『マルホランド・ドライブ』

2007-10-13 15:10:15 | シネマーノ
製 作:2001年 アメリカ・フランス
DVD:ポニーキャニオン PCBE-50340

秋の夜長のオススメ映画第二弾は 『マルホランド・ドライブ』 です。「このきれいな女優さん誰? と思ったらたいていこの人」なナオミ・ワッツ主演。個人的には前回の 『ラヴソング』 と並ぶ恋愛映画の傑作だと思ってます。ただしこちらは女性の同性愛、しかもどうしようもないくらいの悲恋です。私の人生ベスト5に入る大好きな作品ですので、以下ネタバレを含みつつちょっと話が長くなります。

世間では「よくわからない映画」扱いされてますが、それはいちいち細かな演出に対してまで「何か隠された意味があるはず」「すべてを解き明かさないと観客の負け」みたいに構えた姿勢で観るからであって、謎を謎のまま楽しんでいれば実は意外と単純なストーリーに思えてきます。前半は女優を目指してハリウッドにやってきた主人公がトントン拍子で大役をつかみ、謎に満ちた魅力的な女性と出会って愛しあうようになる美しい物語が、軽いタッチと物悲しいムードを織り交ぜながら進行します。

ところが後半に入ると同じ顔をした登場人物たちがなぜか微妙にちがうキャラクターや別の名前を与えられ、今度は一転して出口のない迷路のようなつらく苦しい物語を演じるのです。前半では深いきずなで結ばれたはずの恋人は、後半では主人公を捨てて男と結婚します。嫉妬に狂った彼女はとうとう殺し屋を雇ってしまい、その仕事はあっさり遂行されます。やがて罪悪感に堪えきれなくなった主人公が自殺して物語は終わります。

不自然なくらい物事が都合良く展開していく前半は、明らかに夢の中の出来事でしょう。映画の構成上は先に配置されているこの部分は、実際には誰がどの時点で見ている夢なのか。その解釈は観客に委ねられています。私はこれを主人公が拳銃で頭を撃ち抜いたあと死にいたるまでの数秒か数十秒かの間に、破壊され血流が止まりつつある脳の中に浮かんで消えていった思考の断片だと考えることにしています。つまり人が臨終の際に見るという例の 走馬燈 ですね。

夢の終わり、つまり映画の中盤に「シレンシオ」という名のナイトクラブが登場する象徴的なシーンがあります。ここで突然身体が激しく震えだしたり、そのあと家に帰ったとたん主人公が消滅して恋人が取り残されたりと不思議なことが起こります。この辺りが最大のヤマ場でして、ネットで検索してみると熱狂的なファンの方々のいろんな凝った解釈が楽しめます。でも私は単純にあの震えは現実世界で破壊された脳が活動を停止する前兆を、消滅はついに完全な死が訪れたことを描写してるのだろうと思ってます。そう考えると「夢を見ている本人が死んだあとも他の登場人物の慣性エネルギーによって夢が続く」というおもしろいアイデアにつながるので、この解釈が好きなんですよ。

クラブ・シレンシオで泣き女と呼ばれる歌手が熱唱する曲が最高に美しく悲しいです。これを聴くだけでもDVDを借りてくる価値はあります。まさに秋の夜長にオススメの映画ですが、エロチックなシーンがたくさんありますので一家だんらんには持ち出さないでください。雨戸を閉めてひとりでコッソリ観よう。

ハシゴ星

2007-10-10 15:08:04 | >(´O` )
この三連休にぶらり東京ひとり旅に出て、ついに念願の MEGASTAR-II cosmos (メガスターツー コスモス)を観てきました。 日本科学未来館 に設置されている世界最高性能のプラネタリウムです。しかしコレがなんとウルトラ期待はずれ!

いえ、メガスター自体は本当に素晴らしい性能なんですよ。特に天の川の濃淡がとってもリアル。真っ暗な田舎道でふと見上げると満天の星に驚く。と、次の瞬間その星空が底なし沼に変わって自分を吸い込もうとする。あっ頭の先っちょがむにょーんとトンガリ変形し始めた・・ おなじみのあの恐怖感が十倍増しで再現されています。

ところがそこにかかってる番組が、何かの悪い冗談としか思えないほどひどい出来なんです。世界最高性能の星空を観させてもらえるのはほんの十数秒。あとは手描き風アニメーションと、ワケのわからん前衛音楽と、その演奏家自身による素人ナレーション(ムリヤリうまくしゃべろうとしてイントネーションがメチャクチャになるアレ)が30分間、延々と続くのです。ちがう! コレジャナイ! 俺は星を観に来たんだよっ!

私は人間関係がこじれて泣きたくなるとプラネタリウムの暗闇に逃げ込むプロのプラネタリウマーです。だから星空だけを映す昔ながらのスタイルがすでに絶滅してしまったことはよく知っています。どこのプラネタリウムも、星空より映画パートのほうが長い番組構成になってます。それがわかった上で、やはりあの番組はひど過ぎると言わざるを得ません。あれは番組じゃなくて拷問です。ふだん温厚でわりと変なモノに理解のある私ですが、あれ作ったやつら全員無能じゃボケ。

そういう訳でお口直しに、旅の予定に入ってなかった別のプラネタリウムにハシゴしました。一日に二か所も行くなんて生まれて初めて。ソニーが開発した スタープロジェクター です。性能もドームのサイズもメガスターの1/3くらいしかありませんが、かかってる番組がはるかにまともで救われました。

最後に未来館さん、お願いですから肩の力を抜いてふつうの番組を作ってください。無理に高尚なアートぶらなくていいじゃないですか。みんな星を観て癒されるためにプラネタリウムに来るのです。席に着いたときには大はしゃぎだった女の子と若いお母さん、上映後は泣きそうな顔でうつむいてましたよ。