文章を書くのは、
あまり好きではない。

ブログというものが、
その、少し詩的な小説まがいのものには、
ちょうどいい媒体なのだと、
最近やっと気付いた。

サイキックと霊能。
これらは別個に扱われることが多いようだ。
確かに別物といえば別物なのだろう。

私にはそれらの方面の能力は、まったくない。
だから、
ここでこれから私が書く内容は、
完全に私の想像の産物に過ぎない。

そう、
私の話は100%フィクションなのだと、
最初に断っておきたい。