愛されるロジカルシンカーの特徴
2009年9月5日 日経Associe on line
ロジカルシンカーには2種類あります。1つは愛されないタイプ。言っていることは正しいし、すごいと思うけど、なんか好きになれない。もう1つは愛されるタイプです。説得もその人からされると、なんだか素直に「そうだな」と思える。話がとても分かりやすく、かつ面白い。会議などで話がこんがらがってきた時も、するすると解きほぐしてくれる。
愛されるかどうか ちょっと変わった切り口ですが、この視点を持つことはけっこう重要ではないかと最近、思っています。論理思考に熱心な人はともすると、正しいか間違っているか、合理的かそうでないかにばかり目が行ってしまいがち。しかし実際に動くのは人です。関わる人が「いいねえ」と思えると、良い結果につながる可能性も上がります。
そこで今回は、愛されるロジカルシンカーの特徴、そしてなり方について書いてみたいと思います。ここには単に気持ちの問題だけでなく、どういうふうに思考力を鍛えるかが関わっています(愛されるロジカルシンカーの特徴出しには、SCHOOL OF 未来図のブレストメンバーが協力してくれました)。
共感される説得をする力を持っている
論理思考的説得というと、こちらが正しいことをすきのないロジックで示すと思っている人がよくいます。確かにそれも論理思考ですが、それだけだと相手は打ち負かされた感じがして、気分がよくないと感じることがあります。その結果、理屈の通らないことでごねたり、Yesとは言ったが実行段階では協力してくれないといったことが起きたりします。
これに対して愛されるタイプのロジカルシンカーは、共感される説得をすることを意識します。例えば、他部署に業務を移管したいと考えたTさんは次のように考えました。
会社全体にとってその方が良いとか、業務の性質上そちらの担当であるというのが通常の説得。それはそれでロジカルだが、仕事が増えるのは嫌だというのがありがちな反応。そこで、
・相手部門として、その方が仕事がやりやすくなる
・相手部門にとって、大変ではない
という、相手の視点に立った論点をまず考えました。この2つでも「そちらでやるべき」よりは共感を得やすくなっていると思いますが、「うまいこと言って要は仕事を押し付けようとしているんじゃないの」と思われる恐れもなくはありません。
そこでさらに考えて、
・こちらはとても助かる(本来やるべきことができる、など)
というのも入れることにしました。愛されるロジカルシンカーは例えばこのように、相手をねじふせるのではなく共感される説得を意識しています。
分かりやすく、面白く話ができる
愛されるロジカルシンカーの2つ目の特徴は、分かりやすく、面白くロジカルな話ができることだと思います。例えば次の会話のように…。
A:うちの2歳の子が最近、テレビを見るときに画面に近づきすぎてね。口で言われてもすぐ忘れちゃうみたいだから、どうしたものかとこの間、考えたんだ。
B:Aさんって、そういう時も論理思考で考えるんですか?
A:考えるよー。でも、今回はまずネットで検索してみたらいろいろ出てきてさ、これがけっこう面白い。一番面白かったのは「ライオンをテレビにつないでおく」ってやつだった。(面白くする)
B:そりゃ確かに面白いけど実際にはできないですよね。
A:もちろんね。ただ、ポイントは押さえているよね。要はテレビに近づくと嫌なことが起きれば、そのうちやめるというわけだ。(本質を押さえる)
B:あるいは逆に、離れると楽しいことが起きるか。
A:そうそう。それでまた検索したら、それを実践しているお母さんがいた。一番直接的な方法でね。
B:なんだろ。近づいたらリモコンでテレビを消すとか?
A:そう! それが面白いのはさ、子供もロジカルなんだね。「ここ座って」と、テレビから離れている座布団に座らせたら、座布団をおしりにあてたままテレビにじりじり前進し始めた!
B:賢いなあ!
A:すごいよね。それで調べてみたらこういう商品、出ているんだね。センサーで人が近づくのを検知してまずは警告音が鳴って、さらに近づくとテレビの電源が切れてしまうっていうのが。ただ欠点は、ブラウン管タイプのテレビにしか使えないらしい。
B:なぜでしょうね。(相手も「メカニズム」に興味を持ち始めました)
A:そこまでは調べなかった。で、結局うちはどうしたかというとね…。
上の話は、本質を押さえるとかメカニズム(因果関係)をつかむといった、論理思考のよい例題です。でも論理思考など大の苦手というイメージを持っている人にも、分かりやすく、けっこう楽しめる話ではないでしょうか。こういった話も交えて論理思考を実感させてくれる人なら、職場だけでなく、プライベートで近くにいても楽しいのでは。自分がその人になるには、そういう日常ネタでも論理思考にトライするとよいわけですが、実はこれは、面白いネタがたくさん見つかるので楽しみながら考える力を高められるという効用もあります。
論理思考を「させる」のではなく「する」
しばらく前から「ファシリテータ」という言葉を時々聞きます。議論やプロジェクトがスムーズに進むようにする人のことですが、論理思考はこのために役立ちます。このfacilitate(やりやすくする)という役割をしっかり果たせるのも、愛されるロジカルシンカーの特徴でしょう。
気をつける必要があるのは、周りに論理思考を「させる」ことがファシリテートではないということです。論理思考を学んだ結果、ミーティングなどで「その目的はなんだっけ?」とやたら聞いたり、「その切り口はMECE(モレなく、ダブリなく)じゃない」といった発言を頻発して、アレルギー反応を起こされる人が時々います。そこには論理思考用語が分からないという問題もありますが、それ以上に「おまえらもっと考えろよ」と聞こえるのが反感を買うのではないかと思います。一方、愛されるロジカルシンカーは、相手に考えさせるのではなく自分が考えて、「こう見てみるとどうだろう?」と提示します。
例えば「今、議論を聞いていると、プロジェクトの目的について人によって認識が違うのでは、と思いました。1つにはこのプロジェクトで利益を出すことを目的とする考え方。もう1つにはこのプロジェクトから学べることで将来的に利益を出すことを目的とする考え方。今回の場合はどちらなんでしょう?」というところまで考えて提示するわけです。
あるいは、AさんとBさんがかみあわない議論をし始めた時、「ちょっといいですか? この決断には次の3つの論点があると思うんです」と割って入る。続いて「Aさんがこれを推進されたいというのは、論点1の売上見込みが大きいからというわけですね。一方、Bさんが反対されているのは論点2のコストが高すぎるということですよね。それだと議論がかみ合わないので、1つずつ行きませんか。Bさん、売上見込みについてはどう思われますか?」と投げかけます。この場合も、「考える枠組み=構造」を出すという論理思考的なところは自分がやってしまって他の人が考えやすくしたうえで、質問を投げています。
「でもそれでは、周りがいつまでたっても論理思考をできるようにならないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかしその心配はおそらく無用です。上のことがうまく行っていると、そのうち「どうしてそういうことができるの?」と聞いてくる人がいます。
共感できる信念を持っている
最後のポイントは共感できる信念を持っているということです。これは論理思考に限ったことではないと思いますが、論理思考の場合、合理的=感情を切り捨てると見られがちです。そこで逆に共感できる信念やビジョンを感じられると、周りから好意的に取られるようです。例えばブレストに今回参加してくれたある人はこう言っていました。
「筋は通っているし、言っていることも正しいんだけど聞く気がしないとか、放っておいていいやと思うことが、時々(頻繁に?)あります。そういう時は、その人の考えの基になる考えがいまいちだと感じていたり、本気度が低くて単なる言葉遊びと感じているようです。一方、基となる考え(信念?)がしっかりしていたり、本気度が高いと、論理的であろうとなかろうと、動かされるものがあります」
例えば前述の業務移管の話のTさんについて、常にフェアやwin-winにしようとしていると相手が感じていれば、共感・協力を得られる可能性は上がります。
繰り返しになりますが「それはロジカルシンカーに限った話じゃないだろう」と思うかもしれません(笑)。しかし、ロジカルシンカーは理屈が通っているだけ警戒されます。そんなうまいこと言ってだましているんじゃないか、しかも後で文句をつけても言いくるめられるんじゃないかと。…などとごちゃごちゃ言っていますが、要はどうせ頭を使うなら周りにも喜ばれ、自分も楽しくなる方向に使うのがいいんじゃないかな? というのがお伝えしたいことです。
さてさて、あなたの周りのロジカルシンカーはどんな人ですか? あなたの目指すロジカルシンカーは?
・・・・・・・・・・・
整合性のみでは足りない。
雰囲気とか、演技力とか、人格?人徳?
これが突き詰められると政治家の資質になっちゃうけど。
でも逆に超冷たい系ってのもパワーがある場合も。
「どうでも良いけどさ・・・」って言われると、(冷血なアイツが言う以上、ホントじゃない?)って反応があるわけです。
まだまだ情報のプールに繋がった人間は少ないから、この納得性の研究は、今後10年くらいは有効ではあるだろう。
2009年9月5日 日経Associe on line
ロジカルシンカーには2種類あります。1つは愛されないタイプ。言っていることは正しいし、すごいと思うけど、なんか好きになれない。もう1つは愛されるタイプです。説得もその人からされると、なんだか素直に「そうだな」と思える。話がとても分かりやすく、かつ面白い。会議などで話がこんがらがってきた時も、するすると解きほぐしてくれる。
愛されるかどうか ちょっと変わった切り口ですが、この視点を持つことはけっこう重要ではないかと最近、思っています。論理思考に熱心な人はともすると、正しいか間違っているか、合理的かそうでないかにばかり目が行ってしまいがち。しかし実際に動くのは人です。関わる人が「いいねえ」と思えると、良い結果につながる可能性も上がります。
そこで今回は、愛されるロジカルシンカーの特徴、そしてなり方について書いてみたいと思います。ここには単に気持ちの問題だけでなく、どういうふうに思考力を鍛えるかが関わっています(愛されるロジカルシンカーの特徴出しには、SCHOOL OF 未来図のブレストメンバーが協力してくれました)。
共感される説得をする力を持っている
論理思考的説得というと、こちらが正しいことをすきのないロジックで示すと思っている人がよくいます。確かにそれも論理思考ですが、それだけだと相手は打ち負かされた感じがして、気分がよくないと感じることがあります。その結果、理屈の通らないことでごねたり、Yesとは言ったが実行段階では協力してくれないといったことが起きたりします。
これに対して愛されるタイプのロジカルシンカーは、共感される説得をすることを意識します。例えば、他部署に業務を移管したいと考えたTさんは次のように考えました。
会社全体にとってその方が良いとか、業務の性質上そちらの担当であるというのが通常の説得。それはそれでロジカルだが、仕事が増えるのは嫌だというのがありがちな反応。そこで、
・相手部門として、その方が仕事がやりやすくなる
・相手部門にとって、大変ではない
という、相手の視点に立った論点をまず考えました。この2つでも「そちらでやるべき」よりは共感を得やすくなっていると思いますが、「うまいこと言って要は仕事を押し付けようとしているんじゃないの」と思われる恐れもなくはありません。
そこでさらに考えて、
・こちらはとても助かる(本来やるべきことができる、など)
というのも入れることにしました。愛されるロジカルシンカーは例えばこのように、相手をねじふせるのではなく共感される説得を意識しています。
分かりやすく、面白く話ができる
愛されるロジカルシンカーの2つ目の特徴は、分かりやすく、面白くロジカルな話ができることだと思います。例えば次の会話のように…。
A:うちの2歳の子が最近、テレビを見るときに画面に近づきすぎてね。口で言われてもすぐ忘れちゃうみたいだから、どうしたものかとこの間、考えたんだ。
B:Aさんって、そういう時も論理思考で考えるんですか?
A:考えるよー。でも、今回はまずネットで検索してみたらいろいろ出てきてさ、これがけっこう面白い。一番面白かったのは「ライオンをテレビにつないでおく」ってやつだった。(面白くする)
B:そりゃ確かに面白いけど実際にはできないですよね。
A:もちろんね。ただ、ポイントは押さえているよね。要はテレビに近づくと嫌なことが起きれば、そのうちやめるというわけだ。(本質を押さえる)
B:あるいは逆に、離れると楽しいことが起きるか。
A:そうそう。それでまた検索したら、それを実践しているお母さんがいた。一番直接的な方法でね。
B:なんだろ。近づいたらリモコンでテレビを消すとか?
A:そう! それが面白いのはさ、子供もロジカルなんだね。「ここ座って」と、テレビから離れている座布団に座らせたら、座布団をおしりにあてたままテレビにじりじり前進し始めた!
B:賢いなあ!
A:すごいよね。それで調べてみたらこういう商品、出ているんだね。センサーで人が近づくのを検知してまずは警告音が鳴って、さらに近づくとテレビの電源が切れてしまうっていうのが。ただ欠点は、ブラウン管タイプのテレビにしか使えないらしい。
B:なぜでしょうね。(相手も「メカニズム」に興味を持ち始めました)
A:そこまでは調べなかった。で、結局うちはどうしたかというとね…。
上の話は、本質を押さえるとかメカニズム(因果関係)をつかむといった、論理思考のよい例題です。でも論理思考など大の苦手というイメージを持っている人にも、分かりやすく、けっこう楽しめる話ではないでしょうか。こういった話も交えて論理思考を実感させてくれる人なら、職場だけでなく、プライベートで近くにいても楽しいのでは。自分がその人になるには、そういう日常ネタでも論理思考にトライするとよいわけですが、実はこれは、面白いネタがたくさん見つかるので楽しみながら考える力を高められるという効用もあります。
論理思考を「させる」のではなく「する」
しばらく前から「ファシリテータ」という言葉を時々聞きます。議論やプロジェクトがスムーズに進むようにする人のことですが、論理思考はこのために役立ちます。このfacilitate(やりやすくする)という役割をしっかり果たせるのも、愛されるロジカルシンカーの特徴でしょう。
気をつける必要があるのは、周りに論理思考を「させる」ことがファシリテートではないということです。論理思考を学んだ結果、ミーティングなどで「その目的はなんだっけ?」とやたら聞いたり、「その切り口はMECE(モレなく、ダブリなく)じゃない」といった発言を頻発して、アレルギー反応を起こされる人が時々います。そこには論理思考用語が分からないという問題もありますが、それ以上に「おまえらもっと考えろよ」と聞こえるのが反感を買うのではないかと思います。一方、愛されるロジカルシンカーは、相手に考えさせるのではなく自分が考えて、「こう見てみるとどうだろう?」と提示します。
例えば「今、議論を聞いていると、プロジェクトの目的について人によって認識が違うのでは、と思いました。1つにはこのプロジェクトで利益を出すことを目的とする考え方。もう1つにはこのプロジェクトから学べることで将来的に利益を出すことを目的とする考え方。今回の場合はどちらなんでしょう?」というところまで考えて提示するわけです。
あるいは、AさんとBさんがかみあわない議論をし始めた時、「ちょっといいですか? この決断には次の3つの論点があると思うんです」と割って入る。続いて「Aさんがこれを推進されたいというのは、論点1の売上見込みが大きいからというわけですね。一方、Bさんが反対されているのは論点2のコストが高すぎるということですよね。それだと議論がかみ合わないので、1つずつ行きませんか。Bさん、売上見込みについてはどう思われますか?」と投げかけます。この場合も、「考える枠組み=構造」を出すという論理思考的なところは自分がやってしまって他の人が考えやすくしたうえで、質問を投げています。
「でもそれでは、周りがいつまでたっても論理思考をできるようにならないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかしその心配はおそらく無用です。上のことがうまく行っていると、そのうち「どうしてそういうことができるの?」と聞いてくる人がいます。
共感できる信念を持っている
最後のポイントは共感できる信念を持っているということです。これは論理思考に限ったことではないと思いますが、論理思考の場合、合理的=感情を切り捨てると見られがちです。そこで逆に共感できる信念やビジョンを感じられると、周りから好意的に取られるようです。例えばブレストに今回参加してくれたある人はこう言っていました。
「筋は通っているし、言っていることも正しいんだけど聞く気がしないとか、放っておいていいやと思うことが、時々(頻繁に?)あります。そういう時は、その人の考えの基になる考えがいまいちだと感じていたり、本気度が低くて単なる言葉遊びと感じているようです。一方、基となる考え(信念?)がしっかりしていたり、本気度が高いと、論理的であろうとなかろうと、動かされるものがあります」
例えば前述の業務移管の話のTさんについて、常にフェアやwin-winにしようとしていると相手が感じていれば、共感・協力を得られる可能性は上がります。
繰り返しになりますが「それはロジカルシンカーに限った話じゃないだろう」と思うかもしれません(笑)。しかし、ロジカルシンカーは理屈が通っているだけ警戒されます。そんなうまいこと言ってだましているんじゃないか、しかも後で文句をつけても言いくるめられるんじゃないかと。…などとごちゃごちゃ言っていますが、要はどうせ頭を使うなら周りにも喜ばれ、自分も楽しくなる方向に使うのがいいんじゃないかな? というのがお伝えしたいことです。
さてさて、あなたの周りのロジカルシンカーはどんな人ですか? あなたの目指すロジカルシンカーは?
・・・・・・・・・・・
整合性のみでは足りない。
雰囲気とか、演技力とか、人格?人徳?
これが突き詰められると政治家の資質になっちゃうけど。
でも逆に超冷たい系ってのもパワーがある場合も。
「どうでも良いけどさ・・・」って言われると、(冷血なアイツが言う以上、ホントじゃない?)って反応があるわけです。
まだまだ情報のプールに繋がった人間は少ないから、この納得性の研究は、今後10年くらいは有効ではあるだろう。