一月の中旬、この国は、
やや厳しめの寒さはいまだあるものの、
ほぼ例年通りの年明けという趣になっていた。
12月上旬までは暖冬を予測していた日本の気象庁は、
その月の下旬には慌てたようにその予測を撤回し、
厳冬予測に切りかえていた。
そしてこの頃になると、再度予測を修正し、
二月以降はむしろ暖かめになるとの観測を打ち出した。
私はカゲからの報告をいくつか受けた。
この約一ヶ月間に世界中で活動したクトゥルー族の総数は、
およそ6000億であること、
その半数にあたる3000億ほどが、
これまでに世界各地の管理者たちに撃退されていること、
そして、
主力級はその後は現れていないこと・・・
私は、敵の総大将格とそれに準ずる副将格が、
いつ復活してくるのかじっと待っていた。
しかし結局、
それらは一度も出現せずに春を迎えることになる。
私「相手方はトップが出てこないな」
カゲ「・・・・・・」
私「どれだけ大量の兵隊を退けようが・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「主力級を何人倒そうが・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「これでは勝ったことにはならない」
カゲ「・・・・・・」
彼らとしては、
おそらく計画の中止ではなく、
延期のつもりなのだろう、と私は感じていた。
カゲ「敵の眠る本拠に追撃しますか?」
私「・・・・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「いや」
カゲ「・・・・・・」
私「しない」
カゲ「・・・・・・」
私「この星は年々温まっている」
カゲ「・・・・・・」
私「冷やす連中も必要といえば必要だ」
カゲ「・・・・・・」
私「攻めて来るたびにやり合えばそれで済むことだ」
カゲ「・・・・・・」
私「要はバランスだな」
カゲ「・・・・・・」
私「氷河期に戻されることさえなければ、それで十分だ」
カゲ「・・・・・・」
日本においては寒波のピークは過ぎてはいたが、
この後もロシアやウクライナでは凍死者が続出したし、
二月にはアメリカのニューヨークにおいて、
観測史上最高といわれる70cm近い積雪があった。
しかしそれでも、
どの国にもやがて春は訪れた・・・
彼らは必ずまた大がかりに攻めてくるはずだ。
それがいつになるのか、
一年後の冬か、二年後の冬か、
あるいは5~10年後か、20~30年後か、
少なくとも、
二度と来ないということは決して考えられない。
私「もし総大将が出てきてたら何をしてただろう?」
カゲ「・・・・・・」
私「隕石かね?」
カゲ「・・・・・・」
私「たぶん隕石だろうな」
カゲ「・・・・・・」
私「隕石だとしたらかなり問題だな」
カゲ「・・・・・・」
太古の昔、
この星が爬虫類族の天下だった時代に終止符を打ち、
氷河期になった原因が、
巨大な隕石が落下したせいだろうという有名な説を、
じんわりと想像しながら私は話していた。
ひとつだけ気になる報告があった。
いくつかの地域で、
クトゥルー族の大兵力の中に混じって、
クトゥルー族以外の兵隊が確認されたとのことだ。
それを聞いた私は、いやな直感が働いた。
私「ひょっとして星外の奴か?」
カゲ「そうです」
私「すると・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「今回大規模な復活を狙ったクトゥルー族の背後に・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「それを手引きしサポートした星外の連中がいたと・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「考えるべきということか?」
カゲ「・・・・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「おそらく」
星外・・・
地球の外のことを私はしばしばこのように呼ぶ。
宇宙とは呼ばない。
私「ちと面倒なことになった」
カゲ「・・・・・・」
私「クトゥルー族の件が治まっても・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「星外の奴等、必ず別件をまた仕掛けてくるぞ」
カゲ「・・・・・・」
私「これからも忙しくなるな」
カゲ「・・・・・・」
星外の勢力が共通した脅威となり利害が一致すると、
普段は争いばかりしてるこの星の管理者たちが、
笑ってしまうくらい協調することがある。
この度のクトゥルー族の脅威に対してのように・・・
さて、
これからも必要なときに、
うまく協調関係が築けるのだろうか?
四季は素晴らしい。
季節がはっきりしていない地域や国も多いが、
その点、この国の四季はかけがえもないほど美しい。
春があり夏があり、秋があって冬がある。
そして冬の次にまた春が来る。
私は子供の頃からそれが当たり前のことだと思っていた。
これからも、
それはずっと当たり前であるべきだ。