俺LOG

今年も偉そうに物を書いていきます。

ロボット。

2004年11月05日 | Story
スペースが開いてしまったので、つまんない物語を書いてみた。



大きな工場の片隅に、ぽつんと置かれたロボットがあった。
人の形をしていたので、冬には首元にマフラー代わりの毛布が巻かれ、
工場の従業員からかわいがられていた。

一番かわいがっていたのは、このロボットを操作していた一人の老人だった。
彼は普通の会社を定年後、アルバイトでこの工場に勤めていた。
彼には息子が居たが、事故で亡くした。妻は病気で入院暮らし。
孤独な彼には、このロボットの姿が唯一癒してくれる温かい友人だった。

この毛布のマフラーも、麻袋の帽子も、みんな彼が作って持ってきたものだった。
「今日も、お疲れ様」
そんな言葉をかけながらロボットに油を注し、工場を後にした。

翌朝。
工場長から彼に、ロボットの型が古くなって危険なので交換するとの話があった。
彼はじっとうつむいて、その話を聞いていた。
そしてロボットを見ると、ロボットは今日も同じように作業を開始していた。
健気なロボットに彼は、寂しさを隠せなかった。
何もしてやれない。どうすることもできない。
彼はただ、ロボットを操作してやることしか出来なかった。
「ごめんな、俺がもっとしっかり油を注して、
 ずっと綺麗にしていてあげていたらな・・・。ごめんな」

そのとき、一羽の鳥が工場に侵入してきた。
それはどこかの家から逃げてきて迷い込んだ、黄色い小鳥だった。
小鳥はバタバタと暴れるように工場内を飛び回り、
やがてコンベアの上に止まった。
「あぶない!」
彼は小鳥を逃がそうと、コンベアの近くに駆け寄った。
小鳥は彼から逃げるように、天井に向かって飛んでいった。
(よかった・・・。)

そう思った瞬間だった。
彼の操作していたロボットのアームが上から降りてきたのだ。
ここはロボットの作業区域。
床には黄色い線で立ち入り禁止の文字があった。
「逃げろ!」
工場長の大きな声が響いたが、彼は恐怖で動けなかった。

ガン!!!
さらに大きな音が工場に響き渡った。
彼はロボットのアームの下にいた。
アームは、ほんの数センチのところで止まっていた・・・。

マフラーの下から白い蒸気が噴出した。
ロボットは、彼を守るかのように自らの寿命を終えていた。

彼はロボットに駆け寄り、大きな声をあげて泣いた。
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
何度も何度も、彼はロボットに話しかけた。

ロボットが彼に操作されて働くことはもう・・・なかった。