アズが長期留守にしていたためカトリーヌ通信の掲載が大変遅くなりましたことお詫び申し上げます。
東松山在住のカトリーヌが大好きな素敵なモノや暮らし。
ちょっぴり知的創造空間ただようフリージャーナル。
『薔薇。』
イタリアの5月は「薔薇の月」とされ、家々の庭やテラスが匂やかに華やぎを増す季節です。薔薇は日本人にも好まれる花ですが、イタリア人にとっての薔薇とは、どのような意味合いや関わりがあるのでしょうか。カトリーヌは、西洋絵画に描かれるモチーフの薔薇に着眼して、そのあたりを少し探ってみたいと思いました。
歴史をぐ~んと遡ります。ギリシャ神話においては薔薇は「ヴィーナスの花」とされ『愛と美と春』のシンボルでした。海の白い泡から誕生したヴィーナスが西風の神に運ばれ岸辺に着くと、その足元に棘のある繁みができました。神々がそれにネクタル(神酒)を注ぐと、たちまち白い薔薇が咲き始めました。赤い薔薇は、ヴィーナスが恋人アドニスの死を嘆いて流した赤い涙から生まれたとも言われています。薔薇は『移ろいゆく人生や死と来世』の象徴でもありました。
古代ローマでは「薔薇の祭り(ロザリア祭)」というものが存在し、これは死者の魂の為に祈る儀式であったとか。キリスト教初期において、棘のある薔薇が『殉教者』の象徴とされたのは、おそらく古代の異教から伝承されたものと考えられます。5~6世紀の聖堂モザイク画に、楽園のモチーフとして赤い薔薇が殉教した聖人たちと共に描かれています。一方で、棘のない薔薇は『聖母マリア』の象徴。聖母マリアはもともと原罪がないので『純潔』のシンボルとなりました。中世では、聖母が薔薇の園にいる光景を描いた絵画が多くつくられました。ルネッサンス期には聖母子像に薔薇がよく登場するようになります。「無原罪の御宿り」や「受胎告知」の場面でも『処女』の象徴として描写されています。この時代、棘のある薔薇は『愛の苦悩』のシンボルでもありました。イエスが真っ赤な薔薇を手にしているのは『受難』の意味。ちなみに、赤い薔薇の花言葉「情熱」は「受難」と同じ「passioneパッシオーネ(パッション)」です。
こうしてみると、薔薇はさまざまな事柄にシンボライズされていることがわかりました。薔薇が持つ文化史的意味は、時代の変遷と共に変容、生成されてきたわけですが、イタリア人にとって、薔薇は人生そのもの、存在するものの総体『Naturaナトゥーラ (ネイチャー)』を象徴しているような気がします。
おのずから無為にして萌え上がり現れ来たり…
そしておのれへと還帰し消え去ってゆくものである。