紗羅のアトリエ

Healing Art 美しいもの 楽しいこと 2007年春より食道がん患者 

天野可淡へ

2006-11-26 | My Collections
11月が終わろうとしています。
あなたがこの世にいなくなってから、16回目の11月です。

1990年11月1日。
あの夜の寒さを覚えています。
「嘘だ」と繰り返すしかなかったあの夜の寒さ。

久しぶりに仮面を取り出してみました。自分で撮った写真は、二番目の写真集<KATAN DOLL fantasm>に収録されたものより赤っぽくなってしまいました。

写真集は三冊とも絶版になって、今でも入手したがっている人がたくさんいるようです。天野可淡。あなたは伝説の人形作家になってしまったんだね。私の手元には三冊の写真集と、これらの仮面。1989年8月、渋谷のジァン・ジァンで、仮面製作協力してもらったダンス公演、<眼をとじて>。あのときに贈ってくれた造花は、すっかり色あせて埃にまみれてしまったけれど、今でも仕事場に飾っていますよ。

そして、あなたからの葉書が一枚。
生前最後の個展となってしまった、六本木ストライプハウス美術館での個展のプランについて。「君が踊ってくれるといいな」。会場を見てその気になれなかった私に、「これからいくらでもチャンスがあるからいいよ」って言ってくれたのに・・・。どんなに後悔したか、わかる?。チャンスは突然奪われてしまった。

創作人形の世界で新境地を切り開き、将来を期待されていた37才の人形作家、天野可淡さんが、今月1日、交通事故で急死した。(当時の朝日新聞記事より)

たった5年の付き合いだったけれど、可淡の作品世界はいつも、怖いほどの美しさに満ち溢れていたよ。あの頃のあなたも、まわりのみんなも、上昇気流を熱く感じて、これからだって言い合っていたね。

こころのやり場なく、やはりジアン・ジアンで行った追悼のソロダンス公演。
紗羅・紡ぐ其の六
「いのち」-天野可淡へ

観ていてくれましたよね。あなたの作品をひとつ借りて、舞台の前面に置きました。ストライプハウス美術館の個展のときに、わたしに強く語りかけたあの人形。眼をとじた観音菩薩のような白い人形。

怒りに似たやり切れなさと、あきらめるための祈りの儀式。あまりにも早く、あまりにも突然天に召されたそのいのち。無理やり自分をなだめるしかなかったのです。客席ですすり泣く人たちの声を身に受けながら、あなたの魂が天空に昇るのを、無理やり認めるしかなかったのです。

今こうして、残された仮面の頬にふれ、静かにあなたを思い出しています。交わした会話を思い出す。共に過ごした時間を思い出す。やわらかな笑顔を思い出す。

16年の歳月が、ようやくわたしから怒りを消しました。そしてあなたの創り出した、とてつもない透明世界に思いを馳せています。もしも生きていたならと、折にふれて想像の翼を広げます。あなたの創った、人を愛することのできる人形について考えるのです。死ぬことができないことの代償として、ひとを愛することのできる人形について。今までも、そしてこれからもずっと。折にふれて。

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3 コメント

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球体関節人形 (あざみ子)
2006-11-27 09:22:16
数体のカタンドールを、押井守監督『イノセンス』公開時の記念イヴェント『球体関節人形展~DOLLS OF INNOCENCE~」ではじめてみました。

>あなたの創った、人を愛することのできる人形について考えるのです。死ぬことができないことの代償として、ひとを愛することのできる人形について。

カタンドールの纏っている孤絶感が少し、分かったような気がします。
紗羅さんの追悼ダンス、拝見したかったわ~。
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あぁ、やっぱり・・・ (紗羅)
2006-11-30 11:01:12
もしかして・・と思ったけれど、やっぱりあざみ子さんは可淡の人形も見ていたんですね。
なんとも感慨深いです・・・。
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通りすがりの天野可淡好き (ミナセ宗谷)
2010-01-10 06:55:06
20年くらい前にトレビィルから出版されていた
写真集をみて天野可淡を好きになりました。

今も時々ネットで天野可淡の情報を検索する
ことがあります。熱烈なファンがいることをネットから知る一方、天野可淡の名が、人形に関する他の新しい情報に圧倒されて埋没していくような気も(私が接する限られた情報の範囲で、ですが)します。

写真集と「ワーズワースの冒険」で天野可淡が採り上げられた回を観る
以外には私の手元では天野可淡作品にふれる
機会がなく、もっとこの作家さんについて
知りたいといつも思います。
天野可淡に関する記憶や情報が収集可能なうちに、良い評伝が出版されて業績が今後もますます評価されることを願います。
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