仕事の結び目

コンサルタント&ファシリテーターの朝尾直太が仕事に関係するテーマについて記すコラム。

会議室の原状復帰作業に優れた組織運営のあり方を見る

2006年08月23日 | 組織・リーダーシップ
会議室を研修やなんかで使ったあと、テーブルとイスを元の状態に戻す作業。たいていの人が関わった経験を持っているはずだ。

社内の催しや自主的な勉強会だったりすると、片付けてくれる人がいるわけではなく、参加者がその作業を行う。以前は作業プロセスを非効率的だと感じていた。仕切りが悪いなぁと。

しかし最近、考えを改めた。実はとても優れた組織運営のあり方なのではないかと。


そもそも、喜んでやりたい種類の作業ではない。さっさと消えてしまう人もいるが、ふつうの責任感を持つ人は進んで協力する。それだけに、あれこれ指示されるようだと意欲が失せかねない。

指示がない一方で、目指すゴール(回復状態)は共有されている。実際には、いまひとつあいまいなことも多いのだが、不満が生まれるとしたらまさにその点であって、指示がないことではない。目標とする状態が示されない場合が問題なのだ。

目指すゴールが共有できていれば、各人が状況を判断しながら、身近なところから作業をすることができる。一方で全体のバランスを考えて作業をしようとする人も出てくる。いずれも参加者の自主的な判断と行動に委ねられている。

その過程でテーブルを一緒にかつぐなど、見知らぬ人とも自然に協力し合える。この感覚は実は少しだけうれしいものだ。別にその相手と仲良くなれるわけではないが、一つの小さな目標を共有しているという実感が生まれるからかも知れない。

こうして進行する作業は、よく検討された手順ではないので、モノの動き、ヒトの動きだけを捉えれば決して効率的とは言いがたい。しかし、進んで取り組み、協力し合ったことで得られる達成感は、効率的に短時間で作業を終えるために細かく指示された場合よりも、ずっと良いものだろう。

おそらく、私たちは経験的にそれを知っているから、会議室の原状復帰作業は確信犯的に仕切りが悪い。つまり、それが優れた組織運営のあり方なのだ。メンバーの意欲を大切にし、指示による余計なストレスを与えないという点は、多くの組織運営に応用できるはずだ。

リーダーシップ研修を受けて思う「優れたリーダーシップ」

2006年08月05日 | 組織・リーダーシップ
リーダーシップ研修に受講者として参加してきました。もう何年も前に受けたプログラムの一部なのですが、デモクラティックな組織におけるリーダーシップを考える機会にしようと、改めて初心に帰ることにしました。

元々米国で開発されたものですが、リーダーシップの基本理念に「他者尊重」を据えた、きわめてデモクラティックなコンセプトのプログラムです。
リーダーシップは特定の立場の人のものではなく、誰もが発揮するものだ、という考え方はとても10年余り前に開発されたとは思えないほど今日的です。

ところが、教材の事例は、上司と部下の関係でなくても、一方が他方(相手)に対してリーダーシップをいかに発揮するか、という形式になります。事例が悪いと言うつもりはありません。教材にするためにはやむを得ないようにも思います。

ただ、相手(他者)との関係については、自分がリーダーシップを発揮する姿を見れば自然に共感を呼んで伝播していく、という説明になります。その点に少し疑問を感じます。

既存のタテ型の組織の中では、上司と部下の関係に代表されるように、リーダーとフォロワーの役割意識ができてしまっていることが多いのです。そういうときリーダーの立場の人がリーダーシップを発揮すると、フォロワーの立場の人は従ってしまうのではないでしょうか?


だから、優れたリーダーシップというのは、「相手にリーダーシップを発揮させることを促すもの」であるべきだと思うのです。それは同じレベルの問題・課題である必要はないし、局面に応じてリーダーシップを発揮する人が変わればよいのです。

このように考えれば、例えば逆に、部下の立場からのリーダーシップもイメージしやすくなります。
よく「上司をうまく使え」と言いますが、これは自分の権限の範囲を超えて組織的な活動を創り出すリーダーシップと言えるでしょう。「使え」という表現はあえて用いられているに過ぎず、上司の立場でのリーダーシップが当然求められます。

ヒューマンキャピタル2006 に行ってきました。

2006年08月04日 | 組織・リーダーシップ
今週、東京国際フォーラムで開催されていた「ヒューマンキャピタル2006」に行ってきました。⇒公式サイト

「企業の人材/組織戦略のための専門イベント」と銘打ったこのイベントには、2,3年前から行っていますが、とくに講演会が盛況。展示会場も先日のeラーニングと比べると派手。昨年、そのコントラストに時代の変化を感じましたが、今年も同様。

■受講した講演と感想

1)「米国国防機関に学ぶ『組織力』の最大化法 ~FFS理論で組織と人材の『見える化』と『最適化』を行う~」(インタービジョンコンソーシアム)

FFS理論は、Five Factors and Stress の略で、診断テストにより、個人を4つのタイプに分類し、これを参考に、事業の成熟度等に応じた配置をしたり、他のメンバーとの相性を判断して組み合わせを替えたりするものです。

質問できなかったのだが、どこまで先天的に決まるのかが、トレーニング/人材育成に携わる者としての関心事。講演の中に、経験や教育に応じてタイプが変わりうる、というような話はなかったのが残念。


2)「現場リーダーの支援を通じて組織を強くする ~『どこでもリーダー』時代」の人材マネジメント~』(一橋大学大学院 商学研究科 守島基博 教授)

「どこでもリーダー」というのは、「ユビキタス・リーダーシップ」(慶応 花田教授の命名らしい)を、守島教授が言い換えたものらしい。

何かと批判の対象になる「成果主義」を「あまりにも経営寄りの改革だった」と評価し、現在の人材マネジメントの変革には
 1.働く人の視点
 2.リーダーの支援
が必要だと主張。

働く人の視点が重要になってきた理由は、知識社会における付加価値を生み出すにはモチベーションが重要になり、働く人の自律性が求められるようになったという。要するに、人的資源から人的資本へのシフトがベース。

リーダーの支援の重要性は、組織モデルが階層型から自律分散型に変わったため、リーダーシップの役割が重要になったが、現状はリーダーシップ(の育成)に期待し過ぎだという。組織的に現場のリーダーを支援することが重要だ、と。ではどんな支援か。最大の支援は情報という以外に具体的な話がよくわからなかった。

この講演が大会場で満席以上(途中でイスを大量に運び込んでいた。300人ぐらい入っていたのでは?)になるのだから、大企業の人材に関わる人の意識が変化しているのを感じる。これも成果主義の反動だろうか。


「ヒューマンキャピタル(人的資本)」というとらえ方を突き詰めれば、経営・企業組織は民主的になるはず。
日本の企業は徐々にその方向に近づいている、という手ごたえを感じて会場を後にした。この動きが、後戻りしないように、加速するように貢献せねば!