仕事の結び目

コンサルタント&ファシリテーターの朝尾直太が仕事に関係するテーマについて記すコラム。

ロングテール

2005年08月17日 | Weblog
ロングテール現象、あるいはロングテール理論と呼ばれるキーワードが最近注目されている。
 
「ブログ資本主義」を特集した「週刊東洋経済 2005/7/30号」は次のように説明している。 
「ロングテール」とは、米『ワイヤード』誌のクリス・アンダーソン編集長が考案した概念。昨年末あたりから米国で注目を浴び始めた。そのメッセージは、「リアルの世界では採算が合わなかったニッチの商品が、ネットの世界ではカネのなる木に変貌しうる」というものだ。(p.32)
モデルとなった事例は米国のアマゾンの書籍販売らしく、販売冊数の39%を部数ランキング10万位以下の商品(書籍)が占めるという。品揃えは約230万冊というから、上位4-5%の商品で販売冊数の6割を占める、と言った方が分かりやすいかもしれない。(*1)
 
それだけならパレートの法則や80:20の法則の話と変わりがない。しかし、ロングテールが注目するのは、まったく逆の観点。
 
これまでパレートの法則や80:20の法則は、下位は非効率だから切捨てて上位に経営資源を集中させる、という戦略に使われていた。ロングテール理論は逆に、だらだらと長い下位(ロングテール)こそ稼ぎどころだと捉える。
 
リアルでは非効率にならざるを得なかった少量しか売れない多数の商品が、ネットではほとんど非効率にならず、むしろリアルビジネスより優位になって収益源になるというものだ。
 
ネットという観点で注目されたものの、小売業界では地方の巨大なホームセンターが、めったに売れない商品も品揃えすることで集客力を高める、という話は昔からあった。
 
売れ筋に注目するだけでなく、隠れたロングテール、まだ顕在化していないロングテールな需要を、とくにITを活かして掘り起こせば、ビジネスチャンスが得られるということだろう。ネットネイティブでない私のような世代は、「上位に集中」で凝り固まらないように、頭をほぐしておく必要がある。
 
*1: 東洋経済誌には、エリック・ブリニョルフソンらの資料を出所とするグラフが掲載されている。
 
【参考】 
 
「ロングテール」について素人なりに考えてみる(上) -「パレートの法則」と「80:20の法則」 ロングテールと従来の理論の違いについて的確に解説。グラフあり。
 
パレートの法則 パレートの法則について詳細な解説。

日産 「百日の戦い」

2005年08月15日 | 組織・リーダーシップ

8月13日付の日経新聞「商機は世代断層にあり②」によれば、日産は2002年、全国2600の販売店で「百日の戦い」と呼ぶ計画を始めた。この販売現場のコミュニケーション改革が、同社の復活の陰にあったという。

この計画は「店長に若手社員の意思疎通を促すもので、当然反発が噴出した」という。日産の販売店網では、
根性論が幅を利かせており
業績不振店ほど上司と若手の関係が疎遠で、不調の責任を押し付け合っていた
のだそうだ。

「百日の戦い」では、店長が「競合店に勝ったらコーヒーをおごる」「昼休みに十五分雑談する」など目標を設定。士気高揚効果は顕著で、一部の店では販売台数の二―五割増を達成し、ゴーン改革の一翼を担った。

この記事では、計画の全体像がわからないものの、こんなちょっとしたことで、現場の士気が変わるものだ、ということを示唆している。(*1)

現場のマネジメントにおけるコミュニケーションが、社員の士気を高め、成果が数字になって現れる。――となると、マネージャーの部下に対する「姿勢」は、経営目標の達成を左右する重要なファクターと言える。

*1: google で「百日の戦い」を検索したところ、日経の記事について触れたもの以外出なかった。日産のサイト内検索でも、結果は0件だった。


ファシリテーター型リーダーシップ

2005年08月15日 | 組織・リーダーシップ

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー9月号は「ファシリテーター型リーダーシップ」を特集している。

そのイントロいわく。(*1)

変革にまつわる物語は「偉大なリーダーの物語」として語られる。
(中略)
しかし、ジム・コリンズが指摘しているが、真に優れたリーダーは
概して地味で、愚直で、だれもが思い描くような救世主とは程遠い。
彼らは「ファシリテーター」(人々に行動を促す人)なのだ。

「ファシリテーター」は幅広い役割を指す。
教育・研修ファシリテーター、会議ファシリテーター、協働ファシリテーター、
変革ファシリテーターなどである。(*2)

 しかし変革のリーダーシップのスタイルとして「ファシリテーター」が注目されるのは、それだけ組織の人をトップダウンで動かすことが難しくなっているからだろう。

 組織のメンバーの意志と意欲を引き出さなければ、変革を成し遂げることが難しいのだ。それゆえ、ファシリテーター型という「民主的な」リーダーシップのスタイルが求められている。

*1: DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2005年9月号 p.38

*2: やや分類は異なるが、堀公俊氏による「ファシリテーションの応用分野」が参考になる(同氏が会長を務める日本ファシリテーション協会のサイトに著書から転載されたもの)。私もこの協会に加入しています。

 


「学習0,1,2」とビジネスゲーム研修

2005年08月06日 | Weblog

先日受講したセミナーで「学習0,1,2」という理論があることを初めて耳にした。※1,2

 「学習0」は、受身で講演を聞くだけ、あるいは本を読むだけというもので、ほとんど学習効果がないという。 「学習1」は、「ある文脈のもとでとるべき行動(芸・正解)を学ぶ」もので、イルカに芸を仕込むのが例として挙げられた。知識やスキルを習得するタイプのものはこれにあたる。
したがって反復学習により効果が得られる。

これに対して「学習2」は「文脈の学習」で、イルカの例で言うと次にやる芸をイルカ自身が選ぶように教えるのにあたるという。

つまり「学習2」は

「変化に対応することの学習」
「どういう文脈の時にどういう学習をすればよいかということの学習」

であり、ほかにも

「文脈を変えても適用できる」
「現場と原理原則の結びつきを学ぶ」
「正解はなくてもよい」
「学習1を抜きに教えてもだめ(無秩序になる)」
「リーダー教育に役立つ」
「自発性・自律性を与えることにより、モチベーションを高める」

 という説明がされた。 また「学習2」に効果的な学習方法として、

ケーススタディや参与観察などで<教材の文脈を変える>
討論、ロールプレイなどで<学習活動の文脈を変える>
内省、振り返り、日誌などで<自我関与の文脈を変える>

という3パターンが挙げられている。

ビジネスゲーム形式の研修は、まさに「学習2」が中心だ。
知識・スキル系の研修と違って「明日から使えることを」という要望には十分に応えにくいタイプのものだが、「学習0,1,2」という枠組みで説明すれば価値をよく分かっていただけるのではないか。

同時に、研修を実施する側としては「学習2」という側面を意識して、効果を高める工夫をしていかなくてはならない。

※1: セミナー講師は、早稲田大学人間科学部助教授の向後千春氏。
2005年7月21日 e-Learning Conference 2005 Summer Track-D-1
「学習の条件 ~どんなときに人は学ぶか~」において。

※2: この理論のオリジナルは心理学者のベイトソン(G.Bateson)で、学習4まであるらしいが、向後氏によれば科学的と言えるのは学習3(学習2の学習、人類全体の学習)がぎりぎりだという。