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あや乃古典教室「茜さす紫の杜」

三鷹市&武蔵野市で、大学受験専用の古文・漢文塾を開講しました。古文教師の視点から、季節のいろいろを綴ります。

蔵人⑯

2013-08-02 08:49:40 | 内侍&蔵人
ところで、
去年、教えていた学生さんが、お正月明けに突如、
「今の日本の男は、風流じゃない!」と、
弾かれたように叫んだ事がありました。

うわ・・・・・鍛えすぎた。。。。。。。。
正直、血の気が引きました。

だって、現代に「気の利いた和歌」の一つも詠んでくれてなんて、
日本男児が、そうそういるわけがない!

そこ(平安貴族)を基準にしたら、行き着く先は、

「とっても年上の男性」か、
(ごく稀に、おそらくお眼鏡にかなうような粋人は、いることでしょう。
しかし、大抵の場合は、家庭があり、孫までいるような気が。。。)

「うんと、年下の男性」
(好みの男の子を、更に自分好みの教養人に仕込む)しか、ありません。
どっちにしても、不毛です。。。。

現代の日本の男の人には、古の蔵人並みとは言いませんが、
もう少し、頑張って頂きたいなと思わなくもない、
蔵人の<くろう>話でした。

蔵人⑮

2013-08-01 23:18:05 | 内侍&蔵人
さらに、時代が下って、
曹洞宗の開祖、道元が

「春は花 夏 時鳥(ほととぎす) 秋は月 冬雪さえて 涼しかりけり」

と「雪月花」を盛り込んだ和歌を詠み、

ノーベル賞受賞時には、川端康成が
「美しい日本の私」と題する講演で、
この道元の和歌を引用しています。

せっかく、話が美しくなってきたので、

蔵人の苦労箇所その②の解説は、またの機会にしましょうか↓

わたつ海の 沖にこがるる 物見れば あまの釣りして かへるなりけり
と奏しけるこそ、をかしけれ。蛙の飛び入りて焼くるなりけり。

気になる方は、メール下さい。解説を送付します。
ヒントは「掛詞(かけことば)」。

蔵人⑭

2013-07-31 08:21:05 | 内侍&蔵人
「雪月花の時」という語そのものは、
雪・月・花のそれぞれの景物の美しいとき、
すなわち「四季折々」を指す語ですが、

日本では、「雪月花」の組み合わせで、
「その3つを一度に取り合わせたもの」を指して、
しばしば用いられるように変化しました。

「雪月花」の日本における初出は、

万葉集収録の大供家持の歌

雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて贈らむ 愛しき子もがも

です。

大伴家持(和歌)は、749年。
白楽天(漢詩)は、825年の作と考えられており、

「家持の和歌の方が古いじゃないの!」と言いたいところです。。。。

「歌など詠むは世の常なり」
>和歌なんか詠むのは、珍しくない=賞賛の対象にはならない
と、帝の言葉にあることと、

漢詩「雪月花の時」に続く、
「君を思う」の君=帝として、好まれた事を考えると、
枕草子収録の「雪月花の時」は、
元ネタは漢詩と考えて間違いなさそうです。

なお、漢語では「雪月花(せつげつか)」の順番(読み)ですが、
和語では、伝統的に
「月雪花(つきゆきはな)」の順になるようです。

蔵人⑬

2013-07-29 23:43:18 | 内侍&蔵人
なお、村上帝というのは古文的には、よく出てくる帝です。

醍醐天皇&村上天皇の時代と言うのは、
「延喜天暦の治」とも言われ、
後に「天皇親政の理想的時代」と謳われた時代でもあり、
また、遣唐使が実施的に行き来しなくなって、50年近くたっており、
次に続く国風文化の素地が出来上がりつつあった時代でもあります。

平安時代、漢籍は男子必修の学問ではありましたが、
そうした<文化の国風化に向かいつつあり>
<中国大陸の影響が(以前に比べれば)薄れつつあったであろう>時代背景があって、
「とっさに、時にあった白楽天の漢詩が出てくる」という機転が、
ことの他、愛でられたということも、あるのだろうと思います。

また、この話が収録されているのが、
「枕草子」であるのも、面白いところです。
枕草子の清少納言、源氏物語の紫式部は共に、
当時の女性としては珍しく、漢籍に造詣が深く、
作品中でも、しばしば「漢籍」の知識を確認することができます。

そんなわけで、清少納言は、この逸話を書き残したのでしょう。
(白楽天の元ネタを知らない人には、わけのわからない話ですしね)

蔵人⑫

2013-07-29 23:42:11 | 内侍&蔵人
枕草子のこの「雪月花の時」の元ネタは、白楽天の漢詩にあります。
<元ネタ>
お題:交友

琴詩酒の友 皆我を擲つ(なげうつ)
雪月花の時に 最も君を思う

<現代語訳>
琴詩酒を楽しむ生活をしていたのに、
今はもうあの時の、琴、詩、酒、それぞれの友は、
私を見捨てて、散り散りになってしまった。
年を迎え、雪の時、月のとき、花の時が巡ってくるたびに、
多くの友の中でも、殊に君のことが、せつに思いおこされる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

先の村上帝の言い分としては、
歌など詠むは、世の常なり→
元歌があって、それを踏まえて<和歌を詠む>こと自体は、
この時代、珍しくない(本歌取り)。
だけど、元ネタに漢詩を踏まえ、
かつ状況にあった<漢詩の一句を口にする>のは、
なかなか難しい→かく折にあひたることなん言いがたし。

とっさに白楽天の漢詩の一つも口にしないと、
(和歌ではなく!)お褒めの言葉も頂けない。

・・・・・大変な時代でしたね・・・・・・

さらに、
殿上に誰もいない→供皆、我を擲つ
だけど、「雪月花の時」に、
私(蔵人)だけは、「君を思う」=「君(帝)を思っておりますよ」
と、蔵人は、漢詩一句に対し、状況を呼応させたわけです。

蔵人⑪

2013-07-28 10:57:44 | 内侍&蔵人
<原文>
村上の先帝の御時に、雪のいみじう降りたりけるを、
様器に盛らせ給ひて、梅の花をさして、月のいと明きに、
「これに歌よめ。いかがいふべき」と兵衛の蔵人に賜はせたりければ、
「雪月花の時」と奏したりけるをこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。
「歌など詠むは世の常なり。
かく折にあひたることなん言いがたし。」とぞ仰せられける。
おなじ人を御供にて、
殿上に人さぶらはざりけるほど、たたずませ給ひけるに、
炭櫃(すびつ)に煙の立ちければ、
「かれはなにぞ、と見よ。」と仰せられければ、見て帰り参りて、
わたつ海の 沖にこがるる 物見れば あまの釣りして かへるなりけり
と奏しけるこそ、をかしけれ。蛙の飛び入りて焼くるなりけり。(枕草子)

<解説>
蔵人が苦労している場面①は、ここです↓

「雪月花の時」と奏したりけるをこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。
「歌など詠むは世の常なり。
かく折にあひたることなん言いがたし。」とぞ仰せられける。

彼の苦労を理解するために、
まず「雪月花の時」について、説明してみたいと思います。

蔵人⑩

2013-07-27 08:39:44 | 内侍&蔵人
ところが、程よく、鶏が鳴いてくれた。

コケコッコ~

良かったですね。

和歌が一首でき、蔵人は職務を全うすることが出来、
お褒めに預かり、後に領地も貰いました。

めでたし、めでたし♪

じゃあ、
「蔵人は、気の利いた和歌の一つでも詠めれば良いのか?」

実は、話はそれほど単純ではないんです。
蔵人の「<くろう>ど」は、
「苦労」の<くろう>では、なかろうかと思うぐらいに、
彼ら蔵人の試練は続きます。

「和歌ぐらいでは、褒めてもらえなかった」蔵人の話を続けます。
村上天皇の御時の時代です。
彼は、如何なる機転を利かせたのでしょうか?

蔵人⑨

2013-07-26 07:43:54 | 内侍&蔵人
なので、「無理です」とも言えず、
とりあえず、蔵人は、そのまま走って、女性のもとに行きます。

そもそも論として、
「秘書の辞書に、NO!という文字はない」と言われます。
「とりあえず、Yesと言え!
言った後に、実現させる方策を考えろ!」というのが、
秘書さんのモットーです。

「NO!」というのは、辞める時。辞表と一緒。

そう意味では、この蔵人は、
秘書の本分に忠実であります。

さて、走って女性の元に行き、「申せと候」。
「言えと言われて参りました」と言うことまでは出来る。

情報を忠実に(足さず、引かず)、
右から左に伝えている時点で、この蔵人はなかなか立派な秘書です。

が、「なにとも言うべしとおぼえぬに」
「何、言えば良いんだぁ~」という話です。

そりゃ、そうですよね。
言うべき<中身>は、託されていないんですもんね。
気の毒に。。。

蔵人⑧

2013-07-25 08:07:21 | 内侍&蔵人
これなんかも、
(蔵人の立場に立ってみれば)ひっどい話で。

「このまま帰るに忍びないから、
お前、戻って何か(気の利いたことでも)言って来い」と言われるわけです。

「え・・・・・と、どうすりゃ良いの・・・・」

そして、さらに厄介なことに、
「風流であること」を旨とする当時の人にとって、
ここで<気の利いた事>の一つでも言えるかどうかは、
死活問題。

まさに、運命の分かれ道。

自分の出世どころか、
一族の命運までもかかってしまうような、一大事。

当然、蔵人も困ってしまいますよね
>ゆゆしき大事かな。

蔵人⑦

2013-07-24 09:48:31 | 内侍&蔵人
あるいは、十訓抄に出てくる「ものかはの蔵人」。
(似た話が、平家物語にもあり、また「やさしき蔵人」とも言われるようです。)

この「やさしき蔵人」のお話し。

摂関家や親王家にも、
宮中と同様に蔵人所が置かれていたようなので、
天皇家の蔵人所所属の蔵人ではなく、
そちら(摂関家)の蔵人なのかな?とも思えなくもないですし、
あるいは(本当に!紛らわしいですが)
「蔵人」という人名もあるので、単に人の名前かもしれません。

が、「蔵人」の宿命でしょうか?
どのみち、苦労してます。。。
少し、見ていきましょう。

(原文)
後大寺左大臣、小侍從と聞えし歌よみに通ひ給ひけり。
ある夜、ものがたりして、暁、帰りけるほどに、
この人の供なりける藏人といふものに、
いまだ入りもやらで、見送りたるが、ふり捨てがたきに、
「立ち帰りて、なにごとにても、いひて来」と、のたまひければ、
「ゆゆしき大事かな」と思へど、
程経るべきことならねば、やがて走り入りて、
車寄せに、女の立ちたる前についゐて、
「申せと候ふ」とは、左右なくいひ出でたれど、
なにともいふべしともおぼえぬに、
をりしも里の鶏、聲々鳴き出でたりければ、

ものかはと君がいひけむ鳥の音のけさしもなどか悲しかるらむ

とばかりいひかけて、やがて走りつきて、
車寄せにて、かくこそ申して候ひつれと申しければ、
いみじくめでられけり。
さてこそ、使にははからひつれとて、
後にしる所などたびたりけるとなむ。
かの藏人は、内裏の六位などへて、やさしき藏人といはれけり。

蔵人⑥

2013-07-24 09:46:50 | 内侍&蔵人
古の昔は、良さげな梅を求めて、京都中を走り回り、
現代は、ポケモンのゲームを求めて、秋葉原を駆けずり回る。

人間のやることは、今も昔も大して変わっていません。

古の蔵人と、現代の秘書さんに送ります。
>すまじきものは、宮仕え

皆様、お疲れ様です。

蔵人⑤

2013-07-23 08:28:39 | 内侍&蔵人
八方塞の中、
いつものように、決まった曜日にやってきた、バイトの学生さん(男性)。
(それが、探し始めて6日目かな?)

話を聞いた彼は、
「僕が行ってきます!絶対に、あそこならある!」

5人で秋葉原中のお店をくまなく探し、
もはや疲労困憊の域に達していた男性陣は、
「どうあっても、見つからないから!無理だから!」と止めてたんですが、
「絶対に、あそこならある!」と言い張る彼。

「それだけ言うのなら、もう一度だけ、彼に賭けてみようか」という話になり、
一縷の望みを託し、彼を、秋葉原に出しました。

3時間後、電話が掛かってきて、
「1軒だけ、見つかりました。ただ、2時間前に最後の1つが売れてしまい、
台湾からの逆輸入でなら入荷できるけど、3週間かかるとのこと。どうしますか?」

「あいつは、一体、どこに行ったんだ!!!!!!!!!」

台湾に発注し、
後日、アメリカに送ることで、話が付いたようです。

蔵人④

2013-07-22 09:22:16 | 内侍&蔵人
それから、連日。
同世代の男性陣が、来る日も来る日も、
ゲームを求めて、秋葉原通い。

ところが、ないんです。

計5人の男性が、5日間に亘り、
足を棒にして、秋葉原のお店を潰して歩き、
それでも、見つからない。

最初は、楽勝ムードだったのに、日に日に焦燥感が漂い、
仕舞いには、疲労困憊の上、挫折感で沈鬱なムード。

重役の帰国日は、目前に迫っており、
事情のわからない年寄り連中からは、
やいのやいのと催促される。

催促されたって、ないものはないのよ~(叫)

でも、大事なお得意さん。

欲しいと言われれば、地の果てまでも探しにいかなければならず、
ましてや、手ぶらで返すわけにはいかない。

蔵人③

2013-07-21 09:48:34 | 内侍&蔵人
職務命令による探し物。
皆さんは、どんな経験がおありでしょうか?

私の前職における、現代版鶯宿梅的な探し物。

ある時、アメリカの某有名企業の重役が来日し、
「お土産に、何が宜しいでしょう」と、
帰る数日前にお伺いを立てたところ、
<なかなか、言わない>。

何とか、希望を聞きだしてみたところ、
「ポケモンの何たらシリーズの、英語版が欲しい」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当時、ポケモンのゲーム?が全世界規模で大流行しており、
その重役も、良いお年だったので、
お孫さんか何かにねだられたのでしょう。
(よもや、ご自身の楽しみだとも思えませんが。。。。)

あるいは、
「日本に行けばあるだろうから、買ってきてあげるよ」
とでも、安請け合いしたか。。。。。

蔵人②

2013-07-20 10:11:58 | 内侍&蔵人
例えば、2月24日以降の、
鶯宿梅の記事で出てきた蔵人。

この人は、「梅を探して来い」の号令一下、
梅を求めて、京中を探し回る羽目になり、
挙句、
・人様の家に、無断で入り込み<不法侵入
・人様の庭を勝手に掘り返して、梅を持っていこうとした<窃盗罪
まで、冒す羽目になったわけです。

気の毒ですよね~
不法侵入や、窃盗罪まで冒す羽目になったんですよ。

あるいは、「そんなことに気付かないほどに、
(職務的に)追い込まれていた」とも言えるのかもしれません。

私も似たような?経験があり、
この蔵人には、ホントに同情します。